首都圏の鉄道路線における車内混雑と財務状況との関連性を分析 路線単位の効率性測定により、鉄道サービスの質向上戦略への貢献に期待
[22/03/30]
提供元:@Press
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芝浦工業大学(東京都港区/学長 山田純)工学部土木工学科の楽 奕平准教授、東京大学大学院工学系研究科の加藤 浩徳教授らの研究グループは、首都圏の鉄道18路線を対象に、車内混雑が各路線の財務状況にどのような影響を及ぼしているかを分析しました。
鉄道運営の効率性研究としては初となる個別路線レベルでの分析手法により、車内混雑率が高いほど費用効率は低下するが、収入効率は高くなることなどが示されました。今回の分析結果は、車内混雑と財務パフォーマンスとのトレードオフを明示的に考慮しつつ、鉄道サービスの質を向上させるための戦略立案への寄与が期待されます。
※この研究成果は、「Transport Policy」誌オンライン版と第116巻に掲載されています。
■ポイント
・首都圏の主要18路線を対象に効率性(運行効率、コスト効率、収益効率)を分析
・鉄道の効率性研究ではこれまで着目されなかった車内混雑率を運行効率の分析に考慮
・混雑状況や財務状況の改善など、鉄道会社のさまざまな戦略検討への寄与に期待
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/303616/LL_img_303616_1.png
図1. 分析対象とした首都圏の鉄道18路線
■研究の背景
首都圏において鉄道は通勤・通学客や観光客等に最も利用されている交通手段ですが、長年にわたり朝のピーク時の車内混雑が問題となっています。車内混雑の緩和は社会的課題であるものの、近年の人口減少に伴う交通需要の伸び悩みもあり、車両増備、駅ホームの拡張などの設備投資が十分に行われていません。そしてほとんどの鉄道路線は、政府が定めたピーク時平均車内混雑率の目標値である150%(国土交通省 2018年)を超える高い車内混雑率に悩まされています。
一方で、一部の鉄道事業者は低い車内混雑率を維持しながら、良好な財務状況を実現するために、業務効率の向上や営業費用の削減、営業収益の強化に努めています。それにもかかわらず、鉄道の運行効率や鉄道事業者の財務パフォーマンスに関する実証研究においては、これまで車内混雑はほとんど考慮されてきませんでした。
Notes:1. Financial performance is defined as the ratio of operating revenue to operating expenses.
2. Operating revenue is defined by line; operating expenses are estimated from the operating expenses by operator based on the ratio of passenger kilometers by line to the total passenger kilometers. (Umehara, 2016).
Data source: MLIT (2017), Institute for Transport Policy Studies (2018)
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/303616/LL_img_303616_2.png
図2. 鉄道18路線の車内混雑率に対する財務実績
■研究概要
本研究は、これまで財務パフォーマンスの評価に広く用いられてきた諸要因に加え、車内混雑の側面も考慮して都市鉄道のパフォーマンスを評価することを目的とし、首都圏の鉄道路線を対象として実証的に分析するものです。ここでは、経営効率性分析で広く用いられている包絡分析法(DEA)を、これまでに例のない個別路線レベルでの分析に適用しました。また、各路線の効率性を評価するために、運行効率、費用効率、収入効率の3つを指標として用いました。
分析の結果、鉄道の運行効率向上には、車両キロ(列車キロ×編成両数)と車両定員の2つの要素が影響することがわかりました。また、人件費・営業費の削減と運輸雑収入の増加が、費用と収入の効率改善に寄与することが示されました。さらに、車内混雑率は費用効率と負の相関がありますが、収入効率、特に雑収入と正の相関を持つことも明らかとなりました。これらは、車内混雑率が高い路線が必ずしも高い財務パフォーマンスを持つとは限らないことを示唆しています。
各路線の効率性を向上させるための施策検討に繋がる本研究は、今後、首都圏の各路線を運営する鉄道会社の事業戦略立案に貢献することが期待されます。また、財務状況や車内混雑状況を加味した鉄道の効率性分析に関する提案手法は、他の鉄道関連都市における都市鉄道の総合評価にも有用だと考えられます。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/303616/LL_img_303616_3.png
図3. 運行効率、収入効率、費用効率それぞれの高低による5つのカテゴリー
このように分類することで、各カテゴリーの効率化に必要な独自の戦略を議論することが可能となる。
■今後の展望
今後はより細かな路線別データを用いることによる分析精度の向上や、地域間鉄道、高速鉄道、地方鉄道など複数の種類の鉄道サービスを提供している会社の実証分析、さらに主要都市間での鉄道運営効率性の国際比較等を検討しています。
■論文情報
著者:芝浦工業大学工学部土木工学科 楽 奕平
芝浦工業大学工学部土木工学科 岡 南波
東京大学大学院工学系研究科 加藤 浩徳
論文名:Efficiencies of the urban railway lines incorporating financial performance and in-vehicle congestion in the Tokyo Metropolitan Area
掲載誌:Transport Policy
DOI:10.1016/j.tranpol.2021.12.017
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
