MDV Research Memo(3):診療データベースがカバーする患者数が1,166万人に達する
[15/10/07]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■会社概要
(2)事業概要
社名「メディカル・データ・ビジョン」(MDV)には、“豊富な実証データに基づいた医療の実現”という意味が込められている。設立目的は、医療や健康分野のICT化を推進し、人々の健やかな生活に貢献することである。生活者が、生涯を通じて自身の医療・健康情報を把握できる社会、それらの情報をもとに、医療・健康分野のサービスを選択できる社会を目指している。
2014年12月期の売上高1,950百万円の事業別内訳は、データネットワークサービスが62.2%(パッケージ:25.8%、メンテナンス:33.6%、その他:2.7%)と、データ利活用サービスが37.8%(顧客用分析ツール「MDV analyzer」:11.0%、顧客の注文に応じてメディカル・データ・ビジョン<3902>が分析を行う「アドホック調査サービス」:26.7%)になっている。
経営理念の「医療や健康分野のICT化を推進し、情報の高度活用を図る」を実現するため、まずデータベースを構築する仕組みを作った。医療経営支援ツールなどを開発し、病院との関係構築を図った。2003年になるとDPC制度が導入され、この市場の変革期に現在の事業の柱となる「EVE」を投入したことが同社飛躍のきっかけとなった。
2003年4月に、厚生労働省は急性期入院医療の包括払い制度を導入した。従来の医療費の計算方式は、すべて診療行為ごとの出来高払いであったが、DPC制度における計算方式は、入院1日当たりの定額支払いと出来高払いの組合せになっている。定額制度は入院基本料、検査、レントゲン、投薬・注射などの項目を対象とし、手術、麻酔、胃カメラ、リハビリなどは引き続き出来高払いが適用されている。
包括払い制度では、DPC(診断群分類)に基づいて評価され、入院1日当たりの定額が決められる。包括支払い制度はDPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination / Per-Diem Payment System)と呼ばれる。患者の病気(診断群分類)に応じた定額が支払われるため、医療者は効率的で効果的な医療を行うことで利益を増やすことができる。
DPC方式はすべての入院費に当てはまるものではなく、主には急性期の医療機関にかかる患者を対象としている。
全国のDPC対象病院数は、制度導入時の2003年には82だったが、2006年以降加速的に増え、2009年に1,000を突破し、2014年に1,585へと増加した。
同社のDPC分析ベンチマークシステム「EVE」の導入件数は、製品リリース時である2006年の33から2009年には429と爆発的に増加した。2014年末の「EVE」の導入病院数が前年の709から705へ微減となったが、医療機関の再編で組織がまとまったことによるもので、収益に影響を与えるものではない。「EVE」の年間販売件数は、2014年12月期が58と前期の53から増加した。2015年6月時点では741となり、44.3%のトップシェアを獲得している。
DPC対象病院となるには、2年間の準備期間を必要とする。DPC準備病院の募集は、2年毎に行われ、次回は2016年4月に予定されている。その時期に、DPC対象病院数も大きな変動が見込まれる。
統計の集計上、若干時期はずれるが、一般病院数とDPC対象病院数を比較し、DPC対象病院の比率を見てみる。全体としては、全一般病院数7,528(2011年医療施設調査)に対し、DPC対象病院数は1,580(2015年4月見込み)と21%に相当し、全病床の約55%をカバーしている。規模別のDPC対象病院数と全一般病院数との比率は、500床以上で268病院、65%、400床以上500床未満が151病院、51%、300床以上400床未満が263病院、46%となる。100床未満でも215病院がDPC対象病院となっているが、比率は7%にとどまる。同社は、より広範囲の病院を網羅できるようDPC関連ソフトウェアの開発を進めている。
