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アキテクツSJ Research Memo(5):課題対策は「COSNAVI」一括仕入れ「CONCEPT HOUSE」

注目トピックス 日本株
■経営戦略

アーキテクツ・スタジオ・ジャパン<6085>は、会員獲得後のプランニングコース・設計契約・工事請負契約に至る各プロセスの阻害要因や競争上の弱みを潰し、強みを発揮できるようにすることで成約率の向上を図る。直面する課題は、顧客が求める価格帯で注文住宅を提供し、建設までのリードタイムを短縮することである。それに対する対策は、積算ソフトウェア「COSNAVI」、本部一括仕入、「CONCEPT HOUSE」、「プランニングコースDUAL」になる。

a)最新積算システム「COSNAVI」−コストクラッシュを回避
規格住宅の場合、まず家の大きさと間取りを決め、建築資材や住宅設備機器のグレードを選択することで建設費を算出するというのが一般的なプロセスとなる。一方、建築家との家づくりは、多種多様ではあるが、施主や家族のライフスタイルからデザインされ、趣味を家の中に取り込んだ、グレードを比較しない住まいになる。会員が、建築家の思想や設計、意匠を気に入っても、従来の間接関与方式では加盟工務店による建築費積算の段階で、案件がコストクラッシュしてしまうことが多かった。

解決策の1つは、会員に早期から建築費のイメージを共有してもらうことである。新たなITソリューションとして、スマートフォンで使用可能な「Easy CosNavi」を用意した。会員は、表示されている建物の中から気に入ったものを選び、延べ床面積を入力すると、2分後には建築費の概算がメールで送り返されてくる。延べ床面積を変更しても、トイレなどは最低限の面積が決まっているため、それ以外のスペースを調整して設計をし直し、建築費を積算する必要がある。これまでの積算ソフトウェアでは、自動的に各スペースを調整しなおし、概算を短時間で算出することができなかった。

さらに、「ASJ CELL」などの拠点において、同社営業担当者とプランニングコースで打ち合わせを行えば、より具体的な予算のイメージを持つことができる。「COSNAVI」上で、大型モニターに表示されている建材や住設機器などの写真を見ながら選ぶと、即座に見積もりに反映される。打ち合わせの早期の段階で、予算内に具現化できるイメージを提示することができる。積算は、使用する部材の単価と数量から構成されるため、見積もりの見える化が実現でき、顧客からの信頼を得やすくなる。

営業本部では、「COSNAVI」を利用することでコストクラッシュを回避し、成約実績を積み上げることで、加盟建設会社へ同ソフトウェアの積極的な利活用を促し、全体の成約率向上を図る。加盟建設会社が顧客と商談を進める上で負担となっているのが、見積もり・積算業務の繰り返しである。「COSNAVI」の利用により、積算に要する時間は従来の手計算による2〜3週間から1〜2時間に短縮された。さらに、「PACKAGE 2015」と「COSNAVI template」を融合させたシステムでは積算時間が1〜2分に縮まり、大幅なスピードアップになる。本部では、加盟店による新システムの利用を促すため、大規模な研修を行う。

b)本部一括仕入
成約率向上のために必要なことは、ボリュームゾーンの価格帯の顧客を満足させる提案を可能にすることだ。地方の建設会社や工務店における戸建て住宅の建設コストに占める主要な項目は、建材費と労務費である。建設業界の人手不足という状況から、必然的に建材の仕入コストの削減が解決策となる。

建材仕入コストの大幅な削減は、同社が建材の1次代理店となることで実現する。住宅設備・建材メーカーとしては、少子高齢化と人口減少で国内市場の縮小が見込まれるなか、成長ポテンシャルの高い同社と取引することにやぶさかでない。業界では前例ができれば、多くのメーカーが追随することになる。同社の仕入れ価格は、個々の建設会社や工務店が自前で仕入れる水準よりも低く抑えられている。同社が一般的な卸売のマージンを乗せても、加盟建設会社への仕入コストの削減効果は大きい。

同社の狙いは、坪80万円まで高騰してしまった建築コストを坪60万円まで引き下げることだ。ボリュームゾーンの顧客の大半は、延べ床面積が約40坪の建屋を希望している。建設コストが坪60万円に下がれば住宅単価は2,400万円に収まり、金額で見送っていた顧客を呼び戻すことができる。

同社の「PACKAGE 2015」で取り扱う住宅設備機器及び建材は、建築家が許容する品目に限定している。それがカバーする主なものは、値段が張る住宅設備機器やコスト削減効果の大きい床材、内装材、外装材、屋根材などの建材である。ボリュームゾーンの住宅で扱える素材は限定されるものの、建築家ごとにデザイン・コンセプトが異なるうえ、顧客(施主)の希望を具現化することから、一品的な注文住宅を提案できる余地は十分ある。また建築家にとっては、顧客に設計が気に入ってもらえても、最後の積算で予算オーバーのコストクラッシュが発生し、失注するリスクが抑えられる。

顧客にとっては、予算の許す範囲で自分の希望を具現化できるというメリットが大きい。まず、「PACKAGE 2015」に用意された「和テイスト」「カジュアル」など15のパターンから好みのものを選び、それをベースに設計することになる。それらのパターンで建てられた住宅の過去の積算情報がデータベース化されており、間取りや大きさなどを入力すると、新システムは顧客の目の前で直ちに積算作業を終了する。「PACKAGE 2015」に登録されている住宅設備や建材を選べば、“お得価格”の見積もりになり、予算内に収まるかどうかのシミュレーションが速やかにできる。

