サイネックス Research Memo(3):IT活用による地域支援を目指す(2)
[16/07/12]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■会社概要
2)サイネックス<2376>の今後の成長性
『わが街事典』の発行数は年々増加してきており、2016年3月期は200版に達した。注目すべきは内訳で、再版が過半を占めるようになってきている。これまでのところでは、過去に『わが街事典』を発行した自治体の約半数が再版を行っている。再版発行のサイクルは2〜3年が一般的であるため、潜在的な再版需要自治体数は70%〜80%に達するのではないかと弊社では考えている。
前述のように、『わが街事典』の発行自治体は645に達している(2016年5月末現在)。これらの自治体がすべて3年周期で再版を重ねていくと仮定するならば、年間215の発行数が得られることになり、現在の収益規模は維持できることになる。現実には再販のサイクルがもっと長い自治体や再販を行わない自治体もあるため、同社としては今後も新規発行の自治体を掘り起こしていく必要がある。新規自治体の掘り起こしは、後述するITメディア事業の商機拡大にもつながるため、その意味でも重要だ。
『わが街事典』の新規開拓余地は依然として大きいと弊社では考えている。現状はまだちょうど1,750の自治体のうち645自治体と3分の1を開拓したにとどまっているためだ。
自治体の区分別発行割合を見ると、政令指定都市や中核市といった大規模自治体の発行割合が高く、市区部の発行割合は57.6%に達している。反対に町村部の発行割合は18.9%にとどまっている。これらの数値から、今後は中小の自治体の構成比が高くなって事業規模が小さくなって成長がない、と考えるのは早計だろう。
紙媒体である『わが街事典』のコスト構造は、1冊当たりのページ数と印刷部数で決まってくる。ページ数は増やすにしても限界があるため、大規模市で印刷部数が多い場合には、収益性が低下する懸念がある。たとえ中小自治体の案件(すなわち少ページ・少部数)であっても、広告枠の販売がスムーズに進み、手離れよく発行できるケースのほうが収益性は高くなるケースもあると弊社ではみている。また、1件当たりの売上高の小型化は、発刊版数を増やすことである程度吸収できると考えている。
同社は『わが街事典』の売上高構成比を公表している。年ごとに変動はあるが、ここ数年は25%から30%のレンジで推移しており、そこから逆算される売上高は年間30億円前後となる。前述のように、『わが街事典』の発行自治体数が600を大きく超えてきたため、再版のサイクルの面から見ても、安定的に年間200前後の発刊版数を確保できるめどが立ってきた。さらに、スマートバリュー<9417>と事業連携して自治体向けクラウドサービスの提供を新たに始めたこともあり、新規発行自治体の開拓も進むと期待されるため、売上高は各年で変動を繰り返しながら緩やかに拡大していくと弊社では考えている。
c)『テレパル50』
『テレパル50』は同社の創業事業であり、生活密着型地域メディアとして60年以上を経た現在でも、年間約1,200地区について約1,000万部を発行している。
『テレパル50』は一般家庭に無償配布する50音別電話帳であり、事業モデルは『わが街事典』と同じだ。すなわち、広告枠を販売した広告料収入が同社の収入となる。『わが街事典』との違いは、地方自治体のような協働事業者がおらず、同社の独自企画で事業が進められるという点だ。そこで同社は、地元商工会との連携を図りながら、地域に密着した中小事業者向けに広告を販売することで、地域社会に不可欠な存在となることを目指した商品づくりが行われている。
商品性の面では、1)全通信キャリアの電話番号情報掲載、2)コンテンツの拡充、3)ユーザビリティ向上、などに注力している。コンテンツの拡充においては、行政情報や啓発記事を掲載し、『わが街事典』を補完する存在を目指している。ユーザビリティの点では検索性や使いやすさの面で常に進化を追求している。類似品にはNTT(日本電信電話<9432>)のタウンページがあるが、紙面づくりや情報の内容、コンセプトが大きく異なり、利用者の視点からは、競合よりもむしろ相互補完関係にあると言えると弊社では見ている。
『テレパル50』は『わが街事典』とともにプリントメディア事業の売上高を2分する収益の柱だ。採算性の面では、歴史が古くてデータ、ノウハウの蓄積があり、広告販売の面でも固定客をつかんでいるため、『わが街事典』をしのいでいるものと弊社では推測している。
d) ITメディア事業
