サンコーテクノ Research Memo(3):あと施工アンカーでシェア40%、「オールアンカー」は広く普及
[14/07/18]
提供元:株式会社フィスコ
提供元:株式会社フィスコ
注目トピックス 日本株
■事業の詳細
(1)ファスニング事業
(製品説明)
「ファスニング」とは「締める」「留める」といった意味で、サンコーテクノ<3435>のファスニング事業とは建設工事用の「留め具」を製造販売することである。最も典型的な製品は鉄筋コンクリート用あと施工アンカーである。鉄筋コンクリートの壁面に器具等を固定するとき、通常の釘やネジは使用できない。そこでドリルで壁面に孔をあけ、特殊な固定具を打ち込んで固定する。コンクリートを流し込む前に固定用の器具を埋め込む工法(「先付けアンカー」という)に対して、固化後に施工するという意味で“あと施工”アンカーと呼ばれる。
同社はあと施工アンカーのうちの金属系の分野で、1965年に「オールアンカー」名で特許を取得した。これは芯棒を打ち込むことでの先端を拡張させ、その力によってコンクリートなどの母材に固定させる仕組みのものだ。現在では特許は切れているが、「オールアンカー」は同種の製品の一般名称化するほど建設業界内では普及している(オールアンカーの一般名称は「芯棒打込み式アンカー」)。
固定金具にはネジ、釘、ボルト及びナットなど、様々なものがあるが、あと施工アンカーの特長は、「片面施工」ということだ。すなわち、裏側に手をまわして、ボルトとナットでは締結できず、一方、ネジや釘も使えないという局面での固定金具だ。こうした局面は意外と多い。最も多いのは鉄筋コンクリート(RC)造の建築物だ。建物はもちろんだがトンネルや橋脚など、あらゆるRC造構造物であと施工のニーズがある。一般住宅においても、外壁(サイディング材)、屋根(折板)、及び室内の壁面(石膏ボード)、天井等に器具等を固定する場合にあと施工アンカーなどの各種ファスニング材が利用される。大規模マンションともなれば1棟で数万個のファスニング部品が使用される。一般家庭でも、エアコン室外機や配管などを外壁などに固定する際に数十個から数百個単位で使用される。
(競合環境)
同社は金属系オールアンカーに限定した場合は、約50%の市場シェアを有している。あと施工アンカーには芯棒打込み式以外にも様々なタイプのものがあるが、同社の商品ラインナップ全体を対象とした場合でも市場シェアは40%を超えている。シェア2位の企業は約20%、シェア3位の企業が約10%の市場シェアであるため、同社がシェアの面では頭1つ抜きん出ている状況だ。
前述のように、同社は約50年前に「オールアンカー」で芯棒打ち込み式アンカーの特許を取得し、同社の製品名が一般名詞化している現状がある。それだけ同社のブランドが浸透しているということで、同社の製品の価格は他社の同等製品に比較して15%程度高い値付けがされている。
同業他社の中には他の製品(ドリルなど)が本業で、底辺からの事業拡大の一環としてアンカーに進出していた企業もある。そうした企業は商品ラインナップの少なさを、同社の製品を使用することでカバーするような事例もあり、同社の優位性は簡単には揺るがないと弊社ではみている。
(生産体制・原材料・コストダウン)
同社はアンカー製品をサンコーテクノ本体の国内工場と、タイの生産子会社で製造している。タイの製造分の約85%は日本に輸入して国内販売をしている。原料の鋼材は、国内製造分は国内鉄鋼メーカーの鋼材を使用し、タイ生産分は現地調達の鋼材を使用している。
コストダウンの努力は同社においても不可避だ。同社では、原材料において特殊鋼から普通鋼への切り替え、及び、加工法において切削法から鍛造法への切り替え、などを通じてコストダウンを図ってきた。
同業他社がほぼ大部分を海外工場で生産しているのに対して、同社は国内販売分の約80%を日本国内で製造している(残り約20%はタイの生産子会社からの輸入分)。その分コスト高になり、それをブランド力でカバーして15%ほど高い価格帯で販売して、コスト高分を吸収しているというのが現在の構造だ。今後、ユーザーが価格重視の姿勢を強めた場合に、同社製品も他社並みに価格が引き下げられ採算が取れなくなるというリスクが考えられる。
この点については、弊社ではさほど心配はしていない。まず、アンカーの材料・材質に関する指定がされることが多い。こうしたケースでは国内鋼材を使用した同社製品が有利になるケースが多いと推測される。また、同社の原料鋼材購買力の大きさゆえ、かなり割安な価格で鋼材が購入できているようだ。したがって仮に製品価格の下押し圧力が強まっても、同社のコスト構造には耐久力があると言える。また、タイ工場の存在がある。タイの工場は本社工場と同等の生産設備を有しており、生産品目の面でも、本社工場のかなりの部分を肩代わりできる潜在能力が備わっているようだ。タイの背後にはベトナムも控えており、コストダウン圧力の度合いによっては海外生産の比率を高めて対応することが可能な状況となっている。
