アキュセラ Research Memo(3):白内障治療薬候補をパイプラインに追加
[16/04/26]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■会社概要
アキュセラ・インク<4589>は2016年3月に、米バイオベンチャーのYouHealthから、YouHealthがカリフォルニア大学サンディエゴ校と契約する非外科的治療法に基づき研究開発した白内障の薬剤候補となるラノステロールの開発に関わる独占契約の権利を取得したと発表した。
(1)白内障の概要
白内障は眼の中でカメラのレンズ部分に当たる水晶体が白く混濁し、視力が低下する疾患を指す。
白内障を発症する要因の大半は加齢に伴うもので、40代後半から発症率が上昇し、80歳までに70%の人が発症すると言われている。失明原因の51%を占める眼科領域の主要疾患で、世界に約9億人もの罹患者がいる。今後も高齢者人口の増加に伴い、罹患者数は増大の一途をたどり、2020年には10億人まで拡大することが予想されている※。
※Market Scope, Global IOL Market 2015
現在の治療法としては、薬剤による根治療法はなく、中等度から重度の患者に対して外科手術が行われている。現在、眼内レンズの手術件数は年間約2,400万件程度※だが、そのうち約4割は欧米、日本などの先進国で占められており、新興国では手術を受けられない患者も多い。手術に要する費用は日本で約20万円(単眼レンズで片目の場合)だが、投薬、入院費用、その後の矯正手術なども含めると、白内障手術だけで世界で数兆円の医療費がかかっていることになる。また、新興国ではこうした手術を受けることすらできず、そのまま失明に至るケースも多い。このため、薬剤による根治療法が開発されれば、社会的意義が極めて大きい革新的な治療薬となる可能性があり、注目度の高いものとなる。
※Market Scope, Global IOL Market 2015
(2)ラノステロールとは
今回、白内障治療薬として開発を進めるラノステロールとは、ヒトの生体物質で、コレステロールの前段階の物質であることが知られている。このラノステロールに関して、カリフォルニア大学サンディエゴ校のカン・ザン博士(Dr. Kang Zhang)とGuangzhou Kang Rui Biological Pharmaceutical Technology Co. Ltd.(中国、以下Kang Rui)の研究者による共同研究において、水晶体の正常な結晶構造を維持する役割を担う主要な触媒機能を損なう2つの遺伝子変異が同定された。また、インビトロ(試験管実験)、発現細胞株実験、インビボ(動物実験)で、水晶体が混濁する症状に対してラノステロールがタンパク質の凝集を阻害し、水晶体の混濁を解消する薬理効果があることも確認され、同研究内容は世界的権威のある学術誌「Nature」(2015年,Vol.523)にも掲載された。生体動物ではイヌの実験を行っており、ラノステロール点眼薬を6週間投与後に水晶体の透明度が改善されたという。
なお、Kang Ruiは中国の主要な後発医薬品メーカーで、今回同社が開発の権利を取得したYouHealthの親会社である。
(3)今後の開発方針
ラノステロールの研究結果が「Nature」で発表されて以来、大手製薬企業などが相次いで開発権利取得に動く中で、同社が契約を締結できた要因としては、同社の開発力が最も高く評価されたことが挙げられる。また、同社社長の窪田博士とカン・ザン博士が旧知の仲であったこと、多数のパイプラインを抱える大手製薬企業では開発が進まなくなる可能性があったことも、眼科に特化する同社が契約締結に至った背景にあると推察される。
同社は今回の契約締結によって、ラノステロールに係る独占的開発権と、中国、香港、台湾を除く世界での販売権を取得したことになる。なお、契約金は非開示となっている。今後の開発方針としては、2016年より非臨床試験を行い処方開発や毒性試験を行った後に、2017年から軽度の白内障患者を対象として、臨床第1/2相試験を実施する予定となっている。開発に当たってはカリフォルニア大学サンディエゴ校やYouHealthと協業していく形となる。第1/2相試験により、2〜3年かけてヒトでのPOCを確立し、POCが取得できればパートナー企業の探索と同時に臨床第2相試験を進めていく方針だ。POC取得までの開発コストは10百万ドル程度を見込んでいる(契約金含む)。なお、ラノステロールに関する知財戦略も進めており、既に眼科領域における応用特許をグローバルで申請している。
同社では軽度の白内障患者に対する開発が順調に進めば、中等度から重度の患者及び老視(老眼)まで適応範囲を拡大することも視野に入れている。老視は、加齢による水晶体の弾力低下や水晶体の厚みを調節するための毛様体筋の衰えが原因とされているが、このうちラノステロールは水晶体の弾力を回復する可能性があると同社ではみている。2017年から開始する臨床第1/2相試験において、その効果を確認する予定となっている。
白内障患者のうち、軽度の患者数は全体の半分以上を占めているとみられる。現在、治療薬として日本や韓国などアジアの一部で症状の進行を抑える予防薬が認可されているものの、その効果は定かではない。ラノステロールは水晶体の混濁が解消されるというはっきりとした薬理効果が動物実験において確認されており、これがヒトにおいて確認されることになれば、対象患者数が多いことから市場価値は莫大なものになると考えられ、今後の開発動向が注目される。
なお、白内障治療薬については、同社が把握している範囲では米国のバイオベンチャーであるViewPoint Therapeutics(2014年設立)が、ワシントン大学及びミシガン大学の研究室で開発された技術をもとに化合物の開発を進めているようだ。開発ステージはまだ非臨床段階であり、開発する化合物もラノステロールとは異なり生体物質ではないと見られている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
