ビットコインがもし複数に分裂した場合、市場はどう動くか【アルトコイン評価ニュース】
[17/04/14]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 市況・概況
足元ビットコイン価格に最も影響を与えているのは、ビットコインが将来複数の仮想通貨へと分裂するかもしれない(ハードフォークとも呼ばれる)という不安感だ。それではもしもビットコインがハードフォークした場合、どのようなことが起こるのだろうか。
実はひとつの仮想通貨が分裂する事象には前例がある。仮想通貨の時価総額ベースでビットコインに次ぎ第2位のイーサリアム(ETH)という仮想通貨は、昨夏ハードフォークによってイーサリアム(ETH)とイーサリアム・クラシック(ETC)という2種類の仮想通貨に分かれることになった。
現状ビットコインには複数の種類に分裂する可能性が出てきており話が入り組んでいるが、最も有力視されているのがオリジナルのビットコイン(BTC)と、別タイプのソフトウェアバージョンの採用を主張するビットコイン・アンリミテッド(BTU)の2タイプだ。今回は、ETHとETCが分裂後どのような価格推移を見せたのかを振り返ることで、ビットコインが仮に分裂したとした後について考えてみたい。
イーサリアムは2016年7月20日にハードフォークして、ETHとETCという2つの通貨に分かれた。ハードフォーク直前の7月1日から20日のETHの価格は10〜12ドルのレンジ幅で推移していたが、20日のフォーク後もETHの価格は11〜12ドルで推移し、特段大きな変化は見られなかった。一方ETCの価格はハードフォークから数日後に400%超の急騰を見せて一時約6.5ドル(7月26日)を示現し、ETH価格の半分近くに迫った。このまま勢いにのってETCはETHを超えるかに見えたが、ハードフォークからおよそ10日後の2016年8月1日時点になると1ETC=約2.2ドル、1ETH=約11ドルという価格帯に落ち着き、その後の両者の価格推移も概ね3月半ばまではこの価格差を大きく逸脱することなく推移した。
今年3月に入ってからはビットコイン分裂の可能性について多く話題にあがる不透明な状態が続くと、半月の間にETHの価格は約18ドルから約53ドルと最大約300%の高騰を見せた。同期間の間にETCは約1.3ドルから約2.7ドルと、こちらも最大約200%超の高騰を見せてはいるものの、価格差は大きく広がった形となった。
こうしてみるとイーサリアムでは、分裂前の通貨の名をそのまま掲げるETHの方が8ヵ月後の現在に至るまで一貫してETCよりも高い価格水準を維持してきたことがわかる。これにはETH側に業界で著名な開発者が属しているという背景がある。現在はさらに価格差が広がった形となっているが、一方で分裂したETCも仮想通貨ランキング全体の中で見れば常に10位前後(時価総額ベース)と高位を保持しているともいえる。
これを踏まえるとビットコインの場合も、分裂前から貢献してきた開発者が多く属するBTCの方が高い価格水準を維持して、BTUはやや下の位置で価格推移を続けることになるかという予測が立つ。
ただし、イーサリアムの先例をビットコインに参照しようとするときに留意すべき点は複数ある。
まず無視できない点はビットコインの時価総額の大きさだ。現在ビットコインの時価総額は約200億ドル、1BTC=約1,180ドル(4月12日時点)で取引されているのに対し、イーサリアム(ここではETH)の時価総額はビットコインに次ぐ2番手とはいえビットコインのおよそ5分の1(4月12日時点)とまだ大きな開きがある。しかもこのETHの価格は、ビットコイン分裂の話題が頻繁に出てきた今年3月半ば以降にリスク分散先として買いが増長し、前月比約3倍以上に高騰した後の数字だ。当然、ビットコインの分裂が市場に与えるインパクトはイーサリアムより甚大となるだろう。
次にビットコインの知名度の高さだ。仮にビットコイン(BTC)とビットコイン・アンリミテッド(BTU)という2つの選択肢が出来たとして、一般の方が「どちらがこれまでと同じ仕様で、どちらが新しい仕様のアルトコインか」を明確に判断して取引できるどうかは未知数だ。特に日本では、4月1日より施行された改定資金決済法の中に新たに仮想通貨の項目があり(通称仮想通貨法)、これを受けてビックカメラがビットコイン決済に乗り出すと発表して注目を集めている。利用者の裾野が広がればそれだけ、単純に「ビットコイン」と名の付く取引量の多いコインを選ぶ層も増えることが予測される。今のところ、BTCを所有する人には分裂後には同量のBTUが配当されることになっており、大きな売買が起こる可能性がある。
