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【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(1):◆TPPはまだ息をしている◆

注目トピックス 経済総合


〇トランプ現実路線を測る〇

安倍−トランプ会談の失敗論が出ている。安倍首相の会談後の硬い表情とオバマ大統領に対し非礼だとし対ロ交渉への悪影響を懸念するなどの見方から、作家の佐藤優氏や一部のメディアなどが主張している。外務省は異例中の異例の訪米を止めるべきだったとしている。果たして、そうだろうか。この時期(APEC直前)にNY入りすることは、あらかじめ安倍首相の予定に入っていたのではなかろうか。「TPP反対」のクリントン氏を説得するためだ。トランプ会談を短時間容認したオバマ政権の元々の要請だったと見ると辻褄が合う。予想外に、より反対姿勢の強いトランプ氏に代わって、慌てた面は否めないが、世界を驚かせる会談実現に漕ぎつけたと思われる。ただ、TPPについての前向きの反応を得られず、硬い表情に表れた公算がある。

オバマ政権最後の2ヵ月で、TPP議会承認作戦を日米共同で行っている可能性をフロマン米通商代表の発言から印象付けられた。18日ペルーで開催されたTPP参加12カ国閣僚会議で、「オバマ政権下での承認を諦めていないこと、トランプ次期大統領や政権移行チームとも承認に向けた協議を重ねる方針を説明」(NHK)した。フロマン氏はメディアの取材に対し、「TPPが発効しないと米国が参加していない別の経済連携協定(RCEP=東アジア地域包括経済連携)の交渉が進展する可能性が指摘されているとして政権移行チームなどに働き掛けている」とした。「RCEP脅威論」は安倍首相が国会答弁で述べている。最後の巻き返しに、それほど実のある成果が得られるとも思えない「RCEP」の脅威論を強調する姿勢が共通する。

12か国は「国内承認手続き加速」で合意したが、ベトナムなどは既に見送り姿勢となっている(NZ議会は可決)。地球温暖化対策の「パリ協定」と同等か、それ以上に発効は困難との見方は変わっていない。仮に米国議会での承認に失敗したとしても、異例の安倍−トランプ会談はTPPの重要性を世界に知らしめ、保護貿易に走らないよう釘を刺すことになると考えられる。同時に、「米中に物申せる日本」はアジア各国の信認を高めることになると考えられる。日本企業の海外ビジネス(とりわけ対東南アジア)に追い風となろう。この期待感があってこそ、株式相場に円安効果が機能することになる。

カギはトランプ新政権の人事。週末の調整でも国務長官、財務長官は決まらなかったようだが、存在感を高めているのは長女婿のジャレッド・クシュナー氏(家族は閣僚にはなれないが)。トランプ氏同様、不動産経営の二代目だが(NY中心部のユニクロが入居する666ビルなどを所有)、父親はAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会)の会長でNYユダヤ人社会の重鎮。この線で、トランプ−キッシンジャー会談が行われ(5月と当選後の2回)、共和党挙党態勢が演出されてきている。クシュナー氏の「助言」で、トランプ氏の今までにない「勝利演説」が行われ、市場反応が劇的に変化したことの背景と考えられる。

93歳のキッシンジャー氏は言わずもがなデヴィット・ロックフェラー氏の大番頭。ロックフェラー氏の引退で混迷した米国政治が、皮肉にも御年101歳のロックフェラー氏の威光で立て直されている感がある。キッシンジャー氏は自由貿易主義と同時に親中派(ただし、単純な中国迎合派ではない)で知られる。TPPは自由貿易主義と中国包囲網の二側面を持つ。当面、中国への市場開放圧力として存在感が残ることが想定される。


以上


出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(16/11/21号)




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