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アンジェス Research Memo(4):椎間板性腰痛症では第1/2相臨床試験を2017年に開始する予定

注目トピックス 日本株
■主要パイプラインの開発状況

(2) NF-κBデコイオリゴ(核酸医薬)

NF-κBデコイオリゴ核酸は、人工核酸により遺伝子の働きを制御する「核酸医薬」の一種で、生体内で免疫・炎症反応を担う「転写因子NF-κB」に対する特異的な阻害剤となる。このNF-κBデコイオリゴ核酸による治療法は、1995年にアンジェス MG<4563>の創業者である森下竜一氏により発明された。主にNF-κBの活性化による過剰な免疫・炎症反応を原因とする疾患の治療薬として、研究開発を進めている。

○アトピー性皮膚炎(軟膏剤)
アトピー性皮膚炎患者のうち、顔面に中等症以上の皮疹を有する患者を対象に第3相臨床試験を国内で実施してきたが、主要評価項目においてプラセボ群に対する統計学的有意差が得られなかったとする試験結果が2016年7月に発表された。このため、同社では詳細な試験データを分析し、今後の開発方針を改めて検討していく意向を示したが、開発のプライオリティに関しては他の開発パイプラインよりも低くなったと言える。

○椎間板性腰痛症(注射投与)
椎間板性腰痛症を含む腰痛疾患を適応症とした治療薬となり、患部に注射投与することによって、慢性腰痛に対する鎮痛効果とともに、椎間板変性に対しても進行抑制や修復を促す効果が期待できる新しいタイプの腰痛治療薬として開発を進めている。2013年3月に国内で日本臓器製薬(株)と独占的開発販売権許諾契約を締結したが、2014年12月に相手先の開発方針の変更により契約を解消している。このため、開発に関しては今後、独自に米国で行っていくこととした。米国では椎間板性腰痛症の患者数が多いことや、本薬の治療に必要な手技に精通した医師が多いこと、標準的な治療方針に本薬のような椎間板変性を抑制する薬剤が適合するなど、市場を開拓していくうえでの環境面で適していると判断したためだ。

今後の開発スケジュールとしては、米国にてFDAから臨床試験開始許可を取得後に、カリフォルニア大学サンディエゴ校において第1/2相臨床試験を2017年に実施する予定となっている。臨床試験の結果が良ければライセンスアウトの交渉を進めていく予定だ。

○血管再狭窄予防(薬剤塗布型バルーンカテーテル)
メディキットと共同開発を進めてきた薬剤塗布型バルーンカテーテルの臨床試験は、既に最後の登録患者の観察期間を2015年に終えており、現在は各患者のデータ回収・解析作業を行っている段階にある。当初は2016年夏頃の結果発表を見込んでいたが、データ回収作業に時間がかかり、発表時期は秋頃になる見通しだ。結果が良好であればメディキットが2016年内に承認申請を行う予定で、2017年中の承認取得が期待される。

同製品は、バルーンの外表面に抗炎症作用を持つNF-κBデコイオリゴDNAを塗布することで、バルーン拡張によって引き起こされる血管炎症の抑制、血管の再狭窄までの期間延長、及び外科的手術の回避といった効果が期待されている。透析シャント静脈狭窄を対象疾患としているため、国内での市場規模としては小さいが、今後は市場規模の大きい欧米市場への展開や適応疾患の拡大も視野に入れている。なお、薬剤塗布型バルーンカテーテルとしては従来も抗がん剤を使ったものが販売されているが副作用への懸念があり、適応を拡大していく可能性も考えられる。

○改良型デコイ「キメラデコイ」の製品開発を開始
同社は2016年7月に、改良型デコイ「キメラデコイ」の基盤技術開発を完了し、製品開発を開始したと発表した。従来のNF-κBデコイオリゴと比較して、格段に高い炎症抑制効果が期待されるほか、生体内での安定性に優れ、かつ生産コストも低くなるといった特徴を持つ。

炎症抑制効果が高くなるのは、「キメラデコイ」がSTAT6とNF-κBという炎症に関わる2つの重要な因子を同時に抑制する働きを持つためだ。実際、大阪大学大学院の研究チームによって喘息を対象とした動物試験を実施した結果、従来のNF-κBデコイオリゴと比較して、炎症に関わる数値が大幅に改善されたことが確認されている。生産コストについては薬剤の分子量に依存するが、「キメラデコイ」はNF-κBデコイオリゴと比較して分子量が少ないため、生産コストも低くなるようだ。

