映像酔いからの回復時に脳結合の増加を発見
[21/01/14]
提供元:@Press
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概要
京都大学大学院人間・環境学研究科の山本洋紀助教と京セラ株式会社 先進技術研究所、明治国際医療大学らの研究グループは、機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging: fMRI)を使って映像酔い前後での脳機能ネットワーク(脳の領域間の機能的な関連度合い)を調べたところ、回復している最中に増加する結合を発見しました。映像酔いは、近年新型コロナウィルス感染症の拡大を受けて普及しているオンライン会議システムや仮想現実
(Virtual Reality: VR)システムをはじめとする様々な高臨場感映像で問題となっています。本発見は、映像酔いからの回復を促進する方法など、より安全で快適な高臨場感映像を支える技術開発につながることが期待されるほか、未解明な点の多い映像酔いの脳メカニズムの理解を進める成果です。
今回の成果は2021年1月14日に「Experimental Brain Research」誌オンライン版に掲載されます。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/243231/img_243231_1.jpg
※本イラストの著作権は「理系漫画制作室 -Science Manga Studio」が保有しています。新
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さい。
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に違反します。公式発表、報道機関からの配信のリツイートやシェアをご利用ください。
1.背景
車の自動運転が現実に近づきつつあります。運転から解放された乗員は、スマートフォンやタブレット端末など、移動中に思いおもいの情報端末を利用して仕事や趣味に活動することでしょう。しかし、車に乗りながら本を読んでいて気持ちが悪くなった方も多いのではないでしょうか。いわゆる「車酔い」です。「車酔い」は乗車中に近くのものを見ていると起きやすく、自動運転中の視覚ディスプレイの使用はそのリスクを高めてしまいます。じつは、車に乗っていなくても、ただ椅子に座って映像を観ているだけでも「車酔い」と同様な症状がおきることが知られています。これは「映像酔い」とよばれます。
映像酔いは、新型コロナウィルス感染症拡大にともなって普及がすすむ、オンライン会議システムやVRシステムなどの高臨場感映像の視聴においてもリスクとして問題となっています。映像酔いが起きる詳しいメカニズムは分かっていませんが、脳のなかで視覚、前庭感覚(平衡感覚)、体性感覚といった感覚情報が相互作用する過程で、何らかの異常が生じることが原因と考えられています。
映像酔いは多くの場合、映像を観はじめるとじわじわ気持ち悪さが増していき、映像を停止すると徐々に回復して不快感が薄れていきます。映像酔いが起きる過程の脳のふるまいについては、fMRIなどの脳機能イメージング技術をつかって近年調べられてきました。しかし、映像酔いの症状が和らいで回復する過程については、何ら分かっていませんでした。映像酔いの回復過程を明らかにすることは、回復を促進する方法を考えるうえでとても有用であると同時に、映像酔いのメカニズムの理解を深めるうえで重要です。そこで、研究チームは映像酔いから回復している最中の脳活動をfMRIによって調べました。
2.研究手法・成果
この研究では、14名の実験参加者に酔いにくい動画(非酔動画)と映像酔いしやすい動画(酔動画)を順番に観てもらいました。14名のうち、6名は映像酔いしませんでしたが、残りの8名は酔動画を観ているあいだに酔いました。各動画の前後、3回の安静期間を設け、映像酔いした参加者は酔動画直後の安静期間のあいだに映像酔い症状は回復しました。この回復している安静な状態と、酔う前の映像酔いとは何ら関係のない2回の安静な状態とのあいだで脳のふるまいを比較しました。映像酔いではないものの、過去の研究で、身体的・心理的ストレスにさらされた状態の脳では、特定の脳領域間の機能結合が変化していることが報告されており、本研究でもこの脳機能結合を調べました。
その結果、映像酔いから回復しているあいだ、島、帯状回、視覚野、海馬傍回といった特定の脳ネットワークの結合が非常に強くなっていることを発見しました。これらの脳領域は、自分の体調を意識するときに働くほか、視覚情報の処理・記憶に関与することが報告されてきました。したがって、私たちが発見した映像酔いからの回復過程における脳機能結合の増加は、映像酔いの不快感が和らいでいく自分自身の心身状態への自覚や、映像酔いへの「馴れ」につながる視覚情報処理回路や記憶回路の可塑的変化を反映しているのかもしれません。
