カドカワ Research Memo(7):セグメント別では映像・ゲーム事業が増収増益に
[17/12/15]
提供元:株式会社フィスコ
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注目トピックス 日本株
■カドカワ<9468>の今後の見通し
2. 事業セグメント別見通し
(1) Webサービス事業
Webサービス事業の売上高は前期比2.3%増の32,000百万円、営業利益は同43.2%減の1,600百万円を見込んでいる。ただ、当初10月に予定したniconico(く)のサービス開始時期が2018年2月28日に後ろ倒しになったことから、業績の下振れが予想される。
注目されたniconico(く)のサービス内容については、11月28日に会社側から発表され、ニコニコ動画・ニコニコ生放送に続く3つ目のインターフェースとなる「nicocas(ニコキャス)」のサービスを新たに開始するとしている。「ニコキャス」では世界最先端のストリーミング技術を用いて、動画・生放送・双方向・映像合成を一体化したインターフェースを自社開発によって実現、ユーザー生放送をベースに双方向性と協同性を高める豊富な新機能を搭載していることが特徴となっている。生放送配信者と視聴者がよりアクティブにコミュニケーションを取ることで、番組を盛り上げることが可能となる。また、スマートフォンではniconicoで初めてログイン不要で視聴可能となったほか、双方向性機能を用いたゲーム(ニコ割ゲーム)など様々な機能も楽しめるようになっている。(く)では従来弱かったスマートフォンユーザーに向けた利便性並びに機能向上を図ることで、10代を中心としたユーザー層を拡大し、「新たな遊び場の提供によるIP創出機会とマネタイズの充実」を図ることで再成長を目指していく考えで、今後の反響が注目される。
当面の目標としては、2017年9月末に228万にまで減少した「プレミアム会員数」を過去ピークだった256万人(2016年9月末)まで早期に回復させることを掲げている。上期の決算説明会では、過去、コミュニティサービスとして一旦、ピークアウトしたサービスで復活した例は無く、今回復活を遂げれば初のケースとなるとの意気込みが示された。niconico(く)の投入によって、スマートフォンユーザーにも楽しく遊んでもらえるコンテンツを充実させ、ユーザー層の拡大によるMAU/DAUの増加、新規コンテンツ(プロパーIP)の創出、定額制有料会員の課金軸追加によるARPU(顧客当たり平均課金収入)の増加、都度課金による売上の拡大等を目指している。
ポータル事業については新サービスの投入によって有料会員数回復を見込んでおり、会社計画によると通期では前期比増収を計画しているが、開発費の増加により利益面ではまだ減益が続く見通しで、増益に転じるのは早くても2019年3月期以降になると予想される。逆に、新サービスを投入しても有料会員数が回復に転じなければ2019年3月期以降も減益が続くリスクがある点には留意していく必要がある。なお(く)の投資回収期間としてはインターネットサービスで一般的な3年程度を想定しているとみられる。
その他、ライブ事業についてはイベント開催を積極的に進めていくが、前期同様、売上高は若干の減収、利益は赤字が続く見通しとなっている。また、モバイル事業については音楽配信サービスの会員数減少に伴い減収減益となる見通しで、2018年3月期も事業セグメント利益の減益分の過半を占めることになる。
(2)出版事業
出版事業の売上高は前期比1.2%増の114,400百万円、営業利益は同26.9%減の6,100百万円となる見通し。売上については、引き続き電子書籍・電子雑誌を含む書籍の伸びを見込んでいる。利益面では「君の名は。」関連書籍ヒットによるプラスの影響が無くなるほか、書籍・製造物流拠点立ち上げのためのテスト生産や「カクヨム」のプラットフォームへのシステム投資、育成中事業である「生テレ」や「マガジン☆WALKER」、「ComicWalker」など戦略投資の費用増加が減益要因となる。
