―ビジネスとICTに関する調査― レガシー問題乗り越え、ビジネスイノベーションへ ICT投資は維持・運営から事業拡大へシフト
[13/05/13]
提供元:@Press
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株式会社日経BPコンサルティング(東京都港区)は、企業におけるビジネスイノベーションとICTシステムの状況を把握するため、情報システム部門と経営系部門の勤務者を対象とした調査を3月に実施した(調査概要は下部参照)。
調査からは、ICTを利用してビジネスイノベーションに今後より一層取り組みたいという意識が浮かび上がった。また、既存システムの維持・運営ではなく事業拡大のためのICTにより積極的に投資したい考えだ。ただそのためには、既存システムの負担、いわばレガシー問題が妨げになっている面がある。ICTシステムの保守の問題は大半の企業に存在しており、多くはこうした問題にも取り組みたいと考えている。以下では、調査結果の主要なポイントを紹介したい。
図表資料: http://www.atpress.ne.jp/releases/35473/b_5.pdf
調査概要: http://www.atpress.ne.jp/releases/35473/x_1.png
●2012年度のICT投資はシステムの維持・運営が6割超
まず、ICT投資の内訳をまとめたのが図1である。2012年度のICT投資を、「既存システムの維持・運営に対する投資」と、「既存ビジネスの拡大に関わるICT投資」や「新たなビジネスに関わるICT投資」という事業拡大の側面に大別したところ、既存システムの維持・運営への投資比率が回答者の平均で63.0%に上った。多くの企業にとって、ICT投資の過半が情報システムの維持・運営のために未だ費やされている。
しかし、こうした現状が肯定されているわけではない。今後のICT投資は、既存システムの維持・運営からビジネス拡大/新規ビジネス関連へとシフトさせたい意向だ。既存システムの維持・運営への今後の投資額比率は、減少が3分の1と増加を上回った(図2)。反対に、ビジネス拡大と新規ビジネス関連の投資比率は4割程度が増加意向である。
●ICTを活用して広範囲にイノベーション、新規事業やマーケティング分野の伸びが大
ICTを活用して事業を強化することは、ビジネスイノベーションに対するICTの利活用状況の結果からも浮き彫りになった。ICTを利活用したイノベーションへの取り組みを、「これまで」と「今後」を並べる形で図3にまとめた。一見して分かるように、多くの領域で、ICTを今後より一層活用してビジネスイノベーションを推進したいと考えている。中でも「新たなマーケティングや顧客へのアプローチ手法の開拓」や「新規ビジネス創出や新製品/サービスの開発」といった領域の伸びが大きい。
では、ICTはイノベーションにどのように貢献するのか。ビジネスイノベーションに必要なICTの側面を尋ねたところ、「どこにいても必要なシステムにアクセスできる環境」と「業務状況を直観的に可視化できる環境」が多かった(図4)。前者は、情報システム部門の回答者により多く、後者は経営系部門の回答者で最多だった。どこでもアクセスや可視化に加えて、「様々な情報(データ)を基にリアルタイムに適切な判断を促す機能」「業務状況に合わせて、システムの動作を容易に変更できる業務ロジックの設定・管理機能」も3割台と支持を集めた。
●イノベーションに積極的な企業ほどICTの利用意向が高い
ICT技術自体の今後の利用意向を尋ねたのが図5である。全体としてみると、「クラウド・コンピューティング」「スマートデバイス」「ビッグデータ」「ソーシャルメディア」の利用意向が高い。図にはないが、いずれのICT技術も従来以上に使いたいという意識だ。特にビッグデータはこれまで(9.1%)に比べた今後(37.8%)の伸びが大きい。
図5には回答者全体のほか、「ビジネスイノベーションへの取り組み意向が高い層」の結果も記載した。勤務先でビジネスイノベーションに取り組むべき領域が数多く(4個以上)あると答えた回答者である。こうした回答者は、いずれのICT技術に対しても利用したい意向が全体結果より強く、ビジネスイノベーションとICTの関係性をうかがわせる結果だった。
●人材不足と既存システムの負担が妨げに
ICTを使ってイノベーションを進める上では課題もある。人材不足と既存システムの負担が上位に挙がった。「ICTによるビジネスのイノベーションについて考えられる人材が、社内に少ない/いない」は44.8%が挙げた(図6)。「既存システムの運用・管理の負担やコストが大きく、ビジネスのイノベーションに取り組めない」も約4割に上った。既存システムの負担は、情報システム部門の回答者がより多く問題視している(42.9%)。
●8割超が既存システムのアプリケーション保守に課題意識
