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中国人民銀行の準備預金引き下げは、実体経済の発展に促進効果【中国問題グローバル研究所】

注目トピックス 経済総合
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。所長の遠藤 誉教授を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、また北京郵電大学の孫 啓明教授が研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◆中国問題グローバル研究所の主要構成メンバー
所長 遠藤 誉(筑波大学名誉教授、理学博士)
研究員 アーサー・ウォルドロン(ペンシルバニア大学歴史学科国際関係学教授)
研究員 孫 啓明(北京郵電大学経済管理学院教授)

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明教授の考察を紹介する。

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中国人民銀行は2019年9月16日、金融会社、金融リース会社、自動車金融会社以外の金融機関の準備預金率を0.5%引き下げた。さらに10月15日と11月15日に、各省の行政区画内のみ営業する地方銀行に対して、特別に準備預金を合わせて1%引き下げる予定である。

この引き下げは1回0.5%で2回に分けて行われる。今回の準備預金の引き下げは、9,000億元の長期資金を解放することができる。この9,000億元の長期資金が市場に投入されると、6.2倍の貨幣乗数の計算で、理論上5.58兆元のM2(現金通貨と国内銀行等に預けられた預金を合計したもの)を生むことができる。

貨幣が増えると、貨幣の価値が安くなる。この後、中国人民銀行は1年物の中期貸出ファシリティーの利子を調節し、3.3%から引き下げる予定もある。準備預金引き下げの後、最終的に金利の引き下げも続いて視野に入るであろう。この中国人民銀行の準備預金引き下げをどうみるか、以下、3つの視点から解説する。

一、中国人民銀行の準備預金引き下げは国際的な傾向に合わせた行動である。
1、連邦準備制度理事会(FRB)が、8月1日からバランスシート縮小を終了し、そして超過準備率を5.25%引き下げることを発表した。FRBは9月の会議で金利を25ベーシスポイント引き下げることを議論し、さらに第4四半期でも利下げを行う予定である。トランプはこれに満足せず、FRBに少なくとも100ベーシスポイントの利下げを行うべきと要請した。中国が今回公表した準備預金引き下げは、これに対して先手を打つ行動である。

2、欧州中央銀行(ECB)が利下げおよび量的緩和(QE)の再開を公表した。預金金利を10ベーシスポイント引き下げ、-0.5%になる予定である。欧州中央銀行は利下げを公表すると同時に、2019年11月1日からQEの再開も発表した。つまり債券購入計画を再開し、月間200億ユーロのユーロ圏債券を買い上げると表明した。これは世界クラスのスーパー銀行が、マイナス金利の状況で、引き続き量的緩和を行い、マネーサプライを拡大することを意味する。中国人民銀行も当然遅れをとるわけにはいかない。

3、イギリスの欧州連合離脱が加速し、フランスの黄色いベスト運動もますます激しくなった。イタリアの銀行には6,000億ユーロの不良債権を抱えており、イタリアの経済もそれによって混乱している。ドイツは第2四半期の経済が前期比0.1%のマイナス成長となり、製造業指数も下落している。世界経済が景気後退傾向で、日本経済、中国経済も停滞している。経済の低迷に対する最も簡単で効果的な解決策は、マネーサプライを拡大する、つまり量的緩和である。中国人民銀行の行動も大きな流れに乗るしかない。

二、国内に対して、中国人民銀行の準備預金引き下げは、小企業・マイクロ企業と実体経済の発展を促進するためである。
現時点で中国の準備預金率はまだ比較的に高く、外貨保有高の減少が銀行の流動性を圧迫し、銀行の信用供給能力が制限されている。中国人民銀行が今回準備預金の引き下げを発表したのは、主にこのような現状を鑑みて、流動性を高めるためである。別の面に目を向けると、関連データが示したように、世界経済の情勢と同じように、中国経済の成長速度が鈍るリスクも高くなっている。