DPC分析ベンチマークシステムはその専門性から、電子カルテなどの基幹システムに注力している大手ITベンダーとの直接的な競争は避けられた。同市場セグメントは主に、同社とニッセイ情報テクノロジー(ニッセイグループのIT子会社)、ヒラソルの3社で構成されている。その中で同社は、トップシェアを獲得している。
「EVE」では、疾患別・症例別に、出来高請求とDPC請求の差額把握はもちろんのこと、患者数・在院日数・医療資源などの各種指標や詳細情報を把握できる。「EVE」が真価を発揮するのは、他院比較ができるベンチマーク機能で、自院の強みと弱みがわかることにある。トップシェアを持つためカバーされている病院数が多く、より精緻なベンチマーク分析が可能となる。自院の診療傾向を他院と比べ、より客観的に改善点を見つけ、医療の質と経営の質の両立を図ることができる。
・DPC制度により診療データが共通フォーマット化
国が定めたDPCフォーマットのデータ出現により、病院間の詳細なデータ比較が容易になった。「EVE」は、共通フォーマット利用する分析システムとして開発された。
同社がDPC分析ベンチマークシステムで大きなシェアを獲得した背景には、地道な営業努力に加え、ユーザ会の組成、勉強会やセミナーの開催などユーザ支援を熱心に行ったことが大きい。ITシステムの活用は、ともすれば数値の分析のみに終始し、病院経営の課題解決に至らないことが多い。同社のシステム導入病院は、お互いの診療データを見せ合うことで、自院と他院及びベンチマークとの比較ができ、それぞれの経営改善に役立てることが可能になる。利用者の自助だけではなく互助の精神が、当社データベースを拡大する原動力になっている。
同社の経営支援システム「Medical Code」は、DPCデータや電子レセプトデータなどの標準フォーマットデータを活用して、目に見えない様々な経営課題の解決を支援する。院内での情報共有から意識改革・行動誘発まで促す。原価基礎分析はもとより、患者日別原価計算、コメディカル部門採算分析、薬剤処方改善、算定率向上、症例検索、診療報酬改定シミュレーションなどが行える。「現状把握」から「改善効果確認」までの工程や対策をシナリオ化し、目標→手段→経過を明確にした経営改善を可能にする。薬剤処方改善では、自院の薬剤銘柄数や後発品(ジェネリック医薬品)採用率など、薬剤の使用状況の把握及び他院と比較(ベンチマーク)することが可能になる。薬剤切り替えシミュレーションによる適切な薬剤選定も支援する。
国は、医療情報データベースの有用性を認識している。日本では薬を服用した人数を調べる方法が非常に限られており、副作用への対応が遅れることが懸念されている。2011年5月に、厚生労働省は7大学病院を含む10病院群を選定して、2011年度から3年間で総額約20億円をかけ、1,000万人規模の医療データベース「MID-NET」を作ることを目指した。費用は、国と企業の折半となる。MID-NETの開発は難航している。当初は電子カルテのデータを1ヶ所に集積する計画でいたが、実際は病院群ごとに10のデータベースが設置されている。標準化以前に導入された電子カルテは、独自のコードを使用し、データのレイアウトもバラバラだ。そのうえ、各協力医療機関はシステムをカスタマイズしているため、標準化作業は困難に直面している。
同社は、2015年9月時点で208病院、1,166万人の患者に関する診療データベースを作り上げた。一民間企業が、国の目標並みの規模を実現したことになる。国の大規模データベース構築が薬害防止を主目的としているのに対し、同社は生活者メリットの創出に貢献することを目指している。
従来、薬品会社が利用していたデータは、メーカー及び卸売会社の出荷データであり、営業上の優勝劣敗の判断に使われていた。一方、同社が提供するデータベースは、収集が難しく、把握が困難とされていた、病院における薬剤処方や疾患規模の実態などを明らかにするものである。データ粒度が細かく、病名、全診療行為、薬剤情報を日単位で所持し、薬剤処方実態の詳細な把握ができ、薬剤マーケティングだけでなく新薬の開発や企業戦略を強力に支援する。
サービスに利活用される診療データベースは、病院からデータの2次利用許諾を得た上で、DPCデータ/レセプトデータをもとに構築している。個人情報保護の観点から、取扱うデータはすべて匿名化処理を行っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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(2)事業概要
