KYB Research Memo(2):どの企業グループにも属さない独立系の企業
[16/06/16]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■会社概要
(1)沿革
KYB<7242>は1919年、創業者の萱場資郎(かやばしろう)氏によって油圧機器の研究を目的とする萱場発明研究所として設立された。その後、社名を萱場製作所に改め、戦前はゼロ戦の脚や航空母艦の着艦機(カタパルト)の製造などを行っていた。戦後になり社名を萱場工業株式会社に変更し、主に自動車や二輪車用の緩衝器(ショックアブソーバ)の製造を拡大していった。さらに建設機械向けや特装車両用も開発し、製品の市場を広げていった。現在では世界23ヶ国に拠点を有し、グローバルな事業展開を行っている。筆頭株主はトヨタ自動車<7203>であるが、どの企業グループにも属さない独立系の企業である。株式は1959年に東京証券取引所に上場された。
(2)事業内容
同社の主力製品は「油圧技術」を基本とした各種の緩衝器やサスペンション、シリンダ、パワーステアリング等であるが、事業セグメントとしては、「AC(Automotive Components)事業」「HC(Hydraulic Components)事業」「特装車両事業、システム製品および電子機器等(以下、特装システム等)」に分かれている。各セグメントの売上高(2016年3月期)は、AC事業240,949百万円(売上高比率67.8%)、HC事業95,142百万円(同26.8%)、特装システム等19,293百万円(同5.4%)となっている。
さらにこれらのセグメントは、以下のようなサブセグメントに分けられる。
a)AC事業
・四輪車用緩衝器(売上高比率45.8%):自動車(四輪車)に使われるショックアブソーバ(SA)で、この内約50%強が新車用(OEM)、約40%弱(同)がアフター(市販)市場用、約10%が純正部品用となっている。日本メーカーは言うに及ばず、海外の大手自動車メーカーにも供給されている。
・二輪車用緩衝器(同7.4%):約70%がフロントフォークで、残り30%がリアクッションユニット。国内及び海外で合弁事業を行っている関係からヤマハ発動機<7272>との取引が多い。
・四輪車用油圧機器(同13.0%):油圧パワーステアリングが30%強、電動パワーステアリング(EPS)が30%強、CVT(無段変速機)用ポンプが同じ約30%強となっている。
・その他製品(売上高比率1.6%):ステイダンパやその他製品。
b)HC事業
・産業用油圧機器(売上高比率22.5%):内訳としては、油圧シリンダが約31%、走行モータが約19%、旋回モータが約6%、コントロールバルブが約21%、ポンプ及びギヤポンプが約7%となっている。主に建設機械、フォークリフト、農業機械などに使われる。
・航空機用油圧機器※(同2.0%):航空機に使われる各種アクチュエータ。
・その他製品(同2.3%):鉄道車両(主に新幹線)に使われるブレーキやダンパ。
※このサブセグメントは2017年3月期からは「特装システムその他」に区分けされる。
c)特装システム等
・ 特装車両(売上高比率2.5%):コンクリートミキサー車などの特装車両に使われる特殊な製品。
・その他(同2.9%):システム製品、電子機器、免制震装置、建物・舞台装置など。
(3)地域別売上高
同社は世界23ヶ国に拠点を有して事業展開を行っているが、地域別売上高(2016年3月期実績)は、日本が1,604億円(45%)、欧州が575億円(16%)、米国が434億円(12%)、中国が212億円(6%)、東南アジアが247億円(7%)、その他が481億円(14%)となっている。この結果、海外売上高比率は55%に達しており、業績が為替レートの影響を受けることは避けられないが、特定の通貨取引に著しく偏っていることはない。
(4)市場シェアと競合
a)AC事業
同社の推定によれば、主力の新車用SAの市場シェアは、国内は約43%のトップメーカーで、世界市場でも約15%のシェアを有している。また市販市場(アフターマーケット)用では世界市場で約17%のシェアを有しており、トップ3に入る。また二輪用SAの世界シェアは約10%となっている。
主な競合メーカーは、新車用SAの国内ではショーワ<7274>、日立オートモティブシステムズ(株)などと競合、世界市場ではSachs(ドイツ)、Tenneco(米国)、Mando(韓国)など。市販市場用SAにおいては、国内では日立オートモティブシステム、海外ではMonroe(Tennecoのブランド)と競合する。二輪用SAでは国内ではショーワ、世界ではOhlins(スウェーデン)と競合する。またステアリング製品では、国内ではジェイテクト<6473>、日本精工<6471>、ショーワ、世界市場ではTRW(ZFの子会社)、Mando、Nexteer(米国)など。