続けて、ビットコインとイーサリアムの仕様の違いがある。ビットコインは元来「おカネ」として、仮想通貨の名前の通り暗号技術を利用した通貨たるべくデザインされたものであるのに対して、イーサリアムはスマートコントラクト・分散型アプリケーションの構築プラットフォームとして作られているものであり、ETHはそのネットワーク内の通貨という位置づけだ。ビットコインとイーサリアムに期待されることは異なる。支払い手段としてみれば、ビットコインが複数の種類に分裂してしまうことはどちらのコインを多く所有していたとしても利便性の低下でしかない。
また、ビットコインのハードフォークとイーサリアムのハードフォークは、厳密にはその性格が大きく異なる。重要な点は分裂するコインの数だ。イーサリアムは予期せぬ事故によって技術者間の志向の違いが露見したことから突発的な形で2種類のコインへと分裂する形となったが、ビットコインの場合は過去2年ほどに渡って技術者、ビジネスサイドが議論を続けてきた。このため、実は上記で紹介したBTCとBTU以外にも、さらに複数のコインへと分裂する可能性もある。実現した場合、それぞれの価値が希釈される可能性は高まるだろう。
どのような仕様の仮想通貨を選ぶか(取引処理能力、中央集権的な機関を必要とするか否か等)ということはすなわち仮想通貨に何を求めるかという思想、経済哲学的な主張、またビジネス上の実利などという要素が密接に影響してくる。例えば、ビットコインのネットワークを維持するための計算作業(マイニングと呼ばれる)を生業とする企業は中国に多いが、ビジネス面の利益からBTUを支持する企業が多数の状態だ。ビットコインは長らく技術者や企業の間でこうした意見の衝突があり、今回の分裂問題が生じることとなった。
最後にはなるが、ビットコインの既存の利用者や投資家、関連企業などにとって複数への分裂は決して望ましいシナリオとはいえないことも付け加えておきたい。なぜならビットコインの価値が分裂によって下がることになれば、最も影響を受けるのも彼らだからである。ユーザーの視点としては、こうした数あるリスクを少しでも把握しておき、有事に備えるということが肝要だ。
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実はひとつの仮想通貨が分裂する事象には前例がある。仮想通貨の時価総額ベースでビットコインに次ぎ第2位のイーサリアム(ETH)という仮想通貨は、昨夏ハードフォークによってイーサリアム(ETH)とイーサリアム・クラシック(ETC)という2種類の仮想通貨に分かれることになった。
現状ビットコインには複数の種類に分裂する可能性が出てきており話が入り組んでいるが、最も有力視されているのがオリジナルのビットコイン(BTC)と、別タイプのソフトウェアバージョンの採用を主張するビットコイン・アンリミテッド(BTU)の2タイプだ。今回は、ETHとETCが分裂後どのような価格推移を見せたのかを振り返ることで、ビットコインが仮に分裂したとした後について考えてみたい。
イーサリアムは2016年7月20日にハードフォークして、ETHとETCという2つの通貨に分かれた。ハードフォーク直前の7月1日から20日のETHの価格は10〜12ドルのレンジ幅で推移していたが、20日のフォーク後もETHの価格は11〜12ドルで推移し、特段大きな変化は見られなかった。一方ETCの価格はハードフォークから数日後に400%超の急騰を見せて一時約6.5ドル(7月26日)を示現し、ETH価格の半分近くに迫った。このまま勢いにのってETCはETHを超えるかに見えたが、ハードフォークからおよそ10日後の2016年8月1日時点になると1ETC=約2.2ドル、1ETH=約11ドルという価格帯に落ち着き、その後の両者の価格推移も概ね3月半ばまではこの価格差を大きく逸脱することなく推移した。
今年3月に入ってからはビットコイン分裂の可能性について多く話題にあがる不透明な状態が続くと、半月の間にETHの価格は約18ドルから約53ドルと最大約300%の高騰を見せた。同期間の間にETCは約1.3ドルから約2.7ドルと、こちらも最大約200%超の高騰を見せてはいるものの、価格差は大きく広がった形となった。
