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アドバネクス Research Memo(5):より安定した市場へのポートフォリオの転換を図る

注目トピックス 日本株
■事業戦略

(2)市場戦略

市場戦略としては、より安定した市場へのポートフォリオの転換を図る。構成比が上がるのは、自動車、医療、住設・インフラ分野になる。中期経営計画では、アドバネクス<5998>の最大の市場である自動車向けを、2014年3月期の30%(プラスチック事業を除くベース)から2020年3月期に40%へ高める計画である。他の市場別売上構成比は、2014年3月期から2020年3月期への変化を見ると、OA機器が30%→20%、医療機器が6%→10%、インフラ/住設機器が5%→10%、その他が29%→20%となっている。自動車向けは、民生用電子機器に比べて需要が安定している上、規模も大きい。反面、取引先はTier 1の自動車部品メーカーなどの大企業であり、継続的なコスト削減の要請から、高収益性は追求しづらい。一方、医療機器やインフラ/住設機器は、製品の要求レベルが高い反面、技術力を生かしてサプライヤーの地位を獲得すれば、長期的な需要が見込める。製品のモデルチェンジも頻繁でなく、高収益を上げる余地がある。

日本国内で製品開発や試作品の製作が行われても、量産は海外という要望が多い。同社は、郡山試作センターと新潟工場が連携をして、海外工場における量産のサポートをしている。試作センターは、試作時から自動加工を念頭において開発する。海外工場のスタッフは、新潟工場での研修経験があり、意思の疎通がしやすい。新潟工場は海外工場の設備や生産レベルを熟知しているため、事前に問題点を検討できる。また、日本と海外工場と同じマシンを設置していることが、ワールドワイドの対応を可能にしている。

同社は、自動車向け事業の一層の拡大のため、専用工場を埼玉県に新設した。本庄市を選んだ理由の1つは、日系及びドイツ系部品メーカーとの取引拡大を想定してのことだ。同工場内には研究開発機能を併設する。自動車産業向け品質マネジメントシステムISO/TS16949を取得する予定である。新工場の概要は、敷地が12,000平米、延べ床面積が約5,000平米、投資額が約1,500百万円、従業員が約30名、生産予定額は2019年3月期に3,000百万円としている。従来の半分以下の人数を想定した自動化・省力化を目指す。新潟工場から生産設備の一部を移設することに加え、NCフォーミングマシンなど新規設備も導入する。線ばね、板ばね、インサート成形、深絞り等の製品を生産する。製造工程では、極力人手を排し、自動化する「スマートファクトリー」を目標としている。専用工場の開設により、自動車業界におけるプレゼンスを高め、事業拡大を目指す。

○独自技術を用いた戦略製品「インサートカラー」
インサートカラーは、自動車部品専用の埼玉工場の主力戦略製品となる。世界的に燃費規制が強化されるなか、車体軽量化のため樹脂部品の使用が増加する傾向にある。インサートカラーは、樹脂部品をボルトで固定する際に用いる金属製補強金具を言う。現在、車1台当たり50〜100個が使用されている。

同社は、材料幅で加工でき、スクラップになる部分が少なく、板及び帯状の金属材料を抜き、潰し、曲げを1工程で済ませることができるマルチフォーミング加工工法で製造している。従来の主流品であった切削加工品に対し、圧倒的なコスト優位性を実現している。工法転換のためのVE、VA提案はもとより、引抜き強度に対してのディンプル(表面穴)形状の提案をする。金型を内製化しているため、顧客ニーズに即応できるのが強みとなる。他社フォーミング加工品に対しても、特許などに裏付けされた独自技術で明確な優位性を築いている。インサートカラーが樹脂部品とインサート成型されると、特許技術であるディンプルの四角柱状はより強固に一体化する。また、継ぎ目には、ばね技術を応用した高初張力接合を用いている。樹脂流入不具合リスクも低い。

同社は、プラスチック事業を行う子会社を売却したものの、インサート成形事業とそれに必要な生産設備は残した。インサート成形は、プラスチックと金属など異種の素材を一体成形する。同社は金属板のプレス加工、プラスチックの射出成形などすべての技術を備え、一貫生産を行っている。プレス及び射出成形用の金型及び自動機まですべて社内で設計・製作している。それにより、組立工数の削減、小型化、薄型化、高精密化を考慮した製品設計を顧客に提案できる。インサート成形製品の生産設備は、埼玉工場の完成をもって移設する計画である。

○深絞り加工製品
燃費や安全性向上のために各種センサーを使用するカーエレクトロニクス化が進展している。船橋電子を事業統合することで得た深絞り技術を応用したセンサー用途の部品は、自動車部品メーカーからの引き合いが急増している。具体的には、安全性を高める横滑り防止などのための車輪速センサーや、エンジン燃料効率を向上するなど燃費に関連するパワートレインに関わるクランクセンサーになる。自動車業界では、自動ブレーキなど先進運転支援システム(Advanced Driving Assistant System:ADAS)の搭載車種の増加や高度化により、ますます車載用センサーの需要が増加するとみられている。

深絞りに加工には、トランスファープレス機を用いる。トランスファー加工は、各工程が独立した型を1台のプレス機械内に1列に配列し、クランクシャフトから駆動しプレス本体と同期したトランスファー(搬送)機構で移送させながら連続自動加工する。複数工程の加工を1工程で行うことができる。切削加工や手作業を不要とするため、コスト削減と品質の安定化が可能になる。絞り加工は、通常筒の長さが口径の3〜4倍、深絞りと呼ばれるものでも10倍くらいだが、同社の技術では30〜40倍の長さまで加工できる。船橋電子は、プレスに使用する金型を複数の業者に外注していたことが、全体の精度を調整する際のネックになっていた。同社は、金型の開発・製造を内製化しているため、すべての金型を自社内で調達でき、トータルの精度向上を実現した。

深絞り加工品は、従前の市場が民生用電子機器に限定されていたため、需要減少という問題を抱えていた。今回、市場を自動車向けに拡大したわけだが、採用車種が発売されるまで先行投資期間となり、売上高への寄与は2018年から2019年頃になるだろう。今期は、船橋電子の事業を統合したため固定費が増し、短期的に収益を悪化させる。船橋電子時代であれば、体力的に自動車業界への参入は困難だったであろう。同社の企業体力と自動車業界との取引実績があって、初めて可能になった。同社は、この深絞り加工技術を国内及び中国や英国等の海外でも展開し、グループ内の相乗効果を追求する。今後も、小規模でもとがった技術を持ち、グループ企業の営業力・提案力・技術力とシナジーが見込める企業をM&Aのターゲットとする。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)



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