(関連商材)
同社のファスニング事業部門は、あと施工アンカー製品のほかにも関連商品を扱っている。具体的には電動油圧工具と、ドリル類だ。電動油圧工具とは具体的に、RC造構造物の補強材である鉄筋(棒鋼)を切断するためのカッターが主力だ。このカッターの市場は同社を含めた3社の寡占市場で、同社も約30%の市場シェアを有している。年商規模は約25億円と売上高内訳において大きな存在感を有している。
もう1つはドリルだ。ドリルはあと施工アンカーによる施工工事において極めて重要だ。高性能のドリルで正確な孔あけを行わないと、アンカーの固定性能が十分に発揮されなくなる恐れがあるからだ。同社は子会社の(株)IKKにおいてドリルの製造を行っている。ドリルの事業規模は年商約10億円となっている。
(事業部門の収益状況)
ファスニング事業は建築資材の1つであり、その需要は、国内の建築需要に大きく影響される。建築需要の指標として建築着工床面積を取り上げ、同社の過去の売上高の推移と比較すると、非常に相関性が高いことが明白だ。同社の代表製品であるあと施工アンカーは鉄筋コンクリートの建築物に主として使用されるが、同社は他にも、一般戸建て住宅等の木造建築物でも利用されるファスニング材を幅広くラインナップしているため、同社の売上高は建築着工床面積の動向と高い相関性がある。
ファスニング事業の売上高内訳は、前述したように、アンカー製品、工具、ドリルに大別される。いずれも、全体の需要動向に左右されるが、工具とドリルは比較的安定しており、アンカー製品が比較的変動が大きいという構図になっている。
ファスニング事業の売上高とセグメント営業利益の推移はグラフのとおりだ。現行のセグメント構成になった2011年3月期以降、着実に成長を続けている。営業利益も一貫して黒字を維持していると同時に、ここにきて利益率が上昇してきている。利益率が向上してきた要因は需要増加に伴う生産数量の増加と、前述した原価低減策の奏功によるものだ。製品価格は緩やかな下落トレンドが続いているが、これまでのところは価格下落の影響を完全に吸収できている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
<FA>
(1)ファスニング事業
(製品説明)
「ファスニング」とは「締める」「留める」といった意味で、サンコーテクノ<3435>のファスニング事業とは建設工事用の「留め具」を製造販売することである。最も典型的な製品は鉄筋コンクリート用あと施工アンカーである。鉄筋コンクリートの壁面に器具等を固定するとき、通常の釘やネジは使用できない。そこでドリルで壁面に孔をあけ、特殊な固定具を打ち込んで固定する。コンクリートを流し込む前に固定用の器具を埋め込む工法(「先付けアンカー」という)に対して、固化後に施工するという意味で“あと施工”アンカーと呼ばれる。
同社はあと施工アンカーのうちの金属系の分野で、1965年に「オールアンカー」名で特許を取得した。これは芯棒を打ち込むことでの先端を拡張させ、その力によってコンクリートなどの母材に固定させる仕組みのものだ。現在では特許は切れているが、「オールアンカー」は同種の製品の一般名称化するほど建設業界内では普及している(オールアンカーの一般名称は「芯棒打込み式アンカー」)。
固定金具にはネジ、釘、ボルト及びナットなど、様々なものがあるが、あと施工アンカーの特長は、「片面施工」ということだ。すなわち、裏側に手をまわして、ボルトとナットでは締結できず、一方、ネジや釘も使えないという局面での固定金具だ。こうした局面は意外と多い。最も多いのは鉄筋コンクリート(RC)造の建築物だ。建物はもちろんだがトンネルや橋脚など、あらゆるRC造構造物であと施工のニーズがある。一般住宅においても、外壁(サイディング材)、屋根(折板)、及び室内の壁面(石膏ボード)、天井等に器具等を固定する場合にあと施工アンカーなどの各種ファスニング材が利用される。大規模マンションともなれば1棟で数万個のファスニング部品が使用される。一般家庭でも、エアコン室外機や配管などを外壁などに固定する際に数十個から数百個単位で使用される。
(競合環境)
同社は金属系オールアンカーに限定した場合は、約50%の市場シェアを有している。あと施工アンカーには芯棒打込み式以外にも様々なタイプのものがあるが、同社の商品ラインナップ全体を対象とした場合でも市場シェアは40%を超えている。シェア2位の企業は約20%、シェア3位の企業が約10%の市場シェアであるため、同社がシェアの面では頭1つ抜きん出ている状況だ。