ITメディア事業も経営方針に沿って運営されている。すなわち、地方にヒト・モノ・カネが行き渡って、地方経済が活性化するのをサポートしようというのが大きな目的だ。ITメディア事業の中身は、大きく2つに分けることができる。1つはメディア事業で、地域情報サイト『CityDO!』の運営やふるさと納税支援事業、ヤフー<4689>との業務提携に基づく広告代理店事業(『Yahoo!プロモーション広告』、『Yahoo!プレミアム広告』の販売)などがその内容となっている。
もう1つはeコマースで、これは各地域の特産物の販売を主体とするショッピングサイト『わが街とくさんネット』、『食彩ネット』の運営や、地方への旅行商品の取り扱いなどがその内容となっている。
ITメディア事業の収益モデルは、その中身の事業によって異なる。eコマースの『わが街とくさんネット』やトラベル事業は売上高の一定割合が手数料収入として同社に落ちる仕組みとなっている。ヤフー事業は広告枠の販売でやはり代理店手数料を得る仕組みだ。
そうしたなかでユニークな取り組みがふるさと納税支援事業だ。これは、自治体がふるさと納税による収入(厳密には納税者からの「寄附金」)を獲得するためのプロモーション活動や、寄附金受付に関する事務業務の代行、寄附金に対する特典商品の管理・配送業務、及び決済業務など、ふるさと納税に関する一連の業務を一括して請け負うものだ。顧客は各自治体となり、同社は自治体から業務委託手数料を受け取るという事業モデルだ。初期費用はゼロ円で、完全成果型報酬制を採用し、自治体との共存共栄という基本姿勢を明確にしている点が、同社の経営方針にマッチしていると言えるだろう。
2014年7月に茨城県笠間市と契約したのを皮切りに、これまで62の自治体と支援契約を締結している(2016年5月末現在)。ふるさと納税の規模は足元急成長を遂げている。総務省によれば、2015年度のふるさと納税額は前年度比4.3倍の165,291百万円に達し、件数も同3.8倍の726万件となった。同社ではふるさと納税の規模が年間1,200億円〜1,300億円にまで拡大してきたと推計していたが、現実はそれをはるかに上回っていたことになる。同社は、ふるさと納税支援事業は地方財政の健全化に直接貢献できる仕組みであるため、一括業務代行契約の獲得増に今後も注力する方針だ。
弊社では、同社のふるさと納税支援事業は、同社の想定以上に拡大する可能性があると考えている。ふるさと納税をめぐる報道の増加は、自治体側の意識をさらに高めることにもつながるだろう。一方、市民の側からはふるさと納税の返礼品を選ぶ楽しみが拡大することでさらに拍車がかかる可能性がある。同社は『わが街ふるさと納税』という専用サイトを設置して、自社の業務の効率化とキャパシティ拡大を図っているほか、利用者の利便性向上も実現している。リスク要因としては、ふるさと納税が加熱した結果の制度変更が考えられるが、ふるさと納税制度自体は定着しつつあるため、一気になくなるということはないと弊社ではみている。
e)郵便発送代行(DM)事業
郵便発送代行(DM)事業は、2015年10月にウイルコホールディングス<7831>から当該事業を営む子会社エルネットの全株式を買収して参入した事業だ。
ビジネスモデルは、日本郵便(株)が扱う“ゆうメール”について、スケールメリットを活かして大口割引契約に基づく特別料金で郵送する枠を仕入れ、その枠を使って割安に郵便を送る小口にして顧客(自治体や事業者など)に販売するというものだ。顧客のメリットとしては、郵送料金のコストダウンを図れることがある。200g以内のモノを1回に2,000通以上発送する場合、1通当たり67円で郵送が可能としている。
またエルネットでは、DMの編集・制作、封筒制作、封入封緘、宛名印字、郵便番号仕分、郵便局差出等、一連の業務をワンストップで受託するサービスも提供している。
エルネットの事業規模は年商約24億円とみられる。同社は2016年3月期決算から、エルネットの事業を「その他の事業」として報告セグメントを分離して公表するように変更した。それによると、2016年3月期は売上高1,199百万円、営業利益26百万円、営業利益率2.2%という業績だった。
弊社では、営業利益率が低い点は気になるものの、エルネットの事業は同社の既存事業であるメディア事業とシナジー効果を狙いやすいのではないかとみている。エルネットはかつて、地域密着系情報誌の発行を併営していた。その事業はウイルコホールディングスが取込み、DM事業だけが新エルネットとして同社に買収されたという経緯がある。弊社では、同社側とエルネット側の双方にシナジーのアイデアがいろいろ存在しているとみており、今後の展開を見守りたいと考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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2)サイネックス<2376>の今後の成長性
