ラクオリア創薬 Research Memo(8):プレジション・メディシンで差別化が期待できるテムリックを子会社化
[17/04/26]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■中長期の成長戦略
3. テムリックの完全子会社化
(1) テムリック完全子会社化の背景
ラクオリア創薬<4579>は2017年2月3日付で、株式交換によりテムリックを完全子会社化した。テムリックは2002年1月に設立された創薬ベンチャーで、がん領域に特化した創薬事業を行っている。同社がテムリックを完全子会社化した目的・動機については、1)同社は消化器疾患領域や疼痛領域での研究開発が中心で、がん領域に特化したテムリックの子会社化は純粋に事業領域拡大につながること、2)完全子会社化することでアカデミアとの共同研究成果の取り込みと治療薬開発の加速が期待できること、3)テムリックがSyrosに導出しているTM-411(一般名:タミバロテン)の将来性に期待を抱いていること、などが挙げられる。
(2) テムリックのプログラムと開発状況
テムリックが現在開発中のプログラムはTM-411だ。これは東京大学薬学部化学講座の首藤紘一(しゅどうこういち)名誉教授が創製したレチノイン酸誘導体(レチノイド)で、既存薬に比べて化学的安定性、安全性、強い分化誘導活性を有する薬剤だ。国内では東光薬品工業(株)が臨床試験を行い、2005年4月に「再発または難治性の急性前骨髄球性白血病(APL)」の治療薬と承認され、同年6月に「アムノレイク錠2mg」として日本新薬<4516>から発売されている。
テムリックはこのTM-411を2004年に導入した。2014年に日本の大原薬品工業(株)に、2015年に米Syrosに導出し、それぞれの導出先企業で臨床開発が進んでいる。このうち特に期待が大きいのが、Syrosで開発が進められている急性骨髄性白血病(AML)と骨髄異形成症候群(MDS)の治療薬としての開発だ。SyrosはTM-411についてAML/MDSのプレジション・メディシンとして新薬承認を獲得することを目指している。
プレジション・メディシンとは従来型の医療に対立する新しい概念だ。これまでの医療(医薬品開発も同様)は平均的な患者を想定してデザインされたものであり、特に抗がん剤において、“ある患者群においては大変効果がある一方、その他の患者にはほとんど効果がない”という状況が起こっている。それに対してプレジション・メディシンは、遺伝子情報の個々の違いを分析して予防や治療を行うというものだ。Syrosが開発した“Gene Control Platform”(遺伝子制御プラットフォーム)に基づき、TM-411が作用するレチノイン酸受容体(RARα)がより強く発現する全体の25%のAML/MDS患者を選別し、そのグループに対して高い効果を発揮することが期待できる新薬として開発を進めている。現在は第2相試験を実施中という状況だ。
プレジション・メディシンは、米国のオバマ前大統領が2015年1月の一般教書演説で“Precision Medicine Initiative”を発表したことにもあるように、大きな注目を集めている。プレジション・メディシンは患者を有効性が期待されるグループ(患者群)に絞り込んで治療を行うため、従来型医療よりも高いコストパフォーマンスが見込め、かつ、中低所得者層に恩恵をもたらすと期待されるためだ。こうした社会的要請は、新薬の承認においてスピード感をもたらしてくれると期待される。また、似たコンセプトの医療にパーソナライズ・メディシンがあるが、これは対象を個人レベルまで絞り込むため、富裕層を対象としている。医薬品メーカーにとっての潜在市場規模という点では、プレジション・メディシンのほうが大きくなると弊社ではみている。
(3) テムリックの連結化に伴う収益貢献
テムリックの子会社化は株式交換の手法が採られ、同社は479,250株の新株を発行・交付した。1株当たり450円で計算すれば約216百万円相当ということになる。これに対してのれんの発生が想定されているが、本レポート執筆時点では金額の確定・公表はされていない。
テムリックからの収益については、2016年12月26日付のテムリック完全子会社化についてのリリースの中で簡単に言及されている。テムリックの収入は、治験薬の供給と、導出先のSyrosからのマイルストン収入が柱となっているが、マイルストン収入は毎年発生するわけではない。また、テムリックはTM-411を東光薬品工業から導入しているため支払ロイヤルティの発生も推定されるところだ。そうした中同社は、2017年4月14日に連結業績見通しについてリリースを公表し、合わせて中計の業績計画についても修正を発表した。数値の詳細は「今後の見通し」の項で詳述するが、買収当時に比較して、テムリックの黒字定着のタイミングが早まる方向へと見方が変化した点が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