なお、書籍製造・物流工場の立ち上げ状況については順調に進んでいるようだ。現在、製造システム構築やテスト生産を始めている。この工場は、数十部〜数千部の小ロット注文にフレキシブルに対応可能な「ショートラン」、1点からの受注製造が可能な「Print On Demand」の製造ラインを特徴とし、原版はクラウド管理しており、オンラインで繋がっている倉庫に在庫があれば高速で荷合わせして出荷する体制を整備している。従来、出版業界のサプライチェーンでは書店が商品を発注してから受け取るまで7〜10日かかっていたが、今回の新システムでは24〜48時間と大幅な納期短縮を実現している。受発注システムから生産、在庫管理まで全ての機能をIoTで一元化し、適時適量の生産・配送によって返品率の低下を実現している。出版業界では初のシステムとなり、今後注目が集まるものと思われる。
既に、オンラインで需要動向を把握できる一部の書店からの返品率は従来から数ポイント低下するなど、その効果は既に確認済みとなっている。同社では2019年3月期から商用生産を開始し、所沢の新製造拠点が稼働する2020年春以降には重版の大半を新生産システムで対応可能としたい考えで、現在30%台前半の返品率を20%台まで引き下げ、収益性の向上を目指している。また、新システムは出版業界全体のオープンプラットフォームとして位置付けられ、国内外の出版事業者へのソリューションサービス(受託製造)として活用していくことも視野に入れている。なお、全ての出版物が新システムに切り替わるわけではない。発売当初から大量販売が見込める書籍に関しては、従来の製造ラインの方が製造コストも低いためだ。このため、発注量によって最適な製造システムを今後は使い分けていくことになるが、同社においては最新システムを導入することで収益性が向上するほか、所沢の新製造拠点が稼働する2020年以降は受託製造による事業規模の拡大も期待される。
(3)映像・ゲーム事業
映像・ゲーム事業の売上高は前期比4.7%増の46,500百万円、営業利益は同11.7%増の3,700百万円となる見通し。映像事業については、「君の名は。」の収益分配金が無くなることで減益となるものの、海外向けに人気アニメや映画コンテンツ等の版権収入の増加が見込まれる。また、下期は日中合作映画「空海」が中国で先行公開される。中国の有名映画監督を起用し、総製作費150億円を投じた意欲作となっている。2018年3月期の業績には中国からの分配収入だけが計上される予定で、2018年2月24日に公開開始(配給:東宝/KADOKAWA)となる国内分は2019年3月期に入ってからとなる。
一方、ゲーム事業については大型タイトルの予定はないものの、既存タイトルの販売が増えるほか、「ダンガンロンパ」シリーズの旧作を中心に、Steam※経由の販売も好調に推移しており増収増益を見込んでいる。
※Steamとは米Valve社が運営するPCゲームのDRM(デジタル著作権管理)兼ダウンロード販売プラットフォームのこと。国内外問わず様々なPCゲームやアプリケーション、動画作品等を取り扱っている。PCゲームダウンロード販売のプラットフォームでは世界最大級。2017年現在、7万以上のコンテンツを取り扱っている。
(4)その他事業
その他事業の売上高は前期比10.3%増の22,300百万円、営業損失は1,200百万円(前期は1,635百万円の損失)を見込んでいる。売上高は自社で保有するコンテンツを活かしたキャラクター商品の開発販売を強化していくほか、教育事業でも安定した収益を見込んでいる。2016年4月に開校した「N高等学校」(学校法人角川ドワンゴ学園)は、2017年10月時点で全生徒数が4,313名と1年間で約2,300名増加している。同社の連結業績には、同学校に提供しているオリジナル学習アプリ「N予備校」等のシステム利用料が計上されることになる。損益分岐点は生徒数で7,000〜8,000人の水準とみられ、1〜2年先には黒字化が射程圏に入ってくる。利益面では、増収効果に加えて前期に計上したトレーディングカードの損失が無くなることなどで、損失額が縮小する見込みとなっている。
なお、新規事業として取り組んでいるインバウンド事業では、KADOKAWAコンテンツを活用したイベント事業やグッズ販売等のビジネス機会の創出や、情報誌、WEB等による日本情報の発信により、収益の拡大を目指している。現在の取り組み状況としては、高速バス会社のWILLER(株)と提携し、インバウンド顧客を中心にエンタテインメント性の高い旅行体験サービスの商品化に取り組んでいる。具体的な実績としては、アニメツーリズム協会との連動によりアニメの「聖地巡礼ツアー」の商品化を行っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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2. 事業セグメント別見通し
