ムサシ Research Memo(4):メディアコンバートサービスは高い成長ポテンシャルを有する
[14/07/09]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■各事業の詳細
(1)情報システム機材
情報システム機材の中味は大きく、スキャナ、電子アーカイブ等機器類、メディアコンバートサービス(文書デジタル化業務)、および非破壊検査機器等(産業システム機材)の3つに分類される。この3分野の弊社推定の内訳はグラフの通りだ。情報システム機材の連結売上高は、2014年3月期実績で8,553百万円と弊社では推計している。なお、単独ベースでの「情報システム機器」の売上高は6,913百万円と公表されている。
「情報システム」の成り立ちは富士フイルムの代理店として写真複写機用感材の販売であったが、その後はマイクロフィルム関連機材の販売に軸足が置かれた。その中で、ムサシ<7521>は次第に、マイクロフィルム化の作業自体の請負も手掛けるようになり、販売網も全国に250店を超える販売先を組織化するまでになった。この、マイクロフィルム化の機材・資材、及びマイクロフィルム化作業のノウハウなど同社の有する有形・無形の資産は、その後技術の進化に合わせて少しずつ姿を変え、今日のメディアコンバートサービスへとつながっている。
「情報システム機材」の2014年3月期の売上高は前述のとおりであるが、2015年3月期については、単独ベースで8,150百万円(前期比17.9%増)と会社側は予想している。増収分は後述のメディアコンバートサービスの増収によるものとなっている。連結ベースの情報システム機材売上高は、10,041百万円と弊社では推計している。
・メディアコンバートサービスの詳細について
情報システム機材は、仕入商品の販売業務は利益への貢献度が非常に小さい。したがって、この事業で利益を上げるには、同社自身が付加価値を発揮できる事業に取り組む必要がある。それがメディアコンバートサービスだ。これは、文書や書籍などについて、紙ベース、電子データ、マイクロフィルムの3者間で、顧客の望む方式に変換するサービスだ。
同社は豊洲に広大なイメージングセンターを擁してメディアコンバートサービスを提供している。この事業の顧客は同社の場合、約70%が官公庁や自治体で、30%が民間企業という内訳だ。競合は大日本印刷<7912>や凸版印刷<7911>などの大手印刷会社や、エレクトロニクス商社、倉庫業者など様々だ。業者が乱立した状況の中でシェアを正確に把握できていないが、同社は大手の一角を占めていると想定される。
同社の強みは、高セキュリティ(元資料の管理、情報秘匿など)、高品質の加工技術、高生産性(国内最大のイメージングセンター)などにある。また、ただスキャンをするのではなく、マイクロフィルム化で培った正確で効率的なデータベースづくりも同社が提供する付加価値の大きな一部である。
収益性は案件の規模にもよるが決して低くはない。大型の案件(1件当たり受注金額が100百万円以上というのが大型の目安)が多く、全体の売上高が前年比倍増した2010年3月期は、この事業が属する「情報・印刷・産業システム機材」セグメントの営業利益が前年比1,589百万円の増益となった。この増益額のすべてではないにせよかなりの部分がメディアコンバートサービスの増収からもたらされたものと推定される。メディアコンバートサービスは、高い成長ポテンシャルを有していると言えよう。
2014年3月期のメディアコンバート事業の売上高は3,677百万円(前期比19.3%減)で、同社の事前予想5,130百万円に届かなかった。この要因は、官公需が中心(全体の約70%)の事業構造にあって、その官公需の回復のタイミングが遅れたためである。2014年3月期も予算配分において内部管理的事業の順位は低い状況におかれたということだ。
ただし、足元の状況は、2014年3月期の第4四半期から、1件当たり100百万円を超す大型案件の需要が出てきて、潮目の変化を実感している状況のようだ。こうした状況を踏まえて同社では、2015年3月期メディアコンバートサービスの売上高を5,365百万円(前期比45.9%増)と予想している。
メディアコンバート事業の中期成長性の考察
前述のように、文書のデジタル化の市場については正確な業界統計がなく、同社の売上高の推移をみる限りは市場は低迷期に入りこんでしまったようにも思われる。そこで、文書デジタル化事業の市場性を考えてみたい。
