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宇宙環境を守るための活動【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

注目トピックス 経済総合
米国の国防総省戦略軍統合宇宙運用センター(JSpOC)は、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の監視を行っている。2013年に締結された「宇宙状況の監視に関する日米協力の取決め」に基づき、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)はJSpOCとデブリに関する情報交換を行っており、例えば日本の衛星にデブリが衝突しそうになるとJSpOCから警告が発せられる。JSpOCは概ね直径10センチ以上のデブリの観測を行っており、そのデータを日本に提供しているが、逆に日本でもJAXAの「宇宙状況把握システム」(SSA : Space Situation Awareness)の観測で見つけた情報をJSpOCに通報しており、相互の情報共有体制が確立されている。

デブリとは、ロケットの残骸、使用期限を超過した人工衛星やその破片などである。約1,400個の人工衛星が宇宙を周回しているが、10センチ以上の大きさのデブリだけで1万7千個以上が観測されており、中には大型バスほどの巨大なものも存在する。小さいデブリは1億個とも1兆個とも言われるほど多数存在し、600〜1,000キロの低軌道の高度帯の宇宙空間に最も多く存在しているといわれる。2007年1月、中国は自国の老朽化した人工衛星を弾道ミサイルで破壊する実験を行い、大量のデブリを発生させた。また、2009年2月、米国の通信衛星イリジウム33号とロシアの軍事用通信衛星コスモス2251号の衝突により、大量のデブリが発生した。

デブリが宇宙における活動において大きなリスクを与えていることは世界共通の認識になっている。デブリの平均速度は秒速7〜8キロであり、衝突する場合の相対速度は秒速10〜15キロにもなる。衝突時の衝撃は質量に速度の2乗を掛けた値になるため、数センチサイズの小さなデブリでもかなりの破壊力となる。人工衛星同士の衝突のみならず、活動中の人工衛星にデブリが衝突する事例も多数発生している。地上に帰還した人工衛星の表面検査でも多数のデブリ衝突痕が発見されており、今やデブリによる各種トラブルの発生は関係者にとって身近な脅威となっている。

JSpOCによるデブリとの衝突回避の警告のタイミングは、低軌道(2,000キロ以下)であれば1週間前、静止軌道(30,000キロ以上)であれば2週間前だそうだ。該当するデブリが本当に衛星に近づくかを見極め、衝突の可能性が高くなると衛星の軌道を変える準備を行う。JAXAが管理する人工衛星については、水平距離1キロ、高度差200メートル以内に接近する場合には、人工衛星の軌道変更を行っているとのことだ。

宇宙業界にとって大きな課題であるデブリの除去に乗り出した日本のベンチャー企業であるアストロスケール社は、「磁石や接着剤」によりデブリを捕獲し、高度を下げて大気圏で燃焼させる計画を作成した。2020年初頭からデブリ除去に必要な総合的実証を開始している。また、スカパーJSAT<9412>は、理化学研究所、JAXA、九州大学、名古屋大学と連携し、レーザーを使用してデブリを除去する設計・開発を始めている。レーザー方式による除去は、(1)直接接触しないため安全性が高い、(2)デブリ自身が燃料となり、移動に燃料を必要としないため経済性が高い、という特徴を有している。2026年の除去サービス提供開始を目指している。

JAXAでは、デブリの状況把握、衝突警報の発信、デブリを発生させない各種対策及びデブリの除去に加え、デブリ問題に関して総合的に取り組む組織を編成し、国際標準、ルール化の検討を行っているとのことである。宇宙環境を守る対策の推進によって宇宙開発の継続的発展に繋がるよう各国、各分野とのさらなる連携の強化を期待したい。

サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。



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