ワコム Research Memo(4):ワコムのキー・テクノロジー
[17/12/01]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■会社概要
3. キー・テクノロジー
ワコム<6727>のペンタブレットがクリエイティブ市場で世界の約90%を占めていることや、テクノロジーソリューション事業(コンポーネント販売)がサムスン電子向けに拡大したことは、同社のテクノロジーの高さゆえである。テクノロジーこそが同社の強みであるといえる。以下では同社のキー・テクノロジーについて紹介する。
同社のテクノロジーを理解する前提として、同社の持つデジタルペンやインクに関する技術について整理しておく。デジタルペンは、コンピュータへの入力装置であり、構成パーツはデジタルペンと“紙”に相当するセンサーボードだ。また、センサーボードの代わりにタッチパネルの技術を利用したタイプもある。同社は“ペンタブレット”企業としてデジタルペンを生かした技術と事業にこだわっている。
電磁誘導(Electro Magnetic Resonance, EMR)方式
同社は、ペンタブレットの技術にEMR(電磁誘導方式)を採用してきた。他には簡便でコストも安い感圧式などの方式があるが、同社がEMRにこだわった理由は、反応の高速性や高精細さ、ホバリング機能を有していることなどにある。前述のように、同社はクリエイターや愛好家を対象とするクリエイティブ市場において約90%の圧倒的な世界シェアを有しているが、その要因は高性能、すなわち高精細さにある。EMRと同社の発展は切り離せない関係にあるといえる。
EMRは専用のデジタルペンを必要とする。デジタルペン以外で反応しないことは、不用意な画面操作を防げることを意味するほか、デジタルペンを使うことで筆圧の検知が可能になり、電子消しゴムなどの機能を追加して直感的な操作が可能になるという面もある。何よりも指では細い描写は難しく、何らかの指を代替するものが必要だ。結局はペンが必要となるのは自明だ。同社はEMR技術の特性を生かしてデジタルペンをバッテリーレス化している。
同社の技術的差別化のポイントはIC技術にある。ペンで入力した情報を実際に表示する過程ではコントローラICが不可欠だ。同社は長年のEMR技術のブラッシュアップの過程でコントローラICの技術を蓄積してきており、この技術は今後の同社の競争力維持・強化の点でもプラスに働くと弊社では考えている。
アクティブES(Active Electrostatic, AES, 静電結合)方式
一般にスマートフォンやタブレットは、指での入力を前提に、マルチタッチを可能とする静電容量方式のタッチパネル(以下、“静電タッチパネル”)を入力装置として採用している。そのもっとも象徴的なものはアップル社のiPhoneやiPadだ。しかし、この市場において、指よりも“もっと細い指”、すなわちペンを利用してより細かい入力を行って使用価値を上げようという流れが広がってきている。
この静電タッチパネルに良くフィットするデジタルペンという目的で同社が開発した技術が、AES方式テクノロジーだ。EMR方式ペンタブレットをタッチパネルと併用する場合にはタッチパネルの下にEMR方式のセンサーボードを張り合わせる必要があるがあるが、AESは静電タッチパネルをペンタブレットにおけるセンサーボードとして利用して入力を行えるシンプルな構造の技術だ。EMR方式のデジタルペンをヘビーユーザー向けとするなら、AES方式のデジタルペンはミドルユーザー向けという位置付けだ。
同社のAESペンの特徴としては、筆圧検知対応、高精細を確保している点や、デジタルインク及びアプリケーションとの共用で高い利便性を実現できる拡張性を有している点などが挙げられる。また、EMR技術で蓄積したデジタルペン入力とタッチ操作を円滑に処理するコントローラICを搭載して、高い使い勝手を実現している点も重要なポイントだ。EMRのケースと同様、ここに同社の差別化要因がある。一方で、EMR技術とは異なるためペン内にバッテリーを内蔵している。
同社のAESデジタルペンは、ブランド製品事業においては、コンシューマ部門のスタイラス製品となって販売されている。これはサードパーティのモバイル端末利用者向けのデジタルペンの単品販売ということだ。また、テクノロジーソリューション事業においては、Lenovo 、DELL、HP、東芝などのパソコンやタブレットに採用されてOEM供給されており、デジタルペン対応型タブレットのデジタルペンとして主流の技術となっている。このように、AESは今後の同社の成長をけん引する重要な意味合いを有している。
WILL(Wacom Ink Layer Language)
WILLは、同社が開発した“デジタルインク”のソフトウェアフレームワークだ。デジタルペンで入力された情報を液晶ディスプレイなどに入力する際に必要となるソフトウェアを、ペンで紙に表示する役割を担うインクになぞらえ、デジタルインクと称する。現状のデジタルインクはいくつか存在しているが、OS(Windows、Android、iOSなど)をまたぐと文字化けや色味の違いが出るなどの現象が起きる。WILLはこれを解決したソフトウェアだ。
同社はWILLのSDK(ソフトウェア開発キット)を無料でリリースしている。WILLのフレームワークのデジタルインク・ソフトウェアを自由に開発してもらい、それらと本質的に相性の良いはずの同社のデジタルペンの販売加速につなげる狙いだ。同社のペンタブレットの世界シェアの高さを考えれば、WILLによって収益を上げるという選択肢も可能であったと思われるが、同社は、まずは非営利団体であるDSC(Digital Stationery Consortium, デジタル文具協会)を2016年9月に米国で設立し、グローバルなパートナーとともにWILLの普及と活用を促すことで、当面ブランド製品やコンポーネントの販売で収益拡大を目指す戦略だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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3. キー・テクノロジー