『わが街事典』の発行数は年々増加してきており、2016年3月期は200版に達した。注目すべきは内訳で、再版が過半を占めるようになってきている。これまでのところでは、過去に『わが街事典』を発行した自治体の約半数が再版を行っている。再版発行のサイクルは2〜3年が一般的であるため、潜在的な再版需要自治体数は70%〜80%に達するのではないかと弊社では考えている。
前述のように、『わが街事典』の発行自治体は645に達している(2016年5月末現在)。これらの自治体がすべて3年周期で再版を重ねていくと仮定するならば、年間215の発行数が得られることになり、現在の収益規模は維持できることになる。現実には再販のサイクルがもっと長い自治体や再販を行わない自治体もあるため、同社としては今後も新規発行の自治体を掘り起こしていく必要がある。新規自治体の掘り起こしは、後述するITメディア事業の商機拡大にもつながるため、その意味でも重要だ。
『わが街事典』の新規開拓余地は依然として大きいと弊社では考えている。現状はまだちょうど1,750の自治体のうち645自治体と3分の1を開拓したにとどまっているためだ。
自治体の区分別発行割合を見ると、政令指定都市や中核市といった大規模自治体の発行割合が高く、市区部の発行割合は57.6%に達している。反対に町村部の発行割合は18.9%にとどまっている。これらの数値から、今後は中小の自治体の構成比が高くなって事業規模が小さくなって成長がない、と考えるのは早計だろう。
紙媒体である『わが街事典』のコスト構造は、1冊当たりのページ数と印刷部数で決まってくる。ページ数は増やすにしても限界があるため、大規模市で印刷部数が多い場合には、収益性が低下する懸念がある。たとえ中小自治体の案件(すなわち少ページ・少部数)であっても、広告枠の販売がスムーズに進み、手離れよく発行できるケースのほうが収益性は高くなるケースもあると弊社ではみている。また、1件当たりの売上高の小型化は、発刊版数を増やすことである程度吸収できると考えている。
同社は『わが街事典』の売上高構成比を公表している。年ごとに変動はあるが、ここ数年は25%から30%のレンジで推移しており、そこから逆算される売上高は年間30億円前後となる。前述のように、『わが街事典』の発行自治体数が600を大きく超えてきたため、再版のサイクルの面から見ても、安定的に年間200前後の発刊版数を確保できるめどが立ってきた。さらに、スマートバリュー<9417>と事業連携して自治体向けクラウドサービスの提供を新たに始めたこともあり、新規発行自治体の開拓も進むと期待されるため、売上高は各年で変動を繰り返しながら緩やかに拡大していくと弊社では考えている。
c)『テレパル50』
『テレパル50』は同社の創業事業であり、生活密着型地域メディアとして60年以上を経た現在でも、年間約1,200地区について約1,000万部を発行している。
『テレパル50』は一般家庭に無償配布する50音別電話帳であり、事業モデルは『わが街事典』と同じだ。すなわち、広告枠を販売した広告料収入が同社の収入となる。『わが街事典』との違いは、地方自治体のような協働事業者がおらず、同社の独自企画で事業が進められるという点だ。そこで同社は、地元商工会との連携を図りながら、地域に密着した中小事業者向けに広告を販売することで、地域社会に不可欠な存在となることを目指した商品づくりが行われている。
商品性の面では、1)全通信キャリアの電話番号情報掲載、2)コンテンツの拡充、3)ユーザビリティ向上、などに注力している。コンテンツの拡充においては、行政情報や啓発記事を掲載し、『わが街事典』を補完する存在を目指している。ユーザビリティの点では検索性や使いやすさの面で常に進化を追求している。類似品にはNTT(日本電信電話<9432>)のタウンページがあるが、紙面づくりや情報の内容、コンセプトが大きく異なり、利用者の視点からは、競合よりもむしろ相互補完関係にあると言えると弊社では見ている。
『テレパル50』は『わが街事典』とともにプリントメディア事業の売上高を2分する収益の柱だ。採算性の面では、歴史が古くてデータ、ノウハウの蓄積があり、広告販売の面でも固定客をつかんでいるため、『わが街事典』をしのいでいるものと弊社では推測している。
d) ITメディア事業
