札幌証券取引所へ取材!〜東証再編議論を受けて〜
[19/05/04]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 市況・概況
■東証が再編に向けて「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」を公表
東京証券取引所(以下、東証)は3月27日に「市場区分の再編に関する論点整理」を公表しました。現在、東証は市場第一部、東証第二部、マザーズ、JASDAQの4市場体制となっています。これについて、東証側は「各市場のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い」と論点整理のなかで指摘。また、「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの点で期待される役割を十分に果たせていない」ことも併せて述べています。具体的には、市場第一部へのステップアップ基準の他、機関投資家参入のための方策や新興企業に適した開示制度などの検討が必要と考えているようです。
こうした状況に対して、同時に公表された「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」では、「上場銘柄の特性(上場会社の成長段階、投資家の層)に応じた複数の市場区分を設け、明確なコンセプトに基づいた制度に再設計することが適当」だと方向性を示しています。端的に言えば、現在の4市場体制からA市場、B市場、C市場(全て仮称)の3市場体制に再編成することを想定しているのです。
日本取引所グループ(JPX)の清田瞭CEOの語気などから、上場や降格などについて具体的な数値基準の詳細が示されるのではないかといった期待感も市場にはあっただけに、今回そのあたりに関する情報が一切出てこなかったことについてはやや肩透かしをくらった感もあります。この点については、「想定以上の意見が寄せられて一旦慎重姿勢に傾いた」「市場区分見直し議論に関する情報漏れなどの報道があったことも背景にあるのではないか」といったような声が市場関係者から聞かれました。
■札幌証券取引所の見方
このように、現時点ではやや具体性には欠けるものの、東証再編に関して正式に方向性が示されました。こうしたなか、地方市場はこの状況をどのように捉えているのか、札幌証券取引所の専務理事である鳥居克広氏、上場推進部長の湯浅祐一郎氏に取材を行いました。
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Q.地方市場にとっては逆風の状況が続く中、その存在意義を改めてどう捉えていますか?
鳥居氏:地方には小粒ながらも光っている企業があり、そういった企業の1つのステップとして、地方市場の存在は必要になります。なぜなら、ローカル企業が東京市場までたどり着く(最初から挑むにも)までには、現実問題ハードルがあるからです。東京市場、そして世界へ羽ばたいていくためのファーストステップという意味で、変わらない意義を感じています。
上場企業が少ない(市場規模が小さい)ということで、見劣りする印象があることは否めませんが、我々としては「商いがない=存在意義がない」という単純な図式ではなく、市場が存在すること自体が今後上場を目指す後輩企業のためになり、北海道経済の活力にもつながるという信念を持っています。
Q.地方市場としては、今回の東証再編の動きをどのように捉えていますか?
鳥居氏:東証と札証の市場の枠組みは、全くのイコールではありません。よって、東証の枠組みが変わることによって、早々に何か札証の枠組みの見直しといった対応をしなければならないという形には現時点ではなっていません。ただし、東証の新興市場自体の枠組みが劇的に変われば、アンビシャスから本則市場への昇格の仕方について多少なりとも影響は出てくる可能性はあります。そういった意味では、今後の動向を注視しています。
Q.東証の報告書の中で「上場会社各社の中長期的な企業価値向上とベンチャー企業の育成が必要かつ喫緊の課題」と指摘されています。これに関して、具体的に検討または実行している施策はありますか?
