名古屋証券取引所へ取材!〜東証再編議論を受けて〜
[19/04/28]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 市況・概況
■東証が再編に向けて「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」を公表
東京証券取引所(以下、東証)は3月27日に「市場区分の再編に関する論点整理」を公表しました。現在、東証は市場第一部、東証第二部、マザーズ、JASDAQの4市場体制となっています。これについて、東証側は「各市場のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い」と論点整理のなかで指摘。また、「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの点で期待される役割を十分に果たせていない」ことも併せて述べています。具体的には、市場第一部へのステップアップ基準の他、機関投資家参入のための方策や新興企業に適した開示制度などの検討が必要と考えているようです。
こうした状況に対して、同時に公表された「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」では、「上場銘柄の特性(上場会社の成長段階、投資家の層)に応じた複数の市場区分を設け、明確なコンセプトに基づいた制度に再設計することが適当」だと方向性を示しています。端的に言えば、現在の4市場体制からA市場、B市場、C市場(全て仮称)の3市場体制に再編成することを想定しているのです。日本取引所グループ(JPX)の清田瞭CEOの語気などから、上場や降格などについて具体的な数値基準の詳細が示されるのではないかといった期待感も市場にはあっただけに、今回そのあたりに関する情報が一切出てこなかったことについてはやや肩透かしをくらった感もあります。この点については、「想定以上の意見が寄せられて一旦慎重姿勢に傾いた」「市場区分見直し議論に関する情報漏れなどの報道があったことも背景にあるのではないか」といったような声が市場関係者から聞かれました。
■名古屋証券取引所の見方
このように、現時点ではやや具体性には欠けるものの、東証再編に関して正式に方向性が示されました。こうしたなか、地方市場はこの状況をどのように捉えているのか、名古屋証券取引所の総務グループ課長である松浦誠記氏に取材を行いました。
Q.地方市場にとっては逆風の状況が続く中、その存在意義を改めてどう捉えていますか?
松浦氏:中部地域に「経済インフラとしての証券取引所」は必要だという大前提の下、中部経済の発展に貢献するために何ができるかを考え、様々な施策をうっています。そして、その積み重ねによって、少しでも日本経済の発展にも寄与できるというところです。また、利用者側の視点で言っても、日本の中に証券取引所自体が複数あって「選択できる環境」があることも重要だと考えています。だからこそ、関係する方々から「利用したい」「必要だ」と思っていただけるような施策を常に考えていくことも非常に重要になってきます。
Q.地方市場としては、今回の東証再編の動きをどのように捉えていますか?
松浦氏:具体的な再編方法が確定しているわけではありませんので、現段階では何とも申し上げられないのですが、全く関係ないとは考えていません。特に東証と名証の重複上場企業が関係してくることになることが予想されます。例えば東証ではA市場(仮称)、名証では1部のような形になってしまうと、投資家の方々にわかりにくさを生じさせてしまうことにもなるため、東証の動向を見ながら、そういった面からもどのように対応していかなければならないのかといったことは検討していく必要があるという認識を持っています。
Q.東証の報告書の中で「上場会社各社の中長期的な企業価値向上とベンチャー企業の育成が必要かつ喫緊の課題」と指摘されています。これに関して、具体的に検討または実行している施策はありますか?
