イスラエル、イラン、リーダー交代が中東和平に与える影響(2)【実業之日本フォーラム】
[21/06/28]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 経済総合
本稿は、イスラエル、イラン、リーダー交代が中東和平に与える影響(1)【実業之日本フォーラム】(※1)の続編となる。
ここで、中東和平における重要な要素の一つである「イラン核合意」についてみてみよう。2015年の「イラン核合意」の目的は、「イランのウラン濃縮率を3.67%に抑え、高濃縮ウランと兵器級プルトニウムを15年間生産させない。ウラン濃縮に必要な遠心分離機を削減させ、国際原子力機関(IAEA)の査察下におく」というものであった。イランは、2018年のトランプ政権の核合意離脱後、ウラン濃縮を60%にまで高めていると言われている。AFPは、「イラン核合意について、英仏独中ロとイランは、2021年6月20日、合意再建を目指しウィーンで次官級の合同委員会を再開した。合意復帰を検討する米国も、合同委員会外で各国と協議した。議長を務めた欧州連合(EU)欧州対外活動庁のエンリケ・モラ事務局次長は、記者団に対し、『妥協に近づいているが、核合意の再建には到達はしていない』と進捗状況を発表した」と報じた。
一方、BBCは、「イランのアッバス・アラグチ外務次官は、『合意に向けてかつてないほど近づいているが、各国との距離を埋めるのは簡単ではない』と表明。米国のジェーク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、『イランが行うべき取組みについてはまだ、かなりの隔たりが残されている。また、核合意への復帰にイランの大統領の交代自体は重要な問題ではない』との認識を示した」と説明した。バイデン政権は選挙公約に「イラン核合意への復帰」を掲げ、ブリンケン国務長官はじめ2015年、「イラン核合意」を担当した中東問題の専門家を多数登用している。
6月20日、BBCによると、イスラエルのベネット首相は、「イランの核合意の復活に向けた協議が続く中、米国や同盟国に対し、イランが核兵器開発を進めており、イランの脅威に目を覚ますよう」求めた。他方、ライシ師を大統領に据えたイランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、「イスラエルは同地域から排除すべき『がん性腫瘍』だと呼び、イスラエルという国家の排除を求めた」と報じた。イスラエルの元国防相で精鋭部隊での軍歴のある極右政党党首のベネット氏と、イランの最高指導者ハメネイ師に絶対の忠誠を誓う反米保守強硬派のライシ師の登場により、否応なしに緊張が高まることが見積もられるだろう。
日本の原油輸入量の9割を依存する中東地域の情勢は、わが国の生存に直接大きな影響を及ぼしている。自衛隊は、日本関係船舶の安全航行確保のため、2020年から「調査研究」の名目で、オマーン湾およびアラビア海北部に護衛艦と航空機を派遣している。イスラエル、イランのリーダー交代で緊張が高まるのか、両国と周辺国・関係国に変化はあるのか、「イラン核合意」の再建はあるのか、これらの問題は、決して対岸の火事ではない。わが国に大きな影響を及ぼすことを銘記し、今後の動静をしっかり見極める必要があるだろう。
イランは中東きっての親日国家であり、90年に渡る日本との国交を通じて良好な外交関係を維持している。日本は、この良好な外交関係を活かして地域の安定に積極的に関与していく姿勢が必要である。また、1952年に建国したイスラエルとは、1956年から、東アジアで初めて外交関係を樹立し、年々強固な外交関係と活発な要人、文化・学術・経済の交流を進めている。
日本は、イランとイスラエルが少なくとも表面上妥協することができない情勢下で、二国間の橋渡しをすることが可能な立場にある。今後は、積極的な意見交換などをつうじて、日本としていかなる貢献策が可能なのか探っていくべきだ。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
写真:AP/アフロ
※1:https://web.fisco.jp/platform/market-news/0009330020210628006
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
<RS>
ここで、中東和平における重要な要素の一つである「イラン核合意」についてみてみよう。2015年の「イラン核合意」の目的は、「イランのウラン濃縮率を3.67%に抑え、高濃縮ウランと兵器級プルトニウムを15年間生産させない。ウラン濃縮に必要な遠心分離機を削減させ、国際原子力機関(IAEA)の査察下におく」というものであった。イランは、2018年のトランプ政権の核合意離脱後、ウラン濃縮を60%にまで高めていると言われている。AFPは、「イラン核合意について、英仏独中ロとイランは、2021年6月20日、合意再建を目指しウィーンで次官級の合同委員会を再開した。合意復帰を検討する米国も、合同委員会外で各国と協議した。議長を務めた欧州連合(EU)欧州対外活動庁のエンリケ・モラ事務局次長は、記者団に対し、『妥協に近づいているが、核合意の再建には到達はしていない』と進捗状況を発表した」と報じた。
一方、BBCは、「イランのアッバス・アラグチ外務次官は、『合意に向けてかつてないほど近づいているが、各国との距離を埋めるのは簡単ではない』と表明。米国のジェーク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、『イランが行うべき取組みについてはまだ、かなりの隔たりが残されている。また、核合意への復帰にイランの大統領の交代自体は重要な問題ではない』との認識を示した」と説明した。バイデン政権は選挙公約に「イラン核合意への復帰」を掲げ、ブリンケン国務長官はじめ2015年、「イラン核合意」を担当した中東問題の専門家を多数登用している。
6月20日、BBCによると、イスラエルのベネット首相は、「イランの核合意の復活に向けた協議が続く中、米国や同盟国に対し、イランが核兵器開発を進めており、イランの脅威に目を覚ますよう」求めた。他方、ライシ師を大統領に据えたイランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、「イスラエルは同地域から排除すべき『がん性腫瘍』だと呼び、イスラエルという国家の排除を求めた」と報じた。イスラエルの元国防相で精鋭部隊での軍歴のある極右政党党首のベネット氏と、イランの最高指導者ハメネイ師に絶対の忠誠を誓う反米保守強硬派のライシ師の登場により、否応なしに緊張が高まることが見積もられるだろう。
日本の原油輸入量の9割を依存する中東地域の情勢は、わが国の生存に直接大きな影響を及ぼしている。自衛隊は、日本関係船舶の安全航行確保のため、2020年から「調査研究」の名目で、オマーン湾およびアラビア海北部に護衛艦と航空機を派遣している。イスラエル、イランのリーダー交代で緊張が高まるのか、両国と周辺国・関係国に変化はあるのか、「イラン核合意」の再建はあるのか、これらの問題は、決して対岸の火事ではない。わが国に大きな影響を及ぼすことを銘記し、今後の動静をしっかり見極める必要があるだろう。
イランは中東きっての親日国家であり、90年に渡る日本との国交を通じて良好な外交関係を維持している。日本は、この良好な外交関係を活かして地域の安定に積極的に関与していく姿勢が必要である。また、1952年に建国したイスラエルとは、1956年から、東アジアで初めて外交関係を樹立し、年々強固な外交関係と活発な要人、文化・学術・経済の交流を進めている。
日本は、イランとイスラエルが少なくとも表面上妥協することができない情勢下で、二国間の橋渡しをすることが可能な立場にある。今後は、積極的な意見交換などをつうじて、日本としていかなる貢献策が可能なのか探っていくべきだ。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
写真:AP/アフロ
※1:https://web.fisco.jp/platform/market-news/0009330020210628006
■実業之日本フォーラムの3大特色
実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。
1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム
・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する
・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う
2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア
・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く
・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える
3)「ほめる」メディア
・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする
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