福岡証券取引所へ取材!〜東証再編議論を受けて〜
[19/05/01]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 市況・概況
■東証が再編に向けて「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」を公表
東京証券取引所(以下、東証)は3月27日に「市場区分の再編に関する論点整理」を公表しました。現在、東証は市場第一部、東証第二部、マザーズ、JASDAQの4市場体制となっています。これについて、東証側は「各市場のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い」と論点整理のなかで指摘。また、「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの点で期待される役割を十分に果たせていない」ことも併せて述べています。具体的には、市場第一部へのステップアップ基準の他、機関投資家参入のための方策や新興企業に適した開示制度などの検討が必要と考えているようです。
こうした状況に対して、同時に公表された「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」では、「上場銘柄の特性(上場会社の成長段階、投資家の層)に応じた複数の市場区分を設け、明確なコンセプトに基づいた制度に再設計することが適当」だと方向性を示しています。端的に言えば、現在の4市場体制からA市場、B市場、C市場(全て仮称)の3市場体制に再編成することを想定しているのです。日本取引所グループ(JPX)の清田瞭CEOの語気などから、上場や降格などについて具体的な数値基準の詳細が示されるのではないかといった期待感も市場にはあっただけに、今回そのあたりに関する情報が一切出てこなかったことについてはやや肩透かしをくらった感もあります。この点については、「想定以上の意見が寄せられて一旦慎重姿勢に傾いた」「市場区分見直し議論に関する情報漏れなどの報道があったことも背景にあるのではないか」といったような声が市場関係者から聞かれました。
■福岡証券取引所の見方
このように、現時点ではやや具体性には欠けるものの、東証再編に関して正式に方向性が示されました。こうしたなか、地方市場はこの状況をどのように捉えているのか、福岡証券取引所の専務理事である酒井慎一氏に取材を行いました。
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Q.地方市場にとっては逆風の状況が続く中、その存在意義を改めてどう捉えていますか?
酒井氏:直接金融インフラとしての機能を発揮して、地域経済の活性化に貢献することが変わらない存在意義としてあります。そもそも前提として、4つの地方証券取引所の組織的な違いについて触れておきます。東証と名証は「株式会社」ですが、我々福証と札証は「証券会員制法人」です。組織形態の違いによって、本質的な意味で違いが出るかというとそういったことはありません。ただ、証券会員制法人の場合は、金商法上で「営利を目的としてはならない」と明記されていることもあり、地域経済への貢献などに対する目的意識のような部分は、より強いというところがあるかと思います。
また、4つの取引所の中でも、引けを取らないのが「地域経済界からの強力なバックアップ」があるという点です。1998年6月に「福岡証券取引所活性化推進協議会」が設立されており、経済界や行政が一体となって地域経済の発展を考え、取り組んでいます。また、デジタル化(IT化)がこれだけ進んでいても、”フェイス・トゥ・フェイス”の繋がりは、今も変わらず非常に大事です。九州という枠組みで団結しており、福証上場企業と地域とのネットワークづくりの支援ができるという点も1つの意義であり、魅力と言えます。
Q.東証の報告書の中で「上場会社各社の中長期的な企業価値向上とベンチャー企業の育成が必要かつ喫緊の課題」と指摘されています。これに関して、具体的に検討または実行している施策はありますか?
酒井氏:年に10回程度ですが、福証IRフェアを開催し、上場企業と個人投資家を結びつける活動を行ったり、毎年「福証IR NAVI」を発行して企業情報の発信に努めています。また、決算などの発表時に使用できる記者会見の場も提供し、報道機関と企業との間を結ぶ役割も担っています。一方、新興企業に対する支援という意味では「九州IPO挑戦隊」があります。まだ幹事証券会社や監査法人は決まっていないが、今後数年のうちに株式公開を果たしたいと明確な目標を有する地域の企業に、株式公開にあたって必要とされる経営力や組織力を涵養するために、2年程度かけて当該企業に必要なサポート活動を行って、短期間に上場適格基準に近づける仕組みです。
この取り組みの一環に「IPOチャレンジアカデミー」があります。これは、上場に向けて企業力を高めるために、各分野のプロフェッショナルによる実践的な指導を受けてもらう大学のゼミナールのようなものです(全10回のプログラム)。ちなみに、最後の9回目、10回目は機関投資家に説明するかのような形でプレゼンをして、卒業となります。2009年7月以降、第11期生までで計54社がこの仕組みに参加し、実際に上場する企業を輩出するなど、徐々に成果を上げ始めています。こういった息の長い活動というのも、非営利であるが故に取り組めるという面もあります。
Q.地方市場としては、今回の東証再編の動きをどのように捉えていますか?