中国のGDP成長率と購買担当者指数も減少傾向にあり、GDP成長率は第1四半期の9.7%から第2四半期の9.5%に低下している。貿易戦争の影響で、中国の輸出が急速に減少し、中小企業の生存環境は比較的に困難である。金融政策の適切な緩和により、経済を促進し、雇用を解決し、労働者の所得を安定させ、社会を安定させるのが目的である。最終的に利下げを行うかどうかは、今回の準備預金引き下げの結果を見てからであろう。なぜならば、利下げは更に経済成長を促進できるが、不動産価格が制御不能になるリスクも孕んでいる。だから今回の準備預金引き下げは、お試しの経済政策であり、要するに、安定成長の信号を発信するのが目的である。

年内にさらに二、三回の準備預金引き下げの可能性が予想できる。中国人民銀行が毎回こつこつと0.5%引き下げるのは、政策の方向性を微調整するためである。金融政策が「やや引き締め」から「中立」または「緩和」になるか否かは、まだこれからの動向を見る必要がある。私見では、中国人民銀行の金融政策は、「やや引き締め」から「中立」になる可能性がある。

三、世界の他の主要経済国と比べると、中国経済にはまだ投資価値のある「低地」である。
1、まずは生産面から見よう。2019年8月の国民経済運営に関する発表会に基づき、当月の指標から見ると、工業生産はやや減速し、サービス業の成長が速くなり、投資がやや減速したが、いくつか投資の価値のある領域はまだある。1〜8月を通して見ると、全般的に経済は安定し、着実に発展している。サービス業の生産指数は7.0%増で、一定規模以上の工業企業の増加値(日本の売上高総利益に類似)の成長速度より1.4%も高い。情報伝達、ソフトウェアおよびITサービス業は22.4%増、リース・ビジネスサービス業は8.1%増で、ともに平均成長指数より高い。一定規模以上の工業企業の増加値は5.6%増に対して、ハイテク製造業の8.4%増であり、明らかに全産業の成長率を上回っているため、製造業は継続的アップグレードしている態勢は変化していない。

2、つぎに消費から見よう。1〜8月の消費財全体の小売売上高は8.2%増に対して、現物商品のオンライン小売売上高は20.8%増加し、明らかに突出している。飲食産業の売上高は9.4%増加し、それでも消費財全体の成長より速い。

3、さらに投資からも見てみよう。投資の成長は基本的に安定している。1〜8月の固定資産投資は5.5%増に対して、ハイテク産業への投資は13%増加し、投資全体より速い。エコ産業へ投資は40%以上増加し、教育分野への投資は19%増で、文化・スポーツ、エンタテイメントへの投資は15.1%も増加した。これらの状況からわかるように、投資の構造は最適化されており、需要の構造も調整、最適化され続けている。

4、最後に外資の利用を見よう。ここ2年くらいで、世界中のFDI(直接投資)は減少しているが、中国2019年の1〜8月の間に実際利用した外資は6.9%増で、8月末の外貨準備高も3.1兆ドルで、前月末から35億ドル増加した。

5、2019年7月まで、国際資金が所有している人民元債券の規模は17兆人民元であり、この規模は今でも高速成長している。2019年8月の世界マイナス利回り国債の規模は17兆ドルであり、米国国債は長短金利の逆転が厳しく、ドイツもマイナス金利の債券を発行している。それに対して、人民元債券の収益は世界トップクラスで、魅力的である。国際資本が7月の間に人民元債券の保有を534億元も増やした。そしてこれは8ヶ月連続の保有増である。中国は既に国際資本の避難所になっている。

世界全体の経済が低迷している中、我々がどっちの方が悪いより、どっちの方が比較的に悪くないことに注目している。中国の経済は比較的に悪くない。前回の記事で述べたように、米中貿易戦争は米国の大統領選挙までにはやや収まるであろう。それならば、中国今後の経済情勢は今より楽観的である。中国経済のいくつかの分野は衰退しているが、いくつかの分野は発展している、これは構造調整の結果である。だから中国への投資は、将来性のある投資だと、私は信じている。

※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/



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