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IEEEがプレスセミナーを開催 『未来医療を拓くバイオニックヒューマノイド』

IEEE(アイ・トリプル・イー)は、『未来医療を拓くバイオニックヒューマノイド』と題したプレスセミナーを2017年6月28日(水)に大手町(東京都千代田区)で開催しました。今回は、IEEEメンバーでRobotics and Automation Society(ロボティクス アンド オートメーション ソサイエティ)副会長で名古屋大学大学院工学研究科教授の新井 史人先生にご登壇いただきました。
当日のセミナーは、バイオニックヒューマノイドの最新情報と生体特性計測のための水晶振動式子を用いたワイドレンジな計測特性を有する荷重センサ(水晶振動式荷重センサ)の成果を紹介しました。前半はバイオニックヒューマノイドの概要と眼科専用モデル、後半は水晶振動式荷重センサによるマルチスケール力計測について解説し、デモンストレーションを行いました。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/133851/LL_img_133851_1.jpg
講演する新井先生


■バイオニックヒューマノイドとは身体のつくりを再現した人体模型
現在、手術用ロボット、カプセル内視鏡、最新テクノロジーを応用した様々な医療機器や医療システムが開発されていますが、最新のデバイスを臨床に用いた場合、評価や検証、そして、医学部の学生や新人医師向けのトレーニングが必要になり、現在のところ大きく分けて3つの方法があります。
1.バーチャルリアリティ(VR)を利用する
2.人間に似ている人工物を使う
3.動物を使う

それぞれ一長一短があります。VRはサイバー空間上でシミュレーションや経験を行うものですが、開発した医療デバイスもサイバー空間上に作り込まなければなりません。果たして、サイバー空間上できちんとモデル化できているのか、という新たな課題が発生します。また、動物を使うことは倫理上の問題があるだけでなく、人間の臓器とは形も特性も違うことがあり、正式な評価になりえないケースがあります。
一方、人間に似ている人工物は、医療ロボットなど最新デバイスの直接的な評価や検証ができるだけでなく、再現性が担保できます。現在、様々な医療機関で利用されている医療用の人体模型がありますが、問題点もあると新井先生は指摘します。つまり、解剖学的な忠実性があるかどうかだけでなく、力学的な特性が適切に再現されているかどうかという問題で、新井先生は見た目だけでなく、将来的な応用の広がりを考えると、生化学的な側面からも“人間とうりふたつ”のヒューマノイドを目指すべきだと述べました。
今後、患者シミュレーションの世界市場は成長を続け、2019年には約900億円になると見込まれています。比率でみると北アメリカが大きく、アジアは比率で言うとまだ少ない状況です。しかし、ここで注目したいのは、この市場は平均成長率が年間約20%で増加しており、経済的にも重要であることを示している点です。バイオニックヒューマノイドは部分的に使い捨てが可能なものが出てくることが予想され、患者シミュレーション市場においてバイオニックヒューマノイドが存在感を示すには、適正な価格で市場に提供することが重要であると新井先生は考えています。


■モジュール構造がポイント
人間の体は37兆個以上の細胞から構成されているといわれています。バイオニックヒューマノイドは、医師が患者に触れた時に生じる感覚にフォーカスしており、新井先生のこだわりは人間の特性を模擬する人体です。解剖学的な忠実性、固さ、やわらかさ、粘っこさなどを似せることで、より人体の特性に近づけることを目的としています。さらに、電気メスを使用した時の加工特性、光学的な特性、心臓の動きなど、患者シミュレーションにおいて人体に近い特性をもちながら、様々な目的に応じた使いやすい機能の実現を目指しています。

<バイオニックヒューマノイド>
https://www.atpress.ne.jp/releases/133851/img_133851_2.jpg

さらにここで重要なのは、バイオニックヒューマノイドにセンサを備えることで力のかかり具合、変形の度合いをモニタリングすることができることです。力加減の評価が可能になり、データの履歴機能をつければ医師に提示することができるようになります。

新井先生が開発しているバイオニックヒューマノイドの特徴は、センサを搭載していることに加え、モジュール構造を実現したことです。1号機であるBH-1は首から上を取り外せる、眼や脳を取りかえることができるなど部位ごとに独立した設計になっています。脳は、下垂体周りの腫瘍を取る手術を想定してモジュール化を行いました。鼻中隔を割って下垂体の近くに鉗子(かんし)を入れる作業を模擬するために、鼻中隔、血管、大脳をモジュール化しました。BH-1は、各モジュールの開発を始めとして、革新的研究開発推進プログラムImPACT「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命(プログラム・マネージャー 原田 香奈子)」のメンバーと共同で開発を行いました。

