アキュセラ Research Memo(3):加齢黄斑変性の患者数は全世界で1億3,500万人という推定
[15/12/25]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■エミクススタトの開発動向と成長性について
アキュセラ・インク<4589>の現在の開発パイプラインは、「エミクススタト」と、その他視覚サイクルモジュレーション技術を活用した自社開発品、提携先である大塚製薬が開発した「OPA-6566」などがある。このうち主力となるのは「エミクススタト」であり、なかでも地図状萎縮を伴うドライ型加齢黄斑変性を適応疾患とした臨床試験が米国および欧州で進んでいる。
(1)加齢黄斑変性と治療薬の状況について
加齢黄斑変性とは加齢とともに網膜に有害副産物が蓄積され、網膜で最も重要な中心部分(黄斑部)で光を感じとる役割を果たす細胞が損傷する病気で、眼のアルツハイマー病とも言われている。病気が進行すると視力の低下やモノの見え方が歪んで見えるなどの症状がひどくなり、最終的には失明に至るケースもある。米国では50歳以上の人の失明原因のトップともなっている。患者数は全世界で1億3,500万人(2014年)、うち米国で1,225万人(2014年)※と推定されている。加齢により罹患率が高くなることから、今後も高齢者人口の増加によって、日本を含め患者数は増加の一途をたどると予測されている。
※Market Scope, 2014 Report on the Retinal Pharma & Biotech Market, p66
また、加齢黄斑変性にはドライ型とウェット型の2種類があり、患者数の約90%がドライ型、約10%がウェット型となっている。ドライ型は病気が進行すると、網膜にある視細胞が萎縮し、それが中心部から地図状に広がり症状が悪化する。その比率は15%程度となっており、患者数としてはウェット型加齢黄斑変性とほぼ同水準の規模とみられている。
治療法としては、ウェット型では抗血管新生薬療法(抗VEGF薬:新生血管の増殖・成長抑制剤)による抗VEGF薬の投与(眼内注射)が一般的な治療法となっている。抗VEGF薬としてはノバルティスが開発した「ルセンティス」やリジェネロンの「アイリーア(Eylea)」のほか、適応外処方でロシュ(VX)の「アバスチン(Avastin)」などが使用されている。市場規模は2013年で6,537百万ドルとなっており、市場シェアは「ルセンティス」「アイリーア」の2品目で9割強を占めている。ただ、「アバスチン」の価格はこれら製品の20分の1程度で販売されているため、数量ベースでは「アバスチン」で4割程度を占めているとみられる。
一方、同社が開発を進めている地図状萎縮を伴うドライ型加齢黄斑変性の治療薬はまだ承認された治療薬がなく、同社を含めて10社以上の企業が開発に凌ぎを削っている状況にある。臨床試験で先行しているのは、同社のほかにロシュの「ランパリズマブ(Lampalizumab)」があり、現在は臨床第3相試験を行っている。臨床第2a相試験においては「ランパリズマブ」が、18ヶ月で有効性(地図状萎縮の病変進行の抑制効果)を確認したことに対し、同社の「エミクススタト」は、被験者数が小規模であることから統計的有意差を示すことはできなかったが、3ヶ月で萎縮病変が抑えられている傾向が示されたことは有望であると思われる。
病変進行の計測方法としては、地図状萎縮した病変部分の拡大面積を、薬剤投与前と投与後で比較し、それをプラセボ群とで比較する方法をとっているが、同社の場合、プラセボ群との比較において、地図状萎縮した面積の増加率で20%の開きが出たのが90日であったのに対して、「ランパリズマブ」は18ヶ月かかっている。地図状萎縮は時間が経過するほど病変部が拡大していくため、その進行をいかに早期に抑制できるかが重要なポイントとなる。サンプル数が少ないとはいえ、当初の同社の想定では、90日の投与でプラセボ群と比較して5%程度の差が出れば十分とみていただけに、こうした結果は「エミクススタト」の将来性に対して、より一層自信を深めることになったと言えよう。また、「ランパリズマブ」は眼球注射で医者が治療する必要があるのに対して、「エミクススタト」は経口剤であるという点も優位点である。
(2)視覚サイクルモジュレーション技術と「エミクススタト」の特徴