(1) Webサービス事業
Webサービス事業の売上高は前期比2.3%増の32,000百万円、営業利益は同43.2%減の1,600百万円を見込んでいる。ただ、当初10月に予定したniconico(く)のサービス開始時期が2018年2月28日に後ろ倒しになったことから、業績の下振れが予想される。
注目されたniconico(く)のサービス内容については、11月28日に会社側から発表され、ニコニコ動画・ニコニコ生放送に続く3つ目のインターフェースとなる「nicocas(ニコキャス)」のサービスを新たに開始するとしている。「ニコキャス」では世界最先端のストリーミング技術を用いて、動画・生放送・双方向・映像合成を一体化したインターフェースを自社開発によって実現、ユーザー生放送をベースに双方向性と協同性を高める豊富な新機能を搭載していることが特徴となっている。生放送配信者と視聴者がよりアクティブにコミュニケーションを取ることで、番組を盛り上げることが可能となる。また、スマートフォンではniconicoで初めてログイン不要で視聴可能となったほか、双方向性機能を用いたゲーム(ニコ割ゲーム)など様々な機能も楽しめるようになっている。(く)では従来弱かったスマートフォンユーザーに向けた利便性並びに機能向上を図ることで、10代を中心としたユーザー層を拡大し、「新たな遊び場の提供によるIP創出機会とマネタイズの充実」を図ることで再成長を目指していく考えで、今後の反響が注目される。
当面の目標としては、2017年9月末に228万にまで減少した「プレミアム会員数」を過去ピークだった256万人(2016年9月末)まで早期に回復させることを掲げている。上期の決算説明会では、過去、コミュニティサービスとして一旦、ピークアウトしたサービスで復活した例は無く、今回復活を遂げれば初のケースとなるとの意気込みが示された。niconico(く)の投入によって、スマートフォンユーザーにも楽しく遊んでもらえるコンテンツを充実させ、ユーザー層の拡大によるMAU/DAUの増加、新規コンテンツ(プロパーIP)の創出、定額制有料会員の課金軸追加によるARPU(顧客当たり平均課金収入)の増加、都度課金による売上の拡大等を目指している。
ポータル事業については新サービスの投入によって有料会員数回復を見込んでおり、会社計画によると通期では前期比増収を計画しているが、開発費の増加により利益面ではまだ減益が続く見通しで、増益に転じるのは早くても2019年3月期以降になると予想される。逆に、新サービスを投入しても有料会員数が回復に転じなければ2019年3月期以降も減益が続くリスクがある点には留意していく必要がある。なお(く)の投資回収期間としてはインターネットサービスで一般的な3年程度を想定しているとみられる。
その他、ライブ事業についてはイベント開催を積極的に進めていくが、前期同様、売上高は若干の減収、利益は赤字が続く見通しとなっている。また、モバイル事業については音楽配信サービスの会員数減少に伴い減収減益となる見通しで、2018年3月期も事業セグメント利益の減益分の過半を占めることになる。
(2)出版事業
出版事業の売上高は前期比1.2%増の114,400百万円、営業利益は同26.9%減の6,100百万円となる見通し。売上については、引き続き電子書籍・電子雑誌を含む書籍の伸びを見込んでいる。利益面では「君の名は。」関連書籍ヒットによるプラスの影響が無くなるほか、書籍・製造物流拠点立ち上げのためのテスト生産や「カクヨム」のプラットフォームへのシステム投資、育成中事業である「生テレ」や「マガジン☆WALKER」、「ComicWalker」など戦略投資の費用増加が減益要因となる。
なお、書籍製造・物流工場の立ち上げ状況については順調に進んでいるようだ。現在、製造システム構築やテスト生産を始めている。この工場は、数十部〜数千部の小ロット注文にフレキシブルに対応可能な「ショートラン」、1点からの受注製造が可能な「Print On Demand」の製造ラインを特徴とし、原版はクラウド管理しており、オンラインで繋がっている倉庫に在庫があれば高速で荷合わせして出荷する体制を整備している。従来、出版業界のサプライチェーンでは書店が商品を発注してから受け取るまで7〜10日かかっていたが、今回の新システムでは24〜48時間と大幅な納期短縮を実現している。受発注システムから生産、在庫管理まで全ての機能をIoTで一元化し、適時適量の生産・配送によって返品率の低下を実現している。出版業界では初のシステムとなり、今後注目が集まるものと思われる。
