IEEEがプレスセミナーを開催『AI/ロボットの現状と未来』
[19/11/29]
提供元:@Press
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IEEE(アイ・トリプル・イー)は、『AI/ロボットの現状と未来』と題したプレスセミナーを2019年11月18日(月)に開催いたしました。今回は、IEEEメンバーで早稲田大学 文学学術院 教授の高橋 利枝先生にご登壇いただき、高橋先生がこれまで経験してきたケンブリッジ大学やハーバード大学との国際共同研究を踏まえた人工知能(AI)の社会的インパクトやロボットの利活用について解説していただきました。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/199939/LL_img_199939_1.jpg
講演する高橋先生
今回のセミナーでは、メディアコミュニケーション研究を専門とする高橋先生が、世界各国で開かれたワークショップなどのイベントを通じてAI/ロボット研究の第一人者らと意見交換してきた経験をベースに、日本と欧州のAI/ロボットへの対応の違いや、それを踏まえて人にとって幸せなAI社会を作るために必要な要素などを取り上げました。
まず、昨今注目されるAI/ロボットについて、高橋先生は「日本では鉄腕アトムやドラえもんのようにポジティブな印象を持たれる事が多い」とし、反対に欧州では「映画『ターミネーター』を代表するように人を支配し、仕事を奪うネガティブなイメージで不安視されている」と違いを説明しました。
2016年から2017年にかけて香港、ソウル、東京でハーバード大学などが開催した「アジアにおけるAI」のシリーズ・イベントでも、AI/ロボットがもたらすチャンスとリスクが議論され、特にリスクについて活発に意見交換があったとしています。
高橋先生は国際会議などで、日本のAI/ロボット観に対して欧州の研究者から批判を受けたことや、日本経済団体連合会が唱える「ソサエティ5.0」の実現へ向け、AI/ロボットの活用と多様性について着目しました。多様性と包含がAIを応用しパラダイムシフトを起こすために必要と捉えています。
そのパラダイムシフトがどう起こるかは複雑系を活用し、「コミュニケーションの複雑性モデル」を使って解説しました。
複数の層がらせん状につながり、上から下、下から上へのらせんを備えるモデルで、個人、社会集団、社会/文化の層に分かれています。CGモデルを用いて上層(社会)からの力、下層(個人)からの力が相互作用で影響を与えることを示し、世界中でIoT(モノのインターネット)やブロックチェーンの普及、AI開発競争が進むマクロ的な力学が働く中、個人というミクロレベルでAI/ロボットへの理解を深める力学も重要であると説いています。
また、AI/ロボットの進化や普及に必要な要素について、高橋先生が交流してきた専門家の意見や、調査結果を示しました。
まず、AIに対する信頼を構築するためには「AIナラティブ」が重要である点を挙げています。英国における遺伝子組み換え作物の失敗例から、人工知能委員会委員長のクレメント・ジョンズ卿が述べる「『AIは奴隷であり、主人ではない』事を明確にするため国際的に共通の合意を構築する必要がある」という意見を紹介し、優れた技術が普及するには人々の信頼が不可欠だと訴えました。
さらに欧州議会のマディー・デルヴォー議員の「ロボットが人を愛すると考えるのは良くない」、サセックス大学のマーガレット・ボーデン教授の「人のケアをロボットがしてはならない。人間の尊厳を保つべき」といった意見から、どこまでAI/ロボットに社会的な役割を持たせるべきかを議論する重要性も唱えています。
高橋先生は2018年8月に日本で行った「若者とAI調査」の結果から、日本のAIナラティブについても解説しました。日本の若者は7割がロボットに肯定的な印象を持ち、期待、便利、未来、確信といったイメージを持つとのことです。一方で、人型は6割、人のような心を持つことは7割が望んでおらず、人の予想を超えることも8割以上が不必要としている事を挙げ、AI/ロボットに求める線引きの必要性を示しました。
続けてスタンフォード大学による知見を日本で検証した結果についても提示し、AIに対して、自分に合う化粧や髪型を提案する、肉体労働や危険な仕事を担うといったことに大多数が賛成しつつも、心や感情に関するサービスの導入には消極的だとしました。
そして実際に人とロボットとのエンゲージメントを理解するために自身が特別養護老人ホームで行ったフィールドワークについても紹介しました。アザラシ型のセラピーロボット「パロ」のようなコミュニケーション・ロボットを導入することの意義は、ボーデン教授が非人道的と批判しているような、ロボットに介護を任せるのではなく、要介護者と介護者双方の心を癒すことによって緊張関係を緩和し、媒介(メディア)として両者の心を結びつけることではないかと述べています。
最後に、高橋先生は「AIは道具であり、持続可能な開発目標(SDGs)の17項目すべてにインパクトを与えるもの」と強調。日欧の意識の違いを認識しつつAIを活用することや、AIをただ受け入れたり不安から抵抗したりすることではなく、上手に利用しながら自己実現を図るような「適応」が必要だと訴えました。
その適応を「スマート・ウィズダム」とし、AI/ロボットをはじめとする科学技術イノベーションがもたらす新たな機会を最大限に享受し、リスクを最小限にするためにスマート・ウィズダムを身につけるべきだとしています。
★ポイント
人にとって幸せなAI社会を創るためには「ヒューマン・ファースト・イノベーション」が必要。
(1) 「AI/ロボット・ファースト」ではなく、人を幸せにするためにAIを利活用する「ヒューマン・ファースト」なアプローチが必要。国連が掲げたサステナビリティ(SDGs)の目標を達成するための「ツール」として、社会的便益性の高い(ソーシャル・グッドな)AIを開発すべき。
(2) 自然科学と人文社会科学の壁を超えた学際的アプローチによるイノベーションの必要性。
(3) AI環境に適応しながら、絶えず自己創造するための力(スマート・ウィズダム)を身につける必要がある。
■IEEEについて
