基礎医学医療研究に向けた新たな助成金・生体の科学賞 充填知覚研究の小松 英彦氏が第1回の受賞者に決定
[17/02/16]
提供元:@Press
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公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団(所在地:東京都文京区本郷1丁目28番24号IS弓町ビル7階、代表者:野々村 禎昭)は、2017年2月15日(水)、充填知覚研究の
小松 英彦氏を生体の科学賞の第1回受賞者に決定しました。
生体の科学賞
http://www.kanehara-zaidan.or.jp/index.html
■受賞概要
受賞者氏名:小松 英彦(こまつ ひでひこ)
1952年11月30日生(64歳)※2017年2月16日現在
所属 :自然科学研究機構 生理学研究所 感覚認知情報研究部門
役職 :教授
所在地 :愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
履歴 :1976年 静岡大学理学部物理学科卒業
1982年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了
同年 工学博士(大阪大学)
同年 弘前大学医学部第二生理学講座助手
1985年 アメリカ合衆国国立衛生研究所Visiting Associate
1988年 弘前大学医学部第二生理学講座講師
同年 工業技術院電子技術総合研究所脳機能研究室主任研究官
1994年 生理学研究所教授(併任)
1995年 生理学研究所教授(専任)、
総合研究大学院大学教授(併任)
授賞金 :500万円
授賞式 :2017年3月13日(月)17時
株式会社医学書院・会議室
東京都文京区本郷1丁目28番23号
受付電話番号 03(3817)5700
■研究テーマ 充填知覚研究に基づく階層的知覚情報処理機構の解明
<研究の目的>
近年緑内障が失明の原因として第1位を占め、社会的に大きな問題となっています。緑内障においては視神経の損傷により視野の欠損が生じ徐々に進行し失明に至ります。しかし患者に視野欠損の自覚が乏しいために疾患の初期に治療のチャンスを逃し、症状の重篤化を招いています。これは、視野欠損部位すなわち暗点において、充填知覚(フィリング・イン)が生じているためと考えられます。充填知覚とは暗点の内部が、暗点の周辺視野に存在する色や明るさ、模様などの情報によって知覚的に埋められる現象を指します。充填知覚が起きるために、暗点内には視覚情報が網膜から入力されていないにも関わらず、視野が欠損していることを自覚しないことが生じます。充填知覚は知覚心理学の分野では以前から広く認識されていたが、眼科の臨床現場において緑内障の自覚症状の欠如の原因として近年強い関心がもたれつつあります(※1)。充填知覚がどのような時に生じ、正常な視知覚とどのように異なるかを知ることにより、臨床現場で緑内障の早期発見につながる可能性があります。更に、充填知覚が生じる仕組みを明らかにすることによって、緑内障などで生じる視野欠損と自覚症状の関係について根本的な理解が深まるものと考えられます。
本研究は、充填知覚の神経機構について神経回路レベルでの仕組みの理解を深めることを目的とします。神経科学的に充填知覚の神経メカニズムを調べる研究は、まだそれほど多く行われていませんが、その中で私たちのグループはいくつかの先駆的な研究を行ってきました。充填知覚のメカニズムについては大きく二つの仮説が存在します(※2)。一つは初期視覚野が持つ視野地図上で暗点に対応する領域に周辺領域から情報が伝播して、正常視野と同じような情報表現がそのレベルで起きるという「同型説」とよばれる考え方です。もう一つの仮説は、初期視覚野では暗点に対応する領域では情報が欠損したままであり、脳の高次領域における処理によって暗点内には周辺視野と同様の情報が存在すると解釈されるという「認知説」とよばれる考え方です。
私たちは、充填知覚が生じる時に初期視覚野の暗点に対応する部位で神経活動が生じるかどうかを調べることにより、この二つの仮説のいずれがより真実に近いかを明らかにすることを試みました。網膜からの視神経の出口にあたる視神経乳頭には視細胞が存在せず、生得的な暗点を形成しており盲点とよばれます。盲点においても充填知覚が生じることはよく知られています。そこで私たちは、盲点における充填知覚を利用して研究を行いました。サルで一次視覚野の視野地図で盲点に対応する部位を同定し、そこからニューロン活動を記録したところ、網膜から直接入力を受けないにもかかわらず充填知覚が生じる時に応答するニューロンを見出しました。この結果は「同型説」と部分的に一致するが重要な違いがあります。それは応答したニューロンが皮質6層にのみ存在し大きな受容野を持つ細胞であったことです。一次視覚野6層の主な投射部位は外側膝状体です。そこで、私たちはこの結果をもとに充填知覚の仕組みについて新しい仮説を立てました。それは、一次視覚野深層から外側膝状体へのフィードバックと、その結果が再び皮質に戻ってくる再帰的な過程が充填知覚を生み出すというものです。本研究では最新の電気生理学的な手法を用いてこの仮説を検証します。
(参考文献・発表)