鳥居氏:企業価値向上という点では、コンプラなどを含め、企業に力をつけてもらうためにも東京から専門家を呼んで各種セミナーを開催するなどの支援を実施しています。また、年1回東京の投資家に向けた「札証IR in東京」といったイベントの開催や、上場企業同士の連携を深めるような連絡会も開催しています。また、連絡会では、参加者に自己PRなどを含めたプレゼンを行ってもらい、ビジネスマッチング的な面でも貢献できるような形になるよう取り組んでいます。
その他にも、IPOに関心のある経営者の方々を集め、専門家から講義を受ける「札証成長塾」という活動を4年程続けています。また、IPOセミナー(札幌、道内主要都市、青森などで開催)を通じて、地方にある原石企業を発掘できるように活動しています。ベンチャー企業というわけではないかもしれませんが、未上場の後輩企業が札証市場を利用して大きく成長し、北海道経済が活性化する、このような土壌づくりに関わるという意味で道内の他市場上場の企業に対して、札幌証券取引所にも重複上場してもらえるように一層深くアプローチをしていこうとも考えています。
湯浅氏:私からはアンビシャスクラブの説明をいたします。同クラブは、アンビシャス市場へ上場を目指す企業(起業予定者を含む)を対象に、株式公開は勿論、企業業績の向上や管理体制の充実を図っていくことを目標に、各種セミナーや交流会等を開催・運営しています。会員数は、大規模な整理を行ったことが影響し数年前に急激に減少しているのですが、この改革によってさらに価値のある組織に変わっていくと考えています。現在も引き続き「熱量のある会員」を新たに募っている状況です。
鳥居が先程話をしました「札証成長塾」とアンビシャスクラブは方向性が同じにも関わらず、これまで所謂二重行政のような状態にありました。しかし、今年度からさらに連携を深めて、より効果的な活動ができるように改善を進めています。ちなみにアンビシャスクラブは「ランチ」という形で主に活動しています。お昼を食べた後、経営層の方々が興味を持つような講師(日銀の支店長、経産局長、直近IPOの社長、今話題の事業を手掛けている企業の社長など)の方からお話を伺います。内容が「上場」に限らないことから、参加者からも好評をいただいています。
Q.今後の地方市場の展望についてどのようにお考えでしょうか
鳥居氏:札幌証券取引所に関して、決して暗い展望を持ってはいません。IPOを目指している企業は足元でも一定数実際にいて、こうした企業の支援を通じて、市場自体も活気づいてくると期待しています。
また、社歴のある北海道の大企業ではIPOに否定的な考えを持つ経営陣もあるかと思いますが、世代交代を契機としてIPO件数増加に繋がってくる可能性もあります。
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「東証再編」、もう少し具体的に言えば上場・昇格・退出基準などの要件再考による影響が東証に現在上場している企業に及ぶことは言うまでもありません。また、直接的または間接的な影響になるかは今後示される具体案で決まってくるものの、現在進行している東証再編の動きは地方市場にも確実に「インパクト」や何らかの「きっかけ」を与えることとなります。地方市場の取り組みや動向についても、関心を持っておく必要があるでしょう。
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東京証券取引所(以下、東証)は3月27日に「市場区分の再編に関する論点整理」を公表しました。現在、東証は市場第一部、東証第二部、マザーズ、JASDAQの4市場体制となっています。これについて、東証側は「各市場のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い」と論点整理のなかで指摘。また、「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの点で期待される役割を十分に果たせていない」ことも併せて述べています。具体的には、市場第一部へのステップアップ基準の他、機関投資家参入のための方策や新興企業に適した開示制度などの検討が必要と考えているようです。
こうした状況に対して、同時に公表された「市場構造の問題と改善に向けた論点整理」では、「上場銘柄の特性(上場会社の成長段階、投資家の層)に応じた複数の市場区分を設け、明確なコンセプトに基づいた制度に再設計することが適当」だと方向性を示しています。端的に言えば、現在の4市場体制からA市場、B市場、C市場(全て仮称)の3市場体制に再編成することを想定しているのです。
日本取引所グループ(JPX)の清田瞭CEOの語気などから、上場や降格などについて具体的な数値基準の詳細が示されるのではないかといった期待感も市場にはあっただけに、今回そのあたりに関する情報が一切出てこなかったことについてはやや肩透かしをくらった感もあります。この点については、「想定以上の意見が寄せられて一旦慎重姿勢に傾いた」「市場区分見直し議論に関する情報漏れなどの報道があったことも背景にあるのではないか」といったような声が市場関係者から聞かれました。
■札幌証券取引所の見方
このように、現時点ではやや具体性には欠けるものの、東証再編に関して正式に方向性が示されました。こうしたなか、地方市場はこの状況をどのように捉えているのか、札幌証券取引所の専務理事である鳥居克広氏、上場推進部長の湯浅祐一郎氏に取材を行いました。
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Q.地方市場にとっては逆風の状況が続く中、その存在意義を改めてどう捉えていますか?
