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世界で加速する無人機(UAV)活用に注目【実業之日本フォーラム】

注目トピックス 経済総合
2021年9月22日、CNNは、「米国航空機大手ボーイング社は、オーストラリア東部トゥーンバに、米国以外で初めて無人戦闘機の最終組み立て工場の新設計画を発表した。米国の大手航空機製造メーカーは、かつて全ての製品を米国内で製造していた時代もあったが、国外で製品を製造するのは人件費削減、外国への製品の納期の短縮や経費削減を図るためだ」と報じた。豪州は、9月14日に米英と新インド太平洋安全保障同盟「AUKUS(オーカス)」を創設しており、今回の決定は、米英豪関係緊密化の更なる梃となるであろう。

ボーイング社は、9月14日に無人給油機MQ-25「スティングレイ」が、米海軍F-35C「ライトニングII」への空中給油に成功したと発表した。これに先駆け6月7日にはF/A-18「スーパーホーネット」に対し、8月19日にはE-2D「ホークアイ」に対し空中給油を成功させている。また、アメリカ空軍研究所は、3月下旬に亜音速自律無人戦闘機XQ-58A「ヴァルキリー」の飛行試験において、機体内部の兵器格納庫から攻撃兵器「ALTIUS-600」の射出成功という攻撃能力や、「gatewayONE」という通信ツールによる第5世代のF-22とF-35戦闘機間のデータ通信などの通信中継機能確立に成功している。その他、米空軍は、2009年段階で120機のMQ-1「プレデター」、2015年には、MQ-9「リーパー」340機を調達し、無人航空戦力の充実を図っている。

航空自衛隊は8月24日から3日連続で、中国の無人機に対してスクランブル発進を行った。
背景として、沖縄南方海域で行われた英空母「クイーン・エリザベス」を中核とする打撃群と海上自衛隊との共同訓練や、米、印、豪と海上自衛隊による「マラバール21」共同訓練に対する情報収集を行った可能性が指摘されている。
ここで特筆すべきは、TB-001とBZK‐005という無人機2機種がY-9情報収集機とともに、初めて宮古海峡を通過し、太平洋側に進出してきたことが確認されたことだ。

また、令和2年度防衛白書は、「中国は2019年10月の建国70周年軍事パレードにおいて、攻撃型ステルス無人機とされるGJ-11と呼称される機体や、高高度高速無人偵察機WZ-8と呼称される機体が展示された。中国は小型無人機を多数使用する『スウォーム(群れ)』技術の向上も見積もられている。このような航空戦力の近代化状況などから、中国の、より遠方での戦闘支援可能な能力や情報収集能力の向上を着実に進めている」と指摘している。さらに、2021年9月28日から開催される中国珠海での航空ショウにおいて高高度無人機「無偵WZ-7」が初披露される予定だと報道された。

では、世界で加速する無人機(UAV)の状況について概観してみよう。
イスラエルは、これまで米国と1、2位を争う無人機大国であった。非常に厳しい戦略環境下で、国民の人口が少ないイスラエルは、兵士の損耗を極減しながら戦闘目的を達成しなければ国家成立要件の一つである国民そのものが枯渇してしまうという状況だったからであろう。

イスラエルは1970年代から無人機の開発を開始し、現在では米国や中国と並ぶ世界有数の無人機製造国であり、輸出国である。ストックホルム国際平和研究所の調査によると1985年から2014年までの国別の無人機の輸出割合において、イスラエルは約60%を占め世界1位であった。新聞報道等によると、2020年のナゴルノ・カラバフ紛争においてイスラエルの無人機IAI(Israel Aerospace Industries)社製「ハーピー」「ハーピーNG」等の徘徊兵器(標的の周辺を長時間飛び回り、設定された条件を満たした目標に特攻する小型の無人兵器をいう:IAI公式サイト)がレーダーサイト等への自爆攻撃により防空網を破壊したと言われている。

また、トルコでは「バイラクタルTB2」無人機を製造しているが、ロイターによると、ナゴルノ・カラバフ紛争での「バイラクタルTB2」無人機活躍を受けて、アルバニア、ポーランド、ラトビア等から調達要望が殺到しており、ウクライナ、カタールはすでに入手していると報道された。米国のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「カラシニコフAK-47を彷彿とさせる売れ行きだ」と称賛、また、フランスのル・モンド紙は「トルコ製UAVは飛ぶように売れる。たった数年でトルコは米国、イスラエル、中国に追いつきそうな勢いをみせた」と表現した。

トルコの地元メディア、サバ紙によると、「バイラクタルTB2」を製造したバイカル社は、亜音速のジェット無人戦闘機「MIUS」の研究開発を進め、2023年に初飛行を計画しているとのことである。「MIUS」は、空対空ミサイル、空対地巡航ミサイル、精密誘導兵器等を約1.5トンまで搭載でき、スキージャンプ台のような離発着装置を備えた強襲揚陸艦「アナドル」から発着艦可能な兵器となるとのことである。トルコも着々と新型の無人機開発に乗り出している。

世界で、様々な機能や兵装を有した無人機(UAV)の開発や運用が進む中、日本では、2021年3月18日、航空自衛隊三沢基地に「臨時偵察航空隊」が新編され、今後調達されるRQ-4「グローバル・ホーク」の運用開始に向け、地上構成品、整備用機材、受入施設などを整え、隊員約70名体制で新たな一歩を踏み出した。

防衛省は、31中期防衛力整備計画において「空中での常続的監視が実施できる無人機部隊の新編」を掲げ、すでにFMS(Foreign Military Sales「有償援助」)を通じて米国政府から3機のRQ-4「グローバル・ホーク」無人機及び関連設備等の調達を行い、いよいよわが国での無人機の運用が始まろうとしている状況である。

世界の航空戦闘は無人機(UAV)やロボット兵器化へと進んでいる。わが国周辺においても、無人機大国でもある中国の無人機による周辺海域での運用が確認され、今後ますますその頻度が増加することが予想される。

わが国は、今後の無人機活用時代に備え、法整備や運用面の手続きなど、不具合のないよう準備しなければならない。自衛隊法84条の「領空侵犯措置」において、無人機への対応は十分なのか、不十分であれば何を補わなければならないのか。また、現場における対応も手順や意思疎通は確立しているだろうか。不具合事案が発生してから右往左往するのではなく、あらゆる事態を想定した万全の体制の構築を期待したい。


サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。

写真:USAF/Cover Images/Newscom/アフロ


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