文書のデジタル化を促進する働きを持つ法律は、これまでにいくつか施行されている。2001年4月施行の情報公開法は、行政機関に開示義務を課した。その結果、行政機関側には情報の検索性を高めるニーズが生じた。2003年5月に施行された(全面施行は2005年4月)個人情報保護法は行政機関のみならず民間機関に対しても、情報の適切な管理を要求している。膨大な個人情報が含まれるデータを流出・紛失・漏洩などから防ぐためには、電子データ化するのが有効な方策と考えられる。2005年4月施行のe文書法は、商法、税法関連の財務・税務書類について、一部でファイルによる保存を認めた。法定帳簿類は業種によっては膨大な量となるため、省スペース化ニーズは非常に強い。
最も決定的なのは2011年4月施行の公文書管理法だ。ここでは年金記録問題の反省に立ち、行政機関に文書管理の強化を求めている。これにより過去文書をデジタル化して適切に管理しようという流れが、国レベルにとどまらず地方自治体レベルにまで広がった。
このように、一連の法整備がなされる中で、行政機関及び民間企業双方において、検索性、保存性、機密性、省スペース性などのニーズが顕在化し、これが文書デジタル化の需要を生み出してきた。
過去文書のデジタル化の進捗度合いが、山登りでいう何合目にきたのか、を正確に言うことは難しい。そもそもの文書量が不明な上、そのうちどれくらいデジタル化しなければならないのかの判断が部外者にはわからないためだ。
国立国会図書館を例にとると、図書(雑誌類は含まない)が2007年現在で905万冊所蔵されていた。年間で10万冊弱が出版されているという状況下、2014年現在はさらに増加していることは疑いが無い。一方、現時点でデジタル化された図書資料点数は約90万点(国立国会図書館HPより)とされている。およそ10%だ。行政文書のデジタル化率がこの数値とどれくらいの類似性があるかはわからないが、イメージをつかむ一つの手助けにはなろう。
同社の売上高推移が表象するように、市場規模は震災後の過去3年間縮小基調にあったとみられるが、この最大の要因は予算の問題というのが同社の分析だ。優先順位として震災復興に大きく偏重していたということだ。しかし、震災からすでに丸3年が経過し、少しずつ復興が進む中で、予算配分も震災前の状況に戻っていくと考えられる。今まさに変化の最中にあると考えられる。
前述したように同社は、2013年度下半期から、メディアコンバートサービスに対する需要回復の手応えを感じてきている。官公需においては、橋梁やトンネルなど社会インフラに関する図面のデジタル化が需要の具体例として挙げられる。国土強靭化計画の一環として、重要な社会インフラに対するメンテナンスを万全にしようという機運が高まった。その結果、従来はそうした図面は自治体ごとに自治体の予算で管理されていたものが、そこに国からの補助金がつけられ、これが文書デジタル化の原資となっている。
民間においても動きがみられる。一例をあげれば、原子力発電所の代替としてLNG火力発電所等の整備が進められるなか、そうした大型プロジェクトの図面についてのデジタル化需要が出てきている。こうしたインフラ関連については、民間需要の大型案件は官公庁の動きと連動する側面もあり、官公需が動意づいている現状は、民需についても追い風ということができよう。民需ではまた、業績回復の流れを受けて金融機関からの需要の増加なども挙げられる。顧客情報の管理の強化などは避けては通れない部分であり、業績回復から設備投資増大という流れの中で行内文書のデジタル化と保存・保管体制の強化策が、同社への需要となって出てきている。
公文書の保存の重要性は論を待たない。正確な統計はないが、デジタル化されるべき公文書に占める実際にデジタル化された割合は、5%とも10%とも言われているが、未だごく低い割合にとどまっているというのが同社も含めた業界関係者の認識のようだ。無論、公文書についても前述の図書同様に増え続けており、今あるものを片付けると終わりという性質のものでない。2010年3月期の水準(121億円)を恒常的な期待値と位置付けるのは難しいであろう。しかし、2008年3月期から2011年3月期にみられた6,000百万円〜8,000百万円を通常ペースとしてこの水準まで回復するという見方は合理的な期待値の範囲内であると弊社では考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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