前述のように、同社は約50年前に「オールアンカー」で芯棒打ち込み式アンカーの特許を取得し、同社の製品名が一般名詞化している現状がある。それだけ同社のブランドが浸透しているということで、同社の製品の価格は他社の同等製品に比較して15%程度高い値付けがされている。
同業他社の中には他の製品(ドリルなど)が本業で、底辺からの事業拡大の一環としてアンカーに進出していた企業もある。そうした企業は商品ラインナップの少なさを、同社の製品を使用することでカバーするような事例もあり、同社の優位性は簡単には揺るがないと弊社ではみている。
(生産体制・原材料・コストダウン)
同社はアンカー製品をサンコーテクノ本体の国内工場と、タイの生産子会社で製造している。タイの製造分の約85%は日本に輸入して国内販売をしている。原料の鋼材は、国内製造分は国内鉄鋼メーカーの鋼材を使用し、タイ生産分は現地調達の鋼材を使用している。
コストダウンの努力は同社においても不可避だ。同社では、原材料において特殊鋼から普通鋼への切り替え、及び、加工法において切削法から鍛造法への切り替え、などを通じてコストダウンを図ってきた。
同業他社がほぼ大部分を海外工場で生産しているのに対して、同社は国内販売分の約80%を日本国内で製造している(残り約20%はタイの生産子会社からの輸入分)。その分コスト高になり、それをブランド力でカバーして15%ほど高い価格帯で販売して、コスト高分を吸収しているというのが現在の構造だ。今後、ユーザーが価格重視の姿勢を強めた場合に、同社製品も他社並みに価格が引き下げられ採算が取れなくなるというリスクが考えられる。
この点については、弊社ではさほど心配はしていない。まず、アンカーの材料・材質に関する指定がされることが多い。こうしたケースでは国内鋼材を使用した同社製品が有利になるケースが多いと推測される。また、同社の原料鋼材購買力の大きさゆえ、かなり割安な価格で鋼材が購入できているようだ。したがって仮に製品価格の下押し圧力が強まっても、同社のコスト構造には耐久力があると言える。また、タイ工場の存在がある。タイの工場は本社工場と同等の生産設備を有しており、生産品目の面でも、本社工場のかなりの部分を肩代わりできる潜在能力が備わっているようだ。タイの背後にはベトナムも控えており、コストダウン圧力の度合いによっては海外生産の比率を高めて対応することが可能な状況となっている。
(関連商材)
同社のファスニング事業部門は、あと施工アンカー製品のほかにも関連商品を扱っている。具体的には電動油圧工具と、ドリル類だ。電動油圧工具とは具体的に、RC造構造物の補強材である鉄筋(棒鋼)を切断するためのカッターが主力だ。このカッターの市場は同社を含めた3社の寡占市場で、同社も約30%の市場シェアを有している。年商規模は約25億円と売上高内訳において大きな存在感を有している。
もう1つはドリルだ。ドリルはあと施工アンカーによる施工工事において極めて重要だ。高性能のドリルで正確な孔あけを行わないと、アンカーの固定性能が十分に発揮されなくなる恐れがあるからだ。同社は子会社の(株)IKKにおいてドリルの製造を行っている。ドリルの事業規模は年商約10億円となっている。
(事業部門の収益状況)
ファスニング事業は建築資材の1つであり、その需要は、国内の建築需要に大きく影響される。建築需要の指標として建築着工床面積を取り上げ、同社の過去の売上高の推移と比較すると、非常に相関性が高いことが明白だ。同社の代表製品であるあと施工アンカーは鉄筋コンクリートの建築物に主として使用されるが、同社は他にも、一般戸建て住宅等の木造建築物でも利用されるファスニング材を幅広くラインナップしているため、同社の売上高は建築着工床面積の動向と高い相関性がある。
ファスニング事業の売上高内訳は、前述したように、アンカー製品、工具、ドリルに大別される。いずれも、全体の需要動向に左右されるが、工具とドリルは比較的安定しており、アンカー製品が比較的変動が大きいという構図になっている。
ファスニング事業の売上高とセグメント営業利益の推移はグラフのとおりだ。現行のセグメント構成になった2011年3月期以降、着実に成長を続けている。営業利益も一貫して黒字を維持していると同時に、ここにきて利益率が上昇してきている。利益率が向上してきた要因は需要増加に伴う生産数量の増加と、前述した原価低減策の奏功によるものだ。製品価格は緩やかな下落トレンドが続いているが、これまでのところは価格下落の影響を完全に吸収できている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
<FA>