ITメディア事業も経営方針に沿って運営されている。すなわち、地方にヒト・モノ・カネが行き渡って、地方経済が活性化するのをサポートしようというのが大きな目的だ。ITメディア事業の中身は、大きく2つに分けることができる。1つはメディア事業で、地域情報サイト『CityDO!』の運営やふるさと納税支援事業、ヤフー<4689>との業務提携に基づく広告代理店事業(『Yahoo!プロモーション広告』、『Yahoo!プレミアム広告』の販売)などがその内容となっている。
もう1つはeコマースで、これは各地域の特産物の販売を主体とするショッピングサイト『わが街とくさんネット』、『食彩ネット』の運営や、地方への旅行商品の取り扱いなどがその内容となっている。
ITメディア事業の収益モデルは、その中身の事業によって異なる。eコマースの『わが街とくさんネット』やトラベル事業は売上高の一定割合が手数料収入として同社に落ちる仕組みとなっている。ヤフー事業は広告枠の販売でやはり代理店手数料を得る仕組みだ。
そうしたなかでユニークな取り組みがふるさと納税支援事業だ。これは、自治体がふるさと納税による収入(厳密には納税者からの「寄附金」)を獲得するためのプロモーション活動や、寄附金受付に関する事務業務の代行、寄附金に対する特典商品の管理・配送業務、及び決済業務など、ふるさと納税に関する一連の業務を一括して請け負うものだ。顧客は各自治体となり、同社は自治体から業務委託手数料を受け取るという事業モデルだ。初期費用はゼロ円で、完全成果型報酬制を採用し、自治体との共存共栄という基本姿勢を明確にしている点が、同社の経営方針にマッチしていると言えるだろう。
2014年7月に茨城県笠間市と契約したのを皮切りに、これまで62の自治体と支援契約を締結している(2016年5月末現在)。ふるさと納税の規模は足元急成長を遂げている。総務省によれば、2015年度のふるさと納税額は前年度比4.3倍の165,291百万円に達し、件数も同3.8倍の726万件となった。同社ではふるさと納税の規模が年間1,200億円〜1,300億円にまで拡大してきたと推計していたが、現実はそれをはるかに上回っていたことになる。同社は、ふるさと納税支援事業は地方財政の健全化に直接貢献できる仕組みであるため、一括業務代行契約の獲得増に今後も注力する方針だ。
弊社では、同社のふるさと納税支援事業は、同社の想定以上に拡大する可能性があると考えている。ふるさと納税をめぐる報道の増加は、自治体側の意識をさらに高めることにもつながるだろう。一方、市民の側からはふるさと納税の返礼品を選ぶ楽しみが拡大することでさらに拍車がかかる可能性がある。同社は『わが街ふるさと納税』という専用サイトを設置して、自社の業務の効率化とキャパシティ拡大を図っているほか、利用者の利便性向上も実現している。リスク要因としては、ふるさと納税が加熱した結果の制度変更が考えられるが、ふるさと納税制度自体は定着しつつあるため、一気になくなるということはないと弊社ではみている。
e)郵便発送代行(DM)事業
郵便発送代行(DM)事業は、2015年10月にウイルコホールディングス<7831>から当該事業を営む子会社エルネットの全株式を買収して参入した事業だ。
ビジネスモデルは、日本郵便(株)が扱う“ゆうメール”について、スケールメリットを活かして大口割引契約に基づく特別料金で郵送する枠を仕入れ、その枠を使って割安に郵便を送る小口にして顧客(自治体や事業者など)に販売するというものだ。顧客のメリットとしては、郵送料金のコストダウンを図れることがある。200g以内のモノを1回に2,000通以上発送する場合、1通当たり67円で郵送が可能としている。
またエルネットでは、DMの編集・制作、封筒制作、封入封緘、宛名印字、郵便番号仕分、郵便局差出等、一連の業務をワンストップで受託するサービスも提供している。
エルネットの事業規模は年商約24億円とみられる。同社は2016年3月期決算から、エルネットの事業を「その他の事業」として報告セグメントを分離して公表するように変更した。それによると、2016年3月期は売上高1,199百万円、営業利益26百万円、営業利益率2.2%という業績だった。
弊社では、営業利益率が低い点は気になるものの、エルネットの事業は同社の既存事業であるメディア事業とシナジー効果を狙いやすいのではないかとみている。エルネットはかつて、地域密着系情報誌の発行を併営していた。その事業はウイルコホールディングスが取込み、DM事業だけが新エルネットとして同社に買収されたという経緯がある。弊社では、同社側とエルネット側の双方にシナジーのアイデアがいろいろ存在しているとみており、今後の展開を見守りたいと考えている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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