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オフショア金融エコシステムとブロックチェーン技術は米中戦略ゲームの分水嶺(1)【中国問題グローバル研究所】

注目トピックス 経済総合
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。所長の遠藤 誉教授を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、また北京郵電大学の孫 啓明教授らが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している孫 啓明教授の考察を3回に渡ってお届けする。

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一、 米中貿易戦争の一時停止は、更にハイレベルの「金融戦争」と「技術戦争」の始まりに過ぎない。

本サイトでの記事でも述べたように、米中貿易戦争は緩和し、更に休戦になる。なぜならば米中貿易戦争の結果は必ず共倒れになるため、米国の貿易の失敗をトランプが望むはずはなく、また2020年選挙の前にそのような事態を起こしたくないはずだからでもある。筆者の見解では、これは戦争の間の短い休憩でしかなく、米国の長期的な戦略利益とトランプの性格を考慮すると、再戦をいつ始めてもおかしくはない。休戦しても、米中貿易戦争の幕が下りたと見なすことはできないであろう。なぜならば、貿易戦争は米中の駆け引きの低レベルな幕開けでしかなく、高レベルな「金融戦争」と「技術戦争」という「灰色のサイ」はすでにやって来ているからだ。

米中金融戦争の長期的な戦略的目標は以下のようになるだろう。
米国はドル覇権の地位を守りたい。一方、中国の短期的な目標は人民元のグローバル化、即ち世界通用の貿易通貨、投資通貨及び準備通貨となることである。そしてできるだけ早めにドルと対等な関係を築き、最終的に非中央集権的な、デジタル化の、世界各国の経済実力及び貿易量に基づく世界通貨の一部になることである。

二、オフショア金融エコシステムの戦略的布陣
人民元のグローバル化は、人民元を他の通貨と自由に交換できる状態を実現しなければならない。それは現在のところまだ弱い人民元にとって諸刃の剣である。人民元グローバル化の速度が早すぎると、ドル覇権の罠に陥る。しかしグローバル化をしないと、人民元は永遠に発展することができないであろう。現在、香港は中国の主要なオフショア金融チャネルであり、約60-70%の資金の流入と流出は香港を経由している。オフショア金融チャネルが単一であるため、香港は駆け引き相手の主要な攻撃対象となっている。2014の香港「占領中環」運動、そして今年の香港暴乱の裏には、香港のオフショア金融チャネルの重要性がある。そして中国が香港を中心としながら、香港に縛られないようなオフショア金融エコシステムを構築する原因でもある。

(一)中国が香港のオフショア金融中心の中核的地位を諦めることはできない
第一に、香港には制度の優位性がある。香港は「一国二制度」を導入し、資本主義制度を保留した。資本主義制度の香港は金融、貿易、経済、海運の要衝として、かけがえのない役割を果たしている。香港には健全な法制度があり、体系的に厳密で効率的な、国際慣行に沿った金融及び経済監督メカニズムがある。。また香港は柔軟で効率的な通貨調整システムがあり、適切で合理的かつ公正な競争ができる商業銀行と証券会社システムを所有している。長い間、香港の土地、株、債券そしてデリバティブの定義、登録、取引は完備な法律によって保証されてきた。香港の金融市場には、取引コストが低い、取引量が多い、取引のスピードが早い、そして多様な取引が柔軟にできる利点があり、金融市場の関連産業が発達している。700万強の人口しかない香港のGDPは、千万人口級の中心都市と比べることはできない。しかし2018年香港の貿易総額は1.2兆ドルで、米中貿易総額(6,335億ドル)の倍である。

第二に、香港には立地優位性がある。香港は東アジアの中心に位置し、東アジアのほとんどの都市まで飛行機で4時間以内に行ける。タイムゾーンもロンドン・ニューヨークの間にあり、3つの金融センターは、グローバル金融を24時間稼働させることができる。香港の背後には大陸があり、巨大な市場ポテンシャルを持っている。香港と大陸は2つの異なる金融システムであり、お互いを補完し、助け合い、交流することができる。

第三に、香港にはビジネス環境の利点がある。香港の税制は単純であり、税率も低い。だから中小企業の天国、起業者の楽園として知られている。香港資本の情報流通は迅速で、市場も開放的であり、自由で整然としている。さらに世界各地の専門家が集まっており、完璧なインフラ、独立した法制度など、多くの利点を持ち、大陸企業の海外進出の理想的なプラットフォームである。香港の資本市場の資金源と用途は香港に限られておらず、香港は実際的に、国際資本の中国に対する経済協力および投資の観測とアクセスの基地になっている。香港はずっと中国が対外金融関係を発展さえせ、国際金融市場に参入するための最前線基地である。

(二)香港のバックアップがあって、マカオもオフショア金融センターになる
1999年10月、マカオは「オフショア法」を公表し、香港の国際金融センターの地位を利用し、オフショア金融業を発展させようとしたが、法系が違うため採択されなかった。しかし現在、積極的に準備を進めている。最近、とある筋の情報によると、マカオ証券取引所の計画はすでに中央に提出され、その目標はマカオ証券取引所を人民元オフショア市場のナスダックに建設するとのことだ。マカオの一人当たりGDPは86,000ドルで、北京・上海・広州・深センをはるかに上回っている。
現在、中国の人民元ベースの中小イノベーション企業向けの、直接資金調達できるオフショア金融市場は存在しないが、マカオ証券取引所が設立されることになれば、このギャップを埋め、香港と並び立つようになる。機能的な観点から見ると、香港とマカオは両方とも中国のオフショア金融センターである。香港は世界の4つの主要な金融センターの1つであり、すべての金融業務に対応できている。マカオには、人民元が外に出るチャネルなどを構築する証券取引所を設立しようとしている。そして今後香港の金融ビジネスの一部を徐々に分担することになるであろう。

(三)上海、深セン、海南及びその他の15の自由貿易区は段階的にオフショア金融の第二、第三の階層となる
2013年上海自由貿易試験区の設立以降、中国の自由貿易区は現在、上海、広東省、天津、福建省、遼寧省、江蘇省、河南省、湖北省、重慶市、四川省、山西省、海南省、山東省、江蘇省、広西省、河北省、雲南省、黒龍江省の18ヶ所に増加した。そのうち、沿岸省は全て自由貿易区であり、自由貿易区がすべての沿岸省をカバーすることを実現した。中央が与えた権限と業務分類により、自由貿易区は大きく3つの階層に分類できる。コア層は一国二制度の特徴を持つ香港とマカオ、特に香港はコアの中核である。第二階層は中央からかなりの権限が与えられ、比較的に開放的である上海、深セン、海南省である。残りは第三階層を構成し、それぞれ明確な地域性を持っている。今後中国の自由貿易区は更に拡大し、まさに中国の全面的に開放する姿勢と決意を証明している。

(〜オフショア金融エコシステムとブロックチェーン技術は米中戦略ゲームの分水嶺(2)【中国問題グローバル研究所】」へ続く〜)

(この評論は11月17日に執筆)

※1:中国問題グローバル研究所
https://grici.or.jp/



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