3.波及効果、今後の予定
今回の研究成果は、自動運転時代・withコロナ社会で予想される車酔い・映像酔いのリスク増加に対して、その回復を促進する技術開発につながることが期待されます。より本質的には、映像酔い・車酔いを未然に抑止することが重要であり、今後はこれを実現する技術開発に取り組む予定です。
4.研究プロジェクトについて
本成果は京都大学、京セラ株式会社、そして明治国際医療大学の共同研究によるものです。京都大学・山本洋紀助教は、文部科学省 新学術領域研究「質感脳情報学」(23135517, 25135720)ならびに科学技術振興機構(16K13506)による支援を受けました。
<研究者のコメント>
映像酔いや乗り物酔いは、技術が高度化し社会が進歩すればするほど顕著になる、人類文明の「影」のような現象です。その発症を外的に統制するのは難しく、人の体調を損なう危険なものでもあり、研究対象として非常に難しいものでした。しかし、誰かが取り組まなければならないという危機感から、本研究にチャレンジして参りました。今後は、本成果を足がかりに、酔いを抑止する技術の研究開発に取り組みたいと思います。
<論文タイトルと著者>
表1: https://www.atpress.ne.jp/releases/243231/table_243231_1.jpg
<参考図表>
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/243231/img_243231_2.png
実験の流れ : 実験参加者に6分間の非酔動画・酔動画を観てみらった。酔動画は台車に搭載したロール回転するビデオカメラで実験室内を撮影した実写動画だった。非酔動画は酔動画の縮小版を8×8に配列した動画だった。これらの動画の前後に5分間の安静期間を設け、この期間の脳活動をfMRIで計測した。本研究で注目したのは、酔動画のあと、映像酔いから回復する過程の脳機能結合であった。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/243231/img_243231_3.png
本研究の代表図: 島、帯状回、視運動野、海馬傍回などを中心とする脳機能結合が増加するほど、映像酔いの度合いが低下、つまり回復していた。これを反映して、脳機能結合と映像酔い度合いとの間に強い負の相関があった。
京都大学大学院人間・環境学研究科の山本洋紀助教と京セラ株式会社 先進技術研究所、明治国際医療大学らの研究グループは、機能的磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging: fMRI)を使って映像酔い前後での脳機能ネットワーク(脳の領域間の機能的な関連度合い)を調べたところ、回復している最中に増加する結合を発見しました。映像酔いは、近年新型コロナウィルス感染症の拡大を受けて普及しているオンライン会議システムや仮想現実
(Virtual Reality: VR)システムをはじめとする様々な高臨場感映像で問題となっています。本発見は、映像酔いからの回復を促進する方法など、より安全で快適な高臨場感映像を支える技術開発につながることが期待されるほか、未解明な点の多い映像酔いの脳メカニズムの理解を進める成果です。
今回の成果は2021年1月14日に「Experimental Brain Research」誌オンライン版に掲載されます。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/243231/img_243231_1.jpg
※本イラストの著作権は「理系漫画制作室 -Science Manga Studio」が保有しています。新
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1.背景
車の自動運転が現実に近づきつつあります。運転から解放された乗員は、スマートフォンやタブレット端末など、移動中に思いおもいの情報端末を利用して仕事や趣味に活動することでしょう。しかし、車に乗りながら本を読んでいて気持ちが悪くなった方も多いのではないでしょうか。いわゆる「車酔い」です。「車酔い」は乗車中に近くのものを見ていると起きやすく、自動運転中の視覚ディスプレイの使用はそのリスクを高めてしまいます。じつは、車に乗っていなくても、ただ椅子に座って映像を観ているだけでも「車酔い」と同様な症状がおきることが知られています。これは「映像酔い」とよばれます。
