【フィスコ・コラム】英保守党圧勝シナリオの落とし穴
[17/04/23]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 市況・概況
イギリスのメイ首相の電撃的な解散・総選挙の意向を報道で知り、その並外れた自信と度胸に驚かされました。野党の不意を衝いた戦略で、メディアは早くも与党・保守党の圧勝を予想しています。ただ、そのシナリオを下地にしたポンド買いを進めるには、昨年の欧州連合(EU)離脱を決めた国民投票の経験がまだ生々しいのではないでしょうか。
昨年6月23日に行われたイギリスの国民投票では、「残留」を訴えたキャメロン首相(当時)が引責辞任。その後、他の有力候補が党首選への出馬辞退を決めるなか、内務相を務めていたメイ氏はなかば昇格する形で首相に就任します。自身は「残留」支持でしたが、「離脱」という民意を形にしようと奔走します。その結果、移民制限を優先する「ハード・ブレグジット」の道を選びました。メイ氏は3月29日、EU側に離脱を通告し、これから2年間にわたるタフな離脱交渉がスタートするというタイミングでした。
2020年に予定されていた総選挙を今年6月8日に前倒し実施し、そこで勝利すれば保守党内はもちろん、交渉相手のEUからも名実ともにリーダーとして認められるでしょう。直近の支持率調査では保守党が40%台で、最大野党・労働党を20ポイント程度もリードしています。野党はできれば選挙は回避したいはずです。それでも支持者の手前、嫌でも選挙に臨まざるを得なくなる状況を見越して、メイ氏は解散を仕掛けました。金融市場では、保守党圧勝への思惑からポンドが買われました。
しかし、メイ氏の政権基盤が強固になれば「ハード・ブレグジット」に向かって突き進むことになるので、ポンドはこれから長期的に売られるはずです。英中銀金融政策委員会(MPC)のブリハ委員は4月5日の講演で、国民投票後のポンド安について輸出には好影響をもたらしたものの、「消費の減速を完全に相殺できるほどの規模とは思えない」との見方を示しています。MPCでは早期利上げ観測が広がり始めましたが、ポンドの下落は景気の腰折れ要因になる可能性はあるでしょう。
一方、労働党は穏健な離脱を意味する「ソフト・ブレグジット」をすでに打ち出しています。この点について、現在もEU残留を主張する自由民主党やスコットランド国民党などと野党勢力として結束できれば、より明確な対立軸を示すことも可能とみられます。「離脱」51.9%、「残留」48.1%と大接戦となった昨年6月の国民投票からまだ1年も経っておらず、その後の世論調査をみても「残留」支持は40%程度と根強いようです。EU離脱の方針自体は不可逆でも、野党が「残留」支持層を取り込むことはできると考えます。
ところで、フランス大統領選はどのように影響するでしょうか。ユーロ圏体制に懐疑的な候補者が当選しフランスがEU離脱の流れになった場合、メイ政権の交渉相手であるEUの弱体化につながるため保守党にとっては追い風に見えます。しかし天邪鬼なイギリス人気質を考えると、宿敵フランスが離脱に舵を切るなら強硬な離脱を進めようとする保守党は、むしろ批判の対象になりやすいのではないでしょうか。いずれにしても、メディアの情勢調査を鵜呑みにするべきないことは、イギリスの国民投票から学んだはずです。
(吉池 威)
<MT>
昨年6月23日に行われたイギリスの国民投票では、「残留」を訴えたキャメロン首相(当時)が引責辞任。その後、他の有力候補が党首選への出馬辞退を決めるなか、内務相を務めていたメイ氏はなかば昇格する形で首相に就任します。自身は「残留」支持でしたが、「離脱」という民意を形にしようと奔走します。その結果、移民制限を優先する「ハード・ブレグジット」の道を選びました。メイ氏は3月29日、EU側に離脱を通告し、これから2年間にわたるタフな離脱交渉がスタートするというタイミングでした。
2020年に予定されていた総選挙を今年6月8日に前倒し実施し、そこで勝利すれば保守党内はもちろん、交渉相手のEUからも名実ともにリーダーとして認められるでしょう。直近の支持率調査では保守党が40%台で、最大野党・労働党を20ポイント程度もリードしています。野党はできれば選挙は回避したいはずです。それでも支持者の手前、嫌でも選挙に臨まざるを得なくなる状況を見越して、メイ氏は解散を仕掛けました。金融市場では、保守党圧勝への思惑からポンドが買われました。
しかし、メイ氏の政権基盤が強固になれば「ハード・ブレグジット」に向かって突き進むことになるので、ポンドはこれから長期的に売られるはずです。英中銀金融政策委員会(MPC)のブリハ委員は4月5日の講演で、国民投票後のポンド安について輸出には好影響をもたらしたものの、「消費の減速を完全に相殺できるほどの規模とは思えない」との見方を示しています。MPCでは早期利上げ観測が広がり始めましたが、ポンドの下落は景気の腰折れ要因になる可能性はあるでしょう。
一方、労働党は穏健な離脱を意味する「ソフト・ブレグジット」をすでに打ち出しています。この点について、現在もEU残留を主張する自由民主党やスコットランド国民党などと野党勢力として結束できれば、より明確な対立軸を示すことも可能とみられます。「離脱」51.9%、「残留」48.1%と大接戦となった昨年6月の国民投票からまだ1年も経っておらず、その後の世論調査をみても「残留」支持は40%程度と根強いようです。EU離脱の方針自体は不可逆でも、野党が「残留」支持層を取り込むことはできると考えます。
ところで、フランス大統領選はどのように影響するでしょうか。ユーロ圏体制に懐疑的な候補者が当選しフランスがEU離脱の流れになった場合、メイ政権の交渉相手であるEUの弱体化につながるため保守党にとっては追い風に見えます。しかし天邪鬼なイギリス人気質を考えると、宿敵フランスが離脱に舵を切るなら強硬な離脱を進めようとする保守党は、むしろ批判の対象になりやすいのではないでしょうか。いずれにしても、メディアの情勢調査を鵜呑みにするべきないことは、イギリスの国民投票から学んだはずです。
(吉池 威)
<MT>