松浦氏:全国展開している企業でも、自分達の姿を正確に知って欲しいというニーズがあります。また、投資においては言うまでもありませんが、実際に生の企業の声を聴くということが投資家にとっても非常に大事だと思っていて、取引所としてIR面でのサポートに非常に力をいれています。実際にこれまで毎年夏の恒例イベントとして、25年間継続して「IRエキスポ」を開催してきました。各企業のニーズに合わせた小回りの利く、フェイス・トゥ・フェイスのサポート、きめ細やかなサービスを心がけています。
また、ベンチャー企業の育成という部分では、これを直接育成するのは取引所の仕事と異なってきてしまいます。ただ、成長していく過程の1つのとして「上場」を使って、そのスピードを加速させることが取引所の役割です。そうしたなかで、愛知県、岐阜県、三重県の地銀と業務提携をするなど、上場の芽を発見していくように努めています。加えて言えば、ベンチャー企業の成長にとっては、上場に限らずですが「タイミング」がとても重要になります。そういった意味で、冒頭にもお話をしたように、東証だけでなく、セントレックス(名証)があることによって、ベンチャー企業としても複数の選択肢から、自分たちにとっての最適解を選ぶことができます。
さらに、セントレックスでは、地域を問わず全国の企業を上場の対象としています。そして、最初の入口としてセントレックスを利用して、さらに大きな市場に羽ばたいてもらうこと、これは我々が望んでいるところです。
Q.「名証株式投資コンテスト」は珍しい取り組みだと思います。こちらは、どういった問題意識のもとで実現した取り組みなのでしょうか。
松浦氏:投資コンテストは、名証と地場企業の知名度を高めたいという思いが根底にあって、そもそもこの話が出てきました。また、これは証券界の長期的な課題でもありますが、何とかして若い世代に少しでも「投資」に目を向けてもらわなければならないということもあります。ただ、「お金」がテーマである以上、リアルでやってしまうとハードルが高くなってしまう。それなら、ルールをシンプル化したバーチャルの学生対抗コンテストという形で実施すれば、非常に参加しやすいのではないかということになりました。また、就職活動における企業研究的な位置づけもできるので、学生にとってもメリットがあるだろうということです。幸いにも初期段階から地域の大学で授業に取り入れようという話があって、それが徐々に全国の大学に広がる結果となって盛り上がりを見せています。
Q今後の地方市場の展望についてどのようにお考えでしょうか
松浦氏:展望については、今回の東証再編の話もあり、わからない部分もあります。冒頭でお話をした存在意義という部分と被ってしまいますが、中部地域を中心とした経済インフラとしての役割を果たして、経済の発展に貢献する。そのために独立運営しながら、上場企業、証券会社、一般の投資家の方々のために何ができるのかを常に考え、取り組んでいくということを愚直にやり続けるということにつきます。
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「東証再編」、もう少し具体的に言えば上場・昇格・退出基準などの要件再考による影響が東証に現在上場している企業に及ぶことは言うまでもありません。また、直接的または間接的な影響になるかは今後示される具体案で決まってくるものの、現在進行している東証再編の動きは地方市場にも確実に「インパクト」や何らかの「きっかけ」を与えることとなります。地方市場の取り組みや動向についても、関心を持っておく必要があるでしょう。
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東京証券取引所(以下、東証)は3月27日に「市場区分の再編に関する論点整理」を公表しました。現在、東証は市場第一部、東証第二部、マザーズ、JASDAQの4市場体制となっています。これについて、東証側は「各市場のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い」と論点整理のなかで指摘。また、「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの点で期待される役割を十分に果たせていない」ことも併せて述べています。具体的には、市場第一部へのステップアップ基準の他、機関投資家参入のための方策や新興企業に適した開示制度などの検討が必要と考えているようです。
こうした状況に対して、同時に公表された「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」では、「上場銘柄の特性(上場会社の成長段階、投資家の層)に応じた複数の市場区分を設け、明確なコンセプトに基づいた制度に再設計することが適当」だと方向性を示しています。端的に言えば、現在の4市場体制からA市場、B市場、C市場(全て仮称)の3市場体制に再編成することを想定しているのです。日本取引所グループ(JPX)の清田瞭CEOの語気などから、上場や降格などについて具体的な数値基準の詳細が示されるのではないかといった期待感も市場にはあっただけに、今回そのあたりに関する情報が一切出てこなかったことについてはやや肩透かしをくらった感もあります。この点については、「想定以上の意見が寄せられて一旦慎重姿勢に傾いた」「市場区分見直し議論に関する情報漏れなどの報道があったことも背景にあるのではないか」といったような声が市場関係者から聞かれました。
■名古屋証券取引所の見方
このように、現時点ではやや具体性には欠けるものの、東証再編に関して正式に方向性が示されました。こうしたなか、地方市場はこの状況をどのように捉えているのか、名古屋証券取引所の総務グループ課長である松浦誠記氏に取材を行いました。
Q.地方市場にとっては逆風の状況が続く中、その存在意義を改めてどう捉えていますか?