<YF>
アキュセラ・インク<4589>は2016年3月に、米バイオベンチャーのYouHealthから、YouHealthがカリフォルニア大学サンディエゴ校と契約する非外科的治療法に基づき研究開発した白内障の薬剤候補となるラノステロールの開発に関わる独占契約の権利を取得したと発表した。
(1)白内障の概要
白内障は眼の中でカメラのレンズ部分に当たる水晶体が白く混濁し、視力が低下する疾患を指す。
白内障を発症する要因の大半は加齢に伴うもので、40代後半から発症率が上昇し、80歳までに70%の人が発症すると言われている。失明原因の51%を占める眼科領域の主要疾患で、世界に約9億人もの罹患者がいる。今後も高齢者人口の増加に伴い、罹患者数は増大の一途をたどり、2020年には10億人まで拡大することが予想されている※。
※Market Scope, Global IOL Market 2015
現在の治療法としては、薬剤による根治療法はなく、中等度から重度の患者に対して外科手術が行われている。現在、眼内レンズの手術件数は年間約2,400万件程度※だが、そのうち約4割は欧米、日本などの先進国で占められており、新興国では手術を受けられない患者も多い。手術に要する費用は日本で約20万円(単眼レンズで片目の場合)だが、投薬、入院費用、その後の矯正手術なども含めると、白内障手術だけで世界で数兆円の医療費がかかっていることになる。また、新興国ではこうした手術を受けることすらできず、そのまま失明に至るケースも多い。このため、薬剤による根治療法が開発されれば、社会的意義が極めて大きい革新的な治療薬となる可能性があり、注目度の高いものとなる。
※Market Scope, Global IOL Market 2015
(2)ラノステロールとは
今回、白内障治療薬として開発を進めるラノステロールとは、ヒトの生体物質で、コレステロールの前段階の物質であることが知られている。このラノステロールに関して、カリフォルニア大学サンディエゴ校のカン・ザン博士(Dr. Kang Zhang)とGuangzhou Kang Rui Biological Pharmaceutical Technology Co. Ltd.(中国、以下Kang Rui)の研究者による共同研究において、水晶体の正常な結晶構造を維持する役割を担う主要な触媒機能を損なう2つの遺伝子変異が同定された。また、インビトロ(試験管実験)、発現細胞株実験、インビボ(動物実験)で、水晶体が混濁する症状に対してラノステロールがタンパク質の凝集を阻害し、水晶体の混濁を解消する薬理効果があることも確認され、同研究内容は世界的権威のある学術誌「Nature」(2015年,Vol.523)にも掲載された。生体動物ではイヌの実験を行っており、ラノステロール点眼薬を6週間投与後に水晶体の透明度が改善されたという。
なお、Kang Ruiは中国の主要な後発医薬品メーカーで、今回同社が開発の権利を取得したYouHealthの親会社である。
(3)今後の開発方針
ラノステロールの研究結果が「Nature」で発表されて以来、大手製薬企業などが相次いで開発権利取得に動く中で、同社が契約を締結できた要因としては、同社の開発力が最も高く評価されたことが挙げられる。また、同社社長の窪田博士とカン・ザン博士が旧知の仲であったこと、多数のパイプラインを抱える大手製薬企業では開発が進まなくなる可能性があったことも、眼科に特化する同社が契約締結に至った背景にあると推察される。
同社は今回の契約締結によって、ラノステロールに係る独占的開発権と、中国、香港、台湾を除く世界での販売権を取得したことになる。なお、契約金は非開示となっている。今後の開発方針としては、2016年より非臨床試験を行い処方開発や毒性試験を行った後に、2017年から軽度の白内障患者を対象として、臨床第1/2相試験を実施する予定となっている。開発に当たってはカリフォルニア大学サンディエゴ校やYouHealthと協業していく形となる。第1/2相試験により、2〜3年かけてヒトでのPOCを確立し、POCが取得できればパートナー企業の探索と同時に臨床第2相試験を進めていく方針だ。POC取得までの開発コストは10百万ドル程度を見込んでいる(契約金含む)。なお、ラノステロールに関する知財戦略も進めており、既に眼科領域における応用特許をグローバルで申請している。
同社では軽度の白内障患者に対する開発が順調に進めば、中等度から重度の患者及び老視(老眼)まで適応範囲を拡大することも視野に入れている。老視は、加齢による水晶体の弾力低下や水晶体の厚みを調節するための毛様体筋の衰えが原因とされているが、このうちラノステロールは水晶体の弾力を回復する可能性があると同社ではみている。2017年から開始する臨床第1/2相試験において、その効果を確認する予定となっている。
白内障患者のうち、軽度の患者数は全体の半分以上を占めているとみられる。現在、治療薬として日本や韓国などアジアの一部で症状の進行を抑える予防薬が認可されているものの、その効果は定かではない。ラノステロールは水晶体の混濁が解消されるというはっきりとした薬理効果が動物実験において確認されており、これがヒトにおいて確認されることになれば、対象患者数が多いことから市場価値は莫大なものになると考えられ、今後の開発動向が注目される。
なお、白内障治療薬については、同社が把握している範囲では米国のバイオベンチャーであるViewPoint Therapeutics(2014年設立)が、ワシントン大学及びミシガン大学の研究室で開発された技術をもとに化合物の開発を進めているようだ。開発ステージはまだ非臨床段階であり、開発する化合物もラノステロールとは異なり生体物質ではないと見られている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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