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日本の情報収集衛星の現状と展望【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

注目トピックス 経済総合
1998年の北朝鮮による弾道ミサイル「テポドン」の発射を契機に、我が国は情報収集衛星の導入を決定した。外交・防衛等の安全保障および大規模災害等への対応に必要な情報を独自に入手する手段を確保するためである。

情報収集衛星には光学衛星とレーダー衛星がある。2013年4月に光学衛星2機、レーダー衛星2機の4機体制が確立し、以後逐次増強が図られている。情報収集衛星は、地球上約490キロの上空をほぼ南北に飛行し、特定地点を1日に1回以上撮影することが可能だ。光学衛星はデジタルカメラと同様の仕組みで地表からの光を検出する。一方、レーダー衛星は電磁波を放出して反射波を検出する方式の衛星であり、日射に依存しないために夜間や悪天候時にも撮影が可能である。

2020年2月9日、H2Aロケット41号により光学衛星7号機が軌道に投入され、光学衛星2機とレーダー衛星5機、計7機による情報取集体制となった。情報収集衛星の開発、運用、打上げには総額で約1兆3,000億円(年平均約700億円)が投入されている。令和2年度(2020年度)の予算でも625億円が計上されており、10機体制への整備が推進されている。安全保障上の機密なので公表されていないが、日本の光学衛星の解像度は世界最先端に属するとのことだ。

情報収集衛星の開発、運用体制は、開発に関する基本方針等を総合的に検討する情報収集衛星推進委員会と、運営に関する基本方針等を総合的に検討する情報収集衛星運営委員会が担っている。いずれも内閣情報会議の元に設置されており、情報コミュティー省庁(外務省、防衛省、警察庁、海上保安庁、公安調査庁など)と内閣情報調査室との間で緊密な連携が行われている。

内閣情報調査室の内部組織である内閣衛星情報収集センターによると、衛星開発の考え方は、(1)自主開発を基本としてミッションに係る重要な部品等のうち必要なものは国産化を進める。(2)情報収集衛星の継続的運用確保のため、設計寿命5年、開発期間7年を踏まえた長期の視点に立った計画に基づき事業を推進する。(3)宇宙基本計画に基づき、情報収集衛星の機能拡充・強化や即時性・即応性の強化に向け、データ中継衛星の開発、機数増を含め、情報収集衛星の体制を継続的に強化する、とのことである。

災害対策活動や大事故発生の対応における情報収集衛星の画像の活用事例を紹介しよう。2013年11月には、フィリピンを直撃した台風30号の被害状況に関して、情報収集衛星の画像情報を基に製作した「被害状況推定地図」がフィリピン政府に提供された。2014年3月には、マレーシア航空370号機の墜落事故の際、撮影された画像情報から不明機の残骸と見られる漂流物約10個を発見し、マレーシア政府に提供された。2015年9月には、台風18号の影響に関して、茨城県常総市の鬼怒川堤防決壊地域周辺の洪水被害状況を一般公開し、災害対策活動に活用された。

来年度以降の在日米軍駐留経費の日本側負担を巡る交渉で、日本は宇宙やサイバーなどの領域での協力強化を提案すると報じられている。情報収集衛星や測位衛星システムなどで培った、衛星に関する高い技術力により、新型ミサイルを追尾・探知できる衛星群構想やスペースデブリ(宇宙ゴミ)対処への貢献が期待されている。我が国としては、情報収集分野をはじめ宇宙の領域での米国との協力は不可欠であり、強固な連携によって安全保障体制のさらなる強化が見込まれる。

サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。



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