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【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(4):◆賃金上昇の障害◆

注目トピックス 経済総合

〇内需弱く、構造変化の圧迫〇

21日、全国信用金庫大会での挨拶が話題だ。黒田日銀総裁は「実体経済改善の割に、物価の勢いが欠けている状況が続いている」と嘆き、麻生財務相が「日銀が大規模な資金供給を行ってもマネーサプライが増えない状況が何年も続いている。企業がカネを借りないからであって、日銀を責めても仕方がない」。

ロイターの日銀4月金融政策会合の解説記事によると、「景気が好調にもかかわらず物価の足取りが鈍い理由として、賃金上昇圧力が価格上乗せへと波及するルートが細くなっている」とし、企業の営業時間やサービスカット、省力化投資推進などが背景とした。デフレマインドが強く残っている点も指摘。21日発表のロイター企業調査によると、今後3年間の課題は「内需縮小」と回答した企業が製造業で44%、非製造業で36%、全体の4割に達した。「人手不足」は製造業25%、非製造業45%、全体の3割で、絡み合うこの二つが経営者の頭を悩ませている。

かつての景気循環との比較で、賃金上昇の鈍さは世界的で、反移民・難民の動きに表れているが、国連の国際農業開発基金(IFAD)は、海外で就労する外国人による母国への送金額は16年、世界で4450億ドル以上相当に達したと発表した。過去10年で51%増、今年は新たに50億ドルの増加を見込む。海外で働くのは約2億人、母国の家族8億人の生活を支えているとしている。最大の受け取り国はインドで約630億ドル、次いで中国610億ドル。海外で働くインド人は約3000万人、送金額のGDP比は約3%。GDP比が高いのはネパール32%、リベリア31%、タジキスタン29%の順。日本でも留学生など抜きでは、建設、農林水産、コンビニなどは成り立たないと言われるので、「労働移動」が賃金抑制的な一因と考えられる。

その他、構造的に衰退する小売業、アパレル産業などの問題がある。大手アパレル4社の合計売上高は毎年1割ずつ減少、15〜16年度に閉鎖された店舗数は合計1600店以上とされる。消費環境の厳しさを示す事例。「街の本屋が消える」現象では、アマゾンが槍玉に挙げられるケースが多いが、消費者の紙離れの方が影響は大きいと見られる。AI研究者352人による「ロボットが人間のタスクを代わりにできるのは何時になるか」の予測では、2051年までに主要タスク、2136年までに人間の仕事全てをできるようになる、としている。大型トラックを人間が運転する光景は2027年には消えているかも知れない、高校レベルの作文は2026年、外科手術は2053年など。

AIとまでは行かなくとも、金融の世界では急速に自動化が進んでおり、高給取りの金融マンは姿を消しつつある。トレダーを大幅削減した米GSは、IPOやM&A、債券発行など150以上の作業も自動化に向かっているとされる。

単に、団塊の世代の労働人口からの引退などの構成変化だけではない波が輻輳して賃金上昇圧力を弱めていると考えられる。産業構造の変化と表裏一体のものと考えられ、投資選別でのポイントとなろう。



以上


出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/6/22号)



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