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ラクオリア創薬 Research Memo(3):消化器疾患領域、疼痛領域、抗菌剤で8つのパイプラインを抱える

注目トピックス 日本株
■導出候補パイプラインの状況

ラクオリア創薬<4579>の事業モデルは、同社自身が医薬品候補となる化合物を探索し、前臨床試験や第1相臨床試験などの一定の評価が確立した段階で医薬品メーカーに導出(ライセンスアウト)するというものだ。同社は、導出時に契約一時金を受けとる。導出の成否は、化合物のポテンシャルは言うまでもないが、導出先の医薬品メーカーの事情や医薬品市場でのニーズなどにも左右される。これらには導出元である同社自身の努力の及ばない部分であり、過去には、同社の業績が計画に対して未達を繰り返した大きな要因ともなったのは前述のとおりだ。

同社は、2016年8月時点で、消化器疾患領域で5プログラム、疼痛領域で2プログラム、抗菌剤で1プログラムのパイプラインを抱えている。これらのうち、一部の消化器疾患領域のプログラムは、地域を限定して既にライセンスアウトされており、残りの地域を対象に導出することを目指している。

(1)カリウムイオン競合型アシッドブロッカー/P-CAB(RQ-4、一般名:tegoprazan)

カリウムイオン競合型アシッドブロッカー/P-CAB(RQ-4/tegoprazan)は胃食道逆流症を主たる適応症とするもので、既存治療の主流であるプロトンポンプ阻害薬(代表的なものに、エーザイ<4523>の『パリエット®』、武田薬品工業<4502>(以下、武田)の『タケプロン®』など)を代替する次世代新薬として期待されている。P-CABの開発においては、武田がトップランナーで『タケキャブ®』を2015年2月に発売済みで、同社はそれに続くポジションとなっている。

『タケキャブ®』は発売後順調な立ち上がりを見せており、発売初年度の2015年3月期(2ヶ月間)に32億円、2年目の2016年3月期は84億円を、それぞれ売り上げた。『タケキャブ®』の発売で、H2ブロッカー⇒プロトンポンプ阻害薬⇒P-CABという潮流が確立したと言え、これは同社のテゴプラザンの導出にとっては、追い風と言える。

同社は、テゴプラザンについて、韓国、台湾、中国及び東南アジア地域については韓国のCJヘルスケア(株)に対して導出済みである(詳細は後述)。したがって今現在導出を目指しているのは主として日本と、CJヘルスケアの契約地域以外の世界市場、すなわち米国、欧州といった主要医薬品市場ならびにアジア地域以外の新興国市場ということになる。現在は、2015年12月期までに米国と日本での第1相臨床試験を終了し、2016年1月に医薬品国際一般名称「tegoprazan(テゴプラザン)」を取得したという状況にある。

テゴプラザンの潜在的市場規模はかなり大きいと期待される。プロトンポンプ阻害薬の市場規模は全世界で約2兆円とも言われている。同社は当面は国内市場についての導出を目指しているため、国内のプロトンポンプ阻害薬市場を知ることがテゴプラザンの潜在的市場規模をイメージするのには有効であろう。2015年度の主要メーカーの決算関連資料によれば、武田が『タケプロン®』と『タケキャブ®』合計で497億円、第一三共<4568>の『ネキシウム®』が824億円、エーザイの『パリエット®』が304億円をそれぞれ売り上げている。

P-CABについては同社から様々な特許査定が出ているが、2016年5月25日(リリースも同日)の特許査定は興味深い。日本においてのP-CABの用途に関して特許を出願していたものが認められたものだが、その範囲が、同社が創出したテゴプラザンのみならず、すべての(すなわち、他社の)P-CABについても、食間伝播性収縮運動(IMC)のPhaseIII収縮の発生によって改善される、胃食道逆流疾患(GERD)、機能性消化不良、腹部膨満感、不快感及び便秘などの消化管運動異常が関与する疾患または症状を改善する消化管機能調整剤、または消化管運動賦活化剤に関する権利が認められた。

これをわかりやすく言うと、先行する武田の『タケキャブ®』について、武田が上記のIMCのPhaseIII収縮の発生による効能発現をうたって販売した場合には、同社の特許を侵害したことになるということだ。武田側も特許侵害は回避する行動をとると考えられるため、今回の特許査定で直ちに同社が財産的なメリットを獲得するわけではないが、同社が目指すテゴプラザンの国内での導出には追い風になると期待される。また、将来的には、武田を含めた他社の特許侵害による財産収入の獲得の可能性もゼロではない。

(2) 5-HT4部分作動薬(RQ-10)

RQ-10は胃不全麻痺、機能性胃腸症、慢性便秘などを適応症とする化合物である。セロトニン受容体の1つ(5-HT4)を標的とする薬剤で、同じ薬理作用を持つ薬剤にモサプリド(大日本住友製薬<4506>が『ガスモチン®』の商標で販売済み)がある。韓国・台湾・中国・インド及び東南アジア市場を対象に、韓国のCJヘルスケアに導出されているが、国内及びCJヘルスケアの契約地域以外のグローバル市場について導出を目指している状況だ(CJヘルスケアによる開発状況については後述)。

