馬毛島(種子島)に自衛隊・米軍の新訓練拠点が開設【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
[20/11/25]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 経済総合
日本政府は、九州南部、種子島沖の馬毛島に自衛隊基地を新設し、米海軍空母艦載機の離着陸訓練場を提供する計画を推進している。馬毛島は、種子島(種子島は、西之表市、中種子町、南種子町の3自治体から成る)の西約12キロメートルに位置し、広さは約8平方キロメートル(東京ドーム約170個分)の無人島だ。馬毛島は中国が主張する防衛ラインである「第一列島線」の起点周辺にあたり、日本国内にある5つの国際海峡(国連海洋法条約第3部第2節37条:公海又は排他的経済水域の一部と公海または排他的経済水域の他の部分との間にある国際航行に使用されている海峡で、領海の幅が通常の12海里ではなく3海里に留められている)の一つとなる大隅海峡に位置する戦略的要衝である。自衛隊・米軍の新訓練拠点開設に伴うこれまでの経緯や、新設される基地の運用構想などをみてみよう。
2011年6月、当時の民主党政権は、日米安全保障協議委員会(2プラス2)において馬毛島を米海軍空母艦載機の離着陸訓練(FCLP:Field Carrier Landing Practice)の移転候補地に決定することで米国政府と合意した。空母艦載機のパイロットは、休養や整備補給のため空母が母港に寄港する年に数カ月の期間中に、空母発着艦資格を失効してしまうことがある。空母が出港前に再度、離発着艦資格を取得するために、FCLPが行われている。
以前は神奈川県の厚木基地でこの訓練を行っていたが、騒音軽減のため1991年からは本土から約1,200キロメートル離れた硫黄島で実施している。米軍再編で空母艦載機部隊は厚木基地から岩国基地に移駐し、艦載機のパイロットは岩国から硫黄島まで飛行し、この訓練を行っている。硫黄島に進出帰投する際、経路上には不具合発生時に不時着できる飛行場がないという不安を抱えているため、米政府は岩国から遠くない場所での訓練施設の確保を強く要望している。
2018年2月、本計画に反対署名活動や抗議行動を行っていた「米軍基地等馬毛島移設問題対策協議会」は、中種子町議会、南種子議会の離脱により解散した。2019年11月、政府は島の大半を所有していた地権者から島を買収し、国有地に編入している。2020年8月には、防衛副大臣が西之表市を訪問し、(1)我が国を取り巻く安全保障環境、(2)馬毛島に自衛隊施設を整備する必要性、(3)空母艦載機の離着陸訓練の概要、(4)自衛隊馬毛島基地(仮称)の部隊配備計画、などを説明した。
地元住民の基地新設への賛否は割れている。2020年9月、港湾施設建設のための島周辺海域でのボーリング調査の実施に関し、種子島漁協は同意の意向を示し、中種子町、南種子町議会でも概ね賛同が得られているという。一方、2020年11月9日、西之表市の矢板俊輔市長は岸信夫防衛大臣に、「市民の理解が得られていない」という理由で正式に自衛隊基地新設に反対の意思表明を行っている。2021年2月に西之表市長選挙が行われる予定であり、その際には民意が明らかになろう。
2020年8月の防衛副大臣の住民説明の際の部隊配備計画では、新設基地は整備補給等後方支援の施設として機能させ、自衛隊員約150〜200名程度を常駐させるが、航空機の常時配備はしないと基地の運用構想を説明している。米海軍艦載機のFCLPに加え、自衛隊最新鋭ステルス機F-35Bの護衛艦への離発着を想定した訓練、陸上自衛隊オスプレーの物資輸送訓練、陸上自衛隊の水陸機動団の揚陸訓練、US-2による離着水訓練や救難訓練、ミサイル防衛の一端を担うPAC-3機動展開訓練など総合的な防空、救難、離島防衛の訓練など行う見込みだ。防衛省は、この馬毛島基地を活用し、我が国南西地域における防衛の要衝に築き上げたいのだろう。