1. 小松 英彦「視野のギャップをまたいでものが見える充填知覚のメカニズム」第25回日本緑内障学会(特別講演)2014年9月22日大阪
2. Komatsu H(2006) The neural mechanisms of perceptual filling-in. Nature Reviews Neuroscience, 7:220-231.
■生体の科学賞について
生体の科学賞は基礎医学医療研究領域における独自性と発展性のあるテーマに対して、現在進行しているもの、計画立案中など、現時点の状況は問わず、研究に要する費用への支援を目的とした助成金です。よって、一定程度の期間経過後に報告書の提出を求めますが、助成金の明細、使途、使用期限に関する制限は設けていません。
この賞の名称は当財団の発行する機関誌「生体の科学」から命名したものであり、今後継続して毎年11月に応募を受け付け、翌年2月に受賞者を決定します。
詳細については添付の募集要項を参照して下さい。
https://www.atpress.ne.jp/releases/121903/att_121903_1.pdf
■公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団について
当財団は、株式会社医学書院の創立者、故金原一郎の遺志を継ぎ、基礎医学・医療研究への資金援助と人材育成を目的として1986年12月に設立されました。具体的な活動内容は、基礎医学・医療分野の(1) 研究への助成、(2) 研究対象の学会・研究会および研究者の海外派遣への助成、(3) 外国人留学生への助成、(4) 研究成果の出版に対する助成、(5) その他財団の目的を達成する為に必要な事業、などです。
1987年4月より活動を開始、特に主要である助成事業について、対象は国内の研究者にとどまらず、留学生受入助成金もあり、助成金の累積総額は、10億円を超え、今後の活動に一層の期待が寄せられています。また、これらの事業内容により2012年4月1日に公益財団法人の認定を受けました。
詳細については財団のウェブサイト http://www.kanehara-zaidan.or.jp/ を参照して下さい。
小松 英彦氏を生体の科学賞の第1回受賞者に決定しました。
生体の科学賞
http://www.kanehara-zaidan.or.jp/index.html
■受賞概要
受賞者氏名:小松 英彦(こまつ ひでひこ)
1952年11月30日生(64歳)※2017年2月16日現在
所属 :自然科学研究機構 生理学研究所 感覚認知情報研究部門
役職 :教授
所在地 :愛知県岡崎市明大寺町字西郷中38
履歴 :1976年 静岡大学理学部物理学科卒業
1982年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了
同年 工学博士(大阪大学)
同年 弘前大学医学部第二生理学講座助手
1985年 アメリカ合衆国国立衛生研究所Visiting Associate
1988年 弘前大学医学部第二生理学講座講師
同年 工業技術院電子技術総合研究所脳機能研究室主任研究官
1994年 生理学研究所教授(併任)
1995年 生理学研究所教授(専任)、
総合研究大学院大学教授(併任)
授賞金 :500万円
授賞式 :2017年3月13日(月)17時
株式会社医学書院・会議室
東京都文京区本郷1丁目28番23号
受付電話番号 03(3817)5700
■研究テーマ 充填知覚研究に基づく階層的知覚情報処理機構の解明
<研究の目的>
近年緑内障が失明の原因として第1位を占め、社会的に大きな問題となっています。緑内障においては視神経の損傷により視野の欠損が生じ徐々に進行し失明に至ります。しかし患者に視野欠損の自覚が乏しいために疾患の初期に治療のチャンスを逃し、症状の重篤化を招いています。これは、視野欠損部位すなわち暗点において、充填知覚(フィリング・イン)が生じているためと考えられます。充填知覚とは暗点の内部が、暗点の周辺視野に存在する色や明るさ、模様などの情報によって知覚的に埋められる現象を指します。充填知覚が起きるために、暗点内には視覚情報が網膜から入力されていないにも関わらず、視野が欠損していることを自覚しないことが生じます。充填知覚は知覚心理学の分野では以前から広く認識されていたが、眼科の臨床現場において緑内障の自覚症状の欠如の原因として近年強い関心がもたれつつあります(※1)。充填知覚がどのような時に生じ、正常な視知覚とどのように異なるかを知ることにより、臨床現場で緑内障の早期発見につながる可能性があります。更に、充填知覚が生じる仕組みを明らかにすることによって、緑内障などで生じる視野欠損と自覚症状の関係について根本的な理解が深まるものと考えられます。
