「とらえづらい心理悪化」と「高水準の買い持ち高」
[21/07/16]
提供元:株式会社フィスコ
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後場の投資戦略
[日経平均株価・TOPIX(表)]
日経平均;27974.72;-304.37TOPIX;1934.53;-5.08
[後場の投資戦略]
日経平均は連日で3ケタの下落となり、28000円水準での攻防といった様相だ。前日のNYダウは上昇したが、ハネウェルやユナイテッドヘルスの押し上げ寄与が大きく、全体としては「弱さを感じる」投資家が多かったという。それに半導体関連株が連日軟調となり、日本株にとってもNYダウ上昇の恩恵は限定的だ。また、東京都の新型コロナ新規感染者数が連日で1000人を超えたのに歩調を合わせるかのように、ここ2日ほどクレディ・スイス証券が日経平均先物を売り越している。商品投資顧問(CTA)など海外短期筋による売りだろう。東京五輪開幕を前に新型コロナ感染状況には神経質にならざるを得ないところか。ただ、短期の値幅取りを狙った個人投資家の中小型株への物色意欲は根強いようで、東証1部全体としては値上がり銘柄の方が多い。
ここまでの東証1部売買代金は1兆円あまり。相変わらず値動きの割に膨らんでおらず、取引参加者は広がりに欠くと考えざるを得ない。
さて、前日の当欄ではマヨネーズ値上げへのぼやきなどを記述したが、もちろんこれらは単に筆者の身の上を語りたかったわけではない。本日は補足を加えつつ、より重要な投資論点についても挙げておきたい。
消費者マインドのような数値化しづらい「心理」というものをとらえるのは極めて難しい。具体例を挙げれば、コロナ禍直前、2019年10-12月期の日本の国内総生産(GDP)は、「消費増税による反動減は限定的」という大方の予想に反し、前期比年率-7.4%(物価変動を除く実質ベース)まで落ち込んだ。「増税分は社会保障の財源に充てられる(=将来不安の後退)から消費行動には中立的」との識者の見立ては、確かに経済学のセオリーどおりではある。結果的にそうならなかったのは、一部で指摘されたような「消費者が合理的でなかった」ためでなく、「財政の信認」の問題だろう。
余談だが、経済分析についてはする側される側の所得水準や経済圏の隔たりが大きくなってしまったことも、市中心理をとらえづらくなった背景にあるのかもしれない。
そして今回、経済減速の足音を意識する機関投資家が増えつつあるのは、前日取り上げたバンク・オブ・アメリカ(BofA)の7月のグローバルファンドマネジャー調査からわかるとおりだ。しかし、この調査結果の続きも極めて重要である。大方のファンドマネジャーは心理的に経済の減速を意識しつつも、株式や商品の大規模な買い持ち
(ロング)を維持しているという。明確な景気悪化のシグナルやショックらしいショックがないためだろう。
こうしたファンドマネジャーの投資行動は理論的にも説明可能だ。資金提供者とファンドマネジャーを「プリンシパル・エージェント関係」ととらえれば、ファンドマネジャーの行動を決定づけるのは報酬・懲罰体系である。ファンドマネジャーは「一定期間でベンチマークを上回るパフォーマンスをあげる」ことが求められ、かなわなければ解約・資金引き揚げの憂き目にあう。そこから導かれるファンドマネジャーの最適行動は「相場にぎりぎりまで乗り続け、市況悪化となれば一気に降りる」である。昨年前半、踏み上げ相場で痛手を受けたファンドマネジャーが多いだけに、こうした傾向はより強まっているだろう。
ただ、これはなにも海外市場や機関投資家だけの話というわけではない。東京証券取引所が13日発表した9日申し込み時点の信用取引の買い残高(東京・名古屋2市場、制度・一般信用合計)は3兆6041億円と、2018年3月以来およそ3年4カ月ぶりの高水準だという。また、日経レバETF<1570>の純資産総額は短期的な市況変動で増減しつつも、足元3000億円以上の水準を維持している。なお、13日には4183億円とコロナショック直後の2020年4月9日以来の大きさとなった。個人投資家らの買い持ち高も膨らんだままであることがわかる。
とらえづらくじりじり悪化する心理と裏腹に、なお高水準の買い持ち高。これを踏まえ、アップサイドへの期待とダウンサイドリスク、どちらが大きいか冷静に見極める必要がある。