酒井氏:東証の市場再編をきっかけに、地方証券取引所に今上場している企業、そしてこれから上場を目指す企業から何らかのニーズがでてくれば、もちろん柔軟に対応していかなければならないと考えています。ただ、現時点では具体的な数値基準などが決まったところではなく、まだ見極めをつける段階にはなく、「注視している」状況というのが素直なところです。
Q. 地方市場の今後に対する展望や思いを教えてください。
酒井氏:山一証券の破綻等経済が冷え込んでいた当時に、地域に直接金融の場を残さなければならないという思いから福岡証券取引所活性化推進協議会が発足しました。その後、残念ながら広島証券取引所や京都証券取引所が廃止された中でも、経済界や行政が一体となって地域経済の発展を考えた結果、福岡証券取引所は存続し、今も存在感を発揮しています。取引所としてのクオリティや市場の信頼性を損なわないことを大前提としたうえで、福証に上場して良かったと思ってもらえるような支援活動を常に考え、実行していくことを通じて、地域経済へ貢献するという命題を今後も真摯に追求していきたいと考えています。
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「東証再編」、もう少し具体的に言えば上場・昇格・退出基準などの要件再考による影響が東証に現在上場している企業に及ぶことは言うまでもありません。また、直接的または間接的な影響になるかは今後示される具体案で決まってくるものの、現在進行している東証再編の動きは地方市場にも確実に「インパクト」や何らかの「きっかけ」を与えることとなります。地方市場の取り組みや動向についても、関心を持っておく必要があるでしょう。
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東京証券取引所(以下、東証)は3月27日に「市場区分の再編に関する論点整理」を公表しました。現在、東証は市場第一部、東証第二部、マザーズ、JASDAQの4市場体制となっています。これについて、東証側は「各市場のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い」と論点整理のなかで指摘。また、「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの点で期待される役割を十分に果たせていない」ことも併せて述べています。具体的には、市場第一部へのステップアップ基準の他、機関投資家参入のための方策や新興企業に適した開示制度などの検討が必要と考えているようです。
こうした状況に対して、同時に公表された「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」では、「上場銘柄の特性(上場会社の成長段階、投資家の層)に応じた複数の市場区分を設け、明確なコンセプトに基づいた制度に再設計することが適当」だと方向性を示しています。端的に言えば、現在の4市場体制からA市場、B市場、C市場(全て仮称)の3市場体制に再編成することを想定しているのです。日本取引所グループ(JPX)の清田瞭CEOの語気などから、上場や降格などについて具体的な数値基準の詳細が示されるのではないかといった期待感も市場にはあっただけに、今回そのあたりに関する情報が一切出てこなかったことについてはやや肩透かしをくらった感もあります。この点については、「想定以上の意見が寄せられて一旦慎重姿勢に傾いた」「市場区分見直し議論に関する情報漏れなどの報道があったことも背景にあるのではないか」といったような声が市場関係者から聞かれました。
■福岡証券取引所の見方
このように、現時点ではやや具体性には欠けるものの、東証再編に関して正式に方向性が示されました。こうしたなか、地方市場はこの状況をどのように捉えているのか、福岡証券取引所の専務理事である酒井慎一氏に取材を行いました。
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Q.地方市場にとっては逆風の状況が続く中、その存在意義を改めてどう捉えていますか?