既に、オンラインで需要動向を把握できる一部の書店からの返品率は従来から数ポイント低下するなど、その効果は既に確認済みとなっている。同社では2019年3月期から商用生産を開始し、所沢の新製造拠点が稼働する2020年春以降には重版の大半を新生産システムで対応可能としたい考えで、現在30%台前半の返品率を20%台まで引き下げ、収益性の向上を目指している。また、新システムは出版業界全体のオープンプラットフォームとして位置付けられ、国内外の出版事業者へのソリューションサービス(受託製造)として活用していくことも視野に入れている。なお、全ての出版物が新システムに切り替わるわけではない。発売当初から大量販売が見込める書籍に関しては、従来の製造ラインの方が製造コストも低いためだ。このため、発注量によって最適な製造システムを今後は使い分けていくことになるが、同社においては最新システムを導入することで収益性が向上するほか、所沢の新製造拠点が稼働する2020年以降は受託製造による事業規模の拡大も期待される。
(3)映像・ゲーム事業
映像・ゲーム事業の売上高は前期比4.7%増の46,500百万円、営業利益は同11.7%増の3,700百万円となる見通し。映像事業については、「君の名は。」の収益分配金が無くなることで減益となるものの、海外向けに人気アニメや映画コンテンツ等の版権収入の増加が見込まれる。また、下期は日中合作映画「空海」が中国で先行公開される。中国の有名映画監督を起用し、総製作費150億円を投じた意欲作となっている。2018年3月期の業績には中国からの分配収入だけが計上される予定で、2018年2月24日に公開開始(配給:東宝/KADOKAWA)となる国内分は2019年3月期に入ってからとなる。
一方、ゲーム事業については大型タイトルの予定はないものの、既存タイトルの販売が増えるほか、「ダンガンロンパ」シリーズの旧作を中心に、Steam※経由の販売も好調に推移しており増収増益を見込んでいる。
※Steamとは米Valve社が運営するPCゲームのDRM(デジタル著作権管理)兼ダウンロード販売プラットフォームのこと。国内外問わず様々なPCゲームやアプリケーション、動画作品等を取り扱っている。PCゲームダウンロード販売のプラットフォームでは世界最大級。2017年現在、7万以上のコンテンツを取り扱っている。
(4)その他事業
その他事業の売上高は前期比10.3%増の22,300百万円、営業損失は1,200百万円(前期は1,635百万円の損失)を見込んでいる。売上高は自社で保有するコンテンツを活かしたキャラクター商品の開発販売を強化していくほか、教育事業でも安定した収益を見込んでいる。2016年4月に開校した「N高等学校」(学校法人角川ドワンゴ学園)は、2017年10月時点で全生徒数が4,313名と1年間で約2,300名増加している。同社の連結業績には、同学校に提供しているオリジナル学習アプリ「N予備校」等のシステム利用料が計上されることになる。損益分岐点は生徒数で7,000〜8,000人の水準とみられ、1〜2年先には黒字化が射程圏に入ってくる。利益面では、増収効果に加えて前期に計上したトレーディングカードの損失が無くなることなどで、損失額が縮小する見込みとなっている。
なお、新規事業として取り組んでいるインバウンド事業では、KADOKAWAコンテンツを活用したイベント事業やグッズ販売等のビジネス機会の創出や、情報誌、WEB等による日本情報の発信により、収益の拡大を目指している。現在の取り組み状況としては、高速バス会社のWILLER(株)と提携し、インバウンド顧客を中心にエンタテインメント性の高い旅行体験サービスの商品化に取り組んでいる。具体的な実績としては、アニメツーリズム協会との連動によりアニメの「聖地巡礼ツアー」の商品化を行っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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