既存システムに対する負担感は、システムの保守・運用上の課題として具体的に意識されている。業務アプリケーションの保守に関して大半の回答者が課題を感じており、「課題システムが多数ある」と「少しある」を合わせて8割を超えた(図7)。
しかもアプリケーション保守上の課題システムは、サーバーの種類によらず存在する。メインフレームからPCサーバーに至るまで、いずれも7〜8割前後に上った(図8)。課題があるという回答者の合計比率はPCサーバーが8割超と最も高く、「課題が多数ある」はPCサーバーとメインフレームが全体の約4分の1とオフコンやUNIXより多かった。
●保守の最大課題はドキュメント問題、経営は見える化を重視
ICTの保守作業を進める上では様々な課題が存在する。中でも多いのが、「現行システム仕様がドキュメント化されていない、最新化されていない」というドキュメント問題である(46.5%、図9)。
情報システム部門では「ハードベンダーやソフトベンダーの製品提供や保守サイクルの都合で、システム変更が必要になる」も44.3%と多い。ベンダー都合に振り回されるのは情報システムの現場である。一方、経営系部門の回答者では「ICT資産の現状が見える化できていない(ICT資産の棚卸し)」が36.5%と、課題の中で2番目に多かった。経営層にとっては、ICT資産をどうとらえればよいかが重要との認識だ。
●課題システムの6〜7割は更新意向あり
アプリケーション保守上の課題システムに対して、ユーザー企業の多くは更新することを考えている。サーバー環境によらず、更新計画あるいは意向を持つ回答者が6〜7割程度に上った(図10)。
更新作業を進める上では、膨大なシステム資産が妨げと感じている回答者が多い。課題システムの保有者ベースで、「更新すべきシステム資産が膨大すぎて更新作業が難しい」が36.5%に上った(図11)。
●更新の最大目的はコスト削減、ビジネス関連も3割に
課題システムを更新するに当たっての目的を尋ねた結果が図12である。最も多いのは「ICTのトータルコストの削減のため」で39.3%だった。ICTのコストを減らすことは、多くの企業の共通の関心事である。
ただし、ICTの単なるコスト削減だけでなく、新規ビジネスへのICT投資など、ビジネス関連を目的とする回答も3割台に上った。「既存システムの保守・運用にかかる負荷や費用を減らして、新たなビジネスのICT投資に使うため」が31.2%、「ビジネス環境の変化への対応のため」が30.0%である。ビジネスの拡大や新たな展開にとって、既存システム問題が足かせになっていることを示す結果の一つと言えるだろう。
(松井 一郎=日経BPコンサルティング チーフコンサルタント)
調査からは、ICTを利用してビジネスイノベーションに今後より一層取り組みたいという意識が浮かび上がった。また、既存システムの維持・運営ではなく事業拡大のためのICTにより積極的に投資したい考えだ。ただそのためには、既存システムの負担、いわばレガシー問題が妨げになっている面がある。ICTシステムの保守の問題は大半の企業に存在しており、多くはこうした問題にも取り組みたいと考えている。以下では、調査結果の主要なポイントを紹介したい。
図表資料: http://www.atpress.ne.jp/releases/35473/b_5.pdf
調査概要: http://www.atpress.ne.jp/releases/35473/x_1.png
●2012年度のICT投資はシステムの維持・運営が6割超
まず、ICT投資の内訳をまとめたのが図1である。2012年度のICT投資を、「既存システムの維持・運営に対する投資」と、「既存ビジネスの拡大に関わるICT投資」や「新たなビジネスに関わるICT投資」という事業拡大の側面に大別したところ、既存システムの維持・運営への投資比率が回答者の平均で63.0%に上った。多くの企業にとって、ICT投資の過半が情報システムの維持・運営のために未だ費やされている。
しかし、こうした現状が肯定されているわけではない。今後のICT投資は、既存システムの維持・運営からビジネス拡大/新規ビジネス関連へとシフトさせたい意向だ。既存システムの維持・運営への今後の投資額比率は、減少が3分の1と増加を上回った(図2)。反対に、ビジネス拡大と新規ビジネス関連の投資比率は4割程度が増加意向である。
●ICTを活用して広範囲にイノベーション、新規事業やマーケティング分野の伸びが大
ICTを活用して事業を強化することは、ビジネスイノベーションに対するICTの利活用状況の結果からも浮き彫りになった。ICTを利活用したイノベーションへの取り組みを、「これまで」と「今後」を並べる形で図3にまとめた。一見して分かるように、多くの領域で、ICTを今後より一層活用してビジネスイノベーションを推進したいと考えている。中でも「新たなマーケティングや顧客へのアプローチ手法の開拓」や「新規ビジネス創出や新製品/サービスの開発」といった領域の伸びが大きい。