日本屈指の海外学生派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の理工系大学です。東京都とさいたま市に3つのキャンパス(芝浦、豊洲、大宮)、4学部1研究科を有し、約9千人の学生と約300人の専任教員が所属。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。
鉄道運営の効率性研究としては初となる個別路線レベルでの分析手法により、車内混雑率が高いほど費用効率は低下するが、収入効率は高くなることなどが示されました。今回の分析結果は、車内混雑と財務パフォーマンスとのトレードオフを明示的に考慮しつつ、鉄道サービスの質を向上させるための戦略立案への寄与が期待されます。
※この研究成果は、「Transport Policy」誌オンライン版と第116巻に掲載されています。
■ポイント
・首都圏の主要18路線を対象に効率性(運行効率、コスト効率、収益効率)を分析
・鉄道の効率性研究ではこれまで着目されなかった車内混雑率を運行効率の分析に考慮
・混雑状況や財務状況の改善など、鉄道会社のさまざまな戦略検討への寄与に期待
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/303616/LL_img_303616_1.png
図1. 分析対象とした首都圏の鉄道18路線
■研究の背景
首都圏において鉄道は通勤・通学客や観光客等に最も利用されている交通手段ですが、長年にわたり朝のピーク時の車内混雑が問題となっています。車内混雑の緩和は社会的課題であるものの、近年の人口減少に伴う交通需要の伸び悩みもあり、車両増備、駅ホームの拡張などの設備投資が十分に行われていません。そしてほとんどの鉄道路線は、政府が定めたピーク時平均車内混雑率の目標値である150%(国土交通省 2018年)を超える高い車内混雑率に悩まされています。
一方で、一部の鉄道事業者は低い車内混雑率を維持しながら、良好な財務状況を実現するために、業務効率の向上や営業費用の削減、営業収益の強化に努めています。それにもかかわらず、鉄道の運行効率や鉄道事業者の財務パフォーマンスに関する実証研究においては、これまで車内混雑はほとんど考慮されてきませんでした。
Notes:1. Financial performance is defined as the ratio of operating revenue to operating expenses.
2. Operating revenue is defined by line; operating expenses are estimated from the operating expenses by operator based on the ratio of passenger kilometers by line to the total passenger kilometers. (Umehara, 2016).
Data source: MLIT (2017), Institute for Transport Policy Studies (2018)
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/303616/LL_img_303616_2.png
図2. 鉄道18路線の車内混雑率に対する財務実績
■研究概要
本研究は、これまで財務パフォーマンスの評価に広く用いられてきた諸要因に加え、車内混雑の側面も考慮して都市鉄道のパフォーマンスを評価することを目的とし、首都圏の鉄道路線を対象として実証的に分析するものです。ここでは、経営効率性分析で広く用いられている包絡分析法(DEA)を、これまでに例のない個別路線レベルでの分析に適用しました。また、各路線の効率性を評価するために、運行効率、費用効率、収入効率の3つを指標として用いました。
分析の結果、鉄道の運行効率向上には、車両キロ(列車キロ×編成両数)と車両定員の2つの要素が影響することがわかりました。また、人件費・営業費の削減と運輸雑収入の増加が、費用と収入の効率改善に寄与することが示されました。さらに、車内混雑率は費用効率と負の相関がありますが、収入効率、特に雑収入と正の相関を持つことも明らかとなりました。これらは、車内混雑率が高い路線が必ずしも高い財務パフォーマンスを持つとは限らないことを示唆しています。
各路線の効率性を向上させるための施策検討に繋がる本研究は、今後、首都圏の各路線を運営する鉄道会社の事業戦略立案に貢献することが期待されます。また、財務状況や車内混雑状況を加味した鉄道の効率性分析に関する提案手法は、他の鉄道関連都市における都市鉄道の総合評価にも有用だと考えられます。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/303616/LL_img_303616_3.png
図3. 運行効率、収入効率、費用効率それぞれの高低による5つのカテゴリー
このように分類することで、各カテゴリーの効率化に必要な独自の戦略を議論することが可能となる。
■今後の展望
今後はより細かな路線別データを用いることによる分析精度の向上や、地域間鉄道、高速鉄道、地方鉄道など複数の種類の鉄道サービスを提供している会社の実証分析、さらに主要都市間での鉄道運営効率性の国際比較等を検討しています。
■論文情報
著者:芝浦工業大学工学部土木工学科 楽 奕平
芝浦工業大学工学部土木工学科 岡 南波
東京大学大学院工学系研究科 加藤 浩徳
論文名:Efficiencies of the urban railway lines incorporating financial performance and in-vehicle congestion in the Tokyo Metropolitan Area
掲載誌:Transport Policy
DOI:10.1016/j.tranpol.2021.12.017
■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
日本屈指の海外学生派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の理工系大学です。東京都とさいたま市に3つのキャンパス(芝浦、豊洲、大宮)、4学部1研究科を有し、約9千人の学生と約300人の専任教員が所属。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。