b)HC事業
世界市場でのシェアでは、ミニショベル向けでは油圧シリンダが32%、走行モータが29%、旋回モータが30%、コントロールバルブが43%、ギヤポンプが23%となっている。また中型ショベル向けでは油圧シリンダが25%、走行モータが10%、旋回モータが7%、コントロールバルブが19%となっており、フォークリフト向けでは油圧シリンダが41%、コントロールバルブが7%、ギヤポンプが約36%となっており、どちらかと言えば小さい建機向けで高いシェアを持っている。
主な競合メーカーは、油圧シリンダでは中国の東洋機電、江蘇恒立、走行モータではナブテスコ<6268>、不二越<6474>、Doosan-Mottrol(韓国)、旋回モータは不二越、コントロールバルブはナブテスコ、Husco(米国)などと競合する。さらに油圧シリンダやコントロールバルブなどでは、大手建機メーカーの内製も広義では競合と言える。
(5)特色及び強み
同社の最大の特色でもあり強みは、長年にわたり培われた技術力だ。特に社歴からもわかるように、元々油圧を研究する会社として設立されたことから、油圧に関する技術力は世界でもトップクラスだ。その油圧技術を振動制御技術及びパワー制御技術に展開して現在の製品群が作られている。
もう1つの同社技術力の特色は、油圧シリンダを筆頭にサスペンション、各種モータ、バルブ、ポンプ、アクチュエータなど様々な要素技術を有していることだ。それぞれの分野での競合企業は多いが、これらすべての技術を有している企業は世界的にも少ない。このため、これらの技術を融合したシステム製品を提供できるのも同社の特色であり強みだろう。
また製品の向け先(得意先)は大手自動車メーカーを筆頭に二輪車メーカー、建機メーカーなど多岐にわたり、どの企業グループにも属さず独立系であるのも同社の特色と言えるだろう。業績面では特定の企業グループの影響を受けることが少ない。独立系でありながらグローバルな生産・販売ネットワーク網を有しており、世界市場で多くの企業との取引が可能となるのも同社の強みだろう。同社の調べでは、世界のSA市販市場における欧米車・日本車に対する同社のカバレッジ率は93%に達している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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(1)沿革
KYB<7242>は1919年、創業者の萱場資郎(かやばしろう)氏によって油圧機器の研究を目的とする萱場発明研究所として設立された。その後、社名を萱場製作所に改め、戦前はゼロ戦の脚や航空母艦の着艦機(カタパルト)の製造などを行っていた。戦後になり社名を萱場工業株式会社に変更し、主に自動車や二輪車用の緩衝器(ショックアブソーバ)の製造を拡大していった。さらに建設機械向けや特装車両用も開発し、製品の市場を広げていった。現在では世界23ヶ国に拠点を有し、グローバルな事業展開を行っている。筆頭株主はトヨタ自動車<7203>であるが、どの企業グループにも属さない独立系の企業である。株式は1959年に東京証券取引所に上場された。
(2)事業内容
同社の主力製品は「油圧技術」を基本とした各種の緩衝器やサスペンション、シリンダ、パワーステアリング等であるが、事業セグメントとしては、「AC(Automotive Components)事業」「HC(Hydraulic Components)事業」「特装車両事業、システム製品および電子機器等(以下、特装システム等)」に分かれている。各セグメントの売上高(2016年3月期)は、AC事業240,949百万円(売上高比率67.8%)、HC事業95,142百万円(同26.8%)、特装システム等19,293百万円(同5.4%)となっている。
さらにこれらのセグメントは、以下のようなサブセグメントに分けられる。
a)AC事業
・四輪車用緩衝器(売上高比率45.8%):自動車(四輪車)に使われるショックアブソーバ(SA)で、この内約50%強が新車用(OEM)、約40%弱(同)がアフター(市販)市場用、約10%が純正部品用となっている。日本メーカーは言うに及ばず、海外の大手自動車メーカーにも供給されている。
・二輪車用緩衝器(同7.4%):約70%がフロントフォークで、残り30%がリアクッションユニット。国内及び海外で合弁事業を行っている関係からヤマハ発動機<7272>との取引が多い。
・四輪車用油圧機器(同13.0%):油圧パワーステアリングが30%強、電動パワーステアリング(EPS)が30%強、CVT(無段変速機)用ポンプが同じ約30%強となっている。
・その他製品(売上高比率1.6%):ステイダンパやその他製品。
