テクマトリックス Research Memo(6):注力する医療分野は需要側の意識の変化を背景に拡大基調
[14/06/23]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■「クラウド」「セキュリティ&セイフティ」への一大構造改革
(2)戦略の進ちょく状況
テクマトリックス<3762>の事業構造改革は、今のところ順調に進ちょくしている。
同社が現在「クラウド」で最も注力している分野が医療分野である。この分野は大手システム会社がクラウド化にあまり積極的でない分野と言える。また、医療機関からは経営効率化の必要性や、東日本大震災の教訓から情報管理の徹底を条件にクラウド化への理解が進んだ点が大きい。大手システム会社があまり積極的でない隙をついて、一気に市場拡大を図っているのである。
その医療分野では、画像などの医療情報を安全に保管・活用・共有できるクラウドサービス「NOBORI(のぼり)」が主力商品となっており、急激に受注拡大が進んでいる。
「NOBORI」は、2013年3月期の下半期に発売し、半年で50件の受注を獲得した。2014年3月期は100件の受注を獲得している。一方、矢野経済研究所の調べでは現在、国内の医療機関で導入されているクラウド型の医療用画像管理システム(PACS)は205件となっている。つまり、全国の7割のシェアを同社が握っていることになる。
医療分野における子会社「医知悟」の業績も好調である。医知悟の提供する遠隔読影インフラは、月間の読影件数が10万〜11万件と国内では最大規模になっている。この結果、2014年3月期における医知悟の業績は売上高、利益ともに計画値を大きく上回ったという。
医療分野においてクラウドが好調な理由としては、特に需要側の意識の変化が大きなカギを握っている。医療機関側は当初、医療情報が万一外部に漏えいした場合のリスクを考えて導入に及び腰の面があった。しかし、最近は経営環境の変化に伴って医療機関側でも従来型のシステム構築は(1)導入時の初期投資負担が大きい、(2)ITシステムを自社で抱えると維持要員等のコストがかかる、(3)設備の更新も必要になる?などの理由でクラウド化への理解が進んでいるようである。さらに、東日本大震災によって、地震や津波でITシステムが破壊された例が数多くあったことから、厚生労働省、総務省、経済産業省がそれぞれ医療機関のITシステムのクラウド化に関連した指針を策定した。これを受けて、リスク管理面でもクラウドのほうが安全だと考える医療機関も増えている。
ちなみに、矢野経済研究所の調べによれば、医療用画像管理システム(PACS)の国内市場規模は2012年実績で102件だったのが、2015年に570件、16年に710件になるとしている。
このように、クラウドは需要側が情報管理への理解を示し、興味を持つことによって、導入が加速していくと考えられる。そして今後は、クライアントの理解とともに、医療分野以外でもクラウド化が進むと考えるのが普通であろう。実際、同社においても、医療分野以外でクラウドのビジネスが拡大している。
医療以外の分野に関しては、CRM分野のクラウドが、収益に大きく貢献するレベルにまで進展している。長年取り組んでいるコールセンターのコールトラッキングシステムをクラウド上でSaaS(サース:ネットワーク経由でソフトウェアの機能を提供するサービス)サービスを行っている。これは、「FastCloud」の名称で販売されている。
CRM分野ではコールセンターCRMシステムを、従来型であるオンプレミス(顧客施設へシステムを据え置き)とクラウドの両方を提供している。クラウドは、契約件数で前年度比32.7%、月額利用料で同23.8%の増加を達成した。具体的な収益は公表していないが、2014年3月期において、CRM分野は過去最高の利益水準を達成した。NTTデータ<9613>や伊藤忠テクノソリューションズ<4739>との業務提携による大型案件の獲得やクラウド需要の拡大が利益を押し上げたという。CRM分野の営業に関しては、クラウドとオンプレミスの両方をクライアントに提示している。しかし、クライアントのクラウドへの理解が深まるにつれて、今後はCRM分野に関してもクラウドの比率が高まっていくものと見られる。
また、インターネットサービス分野では、EC開発関連で山善<8051>からの受注といった大型案件の獲得や、楽天に出店するショップからのサービス受注なども好調で、売上高・利益とも計画を超過した。
さらに、海外展開も積極的に展開している。2014年3月期は、昨年6月にCRM分野においてマレーシアのクラウドサービス大手Anise Asia Cloud社と「FastCloud」に関する販売代理店契約を締結、今年2月には、沖縄クロス・ヘッドが台湾企業と事業協力の覚書を締結した。3月にはマレーシアのLambda Tecnologies社とも「Fastシリーズ」の販売代理店契約を結び、マレーシアでの販売代理店が2店体制となった。
子会社戦略も強化した。3月に連結子会社のクロス・ヘッドを完全子会社化したが、これもクライアントのITシステムの保守・運用といったサービスに強いクロス・ヘッドを完全にグループ化することで、クラウド事業の拡大を図る戦略のひとつである。
≪「NOBORI」≫
様々な医用画像をクラウドで安全に管理・利用できるサービスである。「NOBORI」のネーミングは、このサービスを通じて医療情報を社会の集合知へと高めて病院・医療機関、医師・医療スタッフ、患者・生活者に還元したいという思いから、「のぼり雲」の水蒸気が循環するイメージを重ね合わせた。
安全性では、厚生労働省のガイドラインに準拠、東日本と西日本の2か所で多重保管するデータセンターは、多数の国際基準をクリアしている。クラウドが持つ特色である、サーバが不要、初期投資が不要、メンテナンスの手間がいらない?といったメリットを受けられる。さらに、クラウドゆえに施設を横断した情報共有も可能となっている。たとえば、患者本人の同意と施設間の公開設定をすれば、複数の医療機関で患者の医用画像やレポートを共有することもできる。
≪「FastCloud」≫
コンタクトセンターに特化したSaaS型クラウドサービスで、同時ログイン数(サーバやシステムに同時にアクセスできるユーザー数)ごとの課金により、コスト削減ができるほか、業務に応じた画面カスタマイズや、SNSとの連携も可能となっている。期初コストを抑えたい、短期間でシステム構築をしたい、問い合わせ件数の繁閑の差が大きい、専任のシステム管理者がいない、といった問題解決には最適なサービスとなっている。
昨年9月に「第7回 ASP・SaaS・クラウドアワード2013」において、「海外展開賞」を受賞している。
クラウド関連の事業が拡大すれば、もうひとつの戦略の柱である「セキュリティ&セイフティ」も拡大していく。2014年3月期は、特にネットワークセキュリティで関連製品の売上が伸びた。また、ソフトウェアの品質保証も好調である。製造業の業績回復を背景に、組込ソフトのテストツールが好調に推移している。さらに、システム障害・パフォーマンス劣化の原因特定を効率化する新製品も投入し、事業拡大を目指している。今後もソフトウェア品質保証分野では、医療、自動車、FA分野での攻勢をかけるとしている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柄澤邦光)
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