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パイプドビッツ Research Memo(7):経営判断の迅速化、積極的なM&A、人材採用・育成が重要施策

注目トピックス 日本株

■新中期経営計画と今後の事業戦略

昨年度で中期経営計画が終了したのを受けて、パイプドビッツ<3831>は新しい中期経営計画2017「次世代ITベンダーへと革新する3ヶ年」を発表した。数値目標は、下図のように3年後の2017年2月期に売上高9,200百万円(2014年2月期実績比約3.7倍)、営業利益2,800百万円(同約5倍)を計画している。この計画を達成するために、主に以下の3つの重要施策を掲げている。

○カンパニー制の導入による新規事業の経営判断の迅速化及び収益力の強化
○積極的なM&Aによる事業拡大
○人材の積極的な採用と育成

(カンパニー制の導入)
主な新規事業に対してカンパニー制を導入した。このねらいは、新規事業での経営判断の迅速化、収益力の強化、対象業種のワークスタイルへの適合のためなどである。例えば美容業界向けに特化した「美歴」の営業では、主な顧客が美容室であることから顧客の休日は火曜・水曜が多い。これに対して同社の営業社員が土曜・日曜に休みを取っていたら営業効率が悪い。そこで「美歴事業」では独自のカンパニー制によって休日や勤務時間を自由に決めることが可能になり営業効率を上げられる。今までのところ「美歴事業」と「政治山事業」、「I Love下北沢事業」にカンパニー制を導入しているが、状況に応じて他の事業にもカンパニー制の導入を検討する。

また同社は、2015年9月1日を目途に純粋持株会社へ移行することを発表した。詳細内容はまだ決定していないが、現在は社内カンパニーとなっている各事業が将来的には子会社として持株会社の傘下に入る可能性もありそうだ。

(M&Aによる事業拡大)
同社では、M&Aも重要な事業戦略と位置付け常に候補企業を探している。現在でもいくつかの案件を検討中のようだが、同社のM&A対象となるのは主に2つのグループ。1つ目は下記に述べる(株)アズベイスのように、同社が持っていないサービスを提供できる企業で、同社のプラットフォームへ組み込むことで顧客はより広いサービスを受けられるようになる。言い換えれば「兄弟サービス」を提供できる企業が候補となる。2つ目の対象は、その企業自体はITの能力は薄いがIT化が非常に遅れている業界に精通した企業。そのような企業が同社と組むことで、その業界のIT化を促進することが可能になる。

○アズベイスの子会社化
M&A戦略の1つとして、2014年3月に株式交換によってアズベイスを100%子会社化した。アズベイスの主力事業は音声・電話によるソリューション(コールセンター業務、テレマーケティング等)であるが、音声ソリューションはOne-to-Oneの対応であることから今まではデータがまとめにくく、同社でも作ることができなかった分野である。しかしアズベイスと連携することで、音声・電話ソリューションを同社の主力製品であるSPIRALと連携させることが可能になり顧客の満足度は大きく向上する。つまり「Web+音声」のサービスをクラウドで提供することが可能になり、これができる企業は他には見当たらない。

コールセンターとWeb連携の例としては、Web上でホテル等の予約を行うような場合である。通常、Web上でホテル予約等を行う場合には必要情報をキーボード等によって入力することが必須であるが、高齢者などWeb上の入力に不慣れな利用者は、コールセンターを呼び出し、必要情報を音声で伝えることでWebでの予約等を完了させることが可能になる。(注:単に電話で予約を行う場合とは異なり、あくまでWeb上での予約を行う場合である)

以上のようにアズベイスの子会社化は、単に同社の連結売上高や営業利益の数値が上乗せされるだけでなく、既存製品である「SPIRAL」での+α(相乗効果)が期待できる点が大きい。またアズベイスは技術開発型の企業であり、営業はオンプレミス(売り切り)型であったが、同社グループに加わることで今後はクラウドでの事業展開も可能になり、アズベイス自体の事業拡大も期待できる。

(人材の積極的な採用と育成)
同社は現在の中期経営計画の前に、2014年2月期を最終年度とする中期経営計画を推進していた。しかし残念ながら、前期決算はこの計画に対して未達になってしまった。その最大の要因は「戦力不足」であったと会社は分析している。すなわち、案件自体は豊富であったものの、サポート等の要員が不足していたことから取り損なった案件が多く見られた。そのため今回の中期経営計画では人員を積極的に採用し教育する方針だ。これに沿って今期は約90名(主に営業)の採用を予定している。

さらに前回中計の反省から、採用数だけでなくトレーニング(研修・教育)にも注力していく。既に営業のエース級人材3名を専任トレーナーとして投入し、新規採用人員に対して同社オリジナル研修プログラム「SIP(Spirer Incubation Program)」を通じて早期戦力化を目指している。「次世代ITサービスベンダー」を目指す同社の次期中核メンバーとなる「次世代型ITのプロ」を育成していく。実際にこれらの人材が戦力化するのは1〜2年後と予想され、売上高への寄与は2016年2月期の後半からになる見込みだが、同社では人材教育への投資は緩めない方針だ。今回の中計の最終年度である2017年2月期には、この効果が実現するものと期待される。

