基礎医学医療研究に向けた助成金「生体の科学賞」受賞者が決定 〜第5回受賞者:神戸大学大学院医学研究科 的崎 尚氏〜
[21/02/19]
提供元:@Press
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公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団(所在地:東京都文京区本郷1丁目28番24号IS弓町ビル7階、代表者:野々村 禎昭)は2021年2月18日(木)、第5回生体の科学賞を神戸大学大学院医学研究科の的崎 尚氏に授与することを決定しました。
「生体の科学賞」
http://www.kanehara-zaidan.or.jp/
<受賞者>
氏名:的崎 尚(まとざき たかし)
1957年3月16日生(63歳)※2021年2月18日現在
所属:神戸大学大学院医学研究科生化学・分子生物学講座シグナル統合学分野
役職:教授
履歴:学歴
1975年4月 神戸大学医学部 入学
1981年3月 神戸大学医学部 卒業
1984年4月 神戸大学大学院医学研究科博士課程 入学
1988年3月 神戸大学大学院医学研究科博士課程 修了
職歴
1981年7月 神戸大学医学部附属病院 医員(研修医)
1988年6月 米国ミシガン大学 医学部生理学教室 研究員
1993年2月 神戸大学 助手 医学部附属病院(第二内科学講座)
1998年10月 大阪大学 助手 医学部(分子生理化学講座)
2000年4月 大阪大学 助教授 大学院医学系研究科(生化学・
分子生物学講座)
2000年11月 群馬大学 教授 生体調節研究所(附属生理活性物質センター/
バイオシグナル分野)
2010年4月 神戸大学 教授 大学院医学研究科(生化学・分子生物学講座
シグナル統合学分野)
2016年4月 神戸大学大学院 医学研究科長・医学部長(2019年3月末、
任期満了)
<助成金>
500万円
<テーマ>
自然免疫制御によるがん細胞の生存・維持の分子機構
Molecular basis of cancer cell survival by the regulation of innate immunity
<授賞理由>
癌遺伝子発見から半世紀近くが過ぎ、その研究成果は様々な分子標的薬として結実しています。この間に多数の癌遺伝子のみならず癌遺伝子産物を制御する多くの分子も発見され、研究は癌にとどまらず大きく展開してきました。一例をあげれば、的崎博士の発見されたSHP-2タンパク質は、癌遺伝子RASを介して癌細胞の増殖を制御しますが、ヌーナン症候群という先天疾患の原因でもあることが示されています。この発見はRas-MAPK症候群というより大きな疾患概念の確立にも貢献しました。的崎博士はさらにSHP-2タンパク質に結合するSIRPαタンパク質を発見し、この分子がマクロファージによる細胞の貪食を阻害することも示されました。
この研究は今まさに進行中でありマクロファージによる癌細胞の貪食を促進する新たな癌治療薬へと展開しつつあります。的崎博士が今後も癌の基礎研究と治療法開発に貢献されることを祈念し、第5回「生体の科学賞」を授与します。
<研究目的>
がん細胞の無限ともいうべき増殖と生存・維持は、多様な遺伝子変異によりもたらされる自律的増殖能の獲得によることが明らかにされてきた。しかし、近年では、がん細胞は、それを取り巻く多様な免疫細胞により形成されるいわゆる「がん微小環境」を能動的に制御することによっても、がん細胞の増殖と生存・維持を成し遂げることが明らかにされつつある。特に、がん細胞は細胞傷害性T細胞の機能抑制分子PD-1のリガンドであるPD-L1を高度に発現することで、T細胞による免疫監視と排除を強力に抑制することが明らかにされ、この機構に着目したPD-1/PD-L1系の阻害抗体がいわゆる免疫チェックポイント阻害剤として多様ながんの治療に有効であることが明らかにされている(図1)。
一方、がん細胞がマクロファージ(MΦ)、樹状細胞(DC)やNK細胞などの自然免疫系細胞に対してはいかに振る舞い、がんの免疫監視と排除を回避するのかその分子機構は不明であった。免疫グロブリンスーパーファミリー分子であるSIRPαは、1回膜貫通型のレセプター型分子でありその細胞外領域(N末端Ig-Vドメイン)を介して、リガンドであり5回膜貫通型分子であるCD47と細胞間シグナル系を形成する(図2A)(5頁、論文業績リスト No.11)。SIRPαは、MΦ、DC、好中球など骨髄系細胞に高度に発現するがT/B細胞やNK細胞など他の血球系細胞にはほとんど発現が認められない。一方、CD47は血球細胞のみならずがん細胞を含めユビキタスに発現する。