鳥居氏:地方には小粒ながらも光っている企業があり、そういった企業の1つのステップとして、地方市場の存在は必要になります。なぜなら、ローカル企業が東京市場までたどり着く(最初から挑むにも)までには、現実問題ハードルがあるからです。東京市場、そして世界へ羽ばたいていくためのファーストステップという意味で、変わらない意義を感じています。
上場企業が少ない(市場規模が小さい)ということで、見劣りする印象があることは否めませんが、我々としては「商いがない=存在意義がない」という単純な図式ではなく、市場が存在すること自体が今後上場を目指す後輩企業のためになり、北海道経済の活力にもつながるという信念を持っています。
Q.地方市場としては、今回の東証再編の動きをどのように捉えていますか?
鳥居氏:東証と札証の市場の枠組みは、全くのイコールではありません。よって、東証の枠組みが変わることによって、早々に何か札証の枠組みの見直しといった対応をしなければならないという形には現時点ではなっていません。ただし、東証の新興市場自体の枠組みが劇的に変われば、アンビシャスから本則市場への昇格の仕方について多少なりとも影響は出てくる可能性はあります。そういった意味では、今後の動向を注視しています。
Q.東証の報告書の中で「上場会社各社の中長期的な企業価値向上とベンチャー企業の育成が必要かつ喫緊の課題」と指摘されています。これに関して、具体的に検討または実行している施策はありますか?
鳥居氏:企業価値向上という点では、コンプラなどを含め、企業に力をつけてもらうためにも東京から専門家を呼んで各種セミナーを開催するなどの支援を実施しています。また、年1回東京の投資家に向けた「札証IR in東京」といったイベントの開催や、上場企業同士の連携を深めるような連絡会も開催しています。また、連絡会では、参加者に自己PRなどを含めたプレゼンを行ってもらい、ビジネスマッチング的な面でも貢献できるような形になるよう取り組んでいます。
その他にも、IPOに関心のある経営者の方々を集め、専門家から講義を受ける「札証成長塾」という活動を4年程続けています。また、IPOセミナー(札幌、道内主要都市、青森などで開催)を通じて、地方にある原石企業を発掘できるように活動しています。ベンチャー企業というわけではないかもしれませんが、未上場の後輩企業が札証市場を利用して大きく成長し、北海道経済が活性化する、このような土壌づくりに関わるという意味で道内の他市場上場の企業に対して、札幌証券取引所にも重複上場してもらえるように一層深くアプローチをしていこうとも考えています。
湯浅氏:私からはアンビシャスクラブの説明をいたします。同クラブは、アンビシャス市場へ上場を目指す企業(起業予定者を含む)を対象に、株式公開は勿論、企業業績の向上や管理体制の充実を図っていくことを目標に、各種セミナーや交流会等を開催・運営しています。会員数は、大規模な整理を行ったことが影響し数年前に急激に減少しているのですが、この改革によってさらに価値のある組織に変わっていくと考えています。現在も引き続き「熱量のある会員」を新たに募っている状況です。
鳥居が先程話をしました「札証成長塾」とアンビシャスクラブは方向性が同じにも関わらず、これまで所謂二重行政のような状態にありました。しかし、今年度からさらに連携を深めて、より効果的な活動ができるように改善を進めています。ちなみにアンビシャスクラブは「ランチ」という形で主に活動しています。お昼を食べた後、経営層の方々が興味を持つような講師(日銀の支店長、経産局長、直近IPOの社長、今話題の事業を手掛けている企業の社長など)の方からお話を伺います。内容が「上場」に限らないことから、参加者からも好評をいただいています。
Q.今後の地方市場の展望についてどのようにお考えでしょうか
鳥居氏:札幌証券取引所に関して、決して暗い展望を持ってはいません。IPOを目指している企業は足元でも一定数実際にいて、こうした企業の支援を通じて、市場自体も活気づいてくると期待しています。
また、社歴のある北海道の大企業ではIPOに否定的な考えを持つ経営陣もあるかと思いますが、世代交代を契機としてIPO件数増加に繋がってくる可能性もあります。
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「東証再編」、もう少し具体的に言えば上場・昇格・退出基準などの要件再考による影響が東証に現在上場している企業に及ぶことは言うまでもありません。また、直接的または間接的な影響になるかは今後示される具体案で決まってくるものの、現在進行している東証再編の動きは地方市場にも確実に「インパクト」や何らかの「きっかけ」を与えることとなります。地方市場の取り組みや動向についても、関心を持っておく必要があるでしょう。
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