社名「メディカル・データ・ビジョン」(MDV)には、“豊富な実証データに基づいた医療の実現”という意味が込められている。設立目的は、医療や健康分野のICT化を推進し、人々の健やかな生活に貢献することである。生活者が、生涯を通じて自身の医療・健康情報を把握できる社会、それらの情報をもとに、医療・健康分野のサービスを選択できる社会を目指している。
2014年12月期の売上高1,950百万円の事業別内訳は、データネットワークサービスが62.2%(パッケージ:25.8%、メンテナンス:33.6%、その他:2.7%)と、データ利活用サービスが37.8%(顧客用分析ツール「MDV analyzer」:11.0%、顧客の注文に応じてメディカル・データ・ビジョン<3902>が分析を行う「アドホック調査サービス」:26.7%)になっている。
経営理念の「医療や健康分野のICT化を推進し、情報の高度活用を図る」を実現するため、まずデータベースを構築する仕組みを作った。医療経営支援ツールなどを開発し、病院との関係構築を図った。2003年になるとDPC制度が導入され、この市場の変革期に現在の事業の柱となる「EVE」を投入したことが同社飛躍のきっかけとなった。
2003年4月に、厚生労働省は急性期入院医療の包括払い制度を導入した。従来の医療費の計算方式は、すべて診療行為ごとの出来高払いであったが、DPC制度における計算方式は、入院1日当たりの定額支払いと出来高払いの組合せになっている。定額制度は入院基本料、検査、レントゲン、投薬・注射などの項目を対象とし、手術、麻酔、胃カメラ、リハビリなどは引き続き出来高払いが適用されている。
包括払い制度では、DPC(診断群分類)に基づいて評価され、入院1日当たりの定額が決められる。包括支払い制度はDPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination / Per-Diem Payment System)と呼ばれる。患者の病気(診断群分類)に応じた定額が支払われるため、医療者は効率的で効果的な医療を行うことで利益を増やすことができる。
DPC方式はすべての入院費に当てはまるものではなく、主には急性期の医療機関にかかる患者を対象としている。
全国のDPC対象病院数は、制度導入時の2003年には82だったが、2006年以降加速的に増え、2009年に1,000を突破し、2014年に1,585へと増加した。
同社のDPC分析ベンチマークシステム「EVE」の導入件数は、製品リリース時である2006年の33から2009年には429と爆発的に増加した。2014年末の「EVE」の導入病院数が前年の709から705へ微減となったが、医療機関の再編で組織がまとまったことによるもので、収益に影響を与えるものではない。「EVE」の年間販売件数は、2014年12月期が58と前期の53から増加した。2015年6月時点では741となり、44.3%のトップシェアを獲得している。
DPC対象病院となるには、2年間の準備期間を必要とする。DPC準備病院の募集は、2年毎に行われ、次回は2016年4月に予定されている。その時期に、DPC対象病院数も大きな変動が見込まれる。
統計の集計上、若干時期はずれるが、一般病院数とDPC対象病院数を比較し、DPC対象病院の比率を見てみる。全体としては、全一般病院数7,528(2011年医療施設調査)に対し、DPC対象病院数は1,580(2015年4月見込み)と21%に相当し、全病床の約55%をカバーしている。規模別のDPC対象病院数と全一般病院数との比率は、500床以上で268病院、65%、400床以上500床未満が151病院、51%、300床以上400床未満が263病院、46%となる。100床未満でも215病院がDPC対象病院となっているが、比率は7%にとどまる。同社は、より広範囲の病院を網羅できるようDPC関連ソフトウェアの開発を進めている。
DPC分析ベンチマークシステムはその専門性から、電子カルテなどの基幹システムに注力している大手ITベンダーとの直接的な競争は避けられた。同市場セグメントは主に、同社とニッセイ情報テクノロジー(ニッセイグループのIT子会社)、ヒラソルの3社で構成されている。その中で同社は、トップシェアを獲得している。
