米中貿易戦争における人民元の台頭 その2【中国問題グローバル研究所】
[19/07/30]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 経済総合
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。所長の遠藤 誉教授を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、また北京郵電大学の孫 啓明教授が研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。
◆中国問題グローバル研究所の主要構成メンバー
所長 遠藤 誉(筑波大学名誉教授、理学博士)
研究員 アーサー・ウォルドロン(ペンシルバニア大学歴史学科国際関係学教授)
研究員 孫 啓明(北京郵電大学経済管理学院教授)
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明教授の考察「米中貿易戦争における人民元の台頭 その1【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
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中国の経済は継続的かつ安定的に発展しており、また米国の経済・政治が混乱している情勢のもとで、人民元の国際的影響力は必ず拡大し続けるであろう。人民元の台頭を認識し、人民元の国際地位の向上を促進することは、世界各国にとって利益をもたらす必然な選択である。以下にその理由は述べよう。
第一に、米ドル排除の流れ、ドル決済と米国債保有額の減少が人民元の台頭に寄与している。
長い間、米ドルによって支配された国際通貨体制が世界各国に、金融経済と実体経済の乖離、「ドルの罠」、世界的な過剰流動性及び米国による金融制裁など、様々な問題をもたらしたが、人民元の台頭と共に世界中にドル排除の流れが現れた。トランプの「アメリカ・ファースト」と貿易・投資における保護主義が、国際準備通貨としてのドルの安全性を損ない、ドルの国際的な信用を失墜させた。ドルが米国による金融制裁の武器となって以来、世界各国はドルに支配され続けてきた。その結果、ドル排除の流れが強まり、2018年10月にロシア中央銀行が外国の銀行からロシアの金融情報送信システム(SPFS)へのアクセスを近々許可することを発表した。
これはこれまでのSWIFTを代替するねらいがある。インドとイランは2018年10月に原油貿易の協定を結び、原油輸入貿易の決済にインドルピーを使用することを発表した。欧州委員会は2018年12月、「ユーロの国際的役割の強化法』を提案し、ユーロを清算通貨とする決済システムをSPVと名付けし、まもなく運用開始することを公表した。さらに、ロシア、トルコ、イランなどの国は貿易決済におけるドルの使用を中止することを発表した。
近年、多くの国が準備資産を再編させ、主に金準備の増やせと米国債保有を減らした。米財務省のデータによると、2018年3月から5月の間、ロシアは800億ドル以上の米国債を売却し、その保有額は84%減に達した。2015年以降、日本政府も米国債の保有量を減らし続け、2018年には10%以上の削減と大幅に加速している。実際、中国、インドなどの米国債の主要保有国も保有量を減らしており、しかもその傾向は加速している。米国債の保有量を減らす一方で、多くの国は準備資産のバランスをとるために金の保有量を増やしている。
IMFの集計によると、2018年10月世界の外貨準備におけるドルの割合は62.25%であり、2017年同期より0.47%減となっている。その中で、米国との関係が悪化しているイランとロシアの外貨準備におけるドルの割合はほぼゼロである。一方、金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシルのレポートによると、2018年世界各国の中央銀行の金準備が651.5トンも増加し、増加量が前年同期比74%増となっており、年間需要量が1971年以来の最高水準に達した。
第二に、人民元の台頭は、世界の外貨準備の安定と、世界各国の企業の流動性不足のリスクを防ぐことに役立つ。
