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朝鮮半島有事の投資法(4) 朝鮮半島統一など世界融和シナリオ【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】

注目トピックス 経済総合
朝鮮半島有事における今後の展開として、どのようなシナリオが起こり得るのだろうか。

不確実性が増す昨今、未来のシナリオを予測するにあたり構造変化などの根本的な変化の可能性といった極端な要因も踏まえてストーリーを描くというアプロ?チは、危機対応能力を高める上で非常に重要となる(※1)。

この観点に基づき、極端な要因も省略することなく「戦争勃発シナリオ」「北朝鮮自滅シナリオ」「緊張状態継続シナリオ」「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」という4つのシナリオを想定し、それぞれが世界経済、ひいては日本経済に与え得る影響について分析を試みてみたい。

本稿では最後の1つにあたる「朝鮮半島統一など世界融和シナリオ」をご紹介する(※2)。

※1 シナリオ分析に関する考え方は、別途「シナリオプランニング、戦略的思考と意思決定【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」を参照
※2 これまでの3つのシナリオについては、別途「朝鮮半島有事の投資法(1)戦争勃発シナリオ【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」〜「朝鮮半島有事の投資法(3)緊張状態継続シナリオ【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】」を参照

■韓国の文大統領の対北朝鮮融和解決策の動向は
朴槿恵前大統領の弾劾・罷免を受けて5月に韓国で大統領選挙が行われ、文在寅大統領による9年ぶりとなる革新政権が誕生した。文氏は大統領就任後の演説でも北朝鮮核問題の平和的解決に向けて国際社会で主導的な役割を果たすと述べ、先月6日にはベルリンで「新朝鮮半島平和ビジョン」として南北対話再開へ向けて動く決意を表明した(ベルリン構想)。文氏はこのベルリン構想の中で、これまでの韓国保守政権と異なり吸収統一や人為的な統一などは一切推進しないとも述べている。

このように韓国が北朝鮮との対話に向けて大きく舵取りをする中、北朝鮮からの反応はいまのところない。それどころか7月には2回弾道ミサイルを発射、また8月には米領グアム付近へ弾道ミサイルを発射する準備を完了すると発表して、アメリカに対する挑発行為を続けている状態だ。

北朝鮮対アメリカの緊張感が続く中で、朝鮮半島が統一するなどの「世界融和シナリオ」の可能性は現状少なく見えるとはいえ、北朝鮮の経済状況に好転がまったく見られない場合は、経済改善に向けたウルトラCとして融合の道を選択する余地はあるかもしれない。とりわけ、日本や米国の防衛力が強化されて、ミサイル防衛システムなどの能力向上が明らかになった場合などは、よりこの方向性が進む可能性があると見られる。

なお、著名投資家のジム・ロジャーズ氏は過去に「もし、韓国と北朝鮮が統一されれば、今後20〜30年にわたり大きく発展する余地がある」と発言している。また、「(資源が豊富な)北朝鮮有事は買い、仮にカタストロフィックなことが起きれば、それが朝鮮半島統一のきっかけになり得る」との見方なども以前はなされていた。

■統一の実現性が乏しい これだけの理由
ただしこのシナリオの実現可能性が低いと見られるのは、統合による韓国のコスト負担が膨大になることである。韓国大統領の諮問機関が作成した報告書によると、北朝鮮が開放政策を取らないままに崩壊した場合、30年間で2兆1400億ドルの統一コストがかかるとされている。さらに、ベルリン大学のクラウス・シュレーダー教授によると、東西ドイツの統一にかかった費用は、社会保障関連コストを反映すると2兆ユーロにのぼったと指摘している。東ドイツの人口は西ドイツの27%程度に過ぎなかった半面、北朝鮮の人口は韓国の50%程度の水準にある。また、1人当たりGDPは東ドイツが西ドイツの50%だった一方、北朝鮮は韓国の5%にも満たない。韓国諮問機関の報告書をさらに上回る負担になる可能性は高い。統合負担増によって、韓国経済は大きく落ち込むことになろう。

米国にとっては、朝鮮半島が中国への抑止力につながっていたこともあり、韓国と北朝鮮の融合は、米国の韓国からの撤退で、中国に対する「睨み」が利かなくなってしまう可能性も高まる。対中国政策からすると望まれないシナリオとも捉えられる。

また、中国にとっても、別のリスクが浮上する。中国には中朝の国境地帯で200万人近くの朝鮮族が暮らしている。仮に統一朝鮮が出現してしまうと、こうした朝鮮族の民族意識の高まりにつながり、中国の内政問題に発展するリスクをはらんでいる。6月には韓国へのTHAAD配備に対しても大いに難色を示し一度は追加配備を中断させた中国であったが、総じて朝鮮半島統一シナリオは中国にとっても、前述の米国にとっても受け入れられにくい可能性がある。

最後に、このシナリオは結果的に日本にとってもワーストシナリオになると考えられる。短期的には、朝鮮半島統一に向けたインフラ整備需要の獲得など、日本にとってのビジネスチャンスが訪れる可能性もあるが、あくまでも一時的なものにとどまろう。中長期的には、新生朝鮮半島が世界の貿易面で大きくクローズアップされることになり、日本の輸出入は減少していくことになろう。「日本素通り」状態に陥ってしまうことにもなりかねない。

さらに、半島統一後の韓国と北朝鮮がまとまっていく過程で「反日感情」が利用される可能性は非常に高いだろう。その際には、朝鮮半島との外交交渉はまとまらず、日本の対外政策に対しても、ことごとく否定されるような状態にもなってこよう。日本に敵対する「核」保有の近隣国として、強烈なプレッシャーともなり得よう。

朝鮮半島統一を株式市場が好感するのは極めて短期間にとどまる可能性が高い。新生朝鮮半島の誕生により、日本は貿易のみならず金融市場においても「素通り」状態となってしまう可能性がある。日本の貿易黒字減少で為替は円安方向に向かうと見られるが、むしろ「キャピタルフライト」の様相を呈することになりそうだ。株式市場もシナリオ1のような暴落はないにしろ、浮上感が見出せないまま、最も長期的な低迷状態に陥ることになろう。

■フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
フィスコ取締役 中村孝也
フィスコIR取締役COO 中川博貴
シークエッジグループ代表 白井一成(※)

※シークエッジグループはフィスコの主要株主であり、白井氏は会議が招聘した外部有識者。

【フィスコ 世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済では第4次産業革命にともなうイノベーションが日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の朝鮮半島についてのレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「JマネーFISCO株・企業報」の2017年春号の大特集「朝鮮半島有事の投資法」に掲載されているものを一部抜粋した。




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