「EVE」では、疾患別・症例別に、出来高請求とDPC請求の差額把握はもちろんのこと、患者数・在院日数・医療資源などの各種指標や詳細情報を把握できる。「EVE」が真価を発揮するのは、他院比較ができるベンチマーク機能で、自院の強みと弱みがわかることにある。トップシェアを持つためカバーされている病院数が多く、より精緻なベンチマーク分析が可能となる。自院の診療傾向を他院と比べ、より客観的に改善点を見つけ、医療の質と経営の質の両立を図ることができる。
・DPC制度により診療データが共通フォーマット化
国が定めたDPCフォーマットのデータ出現により、病院間の詳細なデータ比較が容易になった。「EVE」は、共通フォーマット利用する分析システムとして開発された。
同社がDPC分析ベンチマークシステムで大きなシェアを獲得した背景には、地道な営業努力に加え、ユーザ会の組成、勉強会やセミナーの開催などユーザ支援を熱心に行ったことが大きい。ITシステムの活用は、ともすれば数値の分析のみに終始し、病院経営の課題解決に至らないことが多い。同社のシステム導入病院は、お互いの診療データを見せ合うことで、自院と他院及びベンチマークとの比較ができ、それぞれの経営改善に役立てることが可能になる。利用者の自助だけではなく互助の精神が、当社データベースを拡大する原動力になっている。
同社の経営支援システム「Medical Code」は、DPCデータや電子レセプトデータなどの標準フォーマットデータを活用して、目に見えない様々な経営課題の解決を支援する。院内での情報共有から意識改革・行動誘発まで促す。原価基礎分析はもとより、患者日別原価計算、コメディカル部門採算分析、薬剤処方改善、算定率向上、症例検索、診療報酬改定シミュレーションなどが行える。「現状把握」から「改善効果確認」までの工程や対策をシナリオ化し、目標→手段→経過を明確にした経営改善を可能にする。薬剤処方改善では、自院の薬剤銘柄数や後発品(ジェネリック医薬品)採用率など、薬剤の使用状況の把握及び他院と比較(ベンチマーク)することが可能になる。薬剤切り替えシミュレーションによる適切な薬剤選定も支援する。
国は、医療情報データベースの有用性を認識している。日本では薬を服用した人数を調べる方法が非常に限られており、副作用への対応が遅れることが懸念されている。2011年5月に、厚生労働省は7大学病院を含む10病院群を選定して、2011年度から3年間で総額約20億円をかけ、1,000万人規模の医療データベース「MID-NET」を作ることを目指した。費用は、国と企業の折半となる。MID-NETの開発は難航している。当初は電子カルテのデータを1ヶ所に集積する計画でいたが、実際は病院群ごとに10のデータベースが設置されている。標準化以前に導入された電子カルテは、独自のコードを使用し、データのレイアウトもバラバラだ。そのうえ、各協力医療機関はシステムをカスタマイズしているため、標準化作業は困難に直面している。
同社は、2015年9月時点で208病院、1,166万人の患者に関する診療データベースを作り上げた。一民間企業が、国の目標並みの規模を実現したことになる。国の大規模データベース構築が薬害防止を主目的としているのに対し、同社は生活者メリットの創出に貢献することを目指している。
従来、薬品会社が利用していたデータは、メーカー及び卸売会社の出荷データであり、営業上の優勝劣敗の判断に使われていた。一方、同社が提供するデータベースは、収集が難しく、把握が困難とされていた、病院における薬剤処方や疾患規模の実態などを明らかにするものである。データ粒度が細かく、病名、全診療行為、薬剤情報を日単位で所持し、薬剤処方実態の詳細な把握ができ、薬剤マーケティングだけでなく新薬の開発や企業戦略を強力に支援する。
サービスに利活用される診療データベースは、病院からデータの2次利用許諾を得た上で、DPCデータ/レセプトデータをもとに構築している。個人情報保護の観点から、取扱うデータはすべて匿名化処理を行っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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