「美歴」:2012年1月に美容師、美容室向けにリリースされた。美容室のユーザーのヘアカルテを写真で記録し、アーカイブ化してユーザーと顧客とのコミュニケーションを可能にする新しい形のソーシャルサービスである。以前から美容室では、ユーザーのヘアスタイルをカルテとしてすべて手書きで残していた。これを同社の営業マンがデジタルの画像データとして残すことを提案してサービス化したもので、カリスマ的な人気を誇る有名店の美容師を中心に、現在では業界全体に広がっている。

美容室のユーザーにとっては、以前のヘアスタイルが写真として残っているため微妙な部分まで正確に再現でき、その美容室以外でも気に入った美容師、美容室とソーシャルでつながることができる。美容室側としても、ヘアカルテの管理の手間が省略でき、ユーザーの囲い込みが容易になるという利点がある。

なお、2014年10月に「美歴」をスマートフォンアプリとしてフルリニューアルした「美歴BIREKI」の提供を開始した。同アプリの活用により、ヘアカルテ作成/カウンセリング/DM送付等の手間削減に加えて、顧客とのヘアカルテを介した新しいコミュニケーションが生まれるほか、タイムリーなフォローによる失客防止や、顧客からの評価や感想による技術向上などが期待できる。年内は最大30サロン限定で試験運用し、更なる改善を行う。

「JoyPla(ジョイプラ)」:医療機関向けのクラウド型の薬剤・医療機材の発注システムである。指定商品しか購入できない従来の共同購入とは異なり、クラウドを利用して多数の医療機関の発注を取りまとめることで、個々の医療機関は既存の卸業者との取引関係を維持しつつ自由に必要な商品を選択することが可能になり、さらに共同購入によるコストダウンを享受できる点が特徴である。また、複数の卸業者への発注の場合でも、一度の操作で行えるため、医療機関は発注業務の手間も削減することができる。

2012年7月にリリースされたサービスで、現在の会員医療機関はまだ十数病院にとどまっているが、今後これを拡大させることで、価格交渉は有利になっていくはずである。医療業界はIT化が最も遅れている分野であり、それだけにこの分野の開拓に成功すれば巨大な市場をつかむことが可能になる。

「ArchiSymphony(アーキシンフォニー)」:2012年5月にサービスを開始した建築業界向けのアプリケーションで、同社がM&Aによって子会社化したペーパレススタジオジャパン(株)が扱っており、BIM(Building Information Modeling)と呼ばれる3次元設計をサポートするサービス。BIM設計支援ソフトと建築資材カタログをクラウド上で連携して、従来の業務フローを変えることなくBIM導入できるサービスである。建築資材の電子カタログとして無償で利用でき、ダウンロードした製品データは設計図にそのまま反映できる。積算コストを算出することも可能で、料金は公開情報の量に応じて資材メーカーが負担する。

BIM(Building Information Modeling)は、コンピュータの画面上に作成した3次元の建物の完成モデルに、資材、施工などの建築コストや管理コストなどを追加した建築物の属性データベースである。それを利用して設計、施工、維持管理までを行う建築業界の新しい施工手順である。

海外では、シンガポールで1万平方メートルまでの確認申請が既にBIMに移行していると言われる。建築現場で最も大変な作業とされている積算の計算も、電子カタログの一種である「ArchiSymphony」を使えば大幅に時間と手間が短縮でき、3次元データのライブラリー的なプラットフォームとして今後大きく発展する可能性を秘めている。

このBIMの推進において、ペーパレススタジオジャパンが五洋建設<1893>との業務提携に合意した。日本では、データ形式の統一化(標準仕様)が存在しないことなどからまだ普及が進んでいないが、五洋建設の設計、施工技術とペーパレススタジオジャパンのBIM技術を融合し実案件を進めていくことで、BIM仕様書やBIM標準データをまとめ上げ、国内特有の契約形態や設計、施工案件におけるBIMコンストラクションマネジメント推進を目指していく。

さらに建設通信新聞社主催の「国土交通省BIMのインパクト」セミナーにペーパレススタジオジャパンが登壇したことで、ペーパレススタジオジャパンはBIMに関するコンサル案件のリーダー的存在になりつつある。将来はこのBIMに伴い同社の「SPIRAL」との連携を狙っていく方針だ。

「政治山」:2011年3月にリリースされた政治・選挙情報プラットフォーム。2013年3月にサイトを全面リニューアルし、改めて政治と選挙に関わる情報プラットフォーム機能を強化した。昨年夏の参院選ではインターネットを通じた選挙運動(いわゆるネット選挙)が解禁されたが、実際の同社への直接の恩恵はそれほど大きくはなかったようだ。しかしいずれネット選挙の動きはさらに進んでいくことが予想され、この分野での先駆者である同社にとっては大きな追い風になるものと思われる。今後のこの分野での展開が注目される。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)



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