では、ICTはイノベーションにどのように貢献するのか。ビジネスイノベーションに必要なICTの側面を尋ねたところ、「どこにいても必要なシステムにアクセスできる環境」と「業務状況を直観的に可視化できる環境」が多かった(図4)。前者は、情報システム部門の回答者により多く、後者は経営系部門の回答者で最多だった。どこでもアクセスや可視化に加えて、「様々な情報(データ)を基にリアルタイムに適切な判断を促す機能」「業務状況に合わせて、システムの動作を容易に変更できる業務ロジックの設定・管理機能」も3割台と支持を集めた。
●イノベーションに積極的な企業ほどICTの利用意向が高い
ICT技術自体の今後の利用意向を尋ねたのが図5である。全体としてみると、「クラウド・コンピューティング」「スマートデバイス」「ビッグデータ」「ソーシャルメディア」の利用意向が高い。図にはないが、いずれのICT技術も従来以上に使いたいという意識だ。特にビッグデータはこれまで(9.1%)に比べた今後(37.8%)の伸びが大きい。
図5には回答者全体のほか、「ビジネスイノベーションへの取り組み意向が高い層」の結果も記載した。勤務先でビジネスイノベーションに取り組むべき領域が数多く(4個以上)あると答えた回答者である。こうした回答者は、いずれのICT技術に対しても利用したい意向が全体結果より強く、ビジネスイノベーションとICTの関係性をうかがわせる結果だった。
●人材不足と既存システムの負担が妨げに
ICTを使ってイノベーションを進める上では課題もある。人材不足と既存システムの負担が上位に挙がった。「ICTによるビジネスのイノベーションについて考えられる人材が、社内に少ない/いない」は44.8%が挙げた(図6)。「既存システムの運用・管理の負担やコストが大きく、ビジネスのイノベーションに取り組めない」も約4割に上った。既存システムの負担は、情報システム部門の回答者がより多く問題視している(42.9%)。
●8割超が既存システムのアプリケーション保守に課題意識
既存システムに対する負担感は、システムの保守・運用上の課題として具体的に意識されている。業務アプリケーションの保守に関して大半の回答者が課題を感じており、「課題システムが多数ある」と「少しある」を合わせて8割を超えた(図7)。
しかもアプリケーション保守上の課題システムは、サーバーの種類によらず存在する。メインフレームからPCサーバーに至るまで、いずれも7〜8割前後に上った(図8)。課題があるという回答者の合計比率はPCサーバーが8割超と最も高く、「課題が多数ある」はPCサーバーとメインフレームが全体の約4分の1とオフコンやUNIXより多かった。
●保守の最大課題はドキュメント問題、経営は見える化を重視
ICTの保守作業を進める上では様々な課題が存在する。中でも多いのが、「現行システム仕様がドキュメント化されていない、最新化されていない」というドキュメント問題である(46.5%、図9)。
情報システム部門では「ハードベンダーやソフトベンダーの製品提供や保守サイクルの都合で、システム変更が必要になる」も44.3%と多い。ベンダー都合に振り回されるのは情報システムの現場である。一方、経営系部門の回答者では「ICT資産の現状が見える化できていない(ICT資産の棚卸し)」が36.5%と、課題の中で2番目に多かった。経営層にとっては、ICT資産をどうとらえればよいかが重要との認識だ。
●課題システムの6〜7割は更新意向あり
アプリケーション保守上の課題システムに対して、ユーザー企業の多くは更新することを考えている。サーバー環境によらず、更新計画あるいは意向を持つ回答者が6〜7割程度に上った(図10)。
更新作業を進める上では、膨大なシステム資産が妨げと感じている回答者が多い。課題システムの保有者ベースで、「更新すべきシステム資産が膨大すぎて更新作業が難しい」が36.5%に上った(図11)。
●更新の最大目的はコスト削減、ビジネス関連も3割に
課題システムを更新するに当たっての目的を尋ねた結果が図12である。最も多いのは「ICTのトータルコストの削減のため」で39.3%だった。ICTのコストを減らすことは、多くの企業の共通の関心事である。
ただし、ICTの単なるコスト削減だけでなく、新規ビジネスへのICT投資など、ビジネス関連を目的とする回答も3割台に上った。「既存システムの保守・運用にかかる負荷や費用を減らして、新たなビジネスのICT投資に使うため」が31.2%、「ビジネス環境の変化への対応のため」が30.0%である。ビジネスの拡大や新たな展開にとって、既存システム問題が足かせになっていることを示す結果の一つと言えるだろう。
(松井 一郎=日経BPコンサルティング チーフコンサルタント)