申請者は、赤血球や血小板などに発現するCD47がMΦ上に発現するSIRPαに結合することにより、SIRPαの細胞内領域に結合する細胞質型チロシンホスファターゼであるShp-1を活性化し、MΦによるこれらの血球貪食を強く抑制することを明らかにしていた(図2A)(論文業績リストNo.13,14など)。申請者は、がん微小環境におけるMΦによるがん細胞の貪食・排除の制御においてもCD47-SIRPα系が重要であると考え検討を行った結果、CD47-SIRPα結合を阻害する抗SIRPα抗体が、MΦによるがん細胞の抗体依存性細胞貪食(ADCP)を高め、リツキシマブ(抗CD20抗体)など抗体医薬による腫瘍排除を増強することを明らかにした(図2B右)(論文業績リストNo.5 など)。
この結果から、がん細胞はCD47を高度に発現しSIRPαに作用することで、MΦの貪食を負に制御し、貪食細胞によるがん細胞の排除を回避する機序が強く示唆された(図1、図2B左)。さらに、ヒトSIRPαを発現するトランスジェニックマウスに移植したヒト腫瘍に対しても、抗ヒトSIRPα抗体がリツキシマブなど抗体医薬の効果を増強することを明らかにし、抗ヒトSIRPα抗体が新規の抗腫瘍剤として臨床的に利用できる可能性を示した(論文業績リスト No.3)。以上の成果に基づき、抗SIRPα抗体を抗腫瘍剤として利用出来るとする特許を出願し(特許 PCT/JP2017/023553)、臨床試験に向け作業を進めている。
さらに最近、申請者は、SIRPαに特異的結合性を示す特殊環状ペプチド(Dアミノ酸を含む10-16程度のアミノ酸からなる大環状構造ペプチド)を作出し、これが CD47-SIRPα結合をアロステリックに阻害して抗体に匹敵する抗腫瘍効果を示すことを明らかにし、次世代型のSIRPα阻害剤として臨床導入へ向けた研究開発を進めている(論文業績リストNo.1)。
以上の申請者の研究成果から、がん細胞による自然免疫系細胞からの免疫監視の回避機序が新たなに明らかとなったと言える。さらに、本研究の成果は、がんの革新的な治療法の開発に貢献することが期待される。一方、CD47-SIRPα系やその関連分子による腫瘍免疫制御のより詳しい分子機構に関して、未だ十分明らかでない点がありその解明が必要である。そこで本研究では、がん細胞が「がん微小環境」におけるMΦやDCなどを中心とした免疫システム全体に対してどのように振る舞い、がん細胞の生存と維持を成し遂げるのかを解明する目的で、CD47-SIRPα系やその関連分子による腫瘍免疫制御の分子機構をより詳細に解明すると共に、その成果を利用した新たながん治療法の開発を目指す。
<生体の科学賞について>
基礎医学医療研究領域における独自性と発展性のあるテーマに対して、現在進行しているもの、計画立案中など、現時点の状況は問わず、研究に要する費用への支援を目的とした助成金です。「生体の科学賞」と賞の称号を冠していますが、過去の業績のみを対象とするものではなく、今後の研究計画も選考評価の大きなポイントとします。また、所属の異なる複数の研究者による研究内容であっても、本助成金申請者が中心的役割を果たしていれば問題ありません。なお、一定程度の期間経過後に報告書の提出を求めますが、助成金の明細、使途、使用期限に関する制限は設けていません。また、優劣をつけがたい優れた応募がある場合でも受賞は1件なので、一度の不採択に懲りず、再応募されることを期待します。
<生体の科学賞選考委員(五十音順・敬称略)>
岡本 仁 理化学研究所脳神経科学総合研究センターチームリーダー
金原 優 株式会社医学書院代表取締役会長
栗原 裕基 東京大学大学院教授
野々村 禎昭 東京大学名誉教授
松田 道行 京都大学大学院教授
<公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団について>
当財団は、株式会社医学書院の創立者、故金原一郎の遺志を継ぎ、基礎医学・医療研究への資金援助と人材育成を目的として1986年12月に設立されました。具体的な活動内容は、基礎医学・医療分野の(1)研究への助成、(2)研究対象の学会・研究会および研究者の海外派遣への助成、(3)外国人留学生への助成、(4)研究成果の出版に対する助成、(5)その他財団の目的を達成する為に必要な事業、などです。