映像酔いは、新型コロナウィルス感染症拡大にともなって普及がすすむ、オンライン会議システムやVRシステムなどの高臨場感映像の視聴においてもリスクとして問題となっています。映像酔いが起きる詳しいメカニズムは分かっていませんが、脳のなかで視覚、前庭感覚(平衡感覚)、体性感覚といった感覚情報が相互作用する過程で、何らかの異常が生じることが原因と考えられています。
映像酔いは多くの場合、映像を観はじめるとじわじわ気持ち悪さが増していき、映像を停止すると徐々に回復して不快感が薄れていきます。映像酔いが起きる過程の脳のふるまいについては、fMRIなどの脳機能イメージング技術をつかって近年調べられてきました。しかし、映像酔いの症状が和らいで回復する過程については、何ら分かっていませんでした。映像酔いの回復過程を明らかにすることは、回復を促進する方法を考えるうえでとても有用であると同時に、映像酔いのメカニズムの理解を深めるうえで重要です。そこで、研究チームは映像酔いから回復している最中の脳活動をfMRIによって調べました。
2.研究手法・成果
この研究では、14名の実験参加者に酔いにくい動画(非酔動画)と映像酔いしやすい動画(酔動画)を順番に観てもらいました。14名のうち、6名は映像酔いしませんでしたが、残りの8名は酔動画を観ているあいだに酔いました。各動画の前後、3回の安静期間を設け、映像酔いした参加者は酔動画直後の安静期間のあいだに映像酔い症状は回復しました。この回復している安静な状態と、酔う前の映像酔いとは何ら関係のない2回の安静な状態とのあいだで脳のふるまいを比較しました。映像酔いではないものの、過去の研究で、身体的・心理的ストレスにさらされた状態の脳では、特定の脳領域間の機能結合が変化していることが報告されており、本研究でもこの脳機能結合を調べました。
その結果、映像酔いから回復しているあいだ、島、帯状回、視覚野、海馬傍回といった特定の脳ネットワークの結合が非常に強くなっていることを発見しました。これらの脳領域は、自分の体調を意識するときに働くほか、視覚情報の処理・記憶に関与することが報告されてきました。したがって、私たちが発見した映像酔いからの回復過程における脳機能結合の増加は、映像酔いの不快感が和らいでいく自分自身の心身状態への自覚や、映像酔いへの「馴れ」につながる視覚情報処理回路や記憶回路の可塑的変化を反映しているのかもしれません。
3.波及効果、今後の予定
今回の研究成果は、自動運転時代・withコロナ社会で予想される車酔い・映像酔いのリスク増加に対して、その回復を促進する技術開発につながることが期待されます。より本質的には、映像酔い・車酔いを未然に抑止することが重要であり、今後はこれを実現する技術開発に取り組む予定です。
4.研究プロジェクトについて
本成果は京都大学、京セラ株式会社、そして明治国際医療大学の共同研究によるものです。京都大学・山本洋紀助教は、文部科学省 新学術領域研究「質感脳情報学」(23135517, 25135720)ならびに科学技術振興機構(16K13506)による支援を受けました。
<研究者のコメント>
映像酔いや乗り物酔いは、技術が高度化し社会が進歩すればするほど顕著になる、人類文明の「影」のような現象です。その発症を外的に統制するのは難しく、人の体調を損なう危険なものでもあり、研究対象として非常に難しいものでした。しかし、誰かが取り組まなければならないという危機感から、本研究にチャレンジして参りました。今後は、本成果を足がかりに、酔いを抑止する技術の研究開発に取り組みたいと思います。
<論文タイトルと著者>
表1: https://www.atpress.ne.jp/releases/243231/table_243231_1.jpg
<参考図表>
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/243231/img_243231_2.png
実験の流れ : 実験参加者に6分間の非酔動画・酔動画を観てみらった。酔動画は台車に搭載したロール回転するビデオカメラで実験室内を撮影した実写動画だった。非酔動画は酔動画の縮小版を8×8に配列した動画だった。これらの動画の前後に5分間の安静期間を設け、この期間の脳活動をfMRIで計測した。本研究で注目したのは、酔動画のあと、映像酔いから回復する過程の脳機能結合であった。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/243231/img_243231_3.png
本研究の代表図: 島、帯状回、視運動野、海馬傍回などを中心とする脳機能結合が増加するほど、映像酔いの度合いが低下、つまり回復していた。これを反映して、脳機能結合と映像酔い度合いとの間に強い負の相関があった。