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新型コロナで解き放たれる「灰色のサイ」??米中企業の過剰債務がもたらす未曾有の危機(1)【中国問題グローバル研究所】

注目トピックス 経済総合
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所の白井一成理事の特別寄稿を2回に渡ってお届けする。

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今回の全世界の株式市場の下げ幅は、大恐慌レベルの急落に匹敵する。トランプ大統領就任からのアメリカの株価上昇分は全て霧散した形になった。FRBによる緊急利下げやトランプ大統領による100〜200兆円(1兆〜2兆ドル)の経済対策の方針など、アメリカは大胆かつ素早く対応しているが、経済危機の入り口において、ここまで株価の下げ幅が大きく、スピードが速いという事態は、今までのケースと比べても異例である。また、GDPや失業率の予想、新興国からの資金流出など驚くべき数字が次々と発表されている。例えばモルガンスタンレーは、4〜6月の米国GDP成長率を前期比年率30%減少、同時期の失業率を12.8%と予想した。国際金融協会は1月21日以降に新興国から流出した資金が500億ドル(5兆円)超と、リーマンショック時の2倍と指摘している。このことは、この先の想像もつかない巨大な世界経済のクラッシュを暗示しているかもしれない。

今回の危機において複数存在する「灰色のサイ」(将来、高い確率で大きな問題を引き起こすと考えられているにもかかわらず、現時点で軽視されてしまいがちな潜在的リスクのことを指す。鈍重で大きくふだんは大人しいが、いったん暴れると暴走するサイに由来する)の1頭は、米国企業と中国を始めとする新興国債務(特に中国企業の債務の伸びが顕著)であろう。大胆な金融緩和と高株価という他の灰色のサイ2頭と共に膨張してきたが、これからは3頭が強く影響し合いながら急激に縮小することになるだろう。

国際決済銀行(BIS)によると、2019年9月末時点での債務総額は186.6兆ドル(1京8,660兆円)に上り、そのうち米国が53.9兆ドル(5,390兆円)、中国が35.0兆ドル(3,500兆円)、新興国(除く中国)が22.1兆ドル(2,210兆円)であった。2018年末時点では債務総額が117.0兆ドル(1京1,700兆円)、そのうち米国が35.3兆ドル(3,530兆円)、中国が6.7兆ドル(670兆円)、新興国(除く中国)が11.1兆ドル(1,110兆円)だったので、伸び率で見ると、わずか1年間で債務総額は60%の増加、米国は53%増加、中国は5.3倍、新興国(除く中国)は2.0倍である。

非金融企業の債務に限定すると、総額は72.4兆ドル(7,240兆円)、そのうち米国が16.0兆ドル(1,600兆円)、中国が20.5兆ドル(2,050兆円)、新興国(除く中国)が8.8兆ドル(880兆円)となる。2008年末時点では総額が45.3兆ドル(4,530兆円)、そのうち米国が10.7兆ドル(1,070兆円)、中国が4.6兆ドル(460兆円)、新興国(除く中国)が4.7兆ドル(470兆円)だった。こちらも伸び率で見ると、企業債務は60%増加、米国が50%増加、中国は実に4.5倍で、新興国(除く中国)が87%増加となる。

米国、中国の金額の大きさが注目されることに加え、中国の伸び率が突出している。中国以外の新興国は、いずれも一か国で金額が突出しているところは見られない。新興国で中国に続いて債務残高が大きいのは韓国であるが、債務総額は3.8兆ドル(380兆円)、企業債務が1.6兆ドル(160兆円)にとどまる。それでも伸び率は決して低いわけではない。

まず、米国企業の債務を見てみよう。日銀によると、2018年時点で投機的格付けの社債とローンは2.3兆ドルあり、投資適格の最下層のBBBは(影響が長期化すれば格下げになる)社債だけでも3.2兆ドル存在する。ちなみに、リーマンショックの元凶となったサブプライムローンは1.3兆ドルであるので、いかに今回の問題が大きいかが分かるだろう。高いレバレッジは良い方向にも悪い方向にも加速度をつける効果があるが、債務が膨張した状態から反転し負の連鎖が回り始めれば、急激な下落を伴って想定以上の価格まで売られることがあり、常に金融危機のエンジンとなっていた。

このループはどこが起点であっても、キッカケさえあれば回り始めることになり、回り始めると止めることが容易でない。一般的には、企業業績が悪化したり、その懸念で債券価格が下落すると借入の返済を迫られ、その資金を捻出するために企業活動が慎重化するため、余計に企業業績が悪化するという格好だ。格付け会社による格下げも、それを加速させる。後述するが、新型コロナウイルス対策が企業業績を激しく傷つけるため、この負の連鎖の巨大なエネルギーが金融市場に解き放たれようとしている。

現在の世の中は、貿易が世界のGDP比で6割の額にまで達しており、サプライチェーンはグローバルに分散して構築されている。そのため、長期間にわたるサプライチェーンの分断が世界的な供給を、そして需要を大きく制限することになり、経済に与える影響は甚大であろう。全ての国の生産活動が正常に戻って始めて、分断されたサプライチェーンが修復されるわけである。しかし、米中貿易戦争に端を発する製造拠点の脱中国の動きは、このようなサプライチェーンの断絶を加速させる。折しもコロナウイルスの根源を巡り、米中が激しく言い争う事態となっている。

分断された貿易構造や自国主義の追求と、今後の各国中央銀行の積極的な金融緩和と各国政府の巨額の財政出動は、理屈の上では、インフレの土壌を育むことになるはずである。将来的に需要が正常に戻る段階では、インフレが昂進する可能性があろう。また、足元でもサプライチェーンの分断によって、食料品や生活必需品などが不足する事態を想定しておかなければならない。SNSの普及で誤った情報が拡散しやすくなっていることも、消費者による買い占め行動に拍車をかける可能性があろう。

サプライチェーンに関わる企業のみならず、新型コロナウイルス対策によって、観光、小売、外食、旅客運送業界などが深刻な影響を受けていると報道されている。航空業界コンサルティング会社のCAPA航空センターは、運航停止や搭乗客の大幅な減少で多くの航空会社の手元資金が急速に枯渇しつつあり、5月末までに経営破綻に追い込まれる可能性に警鐘を鳴らしている。航空各社では、減便、無給休暇などリストラの動きが急ピッチで進められている。国際航空運送協会(IATA)は、新型コロナウイルスの影響により、世界で1,130億ドル(11.3兆円)の需要が失われると試算している。ANAホールディングス、日本航空の売上高合計が約3.5兆円であり、その影響の大きさがうかがえる。イタリアでは生活に必須でない工場や事務所が原則として全て閉鎖され、北米では自動車の生産休止が一斉に発表された。3月末にかけてアメリカでの自動車生産は約8割減るという見方もある。中国の生産が復調してきたとしても、欧米休止の影響をカバーできないだろう。中国においても再感染を警戒しなければならない状況にあり、すぐさまフル生産という訳に行かない。グローバルな販売が通年で3割程度の水準ということになれば、トヨタ、ホンダとも数兆円規模の営業赤字に転落する可能性もある。

(本論はフィスコ世界金融経済シナリオ分析会議での議論をもとに執筆したものである)

(『新型コロナで解き放たれる「灰色のサイ」??債務がもたらす未曾有の危機(2)【中国問題グローバル研究所】』へ続く)
写真:ロイター/アフロ
※:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/



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