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米中貿易戦争における人民元の台頭 その1【中国問題グローバル研究所】

注目トピックス 経済総合
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。所長の遠藤 誉教授を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、また北京郵電大学の孫 啓明教授が研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◆中国問題グローバル研究所の主要構成メンバー
所長 遠藤 誉(筑波大学名誉教授、理学博士)
研究員 アーサー・ウォルドロン(ペンシルバニア大学歴史学科国際関係学教授)
研究員 孫 啓明(北京郵電大学経済管理学院教授)

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明教授の考察を2回にわたって配信する。

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国際通貨基金(IMF)によると、2018年第2四半期現在、世界60以上の国と地域の外貨準備に人民元が含まれており、世界の外貨準備高の人民元の割合は1.84%に上昇し、1933.8億ドルに達している。人民元の国際取引は、徐々に直接投資プロジェクトまで拡大し、すべての経常収支をカバーするまでに至った。人民元は既に世界第五位の決済通貨、第三位の貿易融資通貨、そして第五位の外国為替通貨となっている。


中国の経済は世界GDPの約15%を占めており、中国の輸出入貿易額は世界貿易の約12%を占めているが、それにもかかわらず、国際決済における人民元のシェアは2%未満でしかなく、世界経済及び世界貿易における中国のシェアに比してはるかに人民元の国際的地位は低い。


中国は2009年以来、様々な取り組みを講じ人民元の国際化を推進して既に明確な成果を上げている。このなかで注目に値する点は、米中貿易戦争の勃発後、人民元の国際化のペースが却って加速していることだ。その具体的な表れとして以下のことがあげられる。


第一に、対外貿易における人民元決済の決済金額及び決済比率は急速に高まっており、更に拡大する可能性を秘めている。


2018年の1年間において人民元で決済された財の国際貿易総額は、2017年間の3.27兆人民元(約51.46兆円)から11.9%増の3.66兆人民元(約57.60兆円)まで上り、サービス貿易及び他の経常収支は2017年の1.09兆人民元(約17.16兆円)の33%増の1.45兆人民元(約22.82兆円)に達している。2018年の間、人民元で決済された対外直接投資及び海外直接投資はそれぞれ8048.1億人民元(約12.67兆円)と1.86兆人民元(約29.27兆円)であり、2017年間の4568.8億人民元(約7.19兆円)と1.18兆人民元(約18.57兆円)と比べると、それぞれ76.2%と57.6%の大幅な上昇が見られる(『中国人民銀行2018年金融財務統計レポート』参照)。対外貿易及び対外投資における人民元決済金額の増加は、米中貿易戦争以降、人民元の国際化のペースは止まっておらず、却って加速していることを表している。


第二に、二国間通貨スワップ協定を結んだ国の数と金額は増加し続けている。


二国間貿易決済に国内通貨を利用することで、ドルが二国間貿易に与える影響を効果的に軽減し、国際貿易における人民元の地位を高めることができ、米国以外の国の経済的利益にも一致している。2018年以降、中国の最高国家行政機関である国務院の承認を得て、中国人民銀行はインドネシア銀行と2000億人民元/440兆ルピア(約3.15兆円)前後の、イングランド銀行と3500億人民元/400億スターリング・ポンド(約5.51兆円)前後の二国間通貨スワップ協定を更新し、さらに日本銀行と2000億人民元/3.4兆円前後の二国間通貨スワップ協定を締結した。


さらに中国人民銀行の集計によると、2008年以降、中国人民銀行は既に世界38カ国・地域の中央銀行または金融当局と二国間通貨スワップ協定を締結しており、その総額は3.57兆人民元(約56.18兆円)に達している。2018年11月まで、有効な人民元通貨スワップ協定は28件あり、総金額は3.21兆人民元(約50.52兆円)に達している。通貨スワップ協定は中国と関係国・地域の貿易・投資に便益をもたらし、金融の安定を維持し、人民元の国際化を促進することに積極的な役割を果たしている。


第三に、CIPS(人民元の国際銀行間決済システム)の発展により、人民元の国際決済システムが更に発展し改善された。


国際決済システムは、通貨を国際化するために最も重要なインフラである。CIPSシステムの運用を始めて以降、2018年米中貿易先生が勃発する時点まで、CIPSシステムには31の 直接参加行、677の 間接参加行があり、87の国と地域をカバーしている。さらに、CIPSは有価証券の国際取引資金の清算にも参入し、上海清算所(SHCH)と中央国債登記結算有限責任公司(CCDC)は既にCIPSに直接参加している。CIPS(第1期)が運用され始めた後、代理銀行モデルと清算銀行モデルは市場の需要に基づきその役割を果たし続けているが、現在の米中貿易摩擦に促され、CIPSは迅速に人民元の国際決済をまとめ上げ、人民元国際貿易における最も重要なインフラとなり、今後さらに人民元の国際化を促進することが予測できる。


第四に、米中貿易戦争のおかげでSDR(特別引出権)に加盟した人民元の地位は更に高めている。


2016年10月、人民元は正式にSDRに加盟し、通貨比重は10.92%で、スターリング・ポンドの8.09%と円の8.33%を上回っている。1999年フランス・フランとドイツマルクがユーロに置き換えられてから、SDRバスケットへ採用された最初の新しい通貨である。SDRバスケットへの採用には2つの判断基準を満たす必要がある。まず、輸出額の基準があり、構成通貨が世界経済に中心的な役割を果たすことを保証するために、その構成通貨は世界最大の輸出国によって発行されなければならない。そして構成通貨は自由利用可能通貨、つまり国際取引上の支払いを行うために広く使用される通貨としてIMFが認めるものでなければならない。人民元のSDR構成通貨に採用されることは、世界経済に対する中国経済の影響力の高まりを反映しており、中国の貨幣・金融システム改革に対する世界からの認可であり、中国経済が世界経済体系に参入する重要なマイルストーンなのだ。米中貿易戦争以降、中国の輸出入総額は減少しているものの、SDRにおける人民元の比重を維持することはできる。


第五に、米中貿易戦争は人民元建ての原油先物市場の建設と発展を加速させた。


2018年3月26日、中国の原油先物は上海先物取引所の子会社である上海国際エネルギー取引所に上場し、同年末までに取引高とポジションは共にドバイの原油先物市場を上回り、世界トップ3の原油先物市場になっている。人民元建ての原油価格メカニズムを発展させることは、国際市場における原油価格変動のリスクに対処する中国の能力を向上させ、中東の一部の石油輸出国がアジアの石油輸入国に向けて異なるフォーミュラ価格を設定する「アジアプレミアム」現象を打破し、アジア地域における中国の影響力を高め、さらに人民元の国際化を促進することができる。

(〜「米中貿易戦争における人民元の台頭 その2【中国問題グローバル研究所】」へ続く〜)

本論にある人民元は、翻訳者により日本円に換算して加筆した。(この評論は7月17日に執筆)

※1:中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/



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