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。
IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。
詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/199939/LL_img_199939_1.jpg
講演する高橋先生
今回のセミナーでは、メディアコミュニケーション研究を専門とする高橋先生が、世界各国で開かれたワークショップなどのイベントを通じてAI/ロボット研究の第一人者らと意見交換してきた経験をベースに、日本と欧州のAI/ロボットへの対応の違いや、それを踏まえて人にとって幸せなAI社会を作るために必要な要素などを取り上げました。
まず、昨今注目されるAI/ロボットについて、高橋先生は「日本では鉄腕アトムやドラえもんのようにポジティブな印象を持たれる事が多い」とし、反対に欧州では「映画『ターミネーター』を代表するように人を支配し、仕事を奪うネガティブなイメージで不安視されている」と違いを説明しました。
2016年から2017年にかけて香港、ソウル、東京でハーバード大学などが開催した「アジアにおけるAI」のシリーズ・イベントでも、AI/ロボットがもたらすチャンスとリスクが議論され、特にリスクについて活発に意見交換があったとしています。
高橋先生は国際会議などで、日本のAI/ロボット観に対して欧州の研究者から批判を受けたことや、日本経済団体連合会が唱える「ソサエティ5.0」の実現へ向け、AI/ロボットの活用と多様性について着目しました。多様性と包含がAIを応用しパラダイムシフトを起こすために必要と捉えています。
そのパラダイムシフトがどう起こるかは複雑系を活用し、「コミュニケーションの複雑性モデル」を使って解説しました。
複数の層がらせん状につながり、上から下、下から上へのらせんを備えるモデルで、個人、社会集団、社会/文化の層に分かれています。CGモデルを用いて上層(社会)からの力、下層(個人)からの力が相互作用で影響を与えることを示し、世界中でIoT(モノのインターネット)やブロックチェーンの普及、AI開発競争が進むマクロ的な力学が働く中、個人というミクロレベルでAI/ロボットへの理解を深める力学も重要であると説いています。
また、AI/ロボットの進化や普及に必要な要素について、高橋先生が交流してきた専門家の意見や、調査結果を示しました。
まず、AIに対する信頼を構築するためには「AIナラティブ」が重要である点を挙げています。英国における遺伝子組み換え作物の失敗例から、人工知能委員会委員長のクレメント・ジョンズ卿が述べる「『AIは奴隷であり、主人ではない』事を明確にするため国際的に共通の合意を構築する必要がある」という意見を紹介し、優れた技術が普及するには人々の信頼が不可欠だと訴えました。
さらに欧州議会のマディー・デルヴォー議員の「ロボットが人を愛すると考えるのは良くない」、サセックス大学のマーガレット・ボーデン教授の「人のケアをロボットがしてはならない。人間の尊厳を保つべき」といった意見から、どこまでAI/ロボットに社会的な役割を持たせるべきかを議論する重要性も唱えています。
高橋先生は2018年8月に日本で行った「若者とAI調査」の結果から、日本のAIナラティブについても解説しました。日本の若者は7割がロボットに肯定的な印象を持ち、期待、便利、未来、確信といったイメージを持つとのことです。一方で、人型は6割、人のような心を持つことは7割が望んでおらず、人の予想を超えることも8割以上が不必要としている事を挙げ、AI/ロボットに求める線引きの必要性を示しました。
続けてスタンフォード大学による知見を日本で検証した結果についても提示し、AIに対して、自分に合う化粧や髪型を提案する、肉体労働や危険な仕事を担うといったことに大多数が賛成しつつも、心や感情に関するサービスの導入には消極的だとしました。
そして実際に人とロボットとのエンゲージメントを理解するために自身が特別養護老人ホームで行ったフィールドワークについても紹介しました。アザラシ型のセラピーロボット「パロ」のようなコミュニケーション・ロボットを導入することの意義は、ボーデン教授が非人道的と批判しているような、ロボットに介護を任せるのではなく、要介護者と介護者双方の心を癒すことによって緊張関係を緩和し、媒介(メディア)として両者の心を結びつけることではないかと述べています。
最後に、高橋先生は「AIは道具であり、持続可能な開発目標(SDGs)の17項目すべてにインパクトを与えるもの」と強調。日欧の意識の違いを認識しつつAIを活用することや、AIをただ受け入れたり不安から抵抗したりすることではなく、上手に利用しながら自己実現を図るような「適応」が必要だと訴えました。
その適応を「スマート・ウィズダム」とし、AI/ロボットをはじめとする科学技術イノベーションがもたらす新たな機会を最大限に享受し、リスクを最小限にするためにスマート・ウィズダムを身につけるべきだとしています。
★ポイント
人にとって幸せなAI社会を創るためには「ヒューマン・ファースト・イノベーション」が必要。
(1) 「AI/ロボット・ファースト」ではなく、人を幸せにするためにAIを利活用する「ヒューマン・ファースト」なアプローチが必要。国連が掲げたサステナビリティ(SDGs)の目標を達成するための「ツール」として、社会的便益性の高い(ソーシャル・グッドな)AIを開発すべき。
(2) 自然科学と人文社会科学の壁を超えた学際的アプローチによるイノベーションの必要性。
(3) AI環境に適応しながら、絶えず自己創造するための力(スマート・ウィズダム)を身につける必要がある。
■IEEEについて
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。
IEEEは、電機・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2,000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。
詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。