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中国的特徴に満ちた危機の一年(1)【中国問題グローバル研究所】

注目トピックス 経済総合
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察を2回に渡ってお届けする。


2021年は危機の一年か?
2021年が金融危機、そして企業の危機が相次いだ一年であったという主張には正当性がある。経済における過剰なレバレッジ取引の問題は、誰の眼にも明らかであったが、はたしてパニックは、どこで起きていたのだろうか? その結果、世界的な影響がどこかで生じていただろうか? そして、リーマンショックのような瞬間は、存在していただろうか? そうした事態は起きなかったが、代わりに2021年は、中国的特徴に満ちた危機の一年だった。企業そして国有部門が被った一連の打撃は、多大な注目を集めながらも、管理・統制された経済システムの中で、驚くほど見事に封じ込められた。中国の指導者たちは、自国の経済問題を解決する魔法の杖を手にしているわけではないが、問題の影響や副次的結果を弱める術は持っているのだ。

その最たる手段として、先進国の開かれた市場であれば急性ショックとなるような出来事も、中国では慢性的な長期的問題へと転換されるが、そうした問題は、その後数年間、政策や成長にのしかかり続けることになる。この副次的な影響についても、より効果的に対処することが可能である。というのも、2021年に注目を集めた株価暴落は、主に香港やニューヨークで起きていたからだ。

2021年はまず、アントフィナンシャル社の超大型IPO(新規株式公開 )中止以来続いていた市場の混乱で幕を開け、次に何が起こるのかと誰もが身構える状況となった。 だが、その時点で策定作業が進行していた大量の規制変更に対し、準備ができている者はほとんどいなかった。2021年に掲載した本コラムでは、顕著な破綻をいくつか取り上げてきたが、年末にあたり、それらの問題の大きさを把握できるよう、再度それらをリストアップするのは有意義だと思われる。まず中国華融資産管理(華融)については、中国の金融インフラにおける王族というのが、ベストな説明だろう。ICBC(中国工商銀行)の「バッドバンク」のパートナーである華融資産管理は、放漫貸付政策の必然の結果として生じた不良債権の解決を手助けする管理会社として、20年以上前に設立された。

破綻した融資や事業をさらに引き受けたことで、同社の事業範囲は当初の任務を大幅に超えて拡大したが、それが可能であったのも、国家による保証という暗黙のステータスが信じられていたからだ。だが最終的に同社は行き詰まり、その債券価格も暴落し、香港の上場株は9ヵ月間停止された。最終的には国が、CITIC(中国中信集団公司)とその他の中央集権的に管理されるSOE(国有企業)が主導するベイルアウト(公的資金注入による救済)を実行し、華融は、金融エリートの内部サークルから効果的に後押しを受けることになったのである。 華融の設立に関わった人々にとって、このような終わりを迎えることは想像もつかなかったであろうが、それが現実だった。つまり華融も、失墜し規制当局の長年に及ぶ再建プロジェクトの対象となった金融大手のリストに加わったわけであり、このリストは拡大し続けている。

これに劣らず衝撃的なのが、国内最大の不動産開発会社である恒大集団における、現在進行中の経営危機である。 同社の株価は年初来で90%下落しており、負債総額は約3,000億米ドルに達している。すでに一部資産を売却したとはいえ、確実性のある救済計画はまだ存在していない。恒大集団は、中国本土における大半の建設工事を再開したと発表しているが、政府が国内での大衆への派生的影響に対処していくためには、この再開は不可欠なのである。住宅所有者たちは恒大集団の未払債務にはほとんど関心がないが、当然ながら、自分たちがすでに支払った不動産の引き渡しを要求している。

そして7月には、国内のテック業界も混乱に陥った。 配車サービス大手の滴滴出行は、規制環境が悪化する中でも、米国での上場を進めてきた。ところが上場後、中国政府は、同社のアプリの国内でのダウンロードを停止させ、アプリを中国サイバースペース管理局(CAC)の審査対象にすると発表した。CACが発行した海外上場企業のデータセキュリティ保護に関する新規則は、突如として、金融業界にとっての必読文書となった。滴滴出行はそれ以来、米国における上場廃止を勧告されているが、この状況は、中国企業が被っている情報開示不足と政治的リスクの問題の典型的な例である。同社が14米ドルで上場した株式は、現在、5米ドル前後で取引されている。7月にはさらに、オンライン家庭教師業界に対する突然の取り締まりが行われ、海外投資も禁止され、企業は利益を出すことを制限され、事業範囲は大幅に縮小した。文字通り一夜にして、時価総額にして1,000億米ドルが株式市場から消え、中国の至るところで教室が閉鎖された。

この取締まり、そして企業の崩壊は、その規模と徹底度において、最近の中国の歴史では前例がなく、おそらく最も近いのは1990年代の国有企業数千社の廃止であろうが、ただしその当時の中国経済は、現在とは大きく異なるものであった。現在中国国内で成長を牽引しているのは、主に不動産、テクノロジー、そして消費である。

しかし企業の破綻は、政府が対処しなければならないストレスのごく一部に過ぎない。 昨年EUと合意した包括的投資協定は、数ヵ月も経たないうちに行き詰った。新疆ウイグル自治区を巡っての対中制裁と報復制裁のあげくに、欧州議会による承認が見送られたからだ。新疆ウイグル自治区と香港での人権侵害に対する欧州の懸念、レトリック、そして行動は、この1年間弱まっておらず、2022年も弱まる見込みはない。 一方で、国内にはさらに切迫した懸念がある。財新が年末に報じた、中国の「ラストベルト」に該当する黒龍江省の鶴崗市が、財政難を理由に下級公務員の雇用計画を撤回した問題である。 ほんの数年前まで、鶴崗は石炭の町として活況を呈していたが、現在は基本的な公務員を雇う余裕すらなくなったのである。 今後こうした苦境に陥る地方自治体は、他にもあるだろう。恒大集団の破綻危機と本質的に結びついている不動産販売の減速により、多くの市や町のキャッシュフローが大幅に減少しているからだ。


「中国的特徴に満ちた危機の一年(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。

写真: AP/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/




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