同社の主体的直接関与は、2つの効果を狙う。まず、同社の営業が、一括仕入れや「COSNAVI」を活用することにより、顧客との打ち合わせの迅速化と成約率の向上など営業上の有用性を立証し、加盟スタジオのモデルとなることだ。2016年3月期は、およそ100件のパッケージ提案をおこない、35件の設計契約及び26件の工事請負契約につながった。

c)「CONCEPT HOUSE」−ボリュームゾーンへの対応
東京、横浜、梅田にある「ASJ CELL」は、2016年5月に「現代の土間と中庭(コート)の家」をデザインした建築家・井内清志(いうちきよし)氏が描く「ASJ CONCEPT HOUSE」をフィーチャーしたイベントを開催した。井内氏は、関西電力住まいの設計コンテストで優秀賞を受賞しており、佐伯新和(さえきにいな)氏と共同制作によりアメリカンウッドデザインアワード2000の受賞やJUKEN住宅設計コンテストで最優秀賞を受賞している。井内氏の「ASJ CONCEPT HOUSE」となる「現代の土間と中庭の家」には、スタイルがAからFまでの6パターンが用意されている。同コンセプトの家は、既に100棟も建築された実績がある。

「ASJ CONCEPT HOUSE」に関する会員へのコンサルティングと設計体制を整えることで、プランニングコースと建築家の設計業務にかかる期間を従来の約6ヶ月から1ヶ月に短縮し、ハウスメーカー並みのリードタイムとする。井内氏設計の家を第1弾として、状況を見ながら、第2、第3弾を検討する。件数ベースで全体の7割を占める2,000万〜3,000万円のボリュームゾーンの顧客へ、「ASJ CONCEPT HOUSE」を第1球目として投じる。

d)「プランニングコースDUAL」−2名の建築家からの同時提案により成約率をアップ
2人の建築家からの提案方式である「プランニングコースDUAL」を採用することで、顧客の選択肢を広げるとともに、比較検討する作業を通して顧客の納得性や満足度を高め、成約率を上げる。

コストクラッシュの他に成約を阻害する要因として、プランの選択肢が限定されてしまうことが挙げられる。顧客(会員)は、プランニングコースでは通常1名の建築家を選び、プラン提案を受ける。制度上では建築家との相性の問題やプランに納得がいかなければ建築家の変更ができるが、実際には他社に流れてしまうケースが多い。

以前に、建築予算3,000万円以上を想定している会員に、有料で1回に3名まで建築家のプランをコンペにかけるプロポーザルコースを設けた。このサービスを踏まえ、2015年4月からは同時に2名の建築家を指名して提案を比較検討し、1名を選ぶ「プランニングコースDUAL」をスタートさせた。料金は無料だ。1人の建築家が複数のプランを用意することがあるため、2名の建築家から比較検討できる2つ以上の提案を受けることになる。はじめてから1年間の成果は、79名の会員が利用し、21件が設計契約に至った。

「プランニングコースDUAL」では、同社の専門スタッフは会員の記入した「家づくりシート」「予算計画書」「現地情報」「スケジュール」などをベースに、計画に合う建築家を推薦する。また、顧客が指名した建築家のプランとコストを講評する際も同席する。従来、同社のスーパーバイザーはイベントのサポート役にとどまっていたが、今後は、専門知識を活かして会員へのコーチング的な役割を高めることで、成約までのプロセスにコミットし、業績予想の達成確度を向上させる。

e)収益源の多様化?安定収益源を確保
ASJアカデミー本部の活動としては、宣伝広告や会員向け月刊情報誌の無料配布などがある。また加盟建設会社からは月額10万円の加盟料を徴収しており、加盟建設会社は積算ソフトウェアの利用や研修を受けられる。本部として、完成保証制度も整備している。一方、同様に月額固定収入を生むビジネスモデルとして、住宅設備機器及び建材メーカーに対して行うサービスを開発した。「COSNAVI」の積算情報に、加盟メーカーは社名が表示されるようになる。まだ数社にとどまるが、「COSNAVI」の利用度の拡大により増えることが期待される。このような継続的な収入が固定費をカバーするようになれば、収益性の安定が増すことになる。

営業本部は、まず「COSNAVI」を利用して会員と建築コストのイメージ共有化を済ませる。そのような案件はコストクラッシュのリスクが比較的小さくなることから、本部案件に積極的に関与する建築家が出てくるだろう。「プランニングコースDUAL」では2人の建築家が競うことになるが、案件に参加する機会が増えることを歓迎する人もいる。

土地から探している会員もいる。「ASJ TOKYO CELL」では、2016年6月に「土地探しからはじまる、建築家との家づくり」というタイトルで建築家展を開催した。営業本部には宅建(宅地建物取引士)資格者が複数人いることから、同社も不動産仲介業に乗り出した。あくまでも、注文住宅にかかわる周辺業務の位置付けであるが、仲介手数料率は工事請負契約時の受注ロイヤリティと同率の3%になる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)



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