ワコム<6727>のペンタブレットがクリエイティブ市場で世界の約90%を占めていることや、テクノロジーソリューション事業(コンポーネント販売)がサムスン電子向けに拡大したことは、同社のテクノロジーの高さゆえである。テクノロジーこそが同社の強みであるといえる。以下では同社のキー・テクノロジーについて紹介する。
同社のテクノロジーを理解する前提として、同社の持つデジタルペンやインクに関する技術について整理しておく。デジタルペンは、コンピュータへの入力装置であり、構成パーツはデジタルペンと“紙”に相当するセンサーボードだ。また、センサーボードの代わりにタッチパネルの技術を利用したタイプもある。同社は“ペンタブレット”企業としてデジタルペンを生かした技術と事業にこだわっている。
電磁誘導(Electro Magnetic Resonance, EMR)方式
同社は、ペンタブレットの技術にEMR(電磁誘導方式)を採用してきた。他には簡便でコストも安い感圧式などの方式があるが、同社がEMRにこだわった理由は、反応の高速性や高精細さ、ホバリング機能を有していることなどにある。前述のように、同社はクリエイターや愛好家を対象とするクリエイティブ市場において約90%の圧倒的な世界シェアを有しているが、その要因は高性能、すなわち高精細さにある。EMRと同社の発展は切り離せない関係にあるといえる。
EMRは専用のデジタルペンを必要とする。デジタルペン以外で反応しないことは、不用意な画面操作を防げることを意味するほか、デジタルペンを使うことで筆圧の検知が可能になり、電子消しゴムなどの機能を追加して直感的な操作が可能になるという面もある。何よりも指では細い描写は難しく、何らかの指を代替するものが必要だ。結局はペンが必要となるのは自明だ。同社はEMR技術の特性を生かしてデジタルペンをバッテリーレス化している。
同社の技術的差別化のポイントはIC技術にある。ペンで入力した情報を実際に表示する過程ではコントローラICが不可欠だ。同社は長年のEMR技術のブラッシュアップの過程でコントローラICの技術を蓄積してきており、この技術は今後の同社の競争力維持・強化の点でもプラスに働くと弊社では考えている。
アクティブES(Active Electrostatic, AES, 静電結合)方式
一般にスマートフォンやタブレットは、指での入力を前提に、マルチタッチを可能とする静電容量方式のタッチパネル(以下、“静電タッチパネル”)を入力装置として採用している。そのもっとも象徴的なものはアップル社のiPhoneやiPadだ。しかし、この市場において、指よりも“もっと細い指”、すなわちペンを利用してより細かい入力を行って使用価値を上げようという流れが広がってきている。
この静電タッチパネルに良くフィットするデジタルペンという目的で同社が開発した技術が、AES方式テクノロジーだ。EMR方式ペンタブレットをタッチパネルと併用する場合にはタッチパネルの下にEMR方式のセンサーボードを張り合わせる必要があるがあるが、AESは静電タッチパネルをペンタブレットにおけるセンサーボードとして利用して入力を行えるシンプルな構造の技術だ。EMR方式のデジタルペンをヘビーユーザー向けとするなら、AES方式のデジタルペンはミドルユーザー向けという位置付けだ。
同社のAESペンの特徴としては、筆圧検知対応、高精細を確保している点や、デジタルインク及びアプリケーションとの共用で高い利便性を実現できる拡張性を有している点などが挙げられる。また、EMR技術で蓄積したデジタルペン入力とタッチ操作を円滑に処理するコントローラICを搭載して、高い使い勝手を実現している点も重要なポイントだ。EMRのケースと同様、ここに同社の差別化要因がある。一方で、EMR技術とは異なるためペン内にバッテリーを内蔵している。
同社のAESデジタルペンは、ブランド製品事業においては、コンシューマ部門のスタイラス製品となって販売されている。これはサードパーティのモバイル端末利用者向けのデジタルペンの単品販売ということだ。また、テクノロジーソリューション事業においては、Lenovo 、DELL、HP、東芝などのパソコンやタブレットに採用されてOEM供給されており、デジタルペン対応型タブレットのデジタルペンとして主流の技術となっている。このように、AESは今後の同社の成長をけん引する重要な意味合いを有している。
WILL(Wacom Ink Layer Language)
WILLは、同社が開発した“デジタルインク”のソフトウェアフレームワークだ。デジタルペンで入力された情報を液晶ディスプレイなどに入力する際に必要となるソフトウェアを、ペンで紙に表示する役割を担うインクになぞらえ、デジタルインクと称する。現状のデジタルインクはいくつか存在しているが、OS(Windows、Android、iOSなど)をまたぐと文字化けや色味の違いが出るなどの現象が起きる。WILLはこれを解決したソフトウェアだ。
同社はWILLのSDK(ソフトウェア開発キット)を無料でリリースしている。WILLのフレームワークのデジタルインク・ソフトウェアを自由に開発してもらい、それらと本質的に相性の良いはずの同社のデジタルペンの販売加速につなげる狙いだ。同社のペンタブレットの世界シェアの高さを考えれば、WILLによって収益を上げるという選択肢も可能であったと思われるが、同社は、まずは非営利団体であるDSC(Digital Stationery Consortium, デジタル文具協会)を2016年9月に米国で設立し、グローバルなパートナーとともにWILLの普及と活用を促すことで、当面ブランド製品やコンポーネントの販売で収益拡大を目指す戦略だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川 裕之)
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