b)HC事業
・産業用油圧機器(売上高比率22.5%):内訳としては、油圧シリンダが約31%、走行モータが約19%、旋回モータが約6%、コントロールバルブが約21%、ポンプ及びギヤポンプが約7%となっている。主に建設機械、フォークリフト、農業機械などに使われる。
・航空機用油圧機器※(同2.0%):航空機に使われる各種アクチュエータ。
・その他製品(同2.3%):鉄道車両(主に新幹線)に使われるブレーキやダンパ。
※このサブセグメントは2017年3月期からは「特装システムその他」に区分けされる。
c)特装システム等
・ 特装車両(売上高比率2.5%):コンクリートミキサー車などの特装車両に使われる特殊な製品。
・その他(同2.9%):システム製品、電子機器、免制震装置、建物・舞台装置など。
(3)地域別売上高
同社は世界23ヶ国に拠点を有して事業展開を行っているが、地域別売上高(2016年3月期実績)は、日本が1,604億円(45%)、欧州が575億円(16%)、米国が434億円(12%)、中国が212億円(6%)、東南アジアが247億円(7%)、その他が481億円(14%)となっている。この結果、海外売上高比率は55%に達しており、業績が為替レートの影響を受けることは避けられないが、特定の通貨取引に著しく偏っていることはない。
(4)市場シェアと競合
a)AC事業
同社の推定によれば、主力の新車用SAの市場シェアは、国内は約43%のトップメーカーで、世界市場でも約15%のシェアを有している。また市販市場(アフターマーケット)用では世界市場で約17%のシェアを有しており、トップ3に入る。また二輪用SAの世界シェアは約10%となっている。
主な競合メーカーは、新車用SAの国内ではショーワ<7274>、日立オートモティブシステムズ(株)などと競合、世界市場ではSachs(ドイツ)、Tenneco(米国)、Mando(韓国)など。市販市場用SAにおいては、国内では日立オートモティブシステム、海外ではMonroe(Tennecoのブランド)と競合する。二輪用SAでは国内ではショーワ、世界ではOhlins(スウェーデン)と競合する。またステアリング製品では、国内ではジェイテクト<6473>、日本精工<6471>、ショーワ、世界市場ではTRW(ZFの子会社)、Mando、Nexteer(米国)など。
b)HC事業
世界市場でのシェアでは、ミニショベル向けでは油圧シリンダが32%、走行モータが29%、旋回モータが30%、コントロールバルブが43%、ギヤポンプが23%となっている。また中型ショベル向けでは油圧シリンダが25%、走行モータが10%、旋回モータが7%、コントロールバルブが19%となっており、フォークリフト向けでは油圧シリンダが41%、コントロールバルブが7%、ギヤポンプが約36%となっており、どちらかと言えば小さい建機向けで高いシェアを持っている。
主な競合メーカーは、油圧シリンダでは中国の東洋機電、江蘇恒立、走行モータではナブテスコ<6268>、不二越<6474>、Doosan-Mottrol(韓国)、旋回モータは不二越、コントロールバルブはナブテスコ、Husco(米国)などと競合する。さらに油圧シリンダやコントロールバルブなどでは、大手建機メーカーの内製も広義では競合と言える。
(5)特色及び強み
同社の最大の特色でもあり強みは、長年にわたり培われた技術力だ。特に社歴からもわかるように、元々油圧を研究する会社として設立されたことから、油圧に関する技術力は世界でもトップクラスだ。その油圧技術を振動制御技術及びパワー制御技術に展開して現在の製品群が作られている。
もう1つの同社技術力の特色は、油圧シリンダを筆頭にサスペンション、各種モータ、バルブ、ポンプ、アクチュエータなど様々な要素技術を有していることだ。それぞれの分野での競合企業は多いが、これらすべての技術を有している企業は世界的にも少ない。このため、これらの技術を融合したシステム製品を提供できるのも同社の特色であり強みだろう。
また製品の向け先(得意先)は大手自動車メーカーを筆頭に二輪車メーカー、建機メーカーなど多岐にわたり、どの企業グループにも属さず独立系であるのも同社の特色と言えるだろう。業績面では特定の企業グループの影響を受けることが少ない。独立系でありながらグローバルな生産・販売ネットワーク網を有しており、世界市場で多くの企業との取引が可能となるのも同社の強みだろう。同社の調べでは、世界のSA市販市場における欧米車・日本車に対する同社のカバレッジ率は93%に達している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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