世界経済の発展に伴い、各国の外貨準備高が急速に増加しており、そしてその外貨準備は主にドルによって構成されている。莫大なドル外貨準備の流動と投資の不確定性は、市場の混乱と経済の不均衡を引き起こす。外貨準備の通貨構成における人民元の導入は、ドルが高すぎる割合を占めることによってもたらすリスクを減らすことができる。特に米中貿易戦争の情勢のもとで、安定的かつ増勢を続けている人民元は、各国の中央銀行の投資及び資産価値維持のための優れた選択肢であり、資金の流動性を高めることができる。それによって、国際貿易金融の状況はより安定し、2008年のリーマン・ショックのように流動性が枯渇する確率も大幅に低下させられるであろう。
第三に、中国の経済発展を利用し、自国の経済発展に原動力をもたらし、さらに世界各国の努力のもとで、理想的な「世界通貨」を作ることができる。
2008年リーマン・ショック以降、欧米先進諸国の経済成長率が低迷し、世界経済の成長を促すことが難しくなった。それに対して、中国の年間経済成長率は常に6%を上回っており、さらにアジアインフラ投資銀行及び「一帯一路」の協力構想を提唱した。中国は「一帯一路」諸国と共に発展することを約束する。人民元国際化の利用範囲から見ると、人民元の国際化を周辺化、地域化、グローバル化の三段階に分けることができる。すなわち中国周辺地域での利用から、アジア地域での利用に発展し、最終的にグローバル通貨まで発展を遂げることである。
人民元の通貨としての機能から見ると、人民元の国際化は貿易決済通貨、金融投資通貨、外貨準備通貨の三段階を経る必要がある。すなわち人民元国際化の「三段階」戦略は、決済通貨→投資通貨→準備通貨となるが、実際最も早いのは準備通貨であり、次に投資通貨となり、決済通貨になるのは最後である。したがって、長期的に見ると、人民元の国際化はすなわち、人民元を中核とする「次世代世界通貨体系」の構築である。短期的な目標は、香港ドルとニュー台湾ドルを内部的に統合し、「中華圏人民元」を作り出す。中期目標は、日本の円と大韓民国のウォンなどアジア国家と協力し、「アジア元」体系を作り上げ、世界通貨体系における米ドル・ユーロ・アジア元の「三つ鼎(がなえ)」体制を確立させる。最終的な目標は、理想的な、各国の総合経済力及び貿易額に基づく、デジタルの、非中央集権的または非ソブリンな世界通貨を確立させることである。
本論にある人民元は、翻訳者により日本円に換算して加筆した。(この評論は7月17日に執筆)
※1:中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/
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◆中国問題グローバル研究所の主要構成メンバー
所長 遠藤 誉(筑波大学名誉教授、理学博士)
研究員 アーサー・ウォルドロン(ペンシルバニア大学歴史学科国際関係学教授)
研究員 孫 啓明(北京郵電大学経済管理学院教授)
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明教授の考察「米中貿易戦争における人民元の台頭 その1【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
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中国の経済は継続的かつ安定的に発展しており、また米国の経済・政治が混乱している情勢のもとで、人民元の国際的影響力は必ず拡大し続けるであろう。人民元の台頭を認識し、人民元の国際地位の向上を促進することは、世界各国にとって利益をもたらす必然な選択である。以下にその理由は述べよう。
第一に、米ドル排除の流れ、ドル決済と米国債保有額の減少が人民元の台頭に寄与している。
長い間、米ドルによって支配された国際通貨体制が世界各国に、金融経済と実体経済の乖離、「ドルの罠」、世界的な過剰流動性及び米国による金融制裁など、様々な問題をもたらしたが、人民元の台頭と共に世界中にドル排除の流れが現れた。トランプの「アメリカ・ファースト」と貿易・投資における保護主義が、国際準備通貨としてのドルの安全性を損ない、ドルの国際的な信用を失墜させた。ドルが米国による金融制裁の武器となって以来、世界各国はドルに支配され続けてきた。その結果、ドル排除の流れが強まり、2018年10月にロシア中央銀行が外国の銀行からロシアの金融情報送信システム(SPFS)へのアクセスを近々許可することを発表した。