(小林大純)
<AK>
日経平均;27974.72;-304.37TOPIX;1934.53;-5.08
[後場の投資戦略]
日経平均は連日で3ケタの下落となり、28000円水準での攻防といった様相だ。前日のNYダウは上昇したが、ハネウェルやユナイテッドヘルスの押し上げ寄与が大きく、全体としては「弱さを感じる」投資家が多かったという。それに半導体関連株が連日軟調となり、日本株にとってもNYダウ上昇の恩恵は限定的だ。また、東京都の新型コロナ新規感染者数が連日で1000人を超えたのに歩調を合わせるかのように、ここ2日ほどクレディ・スイス証券が日経平均先物を売り越している。商品投資顧問(CTA)など海外短期筋による売りだろう。東京五輪開幕を前に新型コロナ感染状況には神経質にならざるを得ないところか。ただ、短期の値幅取りを狙った個人投資家の中小型株への物色意欲は根強いようで、東証1部全体としては値上がり銘柄の方が多い。
ここまでの東証1部売買代金は1兆円あまり。相変わらず値動きの割に膨らんでおらず、取引参加者は広がりに欠くと考えざるを得ない。
さて、前日の当欄ではマヨネーズ値上げへのぼやきなどを記述したが、もちろんこれらは単に筆者の身の上を語りたかったわけではない。本日は補足を加えつつ、より重要な投資論点についても挙げておきたい。
消費者マインドのような数値化しづらい「心理」というものをとらえるのは極めて難しい。具体例を挙げれば、コロナ禍直前、2019年10-12月期の日本の国内総生産(GDP)は、「消費増税による反動減は限定的」という大方の予想に反し、前期比年率-7.4%(物価変動を除く実質ベース)まで落ち込んだ。「増税分は社会保障の財源に充てられる(=将来不安の後退)から消費行動には中立的」との識者の見立ては、確かに経済学のセオリーどおりではある。結果的にそうならなかったのは、一部で指摘されたような「消費者が合理的でなかった」ためでなく、「財政の信認」の問題だろう。
余談だが、経済分析についてはする側される側の所得水準や経済圏の隔たりが大きくなってしまったことも、市中心理をとらえづらくなった背景にあるのかもしれない。
そして今回、経済減速の足音を意識する機関投資家が増えつつあるのは、前日取り上げたバンク・オブ・アメリカ(BofA)の7月のグローバルファンドマネジャー調査からわかるとおりだ。しかし、この調査結果の続きも極めて重要である。大方のファンドマネジャーは心理的に経済の減速を意識しつつも、株式や商品の大規模な買い持ち
(ロング)を維持しているという。明確な景気悪化のシグナルやショックらしいショックがないためだろう。
こうしたファンドマネジャーの投資行動は理論的にも説明可能だ。資金提供者とファンドマネジャーを「プリンシパル・エージェント関係」ととらえれば、ファンドマネジャーの行動を決定づけるのは報酬・懲罰体系である。ファンドマネジャーは「一定期間でベンチマークを上回るパフォーマンスをあげる」ことが求められ、かなわなければ解約・資金引き揚げの憂き目にあう。そこから導かれるファンドマネジャーの最適行動は「相場にぎりぎりまで乗り続け、市況悪化となれば一気に降りる」である。昨年前半、踏み上げ相場で痛手を受けたファンドマネジャーが多いだけに、こうした傾向はより強まっているだろう。
ただ、これはなにも海外市場や機関投資家だけの話というわけではない。東京証券取引所が13日発表した9日申し込み時点の信用取引の買い残高(東京・名古屋2市場、制度・一般信用合計)は3兆6041億円と、2018年3月以来およそ3年4カ月ぶりの高水準だという。また、日経レバETF<1570>の純資産総額は短期的な市況変動で増減しつつも、足元3000億円以上の水準を維持している。なお、13日には4183億円とコロナショック直後の2020年4月9日以来の大きさとなった。個人投資家らの買い持ち高も膨らんだままであることがわかる。
とらえづらくじりじり悪化する心理と裏腹に、なお高水準の買い持ち高。これを踏まえ、アップサイドへの期待とダウンサイドリスク、どちらが大きいか冷静に見極める必要がある。
(小林大純)
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