<NB>
3. テムリックの完全子会社化
(1) テムリック完全子会社化の背景
ラクオリア創薬<4579>は2017年2月3日付で、株式交換によりテムリックを完全子会社化した。テムリックは2002年1月に設立された創薬ベンチャーで、がん領域に特化した創薬事業を行っている。同社がテムリックを完全子会社化した目的・動機については、1)同社は消化器疾患領域や疼痛領域での研究開発が中心で、がん領域に特化したテムリックの子会社化は純粋に事業領域拡大につながること、2)完全子会社化することでアカデミアとの共同研究成果の取り込みと治療薬開発の加速が期待できること、3)テムリックがSyrosに導出しているTM-411(一般名:タミバロテン)の将来性に期待を抱いていること、などが挙げられる。
(2) テムリックのプログラムと開発状況
テムリックが現在開発中のプログラムはTM-411だ。これは東京大学薬学部化学講座の首藤紘一(しゅどうこういち)名誉教授が創製したレチノイン酸誘導体(レチノイド)で、既存薬に比べて化学的安定性、安全性、強い分化誘導活性を有する薬剤だ。国内では東光薬品工業(株)が臨床試験を行い、2005年4月に「再発または難治性の急性前骨髄球性白血病(APL)」の治療薬と承認され、同年6月に「アムノレイク錠2mg」として日本新薬<4516>から発売されている。
テムリックはこのTM-411を2004年に導入した。2014年に日本の大原薬品工業(株)に、2015年に米Syrosに導出し、それぞれの導出先企業で臨床開発が進んでいる。このうち特に期待が大きいのが、Syrosで開発が進められている急性骨髄性白血病(AML)と骨髄異形成症候群(MDS)の治療薬としての開発だ。SyrosはTM-411についてAML/MDSのプレジション・メディシンとして新薬承認を獲得することを目指している。
プレジション・メディシンとは従来型の医療に対立する新しい概念だ。これまでの医療(医薬品開発も同様)は平均的な患者を想定してデザインされたものであり、特に抗がん剤において、“ある患者群においては大変効果がある一方、その他の患者にはほとんど効果がない”という状況が起こっている。それに対してプレジション・メディシンは、遺伝子情報の個々の違いを分析して予防や治療を行うというものだ。Syrosが開発した“Gene Control Platform”(遺伝子制御プラットフォーム)に基づき、TM-411が作用するレチノイン酸受容体(RARα)がより強く発現する全体の25%のAML/MDS患者を選別し、そのグループに対して高い効果を発揮することが期待できる新薬として開発を進めている。現在は第2相試験を実施中という状況だ。
プレジション・メディシンは、米国のオバマ前大統領が2015年1月の一般教書演説で“Precision Medicine Initiative”を発表したことにもあるように、大きな注目を集めている。プレジション・メディシンは患者を有効性が期待されるグループ(患者群)に絞り込んで治療を行うため、従来型医療よりも高いコストパフォーマンスが見込め、かつ、中低所得者層に恩恵をもたらすと期待されるためだ。こうした社会的要請は、新薬の承認においてスピード感をもたらしてくれると期待される。また、似たコンセプトの医療にパーソナライズ・メディシンがあるが、これは対象を個人レベルまで絞り込むため、富裕層を対象としている。医薬品メーカーにとっての潜在市場規模という点では、プレジション・メディシンのほうが大きくなると弊社ではみている。
(3) テムリックの連結化に伴う収益貢献
テムリックの子会社化は株式交換の手法が採られ、同社は479,250株の新株を発行・交付した。1株当たり450円で計算すれば約216百万円相当ということになる。これに対してのれんの発生が想定されているが、本レポート執筆時点では金額の確定・公表はされていない。
テムリックからの収益については、2016年12月26日付のテムリック完全子会社化についてのリリースの中で簡単に言及されている。テムリックの収入は、治験薬の供給と、導出先のSyrosからのマイルストン収入が柱となっているが、マイルストン収入は毎年発生するわけではない。また、テムリックはTM-411を東光薬品工業から導入しているため支払ロイヤルティの発生も推定されるところだ。そうした中同社は、2017年4月14日に連結業績見通しについてリリースを公表し、合わせて中計の業績計画についても修正を発表した。数値の詳細は「今後の見通し」の項で詳述するが、買収当時に比較して、テムリックの黒字定着のタイミングが早まる方向へと見方が変化した点が注目される。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
<NB>