本研究は、充填知覚の神経機構について神経回路レベルでの仕組みの理解を深めることを目的とします。神経科学的に充填知覚の神経メカニズムを調べる研究は、まだそれほど多く行われていませんが、その中で私たちのグループはいくつかの先駆的な研究を行ってきました。充填知覚のメカニズムについては大きく二つの仮説が存在します(※2)。一つは初期視覚野が持つ視野地図上で暗点に対応する領域に周辺領域から情報が伝播して、正常視野と同じような情報表現がそのレベルで起きるという「同型説」とよばれる考え方です。もう一つの仮説は、初期視覚野では暗点に対応する領域では情報が欠損したままであり、脳の高次領域における処理によって暗点内には周辺視野と同様の情報が存在すると解釈されるという「認知説」とよばれる考え方です。
私たちは、充填知覚が生じる時に初期視覚野の暗点に対応する部位で神経活動が生じるかどうかを調べることにより、この二つの仮説のいずれがより真実に近いかを明らかにすることを試みました。網膜からの視神経の出口にあたる視神経乳頭には視細胞が存在せず、生得的な暗点を形成しており盲点とよばれます。盲点においても充填知覚が生じることはよく知られています。そこで私たちは、盲点における充填知覚を利用して研究を行いました。サルで一次視覚野の視野地図で盲点に対応する部位を同定し、そこからニューロン活動を記録したところ、網膜から直接入力を受けないにもかかわらず充填知覚が生じる時に応答するニューロンを見出しました。この結果は「同型説」と部分的に一致するが重要な違いがあります。それは応答したニューロンが皮質6層にのみ存在し大きな受容野を持つ細胞であったことです。一次視覚野6層の主な投射部位は外側膝状体です。そこで、私たちはこの結果をもとに充填知覚の仕組みについて新しい仮説を立てました。それは、一次視覚野深層から外側膝状体へのフィードバックと、その結果が再び皮質に戻ってくる再帰的な過程が充填知覚を生み出すというものです。本研究では最新の電気生理学的な手法を用いてこの仮説を検証します。
(参考文献・発表)
1. 小松 英彦「視野のギャップをまたいでものが見える充填知覚のメカニズム」第25回日本緑内障学会(特別講演)2014年9月22日大阪
2. Komatsu H(2006) The neural mechanisms of perceptual filling-in. Nature Reviews Neuroscience, 7:220-231.
■生体の科学賞について
生体の科学賞は基礎医学医療研究領域における独自性と発展性のあるテーマに対して、現在進行しているもの、計画立案中など、現時点の状況は問わず、研究に要する費用への支援を目的とした助成金です。よって、一定程度の期間経過後に報告書の提出を求めますが、助成金の明細、使途、使用期限に関する制限は設けていません。
この賞の名称は当財団の発行する機関誌「生体の科学」から命名したものであり、今後継続して毎年11月に応募を受け付け、翌年2月に受賞者を決定します。
詳細については添付の募集要項を参照して下さい。
https://www.atpress.ne.jp/releases/121903/att_121903_1.pdf
■公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団について
当財団は、株式会社医学書院の創立者、故金原一郎の遺志を継ぎ、基礎医学・医療研究への資金援助と人材育成を目的として1986年12月に設立されました。具体的な活動内容は、基礎医学・医療分野の(1) 研究への助成、(2) 研究対象の学会・研究会および研究者の海外派遣への助成、(3) 外国人留学生への助成、(4) 研究成果の出版に対する助成、(5) その他財団の目的を達成する為に必要な事業、などです。
1987年4月より活動を開始、特に主要である助成事業について、対象は国内の研究者にとどまらず、留学生受入助成金もあり、助成金の累積総額は、10億円を超え、今後の活動に一層の期待が寄せられています。また、これらの事業内容により2012年4月1日に公益財団法人の認定を受けました。
詳細については財団のウェブサイト http://www.kanehara-zaidan.or.jp/ を参照して下さい。