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「デジタル・インディア」が果たすもう1つの大きな貢献【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

注目トピックス 経済総合
インドで最大かつ主要な国営通信企業の1つであるバーラト・サンチャル・ニガム(Bharat Sanchar Nigam Limited: BSNL)が、NEC<6701>のインド現地法人NEC Technologies India Private Limited(NECTI)に、チェンナイ(Chennai)とベンガル湾の東側に位置するアンダマン・ニコバル諸島(Andaman and Nicobar Islands)の間の海底光ファイバーケーブルシステムを発注したことを発表したのは、2018年7月12日のことである。NECTIが、システムの設計、施工、供給、設置、試験、実装のすべてを担当し、親会社のNECが海底ケーブルを製造するとともに、完成引き渡しまで技術面でのサポートを提供するとされた。

システムは、増幅器を伴うチェンナイとポート・ブレア(Port Blair)の区間と、中アンダマン島(Middle Andaman)、ロング島(Long Island)、ハブロック島(Havelock)、ポート・ブレア、小アンダマン島(Little Andaman)、カー・ニコバル島(Car Nicobar)、カモルタ島(Kamorta)、大ニコバル島(Great Nicobar Island)の間を結ぶ7つの区間から構成される。海底ケーブルの総延長は約2,300kmに達し、毎秒100ギガビットの伝送速度を持つ最新の光波長多重伝送方式が採用されている。新聞1頁の情報量を約20万ビットとすると、単純計算で1秒間に50万頁を送信できる高速回線となる。

2015年7月に、ナレンドラ・モディ首相が発表した「デジタル・インディア」政策では、(1)全国民に対するデジタル・インフラの提供、(2)電子行政サービスのオンデマンド化、(3)デジタル化による国民のエンパワーメントという3つの重要ビジョンを目標に、成長分野として「9つの柱」が示され、多くの事業が実施されてきた。このシステムもその1つであり、完成すればアンダマン・ニコバル諸島にも音声やデータ伝送に十分な通信環境が提供されることになり、企業の誘致や電子商取引施設の設立、教育における知識共有などの促進が期待される。

「デジタル・インディア」政策の推進に大きな貢献を果たすことが明らかなこのシステムは、それ以外にもインドの国防に重要な役割を果たす。それが「水中壁(Undersea Wall)」の構築だ。「水中壁」とは、潜水艦や水上艦艇の動きを追跡するために、海底や水中に配置された水中聴音器や磁気異常検出器などで構成された監視システムのことをいう。

音は水中での伝搬距離が長いことから情報収集の有効な手段の1つであり、米海軍は1951年から水中聴音器等を連接することによって構成される音響監視システム(Sound Surveillance System: SOSUS)を潜水艦探知の重要な手段として位置付け、世界の戦略的に重要な海底に設置してきた。2005年に台湾の軍事情報部門の幹部が明らかにしたところによれば、鹿児島県から沖縄、台湾、フィリピン、インドネシアを経由して、アンダマン・ニコバル諸島につながる長大なSOSUSが構成されているとされる。その形状と設置目的から「Fish Hook」と呼ばれるその監視線は、中国海軍の潜水艦や水上艦艇の行動を把握するうえで重要な役割を果たしている。

日本近海での音響監視システムに海上自衛隊が関与していることは疑いないが、アンダマン・ニコバル諸島におけるSOSUS構成に、対潜水艦戦で高い能力を持つ日米が何らかの形で関与していることも十分に推測される。折しも、11月3日から6日にかけて、日米印豪による共同訓練「マラバール2020」がベンガル湾で実施された。主要な訓練項目には、対空戦訓練、対水上射撃訓練、対空射撃訓練、洋上補給訓練等と並んで対潜戦訓練が含まれていた。アンダマン・ニコバル諸島は、ちょうど釣針の返しにあたる部分に位置している。行動が活発化している中国海軍のインド洋進出への対抗手段を支えるものとして、この通信システムが重要な役割を果たすことになろう。

サンタフェ総研上席研究員 米内 修 防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。



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