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ロシアは最も悪辣なアクター、米下院共和党調査委員会の国家安全保障戦略報告書(その2:ロシア)

Miniトピック
米下院共和党調査委員会は、国家安全保障戦略報告書の中で 「中国とロシアは米国の力、影響力、利益に挑戦し、米国の安全保障と繁栄を侵食しようとしている。彼らは経済分野で不公正な動きを見せ、軍事力を増強し、情報とデータをコントロールして社会を抑圧し、自らの影響力を拡大しようとしている。中国とロシアは最終的に米国の価値観と利益に相反した世界秩序の形成を試みている」と中国とロシアを評価している。ここでは、調査委員会や議会によるロシアへの対応についてみてみよう。

・調査委員会は、ジム・マティス前国防長官の警告として、「ロシアは、米国にとって主要な脅威である。決して過小評価されるべきではない」という言葉を引用し、また、ジム・ダンフォード前統合参謀本部議長の「ロシアは米国を脅かす最も軍事的に有能な国であり、総合的な能力の観点からすると、米国が直面する最も悪辣なアクターである」との表現を掲載した。そして、調査委員会は、「ロシアはグルジア、ウクライナという近隣諸国を侵略・併合し、米国を含む多くの民主主義国の選挙を妨害し、暗殺目的で軍事用化学兵器を使用し、シリアではイランの革命防衛隊やヒズボラと軍事的に連携し、アフガニスタンではタリバンを支援している。この10年でロシアは、世界中の様々な場所での不安定化を誘発させている。さらに、中国とロシアは、他国の経済、外交、安全保障上の体制に対する権威主義的な自己の都合にあう世界秩序を形成しようと目論んでいる」と分析している。

・調査委員会は、「プーチンは、民主主義と米国主導の国際秩序を破壊する目的のために、北大西洋条約機構(NATO)を分断し、弱体化を画策してきた。プーチン政権は、クレムリンの外交政策課題を追求するための偽情報キャンペーン、サイバー攻撃、政治的影響力の拡大、不正な資金の流れになどより、欧州で絶大な成功を収めた。その結果、欧州外交問題評議会において、親ロシア、反米の政党が大幅に増加している。そして、その多くがクレムリンとの直接的なつながりを持っている」と主張。この誘因は、オバマ大統領の宥和キャンペーンで成果が上げられず、代わりにプーチンを煽ってしまったことだと断定。2014年にロシアの中距離核戦力(INF)条約の「重大な違反」を認定したにもかかわらず、対処せず、同年クリミアの不法侵攻・併合も放置した格好となった。プーチンの攻撃がエスカレートしているにも関わらず、ロシアを
「地域の大国」と見なし、罰則を科すのではなく、パートナーとして賛美し続けてしまったとオバマ大統領のロシアへの態度を酷評している。

・トランプ大統領は、クリミアの違法な併合、多数の人権侵害、米国選挙への干渉などを理由にロシアへ前例のない制裁を課している。2019年8月には、ロシアの度重なる違反のため、INF条約からの脱退を決定した。これに呼応して議会では、ロシアの悪質な影響力拡大に対抗するため、「(1)ロシアに対する制裁措置の中で最も厳しいパッケージを制定すること、(2)ロシアの侵略に直面しているNATO、その他の同盟国やパートナーに対する米国の支援を強化すること、(3)ロシアの人々と直接コミュニケーションをとり、ロシア国内の民主化運動を支援する」と決議した。

・調査委員会は、「ロシアはウクライナ東部を不法占拠・併合して以来、世界中で悪質な取り組みを行っていた。ロシアは軍用機をリビアに配備し、イスラム革命防衛隊、ヒズボラ、タリバンへの支援を継続していることから、ロシアに対する『テロ支援国家』の指定」を勧告している。

・議会は、「ロシアのプロパガンダチーフや偽情報キャンペーンの指導者、その支援者まで制裁の範囲を広げるべきである」と提唱している。そして、英国のデイビッド・キャメロン元首相とともに「ロシアが国際的な世界銀行間金融通信協会(SWIFT)
コードシステムから追放されるべきだ」と勧告している。これによりロシアのビジネスを世界の金融システムから事実上遮断するというのである。

・調査委員会は、「NATOは、29の加盟国と10億人の人々を包含し、世界のGDPのほぼ半分を生産している。70年に及ぶ経験と成功、そして強固な関係性を保ってきている。
そして自由世界の未来をこれまで以上に輝かせることができるよう、大小さまざまな脅威から生活様式を守ってきている。ところが、ロシアは東欧・中欧のNATO加盟国にとって現実的かつ潜在的な脅威であり、集団防衛体制の維持が重要である」と警鐘を鳴らす。そして、国務長官と国防長官が、NATOサミットでロシアに対する抑止を明確に最上位の議題として主張することを義務付ける法案の可決を提言している。また、議会に対しては、ロシア国民に直接情報を伝える「民主化の浸透戦略」の遂行を推奨している。

なお、本原稿は、「米下院共和党調査委員会の国家安全保障戦略報告書(その1:中国)」の続きとなる。


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