「エミクススタト」は同社が開発した視覚サイクルモジュレーション技術がベースとなっている。視覚サイクルとは、眼球の後部にある網膜内で、外部から入ってくる光信号を電気信号に変換する一連の流れを指し、ここで変換された電気信号が脳で映像として認知されている。この視覚サイクルの中で、過剰な光を受け続けると、網膜内に有害副産物が少しずつ蓄積され、それが視覚障害を引き起こす原因となることが様々な研究で明らかになっている。
同社はこの視覚サイクルの働きから、有害副産物を少なくするためには、網膜細胞のエネルギー消費を抑制することが重要との仮説を立て、検証を進めてきた。そこで網膜にしか存在しないタンパク質に選択的に作用する化合物を使って、光に対する感度が高い桿体(かんたい)細胞を休ませることで、視覚サイクルの動きを調整(モジュレーション)し、網膜の細胞層を保護する技術を開発し、これを視覚サイクルモジュレーション技術と命名した。このメカニズムについては既に複数の大学の研究チームでも立証されている。同社はこの視覚サイクルモジュレーション技術に関する特許を世界各国で多数取得しており、同技術分野で世界をリードする企業となっている。
この視覚サイクルモジュレーション技術をベースに開発した化合物が、「エミクススタト」となる。「エミクススタト」の特徴は、網膜のみに作用するため、現段階においても全身的有害事象は確認されていないこと、また、経口剤となるため侵襲性が低く患者の身体的負担が少ないという点が挙げられる。経口剤で手軽に服用できるため、手術や眼球注射などの専門的な技術をもつ医者の治療の必要もない。こういった特徴に加え、ドライ型加齢黄斑変性の治療薬として上市された薬剤が存在せず、アンメットメディカルニーズに対する治療薬候補であることから、2010年にはFDAよりファスト・トラック※の認定を受けている。また、現在のウェット型の治療薬が対処療法であることに対し、「エミクススタト」は根本療法になる可能性があることを期待されている。
※ファスト・トラック:深刻な疾患や生命を脅かす疾患を対象に開発されアンメット・メディカル・ニーズへの貢献が期待できる新薬の開発・審査の迅速化を目的とした制度。ファスト・トラック指定を受けると、製薬会社は申請資料を段階的にFDAに提出することが可能となり、FDAは全データの提出を待たずに、提出されたデータから順次審査を進めることができ、審査期間を通常よりも短縮できる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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アキュセラ・インク<4589>の現在の開発パイプラインは、「エミクススタト」と、その他視覚サイクルモジュレーション技術を活用した自社開発品、提携先である大塚製薬が開発した「OPA-6566」などがある。このうち主力となるのは「エミクススタト」であり、なかでも地図状萎縮を伴うドライ型加齢黄斑変性を適応疾患とした臨床試験が米国および欧州で進んでいる。
(1)加齢黄斑変性と治療薬の状況について
加齢黄斑変性とは加齢とともに網膜に有害副産物が蓄積され、網膜で最も重要な中心部分(黄斑部)で光を感じとる役割を果たす細胞が損傷する病気で、眼のアルツハイマー病とも言われている。病気が進行すると視力の低下やモノの見え方が歪んで見えるなどの症状がひどくなり、最終的には失明に至るケースもある。米国では50歳以上の人の失明原因のトップともなっている。患者数は全世界で1億3,500万人(2014年)、うち米国で1,225万人(2014年)※と推定されている。加齢により罹患率が高くなることから、今後も高齢者人口の増加によって、日本を含め患者数は増加の一途をたどると予測されている。
※Market Scope, 2014 Report on the Retinal Pharma & Biotech Market, p66
また、加齢黄斑変性にはドライ型とウェット型の2種類があり、患者数の約90%がドライ型、約10%がウェット型となっている。ドライ型は病気が進行すると、網膜にある視細胞が萎縮し、それが中心部から地図状に広がり症状が悪化する。その比率は15%程度となっており、患者数としてはウェット型加齢黄斑変性とほぼ同水準の規模とみられている。
治療法としては、ウェット型では抗血管新生薬療法(抗VEGF薬:新生血管の増殖・成長抑制剤)による抗VEGF薬の投与(眼内注射)が一般的な治療法となっている。抗VEGF薬としてはノバルティスが開発した「ルセンティス」やリジェネロンの「アイリーア(Eylea)」のほか、適応外処方でロシュ(VX