こうしてみるとイーサリアムでは、分裂前の通貨の名をそのまま掲げるETHの方が8ヵ月後の現在に至るまで一貫してETCよりも高い価格水準を維持してきたことがわかる。これにはETH側に業界で著名な開発者が属しているという背景がある。現在はさらに価格差が広がった形となっているが、一方で分裂したETCも仮想通貨ランキング全体の中で見れば常に10位前後(時価総額ベース)と高位を保持しているともいえる。
これを踏まえるとビットコインの場合も、分裂前から貢献してきた開発者が多く属するBTCの方が高い価格水準を維持して、BTUはやや下の位置で価格推移を続けることになるかという予測が立つ。
ただし、イーサリアムの先例をビットコインに参照しようとするときに留意すべき点は複数ある。
まず無視できない点はビットコインの時価総額の大きさだ。現在ビットコインの時価総額は約200億ドル、1BTC=約1,180ドル(4月12日時点)で取引されているのに対し、イーサリアム(ここではETH)の時価総額はビットコインに次ぐ2番手とはいえビットコインのおよそ5分の1(4月12日時点)とまだ大きな開きがある。しかもこのETHの価格は、ビットコイン分裂の話題が頻繁に出てきた今年3月半ば以降にリスク分散先として買いが増長し、前月比約3倍以上に高騰した後の数字だ。当然、ビットコインの分裂が市場に与えるインパクトはイーサリアムより甚大となるだろう。
次にビットコインの知名度の高さだ。仮にビットコイン(BTC)とビットコイン・アンリミテッド(BTU)という2つの選択肢が出来たとして、一般の方が「どちらがこれまでと同じ仕様で、どちらが新しい仕様のアルトコインか」を明確に判断して取引できるどうかは未知数だ。特に日本では、4月1日より施行された改定資金決済法の中に新たに仮想通貨の項目があり(通称仮想通貨法)、これを受けてビックカメラがビットコイン決済に乗り出すと発表して注目を集めている。利用者の裾野が広がればそれだけ、単純に「ビットコイン」と名の付く取引量の多いコインを選ぶ層も増えることが予測される。今のところ、BTCを所有する人には分裂後には同量のBTUが配当されることになっており、大きな売買が起こる可能性がある。
続けて、ビットコインとイーサリアムの仕様の違いがある。ビットコインは元来「おカネ」として、仮想通貨の名前の通り暗号技術を利用した通貨たるべくデザインされたものであるのに対して、イーサリアムはスマートコントラクト・分散型アプリケーションの構築プラットフォームとして作られているものであり、ETHはそのネットワーク内の通貨という位置づけだ。ビットコインとイーサリアムに期待されることは異なる。支払い手段としてみれば、ビットコインが複数の種類に分裂してしまうことはどちらのコインを多く所有していたとしても利便性の低下でしかない。
また、ビットコインのハードフォークとイーサリアムのハードフォークは、厳密にはその性格が大きく異なる。重要な点は分裂するコインの数だ。イーサリアムは予期せぬ事故によって技術者間の志向の違いが露見したことから突発的な形で2種類のコインへと分裂する形となったが、ビットコインの場合は過去2年ほどに渡って技術者、ビジネスサイドが議論を続けてきた。このため、実は上記で紹介したBTCとBTU以外にも、さらに複数のコインへと分裂する可能性もある。実現した場合、それぞれの価値が希釈される可能性は高まるだろう。
どのような仕様の仮想通貨を選ぶか(取引処理能力、中央集権的な機関を必要とするか否か等)ということはすなわち仮想通貨に何を求めるかという思想、経済哲学的な主張、またビジネス上の実利などという要素が密接に影響してくる。例えば、ビットコインのネットワークを維持するための計算作業(マイニングと呼ばれる)を生業とする企業は中国に多いが、ビジネス面の利益からBTUを支持する企業が多数の状態だ。ビットコインは長らく技術者や企業の間でこうした意見の衝突があり、今回の分裂問題が生じることとなった。
最後にはなるが、ビットコインの既存の利用者や投資家、関連企業などにとって複数への分裂は決して望ましいシナリオとはいえないことも付け加えておきたい。なぜならビットコインの価値が分裂によって下がることになれば、最も影響を受けるのも彼らだからである。ユーザーの視点としては、こうした数あるリスクを少しでも把握しておき、有事に備えるということが肝要だ。
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