松浦氏:中部地域に「経済インフラとしての証券取引所」は必要だという大前提の下、中部経済の発展に貢献するために何ができるかを考え、様々な施策をうっています。そして、その積み重ねによって、少しでも日本経済の発展にも寄与できるというところです。また、利用者側の視点で言っても、日本の中に証券取引所自体が複数あって「選択できる環境」があることも重要だと考えています。だからこそ、関係する方々から「利用したい」「必要だ」と思っていただけるような施策を常に考えていくことも非常に重要になってきます。
Q.地方市場としては、今回の東証再編の動きをどのように捉えていますか?
松浦氏:具体的な再編方法が確定しているわけではありませんので、現段階では何とも申し上げられないのですが、全く関係ないとは考えていません。特に東証と名証の重複上場企業が関係してくることになることが予想されます。例えば東証ではA市場(仮称)、名証では1部のような形になってしまうと、投資家の方々にわかりにくさを生じさせてしまうことにもなるため、東証の動向を見ながら、そういった面からもどのように対応していかなければならないのかといったことは検討していく必要があるという認識を持っています。
Q.東証の報告書の中で「上場会社各社の中長期的な企業価値向上とベンチャー企業の育成が必要かつ喫緊の課題」と指摘されています。これに関して、具体的に検討または実行している施策はありますか?
松浦氏:全国展開している企業でも、自分達の姿を正確に知って欲しいというニーズがあります。また、投資においては言うまでもありませんが、実際に生の企業の声を聴くということが投資家にとっても非常に大事だと思っていて、取引所としてIR面でのサポートに非常に力をいれています。実際にこれまで毎年夏の恒例イベントとして、25年間継続して「IRエキスポ」を開催してきました。各企業のニーズに合わせた小回りの利く、フェイス・トゥ・フェイスのサポート、きめ細やかなサービスを心がけています。
また、ベンチャー企業の育成という部分では、これを直接育成するのは取引所の仕事と異なってきてしまいます。ただ、成長していく過程の1つのとして「上場」を使って、そのスピードを加速させることが取引所の役割です。そうしたなかで、愛知県、岐阜県、三重県の地銀と業務提携をするなど、上場の芽を発見していくように努めています。加えて言えば、ベンチャー企業の成長にとっては、上場に限らずですが「タイミング」がとても重要になります。そういった意味で、冒頭にもお話をしたように、東証だけでなく、セントレックス(名証)があることによって、ベンチャー企業としても複数の選択肢から、自分たちにとっての最適解を選ぶことができます。
さらに、セントレックスでは、地域を問わず全国の企業を上場の対象としています。そして、最初の入口としてセントレックスを利用して、さらに大きな市場に羽ばたいてもらうこと、これは我々が望んでいるところです。
Q.「名証株式投資コンテスト」は珍しい取り組みだと思います。こちらは、どういった問題意識のもとで実現した取り組みなのでしょうか。
松浦氏:投資コンテストは、名証と地場企業の知名度を高めたいという思いが根底にあって、そもそもこの話が出てきました。また、これは証券界の長期的な課題でもありますが、何とかして若い世代に少しでも「投資」に目を向けてもらわなければならないということもあります。ただ、「お金」がテーマである以上、リアルでやってしまうとハードルが高くなってしまう。それなら、ルールをシンプル化したバーチャルの学生対抗コンテストという形で実施すれば、非常に参加しやすいのではないかということになりました。また、就職活動における企業研究的な位置づけもできるので、学生にとってもメリットがあるだろうということです。幸いにも初期段階から地域の大学で授業に取り入れようという話があって、それが徐々に全国の大学に広がる結果となって盛り上がりを見せています。
Q今後の地方市場の展望についてどのようにお考えでしょうか
松浦氏:展望については、今回の東証再編の話もあり、わからない部分もあります。冒頭でお話をした存在意義という部分と被ってしまいますが、中部地域を中心とした経済インフラとしての役割を果たして、経済の発展に貢献する。そのために独立運営しながら、上場企業、証券会社、一般の投資家の方々のために何ができるのかを常に考え、取り組んでいくということを愚直にやり続けるということにつきます。
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「東証再編」、もう少し具体的に言えば上場・昇格・退出基準などの要件再考による影響が東証に現在上場している企業に及ぶことは言うまでもありません。また、直接的または間接的な影響になるかは今後示される具体案で決まってくるものの、現在進行している東証再編の動きは地方市場にも確実に「インパクト」や何らかの「きっかけ」を与えることとなります。地方市場の取り組みや動向についても、関心を持っておく必要があるでしょう。
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