アールシーコア CORPORATE RESEARCH(8/9):高位な契約残高を見込むも、受け渡し期間・職方不足が懸念材
[14/08/08]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■RCC社の現状に対する考察
第2部で述べたようにSC社はRCC社の今期の業績について予想を立てないが、アールシーコア<7837>の現状に対する考察を最後に載せる。
◆果たしてここ数年の環境は「追い風」であったのか
RCC社が中期経営計画を発表したのが2012年のこと。筆者は、それからの同社を取り巻く市場環境は、決して同社に対して“追い風”であったとは考えていない。東日本大震災からの復興需要、老朽化した社会インフラの整備も含めた積極的な公共投資、オリンピック開催の決定は、資材の高騰のみならず、施工部門を持たない同社に職方不足による施工、受け渡しの長期化という問題をもたらした。
また、安倍政権発足後の景況感の改善は住宅販売業全体に対して好影響をもたらしたが、同時に進行した円安の影響度合いは他社に比べて大きかったと思われる。そして、昨年の消費増税決定時期における駆け込み需要についてであるが、プラス効果は同業他社に比べて小さく、また、今期以降に与えるマイナスの影響は同業他社よりも一時的に大きいと判断している。
◆なぜ、「消費増税」はプラスではなかったか
消費増税が同社にとって追い風でなかった理由は、需要の喚起が同社の得意とする形とは全く違った次元で生じたということに尽きる。同社の契約者は同社の提唱する「暮らし中心の家」について時間をかけてイメージすることから、「9月までに契約」という時間的な制約のある状態での需要の取り込みは同社のマーケティング・スタイルとは全く違うものであったと思われる。
実際に合同展示場にヒアリングを行ったが、(展示場によっては極めて異例のことであるが、)8月、9月に休業日を返上したところもあった。また、来場状況を振り返り、「明らかに過去最高の来場で、平日についても会社を休んで展示場を訪れる家族連れが多く、対応が非常に大変であった」とのこと。
これは、「9月までに成約」という時間的な制限があるなかで、住宅を購入すると決断した人が、短時間で比較可能な合同展示場に押しかけたことを表していると思われる。無論、同社の単独展示場へも多くの来場者が訪れたが、筆者が懸念しているのは、そのような制約の無い状態であれば、今年、来年に「BESS」の展示場を訪れ、そして、その感性で「BESSの家」を選んだかもしれない潜在顧客が、「BESS」を知らないうちに、「BESS」を見ずして、駆込みにより他社において住宅を購入したケースが存在するということである。
この部分は否定できない。なぜならば、同社のマーケティングは、大数の法則に合致しているからである。第1部の定性の項で述べたとおり、「新規来場件数と契約件数の相関」により、ビジネス・フレームワークが確立されてきたことは、高い決定係数が証明している。つまり、一定数の人間の中には、一定比率で、他社と比較を行わずに同社を選択する「感性の持ち主」が存在するということである。
◆前年度下期の営業態勢
また、「消費税5%確定時期」である昨年9月が終わり、下期を迎えるにあたって、同社は他社に比べて、営業態勢上かなり不利な状況であったと推察される。それは、成約から完成(受け渡し)までに想定される期間が他社に比べて長かったのではないかということである。
◆契約残高の増加
図表18は年度別の契約残高増減を表している。これは、「直販」においては「工事」、「販社」においては「商品」、「BP社」は「工事」に限定して計測したものである。
これにより、2011年度、2012年度に販社が契約残高を増加させたこと、直販も2012年度、2013年度に契約残高を増加させたことが分かるが、これを残高ベースで昨年3月末からこの3月末までの半期推移を示すと以下のようになる。
これにより、昨年9月末時点での契約残高が最も大きかったことが分かる。この要因は第2部の図表5で示したとおり、直販の契約が好調であったことであるが、それでは実際に同社の家を契約した場合にどのくらいの期間で受け渡しが行われるかを試算してみる。
◆受け渡しまでの期間の長期化