一方、同社が開発を進めている地図状萎縮を伴うドライ型加齢黄斑変性の治療薬はまだ承認された治療薬がなく、同社を含めて10社以上の企業が開発に凌ぎを削っている状況にある。臨床試験で先行しているのは、同社のほかにロシュの「ランパリズマブ(Lampalizumab)」があり、現在は臨床第3相試験を行っている。臨床第2a相試験においては「ランパリズマブ」が、18ヶ月で有効性(地図状萎縮の病変進行の抑制効果)を確認したことに対し、同社の「エミクススタト」は、被験者数が小規模であることから統計的有意差を示すことはできなかったが、3ヶ月で萎縮病変が抑えられている傾向が示されたことは有望であると思われる。
病変進行の計測方法としては、地図状萎縮した病変部分の拡大面積を、薬剤投与前と投与後で比較し、それをプラセボ群とで比較する方法をとっているが、同社の場合、プラセボ群との比較において、地図状萎縮した面積の増加率で20%の開きが出たのが90日であったのに対して、「ランパリズマブ」は18ヶ月かかっている。地図状萎縮は時間が経過するほど病変部が拡大していくため、その進行をいかに早期に抑制できるかが重要なポイントとなる。サンプル数が少ないとはいえ、当初の同社の想定では、90日の投与でプラセボ群と比較して5%程度の差が出れば十分とみていただけに、こうした結果は「エミクススタト」の将来性に対して、より一層自信を深めることになったと言えよう。また、「ランパリズマブ」は眼球注射で医者が治療する必要があるのに対して、「エミクススタト」は経口剤であるという点も優位点である。
(2)視覚サイクルモジュレーション技術と「エミクススタト」の特徴
「エミクススタト」は同社が開発した視覚サイクルモジュレーション技術がベースとなっている。視覚サイクルとは、眼球の後部にある網膜内で、外部から入ってくる光信号を電気信号に変換する一連の流れを指し、ここで変換された電気信号が脳で映像として認知されている。この視覚サイクルの中で、過剰な光を受け続けると、網膜内に有害副産物が少しずつ蓄積され、それが視覚障害を引き起こす原因となることが様々な研究で明らかになっている。
同社はこの視覚サイクルの働きから、有害副産物を少なくするためには、網膜細胞のエネルギー消費を抑制することが重要との仮説を立て、検証を進めてきた。そこで網膜にしか存在しないタンパク質に選択的に作用する化合物を使って、光に対する感度が高い桿体(かんたい)細胞を休ませることで、視覚サイクルの動きを調整(モジュレーション)し、網膜の細胞層を保護する技術を開発し、これを視覚サイクルモジュレーション技術と命名した。このメカニズムについては既に複数の大学の研究チームでも立証されている。同社はこの視覚サイクルモジュレーション技術に関する特許を世界各国で多数取得しており、同技術分野で世界をリードする企業となっている。
この視覚サイクルモジュレーション技術をベースに開発した化合物が、「エミクススタト」となる。「エミクススタト」の特徴は、網膜のみに作用するため、現段階においても全身的有害事象は確認されていないこと、また、経口剤となるため侵襲性が低く患者の身体的負担が少ないという点が挙げられる。経口剤で手軽に服用できるため、手術や眼球注射などの専門的な技術をもつ医者の治療の必要もない。こういった特徴に加え、ドライ型加齢黄斑変性の治療薬として上市された薬剤が存在せず、アンメットメディカルニーズに対する治療薬候補であることから、2010年にはFDAよりファスト・トラック※の認定を受けている。また、現在のウェット型の治療薬が対処療法であることに対し、「エミクススタト」は根本療法になる可能性があることを期待されている。
※ファスト・トラック:深刻な疾患や生命を脅かす疾患を対象に開発されアンメット・メディカル・ニーズへの貢献が期待できる新薬の開発・審査の迅速化を目的とした制度。ファスト・トラック指定を受けると、製薬会社は申請資料を段階的にFDAに提出することが可能となり、FDAは全データの提出を待たずに、提出されたデータから順次審査を進めることができ、審査期間を通常よりも短縮できる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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