我が国周辺には、力による現状変更を試みようとする国家が存在し、我が国領域への不法な侵入が継続し、我が国島嶼の領有さえ公言されている。第一列島線の長さは1,000キロメートル以上あるが、この中に自衛隊の基地や拠点は陸海空あわせて9カ所(陸自4、海自3、空自2)である。馬毛島が米海軍艦載機の離着陸訓練場として活用されることに加え、自衛隊の訓練拠点、戦略物資展開拠点になることは、我が国の防衛構想に与える意義が大きいと考えている。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
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2011年6月、当時の民主党政権は、日米安全保障協議委員会(2プラス2)において馬毛島を米海軍空母艦載機の離着陸訓練(FCLP:Field Carrier Landing Practice)の移転候補地に決定することで米国政府と合意した。空母艦載機のパイロットは、休養や整備補給のため空母が母港に寄港する年に数カ月の期間中に、空母発着艦資格を失効してしまうことがある。空母が出港前に再度、離発着艦資格を取得するために、FCLPが行われている。
以前は神奈川県の厚木基地でこの訓練を行っていたが、騒音軽減のため1991年からは本土から約1,200キロメートル離れた硫黄島で実施している。米軍再編で空母艦載機部隊は厚木基地から岩国基地に移駐し、艦載機のパイロットは岩国から硫黄島まで飛行し、この訓練を行っている。硫黄島に進出帰投する際、経路上には不具合発生時に不時着できる飛行場がないという不安を抱えているため、米政府は岩国から遠くない場所での訓練施設の確保を強く要望している。
2018年2月、本計画に反対署名活動や抗議行動を行っていた「米軍基地等馬毛島移設問題対策協議会」は、中種子町議会、南種子議会の離脱により解散した。2019年11月、政府は島の大半を所有していた地権者から島を買収し、国有地に編入している。2020年8月には、防衛副大臣が西之表市を訪問し、(1)我が国を取り巻く安全保障環境、(2)馬毛島に自衛隊施設を整備する必要性、(3)空母艦載機の離着陸訓練の概要、(4)自衛隊馬毛島基地(仮称)の部隊配備計画、などを説明した。
地元住民の基地新設への賛否は割れている。2020年9月、港湾施設建設のための島周辺海域でのボーリング調査の実施に関し、種子島漁協は同意の意向を示し、中種子町、南種子町議会でも概ね賛同が得られているという。一方、2020年11月9日、西之表市の矢板俊輔市長は岸信夫防衛大臣に、「市民の理解が得られていない」という理由で正式に自衛隊基地新設に反対の意思表明を行っている。2021年2月に西之表市長選挙が行われる予定であり、その際には民意が明らかになろう。
2020年8月の防衛副大臣の住民説明の際の部隊配備計画では、新設基地は整備補給等後方支援の施設として機能させ、自衛隊員約150〜200名程度を常駐させるが、航空機の常時配備はしないと基地の運用構想を説明している。米海軍艦載機のFCLPに加え、自衛隊最新鋭ステルス機F-35Bの護衛艦への離発着を想定した訓練、陸上自衛隊オスプレーの物資輸送訓練、陸上自衛隊の水陸機動団の揚陸訓練、US-2による離着水訓練や救難訓練、ミサイル防衛の一端を担うPAC-3機動展開訓練など総合的な防空、救難、離島防衛の訓練など行う見込みだ。防衛省は、この馬毛島基地を活用し、我が国南西地域における防衛の要衝に築き上げたいのだろう。
我が国周辺には、力による現状変更を試みようとする国家が存在し、我が国領域への不法な侵入が継続し、我が国島嶼の領有さえ公言されている。第一列島線の長さは1,000キロメートル以上あるが、この中に自衛隊の基地や拠点は陸海空あわせて9カ所(陸自4、海自3、空自2)である。馬毛島が米海軍艦載機の離着陸訓練場として活用されることに加え、自衛隊の訓練拠点、戦略物資展開拠点になることは、我が国の防衛構想に与える意義が大きいと考えている。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
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