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日本経済シナリオ1:「ゆでがえる」後編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

注目トピックス 経済総合
日本経済は1990年代のバブル崩壊後、崩壊前の水準に回復することなく伸び悩みに直面している。他の先進国に先駆ける形で少子高齢化による労働人口の減少が進み、国内需要は縮小傾向にある。

このような状況下において今後の日本経済に大きな転換点となる可能性があるのは、きたるべき「第4次産業革命」だ。この技術革新の波に国家としてどのように対処するかが、今後の日本経済の行く末を大きく左右することになろう。

本シリーズでは、日本経済が取り得る未来について考察し、導入とともに「ゆでがえる」「格差不況」「シェアリング」「黄金期」という4つのシナリオを紹介し、日本経済が取り得る未来と第4次産業革命が経済面に与えるインパクトを考察したい。各シナリオはそれぞれ数回にわたってご説明してゆく。

本稿ではシナリオ1「ゆでがえる」後編をご紹介する(※)。ゆでがえるシナリオは、計2回にわたってご説明する。

※導入と、シナリオ1「ゆでがえる」全編は、別途「日本経済シナリオ:第4次産業革命の与えるインパクトとは【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」「日本経済シナリオ1:「ゆでがえる」前編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」参照。

■前提となる「ゆでがえる」シナリオとは

日本は戦後から高度経済成長期にかけて築いた外貨獲得モデルの頑健性が非常に高く、かつ、その大転換を迫られるほどの環境変化も起きない。人口構造の変化が進む中、旧き時代の経済システムを捨てきれずに規制緩和も遅々として進まない。潤沢な資金は成長分野へ向かわず、結果として第4次産業革命の恩恵を十分に享受できない。人口減少による生産性の伸び悩みから非常に緩やかに経済規模は縮小。財政赤字は今以上に拡大し、2040年〜50年に資金繰りに行き詰まり、財政崩壊の危機に直面する。まさに、超長期の時間軸で衰退していくシナリオだ。


■世界一のお金持ちでもあり、借金持ちでもある日本

経済協力開発機構(OECD)によると、日本の2015年の国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率は232.4%と米国(111.4%)と比べて約2倍で世界一の高水準だ。債務は2001年の144.4%からジリジリと増加している。内閣府が発表した2016年度の公債債務残高は約837兆円と、2001年以降増加の一途をたどっている。名目ベースで経済成長率が1%強を継続達成したとしても、2023年度には1200兆円まで膨らむ試算だ。政府債務残高の対GDP比を改善することができず、日本は世界一の借金持ちであり続ける。

日本は経常輸出型立国であり、モノを海外に売って外貨を獲得してきた。また国内非金融部門と金融部門の保有資金は海外の国債や証券などの購入にあてられ、外貨建ての配当などを受け取っている。この日本が築き上げた外貨獲得モデルの頑健性は非常に高く、結果として対外純資産残高は増加の一途を辿り、2016年度末値で349兆円と25年連続で世界一の高水準を誇る。また、2015年の個人金融資産残高は1809兆円と世界第2位だ。しかし、現状の日本が資産大国であっても、これからも資産大国であり続けられるかは疑わしい。繰り返しになるが、日本はゆっくりと人口減少国へ移行する。民間の貯蓄残高は、特に家計部門に起因し、徐々に縮小していくに違いない。

そうであれば、国内の保有資金は徐々に減少し、海外資産の購入原資も減少していく。また、人手不足による企業倒産なども増え、海外に売るモノをこれまでと同程度に生産する能力を維持することが難しくなる。その結果、獲得できる外貨は徐々に目減りするに違いない。三菱UFJリサーチのレポートによると、貿易収支の黒字幅が縮小した場合、経常収支は早ければ2026年以降に赤字に転落するとの可能性を言及している。経常収支が年間2.5兆円で減少し、2020年以降に人口が本格的に減少した場合、日本は成熟債権国から債権崩壊国へと向かう可能性も否めない。

■2040〜50年に財政破綻か、日本は長期停滞不況国へ

もし仮に、日本の人口が中長期に減少していく中で、旧い体制や規制が足枷となり、第4次産業革命に乗り遅れたならば、これまで築き上げた独自の外貨獲得モデルはいずれ機能不全に陥ることになる。すると「貯蓄率の低下」「財政赤字の膨張」が起点となって、日本の資金繰りが著しく悪化する可能性が高い。

フィスコの推計だが、外貨準備は2030年には2015年比で19兆円減の約104兆円まで減少する。また、家計金融資産残高は2030年に約1632兆円、対外純資産残高も291兆円といずれも減少する見込みだ。一方、政府債務残高は2015年比で221兆円増の約1458兆円へと膨れ上がると予測する。この状態を企業経営の安定性を判断する自己資本比率の尺度に照らしてみると、国の自己資本比率は2030年に28%、2040年には18%、2050年には8%と著しく悪化していくことが理解できる。

この過程において、人口減少による貯蓄率の低下、経常収支の赤字転落。そして海外機関投資家の台頭という経路と、財政赤字が膨張し、穴埋め不能な水準に達したことで国債の信用力が低下するという経路が重なり、国の信用力が懸念されるかもしれない。すると、国債価格が下落、追い打ちをかけるように投資家の損失切りが浴びせられれば価格は暴落。国債の買い手がいなくなり、政府の資金繰りが行き詰まることになるだろう。日本は今、まさに未来に向けて策を講じなければ、2040−50年に財政破綻の危機に直面する状況にある。資金繰りが行き詰まってしまった状況に陥った日本は財政破綻への道をたどるしかない。長期停滞不況から逃れることはできない。
(つづく〜「日本経済シナリオ2:「格差不況」 前編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」〜)

■フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
フィスコ取締役中村孝也
フィスコIR取締役COO中川博貴
シークエッジグループ代表白井一成

【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、この日本経済シナリオの他にも今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の日本経済に関するレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「JマネーFISCO株・企業報」の2017年冬号の大特集「日本経済シナリオ」に掲載されているものを一部抜粋した。



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