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コロナ入店した50代デリヘル嬢が手にした、お金以上に大切なもの

新型コロナウイルスによって風俗業界が受けた影響や起こった変化をレポート。コロナ禍の中、風俗業界では何が起こっていたのか。実際に風俗業界に身を置く2人の女性にインタビューをした現場の生の声です。(文=埜辺水)

非常事態宣言や東京アラートが解除され、徐々にではあるが日常が戻りつつある。ステイホームをしていた子供たちは登校を再開し、リモートワークをしていた大人たちは再び会社へ。一時は閑散としていた夜の街にも活気を取り戻しつつあるようだ。

では風俗業界はどうだろう。緊急事態宣言解除前と解除後に何か違いはあるのだろうか。前回のレポート同様、全国展開するデリバリーヘルス「カサブランカグループ」代表の長谷川華さんにお話をうかがった。


出勤控えに牽引されたコロナ特需

「緊急事態宣言が出されていた頃は多くのキャストが出勤を控えていました。これは臨時休校やリモートワークにより家族との時間が増えたことも原因のひとつですが、コロナだし稼げないだろうと予想して出勤を控えたキャストも多くいます。しかし需要の落ち込みは予想したほどではなく、以前と変わらないペースで出勤しつづけたキャストやコロナ禍のなか業界入りした新人キャストにとってはコロナ特需と呼べるくらいに忙しかったようです。こういった状況は、出勤がまだ安定していない今でも続いています。」

緊急事態宣言中はステイホームやリモートワークが推奨され、多くの人が家で長い時間を過ごすようになった。所帯のある人にとっては良くも悪くも家族との時間が増えたわけだが、一人暮らしの人は多くの時間を孤独に過ごさざるを得なかった。デリバリーヘルスが女性を派遣するのはホテルだけではない。コロナによって脚光をあびた飲食店のデリバリーサービスと同様に、外出することなく自宅で楽しめるデリバリーヘルスへのニーズが高まったのも自然の成り行きと言えよう。

デリヘル嬢が考える新型コロナウイルス感染リスク

前回のレポートでお話をうかがったSさんこと清水さん(仮名)にも会うことができた。彼女はコロナで困窮しカサブランカグループの熟女店「五十路マダム」に入店した50代の女性だ。

「入店して約2ヶ月経ちましたが、最近はリピートしてくださる方も増え収入は安定しています。非常事態宣言中はお客さまから『コロナは怖くないの?』とよく聞かれましたね。もちろん怖いのですが、私たちが接客するのは1日2〜3人程度です。それに対しキャバクラやスーパーのレジなどは、1日数十人から数百人を接客しなくてはなりません。もちろんお客さまとの距離感に違いはありますが、感染している方を接客する確率は他業種と比べて低いと考えています。」

長谷川華さんが言葉を続ける。

「性病対策に取り組むなど風俗業界自体もともと衛生意識の高い業種です。手洗いどころか頻繁にシャワーを浴びるし、うがいや消毒といった行為もコロナ前から習慣化されていました。コロナ関連で目新しかった動きといえば体温計を出勤日当日、写メ日記にアップすることですね。ほとんどすべてのお店で実践されていましたが、コロナに限らず風邪やインフルエンザなどにも有用な取り組みなので引き続き推奨していきたいと思っています。」

風俗を利用したことがない人のために補足しておくと、キャストが投稿する「写メ日記」というコンテンツがほとんどの風俗ポータルサイトや風俗店オフィシャルサイトに用意されている。本来は自身をアピールするための日記や出勤予定、接客した相手に対するお礼メッセージが投稿されるコンテンツだが、そこに検温した体温計を載せるのがコロナ禍のなか風俗業界全体のトレンドとなった。その目的は言わずもがな、平熱なので安心してご利用くださいというアピールだ。

「コロナでこうむったダメージはたくさんありますが、得られた変化のなかにはポジティブなものも少なくありません。ウイルス対策だってそのひとつ。今後は衛生面でもよりクリーンな業界にしていきたいですね。」大きなグループを統率するリーダーの言葉はいつだって前向きだ。

風俗嬢にとっては新型コロナウイルスよりも怖い身バレ

そして前述の清水さんが新型コロナウイルスよりも恐れているのが、家族や知人などに風俗店で働いていることがバレてしまう通称「身バレ」である。彼女は決して旦那さんに不満があるわけではないし、家庭を壊したいわけでもない。むしろ家族を支えるために風俗で働いているのだ。清水さんに限らず、そういった女性はカサブランカグループに多く在籍しているという。

長谷川華さんに身バレに対する具体的な対策を聞いたのだが「対策の内容を明かすと、その対抗策を打たれてしまう」とのことで教えてはもらえなかった。ただ「ファッションや買い物など、今までの生活スタイルを変えないこと。これを徹底すればバレることはほとんどない。」とのこと。たしかに変化がなければ気付きようもないだろう。逆に固定化していたものの変化は、それが些細なことであっても目に付きやすいのかもしれない。

デリヘルによってもたらされた変化

またSさんは女性としての悦びを思い出したことも打ち明けてくれた。34歳で2人目を産んでから夫婦の営みは極端に減ったという。しかし子育てに忙殺される彼女には、そういったことに不満を感じるヒマすらなく、気付けばさえないおばちゃんになっていたと彼女は言う。

「このお仕事を始めて良かったのは、忘れかけていた女性としての自分を思い出したことです。もちろん生き方はひとそれぞれ違うのでそうではない人を否定するつもりはありませんし、もしかしたら私に嫌悪感を抱く方もいらっしゃるかもしれません。でも女性であることを忘れていた去年までの自分に戻りたいとは思いませんし、私にとっては今の自分の方が自分らしいと思っています。」

余談だが、清水さんはデリバリーヘルスを始めて肌つやが良くなったという。おそらく男性と触れあうことで女性ホルモンが活発に分泌されるようになったのだろう。「化粧のりも全然違うんですよ。高価な化粧品を買うよりも効果がありました。」と清水さんは笑う。

大学生の子供もそろそろ卒業し独り立ちをするという彼女だが、この仕事はしばらく続けたいそうだ。女性の2人に1人が90歳まで、16人に1人は100歳まで生きる今の時代において50代はまだまだ若手なのだそうだ。

野暮を承知で稼いだお金の使い道を聞いてみた。老後に備えた資金、そう漠然と予想していた私は驚いた。彼女は貯めたお金をもとに起業したいのだと言う。たしかに90歳まで生きるとしても50代だとあと40年近くある。もしかしたら彼女のこの感覚は、今後当たり前のことになるのかもしれない。

彼女が手に入れたお金よりも大切なもの

これまで多くの場面で、自分よりも家族を優先してきた清水さん。しかしコロナ禍を経て彼女は、家族と自分自身の両方を大切にし始めた。今までも自分の人生を生きることに目覚め、離婚を決意した女性は多くいただろう。しかし彼女はそうではない。家族やお客さんなど周りの人を幸せにしながら、自分自身も幸せになりたいのだという。

「子供はもちろん主人のことは今でも愛しています。」この言葉に矛盾を感じる向きもあるかもしれないが、彼女の気持ちに嘘はない。周りを傷つけることなく自分に正直に生きる、私にはそんな彼女なりの決意表明に思えた。どうやら彼女が風俗で働くことによって得たのはたくさんのお金と、そしてそれ以上に大切な「自分自身の人生」だったようだ。
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