これはこれまでのSWIFTを代替するねらいがある。インドとイランは2018年10月に原油貿易の協定を結び、原油輸入貿易の決済にインドルピーを使用することを発表した。欧州委員会は2018年12月、「ユーロの国際的役割の強化法』を提案し、ユーロを清算通貨とする決済システムをSPVと名付けし、まもなく運用開始することを公表した。さらに、ロシア、トルコ、イランなどの国は貿易決済におけるドルの使用を中止することを発表した。
近年、多くの国が準備資産を再編させ、主に金準備の増やせと米国債保有を減らした。米財務省のデータによると、2018年3月から5月の間、ロシアは800億ドル以上の米国債を売却し、その保有額は84%減に達した。2015年以降、日本政府も米国債の保有量を減らし続け、2018年には10%以上の削減と大幅に加速している。実際、中国、インドなどの米国債の主要保有国も保有量を減らしており、しかもその傾向は加速している。米国債の保有量を減らす一方で、多くの国は準備資産のバランスをとるために金の保有量を増やしている。
IMFの集計によると、2018年10月世界の外貨準備におけるドルの割合は62.25%であり、2017年同期より0.47%減となっている。その中で、米国との関係が悪化しているイランとロシアの外貨準備におけるドルの割合はほぼゼロである。一方、金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシルのレポートによると、2018年世界各国の中央銀行の金準備が651.5トンも増加し、増加量が前年同期比74%増となっており、年間需要量が1971年以来の最高水準に達した。
第二に、人民元の台頭は、世界の外貨準備の安定と、世界各国の企業の流動性不足のリスクを防ぐことに役立つ。
世界経済の発展に伴い、各国の外貨準備高が急速に増加しており、そしてその外貨準備は主にドルによって構成されている。莫大なドル外貨準備の流動と投資の不確定性は、市場の混乱と経済の不均衡を引き起こす。外貨準備の通貨構成における人民元の導入は、ドルが高すぎる割合を占めることによってもたらすリスクを減らすことができる。特に米中貿易戦争の情勢のもとで、安定的かつ増勢を続けている人民元は、各国の中央銀行の投資及び資産価値維持のための優れた選択肢であり、資金の流動性を高めることができる。それによって、国際貿易金融の状況はより安定し、2008年のリーマン・ショックのように流動性が枯渇する確率も大幅に低下させられるであろう。
第三に、中国の経済発展を利用し、自国の経済発展に原動力をもたらし、さらに世界各国の努力のもとで、理想的な「世界通貨」を作ることができる。
2008年リーマン・ショック以降、欧米先進諸国の経済成長率が低迷し、世界経済の成長を促すことが難しくなった。それに対して、中国の年間経済成長率は常に6%を上回っており、さらにアジアインフラ投資銀行及び「一帯一路」の協力構想を提唱した。中国は「一帯一路」諸国と共に発展することを約束する。人民元国際化の利用範囲から見ると、人民元の国際化を周辺化、地域化、グローバル化の三段階に分けることができる。すなわち中国周辺地域での利用から、アジア地域での利用に発展し、最終的にグローバル通貨まで発展を遂げることである。
人民元の通貨としての機能から見ると、人民元の国際化は貿易決済通貨、金融投資通貨、外貨準備通貨の三段階を経る必要がある。すなわち人民元国際化の「三段階」戦略は、決済通貨→投資通貨→準備通貨となるが、実際最も早いのは準備通貨であり、次に投資通貨となり、決済通貨になるのは最後である。したがって、長期的に見ると、人民元の国際化はすなわち、人民元を中核とする「次世代世界通貨体系」の構築である。短期的な目標は、香港ドルとニュー台湾ドルを内部的に統合し、「中華圏人民元」を作り出す。中期目標は、日本の円と大韓民国のウォンなどアジア国家と協力し、「アジア元」体系を作り上げ、世界通貨体系における米ドル・ユーロ・アジア元の「三つ鼎(がなえ)」体制を確立させる。最終的な目標は、理想的な、各国の総合経済力及び貿易額に基づく、デジタルの、非中央集権的または非ソブリンな世界通貨を確立させることである。
本論にある人民元は、翻訳者により日本円に換算して加筆した。(この評論は7月17日に執筆)
※1:中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/
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