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統合作戦における「規範的」アプローチの必要性【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

注目トピックス 経済総合
2020年12月1日、米国統合参謀本部は統合ドクトリンの1つである「統合計画(Joint Planning)」の改訂版を発表した。この文書によれば、統合ドクトリンは「兵員(Personnel)」、「情報(Intelligence)」、「作戦(Operations)」、「兵站(Logistics)」、「計画(Plans)」、「通信システム(Communications System)」の6つのカテゴリーから構成されている。「計画」に位置付けられる「統合計画」は、合衆国軍隊が一連の関連する複数の作戦からなる大規模な統合軍事作戦である戦役(Campaign)や個別の統合作戦計画を策定する際に準拠となる、ドクトリンの基盤や基本的原理を提供する。国際的な作戦環境の変化や科学技術の進展などを受けて継続的に見直され、過去10年間では2011年と2017年に続き3度目の改訂となった。

現代の軍事作戦は、科学技術、特に衛星を利用した通信技術の急速な発展によって、陸海空といった20世紀型の戦闘ドメインのみならず、宇宙やサイバーといった新たなドメインを含む大規模で複雑なものになっている。異なる軍事作戦思想、組織文化、兵器体系などを持つ複数の軍種の能力を組み合わせ、決定的な時期と場所に最大の戦闘力を発揮させるため、統合ドクトリンの重要性は一層高まっている。また、多国籍軍(multinational force)や有志連合(coalition of the willing)が関与する国際紛争も多く発生し、複数の国家の能力を統一して行われる軍事作戦でも統合ドクトリンの基本的なコンセプトは有効だと考えられている。

統合作戦に限らず、軍事作戦計画は最も合理的な判断に基づいて策定される。それは、国家あるいは上級部隊から示される戦略指針に基づいて「目的(ends)」を明確にしたうえで、受け入れ可能な「リスク(risk)」レベルの範囲内で、「手段(means)」となる軍事的能力をどのような「方法(ways)」で使用するかを決定する繊細なプロセスだ。自由意思を持つ敵対者との相互作用が繰り返される軍事作戦は、その成否が国家安全保障に直接影響し、人命を含む莫大な資源が投入され、まったく同じ状況が決して再現されないという特性があるため、その策定や実行には慎重な判断が必要とされる。

合理的な意思決定のために用いられるものの1つが、規範的アプローチである。その一般的なプロセスには、保有している手段の能力を前提として、目的達成に必要な情報を入手して状況を把握し、方法の選択肢を設計して列挙し、それぞれの選択肢を分析・評価し、選択肢を比較したうえで最良のものを選択するという段階がある。それぞれの段階を1つずつ処理することによって、当面する環境下で目的を達成するために最適な方法を決定することができる。同時に、プロセスを明確に定めることによって、関係者の間での認識や理解の共有が容易になるという利点もある。

「統合計画」においても、明確に整理された論理的な分析ステップが「統合計画プロセス(The Joint Planning Process)」として設定されている。(1)計画策定の開始、(2)任務の分析、(3)行動方針の作成、(4)行動方針の分析とウォーゲーム、(5)行動方針の比較、(6)行動方針の承認、(7)計画及び命令の作成、という7つのステップからなるこのプロセスは、全体として規範的アプローチが適用されていることが明白だ。これまでの直近3度の改定においてもこのプロセスは変更されることなく維持されており、統合作戦における合理的意思決定が徹底されていることが窺える。統合計画において規範的アプローチが重要であることの証左といえるだろう。

サンタフェ総研上席研究員 米内 修 防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。



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