同社では今後、臨床試験の実施に必要な前臨床試験を開始していく計画で、炎症性疾患を対象とした製剤の開発、安全性試験等を実施していく予定となっている。具体的な対象疾患としては、喘息、慢性関節リウマチ、変形性関節症、クローン病(炎症性腸疾患)などの治療薬の開発を目指していく考えだ。なお、既に開発が進行中の椎間板性腰痛症については既存のNF-κBデコイオリゴで開発を継続するが、今後、新たに開発するものに関しては基本的に「キメラデコイ」で開発を進めていくことになる。

また、同社は「キメラデコイ」を疾患部位・細胞に効果的に送達するためのDDS(ドラッグデリバリーシステム)技術に関して、大阪大学と共同研究契約を2016年7月に締結した。新規DDSの実用化に向けた適応症の検討と最適な製剤の開発を目的としている。「キメラデコイ」とDDSを組み合わせることで、薬効の向上が期待される。

(3)その他の開発パイプライン

○高血圧DNAワクチン
DNA治療ワクチンの1つとして、高血圧DNAワクチンの開発を進めている。大阪大学の森下教授の研究チームにより基本技術が開発されたものとなる。昇圧作用を有する生理活性物質アンジオテンシンIIに対する抗体の産生を誘導し、アンジオテンシンIIの作用を減弱させることで、長期間安定した降圧作用を発揮するものとなる。

高血圧治療薬の市場規模は国内だけでも8,000億円以上、世界では数兆円規模となっており、この一部を代替することを目指している。現在主力の治療薬としてはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬(経口薬)があるが、毎日服用する必要があるほか薬価も高いため、発展途上国では医療経済上の問題から使用は限定的となっている。一方、同社が開発するDNAワクチンは1回の治療で2〜3年の効果が期待できるため、開発に成功すれば発展途上国も含めて普及拡大が期待される。

同社では2017年より第1相臨床試験をオーストラリアで開始すべく、準備を進めている段階にある。第1相臨床試験でPOCを取得できれば、大手の製薬企業にライセンスアウトする方針である。なお、高血圧DNAワクチンは犬慢性心不全を対象とした動物用医薬品としても開発を行っている(大日本住友製薬<4506>の子会社、DSファーマアニマルヘルス(株)と2015年10月に共同開発契約締結を発表)。

○子宮頸部前がん病変治療ワクチン(CIN治療ワクチン)
韓国のバイオリーダース社から導入したCIN治療ワクチンは、子宮頸がん前がん状態の組織を退縮させ、子宮頸がんへの移行、円錐切除手術を回避する効果が期待される。乳酸菌L.caseiをベースとした経口剤である。子宮頸がん予防ワクチンとの違いは、予防ワクチンが子宮頸がんの原因ウィルスであるヒトパピローマウィルス(HPV)未感染者を投与対象者としているのに対して、CIN治療ワクチンは既に子宮頸がん前がん病変であるCIN2/3ステージ(中程度〜高程度異形成、上皮内がん)の患者を投与対象とした治療薬ということにある。CIN2/3ステージの全世界の推定年間罹患者数は約1,000万人とも言われており、潜在市場規模は大きい。

同社は2016年6月に森下仁丹にCIN治療ワクチンの独占的開発・製造・販売権を再許諾することで基本合意したと発表しており、本契約後に契約一時金を受領するほか、上市されれば製品販売に対するロイヤリティを受領することとなる。森下仁丹が乳酸菌の研究に長年取り組んできたことや、シームレスカプセルの技術を持っていることが基本合意を行ううえでの決め手となった。シームレスカプセルは腸内で溶解するため、高い薬効が期待されるため腸管免疫を活用するCIN治療ワクチンに応用される可能性がある。同社では2016年内にも正式契約を締結したい考えで、契約一時金としては1〜2億円程度と推測される。正式契約締結後は、森下仁丹が開発を進めていくことになる。

なお、現在は東京大学医学部附属病院にて、医師主導型の探索的臨床研究を実施している。これまでの発表結果(2014年9月リリース)では、CIN3を対象とした試験において、投与した17症例において有害事象の発生がなく、適用量を服用した被験者の70%で前がん病変の明らかな退縮(投与開始後9週目)が確認されている。同附属病院ではさらにCIN2を対象として40症例の試験を実施中であり、2016年中にも終了する見込みとなっている(厚生労働省からの補助金を活用)。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



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