酒井氏:直接金融インフラとしての機能を発揮して、地域経済の活性化に貢献することが変わらない存在意義としてあります。そもそも前提として、4つの地方証券取引所の組織的な違いについて触れておきます。東証と名証は「株式会社」ですが、我々福証と札証は「証券会員制法人」です。組織形態の違いによって、本質的な意味で違いが出るかというとそういったことはありません。ただ、証券会員制法人の場合は、金商法上で「営利を目的としてはならない」と明記されていることもあり、地域経済への貢献などに対する目的意識のような部分は、より強いというところがあるかと思います。
また、4つの取引所の中でも、引けを取らないのが「地域経済界からの強力なバックアップ」があるという点です。1998年6月に「福岡証券取引所活性化推進協議会」が設立されており、経済界や行政が一体となって地域経済の発展を考え、取り組んでいます。また、デジタル化(IT化)がこれだけ進んでいても、”フェイス・トゥ・フェイス”の繋がりは、今も変わらず非常に大事です。九州という枠組みで団結しており、福証上場企業と地域とのネットワークづくりの支援ができるという点も1つの意義であり、魅力と言えます。
Q.東証の報告書の中で「上場会社各社の中長期的な企業価値向上とベンチャー企業の育成が必要かつ喫緊の課題」と指摘されています。これに関して、具体的に検討または実行している施策はありますか?
酒井氏:年に10回程度ですが、福証IRフェアを開催し、上場企業と個人投資家を結びつける活動を行ったり、毎年「福証IR NAVI」を発行して企業情報の発信に努めています。また、決算などの発表時に使用できる記者会見の場も提供し、報道機関と企業との間を結ぶ役割も担っています。一方、新興企業に対する支援という意味では「九州IPO挑戦隊」があります。まだ幹事証券会社や監査法人は決まっていないが、今後数年のうちに株式公開を果たしたいと明確な目標を有する地域の企業に、株式公開にあたって必要とされる経営力や組織力を涵養するために、2年程度かけて当該企業に必要なサポート活動を行って、短期間に上場適格基準に近づける仕組みです。
この取り組みの一環に「IPOチャレンジアカデミー」があります。これは、上場に向けて企業力を高めるために、各分野のプロフェッショナルによる実践的な指導を受けてもらう大学のゼミナールのようなものです(全10回のプログラム)。ちなみに、最後の9回目、10回目は機関投資家に説明するかのような形でプレゼンをして、卒業となります。2009年7月以降、第11期生までで計54社がこの仕組みに参加し、実際に上場する企業を輩出するなど、徐々に成果を上げ始めています。こういった息の長い活動というのも、非営利であるが故に取り組めるという面もあります。
Q.地方市場としては、今回の東証再編の動きをどのように捉えていますか?
酒井氏:東証の市場再編をきっかけに、地方証券取引所に今上場している企業、そしてこれから上場を目指す企業から何らかのニーズがでてくれば、もちろん柔軟に対応していかなければならないと考えています。ただ、現時点では具体的な数値基準などが決まったところではなく、まだ見極めをつける段階にはなく、「注視している」状況というのが素直なところです。
Q. 地方市場の今後に対する展望や思いを教えてください。
酒井氏:山一証券の破綻等経済が冷え込んでいた当時に、地域に直接金融の場を残さなければならないという思いから福岡証券取引所活性化推進協議会が発足しました。その後、残念ながら広島証券取引所や京都証券取引所が廃止された中でも、経済界や行政が一体となって地域経済の発展を考えた結果、福岡証券取引所は存続し、今も存在感を発揮しています。取引所としてのクオリティや市場の信頼性を損なわないことを大前提としたうえで、福証に上場して良かったと思ってもらえるような支援活動を常に考え、実行していくことを通じて、地域経済へ貢献するという命題を今後も真摯に追求していきたいと考えています。
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「東証再編」、もう少し具体的に言えば上場・昇格・退出基準などの要件再考による影響が東証に現在上場している企業に及ぶことは言うまでもありません。また、直接的または間接的な影響になるかは今後示される具体案で決まってくるものの、現在進行している東証再編の動きは地方市場にも確実に「インパクト」や何らかの「きっかけ」を与えることとなります。地方市場の取り組みや動向についても、関心を持っておく必要があるでしょう。
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