同社は2013年6月に英国で第1相臨床試験を終了しており、RQ-10の非常に強い薬効と高い安全性が示された。また、RQ-10については、米国ヴァージニア・コモンウェルス大学で、パーキンソン病患者を対象とした医師主導治験が行われている。この治験に対しては、2016年4月に、マイケル・J・フォックス財団パーキンソン病研究機関から3年間で総額86万8,000ドルの研究助成金の授与が決定した。この研究助成金はあくまで上記医師主導治験に対する助成であるため、同社の業績には影響を及ぼさないが、医師主導治験の進捗がRQ-10の導出にプラス影響をもたらすと考えられ、ポジティブに評価できるだろう。

RQ-10についての収益は、まずは国内及びグローバル地域を対象とした導出に伴う契約一時金が期待される。その後は開発の進捗に応じたマイルストーン収入が入ってくることになる。医薬品として上市後はロイヤリティ収入が入るが、その市場規模を考える上では『ガスモチン®』の売上高が参考になろう。同薬は後発医薬品の登場で近年は売上高が減少基調にあるが、2011年度には212億円の売上実績を有している。

(3) 5-HT2B拮抗薬(RQ-00310941)

5-HT2Bは消化管ホルモンの1つであるセロトニン(5-HT)受容体の一種であり、本化合物(RQ-941)は5-HT2Bの活動を抑制することで薬効を実現するタイプで、内臓痛改善や消化管運動の正常化の効能が期待される。群馬大学との共同研究等により、排便異常を抑制しつつも正常な腸には過分な影響を与えないことが示されたことから、下痢型過敏性腸症候群(IBS)への適応を狙っている。同社は、前臨床試験(in vivo薬効薬理試験、薬物動態試験、毒性試験、安全性薬理試験)の評価の結果、臨床ステージに進めることが可能と判断し、2015年7月に第1相臨床試験を英国で開始して、現在も継続中である。

RQ-941は、物質特許について5大特許庁(日本、米国、欧州、中国及び韓国)で特許査定を受けている。これまではテゴプラザンとRQ-10の開発に力が注がれてきたが、同社によるテゴプラザンの国内第1相臨床試験が2015年7月に終了したこともあり、今期は特にRQ-941の開発に拍車がかかると弊社では考えている。RQ-941は潰瘍性大腸炎やクローン病といった自己免疫疾患における腹部症状改善薬としての対象拡大の可能性が見えてきていることも背景として考えられる。現在継続中の第1相臨床試験の終了時が導出が期待される1つのタイミングと考えられるが、同社自身はその点を中期経営計画の業績目標の中には織り込んでいない。ライセンスアウトされた場合には、そこからの契約一時金収入は業績上振れ要因になってくる。

(4)モチリン受容体作動薬(RQ-00201894)

RQ-894は、消化管ホルモンの1つであるモチリン受容体に作用して薬効を発揮する化合物で、消化管運動不全を正常化する高い効果が確認されている。ターゲットとなる適応症は胃不全麻痺、機能性胃腸症、術後イレウスなどである。現在製造販売承認を受けているモチリン受容体作動薬はないため、同社の化合物が上市されれば画期的新薬になる可能性がある。

開発の現況は、第1相臨床試験の実施に必要な前臨床試験(in vivo薬効薬理試験、薬物動態試験、毒性試験、安全性薬理試験)が終了し、開発をさらに進めることについて問題となる知見はないという評価が確定している。今後は臨床ステージに進めていくか、現段階での導出を目指すかを検討している。

(5)ダルババンシン

ダルババンシンはMRSA感染症を主適応症とする抗菌剤で、同社はファイザーから日本国内を対象地域とする開発・製造・販売の権利を獲得していた。2010年12月にこの権利を米Durata Therapeutics(現・Allergan plc)に譲渡したが、Allergan plcと協議を行い、権利譲渡契約の規定に基づき2015年6月23日付で同社が日本における権利を再取得することが確定した。同社は今後、国内市場においてダルババンシンの開発・製造・発売を行おうという医薬品メーカーに対して、導出することを目指す方針だ。

ダルババンシンは既に2014年7月に米国で上市(商品名『DALVANCE®』)されているほか、2015年3月には欧州でも新薬承認を獲得(商品名『XYDALBATM』)している。国内での開発に当たっては、Allergan plcが実施した海外の臨床開発及び申請情報をもとにサポートしていくことになるとみられる。

ダルババンシンはバンコマイシンの代替を狙う存在だ。ダルババンシンには半減期が長い(薬効が長時間持続する)という特徴があるため、1日2回の投与が必要であるバンコマイシンに対し、ダルババンシンは週1回の投与で済むという大きなメリットがある。さらに米国ではバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)の出現もあってダルババンシンの期待は大きいと思われる。日本でもバンコマイシン低感受性MRSA(VISA)が報告されているが、VRSAは現状では確認されていない。元来がダルババンシンの適応症が限定的であるため、過度な期待は禁物であろう。国内の年商規模については2,000百万円〜3,000百万円程度とみられるが、肺炎や敗血症などへと適応症が拡大すれば売上規模が上振れする可能性がある。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)



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