1987年4月より活動を開始、特に主要である助成事業について、対象は国内の研究者にとどまらず、留学生受入助成金もあり、今後の活動に一層の期待が寄せられています。また、これらの事業内容により2012年4月1日に公益財団法人の認定を受けました。
詳細については財団のウェブサイト http://www.kanehara-zaidan.or.jp/ を参照して下さい。
「生体の科学賞」
http://www.kanehara-zaidan.or.jp/
<受賞者>
氏名:的崎 尚(まとざき たかし)
1957年3月16日生(63歳)※2021年2月18日現在
所属:神戸大学大学院医学研究科生化学・分子生物学講座シグナル統合学分野
役職:教授
履歴:学歴
1975年4月 神戸大学医学部 入学
1981年3月 神戸大学医学部 卒業
1984年4月 神戸大学大学院医学研究科博士課程 入学
1988年3月 神戸大学大学院医学研究科博士課程 修了
職歴
1981年7月 神戸大学医学部附属病院 医員(研修医)
1988年6月 米国ミシガン大学 医学部生理学教室 研究員
1993年2月 神戸大学 助手 医学部附属病院(第二内科学講座)
1998年10月 大阪大学 助手 医学部(分子生理化学講座)
2000年4月 大阪大学 助教授 大学院医学系研究科(生化学・
分子生物学講座)
2000年11月 群馬大学 教授 生体調節研究所(附属生理活性物質センター/
バイオシグナル分野)
2010年4月 神戸大学 教授 大学院医学研究科(生化学・分子生物学講座
シグナル統合学分野)
2016年4月 神戸大学大学院 医学研究科長・医学部長(2019年3月末、
任期満了)
<助成金>
500万円
<テーマ>
自然免疫制御によるがん細胞の生存・維持の分子機構
Molecular basis of cancer cell survival by the regulation of innate immunity
<授賞理由>
癌遺伝子発見から半世紀近くが過ぎ、その研究成果は様々な分子標的薬として結実しています。この間に多数の癌遺伝子のみならず癌遺伝子産物を制御する多くの分子も発見され、研究は癌にとどまらず大きく展開してきました。一例をあげれば、的崎博士の発見されたSHP-2タンパク質は、癌遺伝子RASを介して癌細胞の増殖を制御しますが、ヌーナン症候群という先天疾患の原因でもあることが示されています。この発見はRas-MAPK症候群というより大きな疾患概念の確立にも貢献しました。的崎博士はさらにSHP-2タンパク質に結合するSIRPαタンパク質を発見し、この分子がマクロファージによる細胞の貪食を阻害することも示されました。
この研究は今まさに進行中でありマクロファージによる癌細胞の貪食を促進する新たな癌治療薬へと展開しつつあります。的崎博士が今後も癌の基礎研究と治療法開発に貢献されることを祈念し、第5回「生体の科学賞」を授与します。
<研究目的>
がん細胞の無限ともいうべき増殖と生存・維持は、多様な遺伝子変異によりもたらされる自律的増殖能の獲得によることが明らかにされてきた。しかし、近年では、がん細胞は、それを取り巻く多様な免疫細胞により形成されるいわゆる「がん微小環境」を能動的に制御することによっても、がん細胞の増殖と生存・維持を成し遂げることが明らかにされつつある。特に、がん細胞は細胞傷害性T細胞の機能抑制分子PD-1のリガンドであるPD-L1を高度に発現することで、T細胞による免疫監視と排除を強力に抑制することが明らかにされ、この機構に着目したPD-1/PD-L1系の阻害抗体がいわゆる免疫チェックポイント阻害剤として多様ながんの治療に有効であることが明らかにされている(図1)。
一方、がん細胞がマクロファージ(MΦ)、樹状細胞(DC)やNK細胞などの自然免疫系細胞に対してはいかに振る舞い、がんの免疫監視と排除を回避するのかその分子機構は不明であった。免疫グロブリンスーパーファミリー分子であるSIRPαは、1回膜貫通型のレセプター型分子でありその細胞外領域(N末端Ig-Vドメイン)を介して、リガンドであり5回膜貫通型分子であるCD47と細胞間シグナル系を形成する(図2A)(5頁、論文業績リスト No.11)。SIRPαは、MΦ、DC、好中球など骨髄系細胞に高度に発現するがT/B細胞やNK細胞など他の血球系細胞にはほとんど発現が認められない。一方、CD47は血球細胞のみならずがん細胞を含めユビキタスに発現する。