首から下に関しては、血管内治療を想定しカテーテルを挿入した時、見やすくするために血管を透明にしてあります。外部にポンプがついていて拍動させることができ、赤く着色した液体を血管に流すと全身にくまなく行き渡ります。心臓外科では拍動した心臓を使って、まず、網膜中心静脈閉塞症の手術は、網膜の中に直径約100ミクロンという非常に細い毛細血管が通っています。その毛細血管が詰まり、血液が流れない状態が網膜中心静脈閉塞症です。これには、例えばその細い血管に薬剤を注射するという難しい手術を行います。患者シミュレーションができるというコンセプトです。

新井先生は次に眼科専用機について解説します。眼科専用機はバイオニックアイモジュールと呼んでおり、東京大学医学部と共同で開発を行っています。現在の日本は高齢社会です。目は老化にともない、誰でも悪くなっていきます。長生きをすればするほど、目の病気をわずらう可能性が高くなるということで、眼科の手術の練習システムは重要になっていくという考えです。
ここで、眼の構造とかかりやすい病気を前眼部と後眼部に分け、開発を進めています。後眼部には、結像した情報を視神経に通して脳に送る大変重要な役割を果たす網膜があります。網膜の病気として、網膜中心静脈閉塞症と黄斑円孔を取り上げ、バイオニックアイモジュールの説明をしました。

<アイモジュールの実演>
https://www.atpress.ne.jp/releases/133851/img_133851_3.jpg

網膜中心静脈閉塞症は、網膜の中に通っている直径約100ミクロンという非常に細い毛細血管が詰まり、血液が流れない状態になる病気です。これには、例えばその細い血管に薬剤を注射するという難しい手術を行います。その練習のために、バイオニックアイモジュールは網膜に同じ細さの血管を作り、着色した液体を流し、実際に血管内に注射を行うことができる構造になっています。

一方、黄斑円孔は黄斑部という部分に丸く穴が開く病気です。約3ミクロンという薄さの内境界膜を上手にはがさなければならない熟練医にとっても非常に難しい手術が必要です。バイオニックアイモジュールは、内境界膜をPVA(*1)という素材でつくり、実際に内境界膜をはがす練習ができるようになっています。また、黄斑部の後ろには照明系があり、応力がかかると光弾性現象を利用して明るさのパターンが変わり、応力状態を可視化する機能をつけています。
*1 合成樹脂の一種

網膜は一度悪くなってしまうと元に戻らない組織で、慎重に手術を行うための技術が求められており、今後は大勢の眼科医に評価してもらい、改良を進めていく方針だということです。

これまでは技術が定量化されなかったものを、新井先生が開発するセンサを搭載したバイオニックヒューマノイドを使うことで、情報の収集を行い科学的に検証しようというアプローチです。


■水晶振動子を用いたワイドレンジ荷重センサの可能性
バイオニックヒューマノイドと力センサは一見関係ないように思えますが、実は関連性が深いことがわかりました。さらに、力センサのスペックに注目します。
新井先生が開発した水晶振動式荷重センサは、力の計測レンジが10の6乗と、とても広いことが特徴です。計測レンジが広いということは力の計測において極めて重要です。やわらかいものから固いものまで多様な対象を測れるため、バイオニックヒューマノイドの開発に必要となる力学的データ収集に適した力センサというわけです。人間の体には網膜のようにやわらかい部分もあり骨のように固い部分もあります。従来品では、計測対象とする組織に応じて、いくつかの計測レンジの異なる力センサを使い分ける必要がありましたが、この水晶振動式荷重センサなら、これひとつで幅の広い測定ができることになります。

この画期的なレンジをもつ水晶振動式荷重センサは、小さな荷重まで計測可能で、例えば500ニュートンかかった状態で0.4ミリニュートン変化したものがわかるということです。相反するスペックを満たす、世界トップレベルの力センサです。

この水晶振動式荷重センサを使った事例として、このセンサをイスの中に組み込むと、座った時と立つ時にかかる大きな荷重変動を計測できます。さらに、座っている時の信号を拡大すると、呼吸や脈拍が計測できていることがわかります。つまり、ワイドな計測レンジをもつということは、座っただけで、様々な生体情報が取得できるということです。

この水晶振動式荷重センサは、広い計測レンジを活かして今後様々な応用が期待されています。また、バイオニックヒューマノイドの技術は、ロボットを人間に似せる技術にも応用できるということです。今後、ロボットの緻密度はより高まっていき、将来は見た目や触った感じは人間そっくり、しかし実はロボットという時代がやってくると考えられます。

<力センサの実演>
https://www.atpress.ne.jp/releases/133851/img_133851_4.jpg


■IEEEについて
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。

IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。

詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。
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