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野口悠紀雄氏インタビュー デジタル人民元、リブラ、CBDCの未来予想図 vol.3【フィスコ 株・企業報】

注目トピックス 経済総合
◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 Vol.9 新型コロナウイルスとデジタル人民元の野望 〜中国・衝撃の戦略〜』(4月21日発売)の特集「野口悠紀雄氏インタビュー」の一部である。全3回に分けて配信する。
文:清水 友樹/撮影:渡邉 茂樹


2020年内にはデジタル人民元が発行されるとの観測もあるなか、フェイスブックのリブラは、各国政府の激しい反発にあった。今後、デジタル人民元を含めた中央銀行デジタル通貨(CBDC)には、どんな未来が待っているのか。

■中国政府はデジタル人民元の国外利用を進める

デジタル人民元が発行されれば、すでにアリペイやウィーチャットペイが進出している東南アジア諸国や一帯一路の地域で利用される可能性は高い。

現在、アリペイを使う場合は基本的に中国国内の預金口座に人民元を預け入れておく必要があるが、デジタル人民元ならその必要はなくなる。訪日中国人旅行客のためにアリペイが使える店が増えている日本でも使う人が増えるかもしれない。

日本のキャッシュレス決済は店舗側が決済業者に決して安くはない手数料を支払っている。デジタル人民元ならそのコストがなくなるため、小売店などからは歓迎されるだろう。ただ、人民元に心理的な抵抗感がある日本人は多いので、積極的に個人で使うことはないかもしれないが……。

日本企業がその利便性から海外送金にデジタル人民元を使うことは考えられる。いずれにしても、デジタル人民元は、かなりの国で事実上の共通通貨になる可能性がある。ただし、そうなれば、企業や個人の支払いの詳細なデータが中国当局に筒抜けになる。

■リブラをつぶしてもなおデジタル・米ドルに消極的なアメリカの不思議

不思議なのは、なぜアメリカがデジタルドルに消極的なのかということだ。ムニューシン米財務長官が2019年12月に「今後5年間は、中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)を発行しないだろう」と述べたが、多くの人は不思議だと思っている。

中央銀行がリブラに反発する理由も、中国がリブラに危機感を持つ理由も理解できるが、私もアメリカがデジタルドルになぜ消極的なのかはわからない。

あえてその理由を挙げるなら、FRB(米連邦準備理事会)が2024年頃をメドに、現在の決済システム「Fedwire」を「FedNow」と呼ばれる新システムに改修する準備をすでに進めていることと関係しているのではないかと推測している。これはブロックチェーンを用いない従来型のシステムだが、すでに動き出した既定路線を今さら変更できないのではないか。私はそれぐらいしか理由が思いつかない。

■グーグルが提案するUPIを使ったペイメント

日本ではほとんど報道されていないが、グーグルがUPI(Unified Payments Interface)という仕組みをFedNowに使うことを提案している。

グーグルが関係するシステムをアメリカの決済システムの中核にするという意味で、これはとても重要な意味を持つ提案だ。この仕組みが導入されれば、グーグルがアメリカの決済システムの中核を握る可能性がある。

スマートフォンにグーグルペイのアプリをダウンロードすると、様々な電子マネーが使えるが、それを可能にしているのがUPIという仕組みだ。

フェイスブックはリブラで、グーグルは、「Fednow」にUPIを組み入れることで、マネーの世界での覇権を取ろうとしているのかもしれない。マネーの世界では、グーグルとフェイスブックの争いが始まっているともいえる。「デジタル人民元」と「リブラ」という対立構図で語られているが、じつはそこに「グーグルペイ」も割って入るかもしれない。

世界通貨になれば、リブラやデジタル人民元ではなく、グーグルペイがマネーの世界を支配する可能性もあるということだ。マネーを支配することの意味は、途轍もなく大きいので、今後の動向を注意深く見守る必要がある。

【野口 悠紀雄 Profile】
1940年、東京に生まれ。 1963年、東京大学工学部卒業。1964年、大蔵省入省。1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。著書に『情報の経済理論』(東洋経済新報社)『土地の経済学』、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社)など多数。近著に、『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)、『経済データ分析講座』(ダイヤモンド社)、『「超」現役論』(NHK出版)、『だから古典は面白い』(幻冬舎新書)、『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社)などがある。




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