申請者は、赤血球や血小板などに発現するCD47がMΦ上に発現するSIRPαに結合することにより、SIRPαの細胞内領域に結合する細胞質型チロシンホスファターゼであるShp-1を活性化し、MΦによるこれらの血球貪食を強く抑制することを明らかにしていた(図2A)(論文業績リストNo.13,14など)。申請者は、がん微小環境におけるMΦによるがん細胞の貪食・排除の制御においてもCD47-SIRPα系が重要であると考え検討を行った結果、CD47-SIRPα結合を阻害する抗SIRPα抗体が、MΦによるがん細胞の抗体依存性細胞貪食(ADCP)を高め、リツキシマブ(抗CD20抗体)など抗体医薬による腫瘍排除を増強することを明らかにした(図2B右)(論文業績リストNo.5 など)。
この結果から、がん細胞はCD47を高度に発現しSIRPαに作用することで、MΦの貪食を負に制御し、貪食細胞によるがん細胞の排除を回避する機序が強く示唆された(図1、図2B左)。さらに、ヒトSIRPαを発現するトランスジェニックマウスに移植したヒト腫瘍に対しても、抗ヒトSIRPα抗体がリツキシマブなど抗体医薬の効果を増強することを明らかにし、抗ヒトSIRPα抗体が新規の抗腫瘍剤として臨床的に利用できる可能性を示した(論文業績リスト No.3)。以上の成果に基づき、抗SIRPα抗体を抗腫瘍剤として利用出来るとする特許を出願し(特許 PCT/JP2017/023553)、臨床試験に向け作業を進めている。
さらに最近、申請者は、SIRPαに特異的結合性を示す特殊環状ペプチド(Dアミノ酸を含む10-16程度のアミノ酸からなる大環状構造ペプチド)を作出し、これが CD47-SIRPα結合をアロステリックに阻害して抗体に匹敵する抗腫瘍効果を示すことを明らかにし、次世代型のSIRPα阻害剤として臨床導入へ向けた研究開発を進めている(論文業績リストNo.1)。
以上の申請者の研究成果から、がん細胞による自然免疫系細胞からの免疫監視の回避機序が新たなに明らかとなったと言える。さらに、本研究の成果は、がんの革新的な治療法の開発に貢献することが期待される。一方、CD47-SIRPα系やその関連分子による腫瘍免疫制御のより詳しい分子機構に関して、未だ十分明らかでない点がありその解明が必要である。そこで本研究では、がん細胞が「がん微小環境」におけるMΦやDCなどを中心とした免疫システム全体に対してどのように振る舞い、がん細胞の生存と維持を成し遂げるのかを解明する目的で、CD47-SIRPα系やその関連分子による腫瘍免疫制御の分子機構をより詳細に解明すると共に、その成果を利用した新たながん治療法の開発を目指す。
<生体の科学賞について>
基礎医学医療研究領域における独自性と発展性のあるテーマに対して、現在進行しているもの、計画立案中など、現時点の状況は問わず、研究に要する費用への支援を目的とした助成金です。「生体の科学賞」と賞の称号を冠していますが、過去の業績のみを対象とするものではなく、今後の研究計画も選考評価の大きなポイントとします。また、所属の異なる複数の研究者による研究内容であっても、本助成金申請者が中心的役割を果たしていれば問題ありません。なお、一定程度の期間経過後に報告書の提出を求めますが、助成金の明細、使途、使用期限に関する制限は設けていません。また、優劣をつけがたい優れた応募がある場合でも受賞は1件なので、一度の不採択に懲りず、再応募されることを期待します。
<生体の科学賞選考委員(五十音順・敬称略)>
岡本 仁 理化学研究所脳神経科学総合研究センターチームリーダー
金原 優 株式会社医学書院代表取締役会長
栗原 裕基 東京大学大学院教授
野々村 禎昭 東京大学名誉教授
松田 道行 京都大学大学院教授
<公益財団法人金原一郎記念医学医療振興財団について>
当財団は、株式会社医学書院の創立者、故金原一郎の遺志を継ぎ、基礎医学・医療研究への資金援助と人材育成を目的として1986年12月に設立されました。具体的な活動内容は、基礎医学・医療分野の(1)研究への助成、(2)研究対象の学会・研究会および研究者の海外派遣への助成、(3)外国人留学生への助成、(4)研究成果の出版に対する助成、(5)その他財団の目的を達成する為に必要な事業、などです。
1987年4月より活動を開始、特に主要である助成事業について、対象は国内の研究者にとどまらず、留学生受入助成金もあり、今後の活動に一層の期待が寄せられています。また、これらの事業内容により2012年4月1日に公益財団法人の認定を受けました。
詳細については財団のウェブサイト http://www.kanehara-zaidan.or.jp/ を参照して下さい。