図表20は、年度末の各セグメントの契約残高を、その年度の販売高を12で除した金額で除したものである。これによると、2014年3月末時点で、全社ベースでは6.3ヶ月、直販では11.6ヶ月、物件の引渡しにかかる計算となる。同社に確認したところ、直販で9ヶ月程度、販社で半年程度との回答を得た。そのため、この直販の数字はやや大きく出てしまったが、傾向を示すグラフとしては有効であると思われる。このグラフを見る限り、昨年10月以降の成約物件を増税前の今年3月までに完成させるのは、直販ではほぼ無理であり、販社においてもかなり困難であったのではないかということが推測される。
それでは、昨年の10月以降の下期に同業他社がどのような営業姿勢であったかといえば、“まだ間に合いますキャンペーン”を行っていた会社が多かったようである。基礎工事の乾燥期間を正月休みに充てれば3月までには完成できるという宣伝文句である。そのため、前年度下期において、同社は非常にディスアドバンテージな状態で営業を行っていたと考えられる。
◆施工=販売=売上は改善するのか
ひとつ断りを入れたい。それは同社の直販部門の受け渡しまでにかかる長さゆえ施工部門を持つべきだということを述べたいのではないということである。
住宅販売会社が大きな経営判断として選択することは2つしかないと筆者は考えている。それは土地を持つか持たないかの判断、そして施工部門を持つか持たないかの判断である。この2つを持つことによって、リターンも、そしてリスクも経営上大きくなることは明らかである。同社はその両方を現在は持っていない。そして、この4年間の利益率の高さはその選択がこれまでは正しかったことを意味している。但し、現在は施工部門を持たないことが、結果的にこのような状況の一因となっていることを述べたいだけである。
◆着工件数と建設技能労働者過不足率
それでは、受け渡しまでの期間は短くなるのか。これについては、同社にとって明るい事象とそうでない事象が起きている。
新設住宅着工件数は、実は月による季節性が高い。そのため、野田政権で消費税率引き上げが閣議決定された2012年8月以前の月別の5年平均件数を算出し、その後の新設住宅着工件数が月別5年平均をどのくらい上回るペースであったのかをグラフにしたのが図表21である。
このグラフから昨年9月に一気に着工件数の増率が大きくなり、年明けに沈静化し、現在は2012年8月以前の水準にまで戻っていることが分かる。つまり、業界全体の過熱感は収まったということである。
しかし、これを喜んでいられないもうひとつの指標がある。図表22は同じく国土交通省が発表している、「建設労働需給調査」の「建設技能労働者過不足率(6種・全国・季節調整値)」をSC社が加工し、グラフで表したものである。
これによると、リーマン・ショックから1年が経過した2009年9月を境にして建設労働者に対する需給状況が変わり、ほぼ一貫して建設労働者に対する不足度が上昇していることが分かる。職方不足の解消は容易ではないだろう。このことは同社も十分に認識している。
2014年3月期の契約残高は6,733百万円である。また2014年度の契約高として11,990百万円、売上高として12,700百万円を見込んでいるということは、今年度末の契約残高見込みは6,023百万円となり、契約残高の減少幅は710百万円と小幅にとどまることになる。これは、2012年3月期レベルとほぼ同じで、高位な契約残高であることに変わりはない。
このことが懸念材料となる可能性があるのは2つ。ひとつは「そこまでは待てない」と顧客が考えることはないかということ、そしてもうひとつは、今年中に安倍首相が判断すると明言している、来年10月からの消費税率10%への再増税がもし決定された場合、営業現場において同業他社に比べて不利な状況が再現するということである。
消費税率が8%に引き上げられた際に、表明から実施までの期間が6ヶ月であったのに対して、今回は9ヶ月とやや長いことと、前回の税率引き上げで前倒し需要のかなりの部分を取り込んだため、10%への再引き上げ時には今回ほどの駆け込み需要は発生しないであろうということを考えると、前回引き上げ時よりも同社に与える相対的な“向かい風”は小さいと思われるが、9ヶ月という数字が、現在の同社の直販部門が、成約から受け渡しまでにかかる期間とほぼ同じであり、再増税前に引き渡しを終えるためのギリギリの数字であるという認識は持つべきであろう。
スプリングキャピタル株式会社 井上 哲男
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